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第328話 ネイビー
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「さて、ではお二人はそろそろご準備を」
「ええ、そうね」
「ああ、すぐに済ませる」
ルーイに言われて二人は立ち上がり隣室に消えた。
「ユーゴ、こちらも準備は出来ているな?」
「もちだよぉ。でもこれ凄いねぇ。今回はスマホに一斉送信なんだぁ」
「ああ。アラン様がスマホを一斉にアップデートさせたらしい。何をしていても全ての人たちにこちらの放送が流れるように」
「あの人もほんと化け物だよねぇ。でもぉ、何でいつものじゃなかったんだろぉ?」
「前回のは一部の人たちがメッセージを受け取れなかったらしいんだ。全ての領地に宝珠を配ったとは言え、やはり最後は領主頼みになってしまったからな」
「なるほどぉ。だから今やほぼ全員に行き渡ってるスマホなのかぁ」
ポンと手を打ったユーゴは二人を撮影するためのスマホをセットした。そこへ正装したルイスとキャロラインが戻ってくる。
そんな二人を見て思わずユーゴは息をついた。やはりこうやって着飾るとこの二人のオーラはガラリと変わる。普段着では分からない、目には見えない王族特有の雰囲気に流石のユーゴも圧倒されそうになってしまう。
二人は玉座の椅子に腰掛けて優雅に頷いて見せた。その合図を受けてルーイとユーゴも頷いて撮影を始める。
最初はルイスがゆっくりと話しだした。
「皆、私たちが見えているだろうか。私たちの声が届いているだろうか。もしも近くにスマホを持っていない者が居たら、この声を彼らにも届けてほしい。このメッセージは全てのスマホに送られている。どこで何をしていてもこの放送だけは届くように、と。もう気づいている者も沢山居るだろうと思うが、世界は今までにない脅威にさらされている。前回の戦争とは比べ物にならない程の大きな力の脅威だ。その強大な力は私たちが住むこの星ごと壊してしまうだろう。これがもしかしたら私たちの最後のメッセージになるかもしれないので、最後までよく聞いてほしい」
そこでルイスは言葉を切って、隣のキャロラインの手にそっと自分の手を重ねた。そんなルイスの仕草にキャロラインは慈悲深く微笑んでしっかりと頷き、大きく息を吸って真っ直ぐに前を向く。
「世界中の水の温度が一斉に変わった事を覚えている人はどれぐらい居ますか? あれを実行したのは大いなる力を持つ妖精王の一人でした。ですが彼は生まれた時に妖精王の名前を剥奪され、一人の少女と共に自分の足でこの世界を歩き、旅をしていました。彼は自分の知らない沢山の事を自分で学ぼうとしていたようです。ですが、そんな彼の力を利用しようとした人物が居ました。この人達が今回の私たちの敵です。友人の言葉を借りれば、彼らにも何か深い事情があり、こうせざるを得なかったのかもしれません。ですが、そのために沢山の犠牲を出さなければならないのは何があっても許すことは出来ません。私たちが守るべきは全ての国の民であり、生物、植物、そしてこの星です。以前お知らせしたように、私たちはあれからチーム聖女を再結成してある一つの答えを導き出しました。次の満月に、敵は数億という数の兵士を伴い、この星を攻めてきます。それに対抗するのは妖精王。今回の戦争は神々の戦争です。皆さん、どうか妖精王を信じていてください。彼が勝つことを、そして利用された元妖精王が元に戻れる事を、何よりも世界が今よりもずっとより良いものになるように願っていてください。世界を動かすのはあなた達一人一人の意識です。戦争が始まったら、あなた達の持つレインボー隊がゲートとなり、一時的に避難が出来る場所に繋がるようになります。それが開戦の合図です。あなた達はそのゲートをくぐり、生き延びてください。必ず、生きていてください。……またこの星の上であなた達にお会いすることが出来るよう、心から祈っています」
そう言ってキャロラインは視線を上げた。静かに頬を涙が伝う。それに気付いたルイスが慌ててハンカチを取り出すとキャロラインの涙を拭った。
そして小さな咳払いを一つして強くキャロラインの手を握りしめてくる。
「最後に一つだけ、皆に伝えておきたい。我々は戦争が始まってもここに残り、最後まで戦いを見守るつもりだ。もちろん子供たちは避難をさせるが、もしも私たちに何かがあった時、その時は次の王政は皆で決めてくれ。私たちの息子たちでなくても構わない。その時は皆で素晴らしい世界を築き上げていってくれ。これが私からの最後の……願いだ。どうか皆、無事で」
そこまで言ってルイスは小さく息を吐いた。少しだけ俯いて唇を噛み締め零れそうな涙を堪える。それに気付いたユーゴが慌てて電話を切った。同時にルーイがルイスに駆けより、慰めるようにその肩を叩いて小声で「大変立派でした。王、王妃」と呟いた。その一言にルイスとキャロラインの目からとうとう大粒の涙が溢れる。
「……」
そんな二人を見て思わずユーゴも泣きそうになってしまうが、すんでの所でそれは堪えた。自分まで泣いてしまったら収拾がつかなくなってしまう。泣くのは家に帰ってからこっそりと泣こう。
今回の放送は永遠に皆のスマホに残る。後から何度でも見返すことが出来るようにとアランが改造してくれた。
この放送がどんな風に民に伝わったかは分からないが、今出来ることの精一杯を伝える事が出来たはずだ。
時は少しだけ遡り、妖精王は子供たちのレインボー隊が無事にディノの結界を破った事をノアに知らせると、すぐさまノアから一体のレインボー隊が妖精王の元に送られてきた。
妖精王は送られてきたレインボー隊を見て愛しいような困ったような不思議な表情を浮かべる。
「そうか、お前が行くのか。ネイビー」
コクリ。
ネイビーは残っている片腕を上げて妖精王をじっと見上げてくる。顔は無いが何となく彼の言いたいことが分かって妖精王はそっとネイビーを抱き上げた。
あの日片腕を失くしたネイビーには修理が終わった今も片腕が無いままだ。ネイビーはあの日のことをずっと後悔しているようで、片腕を治すことを拒んだと聞いている。彼なりの戒めのつもりなのだろう。
「我はお前達の事を長い間随分誤解していた。最初は所詮人形ごときに何が出来るのかと思っていたが、お前たちはそれぞれに感情を持ちずっと自分たちの正義を貫いているのだな。すまなかったな」
言いながらネイビーの失った腕を撫でると、ネイビーは首を横に振る。
「許してくれるか、そうか。ありがとう。お前達は我の管理から完全に外れた不思議な生物だ。人の手を介してのみ創られるお前たちもまた、この星の大事な住人なのだ。我は今からお前に結界を破る魔法をかけるが、約束してくれ。次は決して危ない事はしない、と」
妖精王の言葉にネイビーはコクリと頷くと、そっと妖精王の手に自分の手を重ねてきた。プルプルした質感で、とても冷たくて気持ちがいい。
「ははは、我にも気をつけろ、と?」
コクリ。
「そうだな。我も気をつけながら最善を尽くすと約束しよう。それでは魔法をかけるぞ」
そう言って妖精王はその場で仰向けになったネイビーに魔法をかけると、途端にネイビーの体から色が無くなり無色透明になった。
「いいか、ネイビー。これでお前の体は誰にも見えなくなった。だが気をつけろ。勘のいい奴や動物にこの誤魔化しは効かない。もしも危ないと思ったら探索の途中でもいい。すぐにこの紙を破るのだ。そうすればどこに居ようとも我の所に繋がるようになっている」
コクリ。
「よし、いい子だ。それではそうだな……アリスの所に送るか。あいつなら気づくだろう」
「ええ、そうね」
「ああ、すぐに済ませる」
ルーイに言われて二人は立ち上がり隣室に消えた。
「ユーゴ、こちらも準備は出来ているな?」
「もちだよぉ。でもこれ凄いねぇ。今回はスマホに一斉送信なんだぁ」
「ああ。アラン様がスマホを一斉にアップデートさせたらしい。何をしていても全ての人たちにこちらの放送が流れるように」
「あの人もほんと化け物だよねぇ。でもぉ、何でいつものじゃなかったんだろぉ?」
「前回のは一部の人たちがメッセージを受け取れなかったらしいんだ。全ての領地に宝珠を配ったとは言え、やはり最後は領主頼みになってしまったからな」
「なるほどぉ。だから今やほぼ全員に行き渡ってるスマホなのかぁ」
ポンと手を打ったユーゴは二人を撮影するためのスマホをセットした。そこへ正装したルイスとキャロラインが戻ってくる。
そんな二人を見て思わずユーゴは息をついた。やはりこうやって着飾るとこの二人のオーラはガラリと変わる。普段着では分からない、目には見えない王族特有の雰囲気に流石のユーゴも圧倒されそうになってしまう。
二人は玉座の椅子に腰掛けて優雅に頷いて見せた。その合図を受けてルーイとユーゴも頷いて撮影を始める。
最初はルイスがゆっくりと話しだした。
「皆、私たちが見えているだろうか。私たちの声が届いているだろうか。もしも近くにスマホを持っていない者が居たら、この声を彼らにも届けてほしい。このメッセージは全てのスマホに送られている。どこで何をしていてもこの放送だけは届くように、と。もう気づいている者も沢山居るだろうと思うが、世界は今までにない脅威にさらされている。前回の戦争とは比べ物にならない程の大きな力の脅威だ。その強大な力は私たちが住むこの星ごと壊してしまうだろう。これがもしかしたら私たちの最後のメッセージになるかもしれないので、最後までよく聞いてほしい」
そこでルイスは言葉を切って、隣のキャロラインの手にそっと自分の手を重ねた。そんなルイスの仕草にキャロラインは慈悲深く微笑んでしっかりと頷き、大きく息を吸って真っ直ぐに前を向く。
「世界中の水の温度が一斉に変わった事を覚えている人はどれぐらい居ますか? あれを実行したのは大いなる力を持つ妖精王の一人でした。ですが彼は生まれた時に妖精王の名前を剥奪され、一人の少女と共に自分の足でこの世界を歩き、旅をしていました。彼は自分の知らない沢山の事を自分で学ぼうとしていたようです。ですが、そんな彼の力を利用しようとした人物が居ました。この人達が今回の私たちの敵です。友人の言葉を借りれば、彼らにも何か深い事情があり、こうせざるを得なかったのかもしれません。ですが、そのために沢山の犠牲を出さなければならないのは何があっても許すことは出来ません。私たちが守るべきは全ての国の民であり、生物、植物、そしてこの星です。以前お知らせしたように、私たちはあれからチーム聖女を再結成してある一つの答えを導き出しました。次の満月に、敵は数億という数の兵士を伴い、この星を攻めてきます。それに対抗するのは妖精王。今回の戦争は神々の戦争です。皆さん、どうか妖精王を信じていてください。彼が勝つことを、そして利用された元妖精王が元に戻れる事を、何よりも世界が今よりもずっとより良いものになるように願っていてください。世界を動かすのはあなた達一人一人の意識です。戦争が始まったら、あなた達の持つレインボー隊がゲートとなり、一時的に避難が出来る場所に繋がるようになります。それが開戦の合図です。あなた達はそのゲートをくぐり、生き延びてください。必ず、生きていてください。……またこの星の上であなた達にお会いすることが出来るよう、心から祈っています」
そう言ってキャロラインは視線を上げた。静かに頬を涙が伝う。それに気付いたルイスが慌ててハンカチを取り出すとキャロラインの涙を拭った。
そして小さな咳払いを一つして強くキャロラインの手を握りしめてくる。
「最後に一つだけ、皆に伝えておきたい。我々は戦争が始まってもここに残り、最後まで戦いを見守るつもりだ。もちろん子供たちは避難をさせるが、もしも私たちに何かがあった時、その時は次の王政は皆で決めてくれ。私たちの息子たちでなくても構わない。その時は皆で素晴らしい世界を築き上げていってくれ。これが私からの最後の……願いだ。どうか皆、無事で」
そこまで言ってルイスは小さく息を吐いた。少しだけ俯いて唇を噛み締め零れそうな涙を堪える。それに気付いたユーゴが慌てて電話を切った。同時にルーイがルイスに駆けより、慰めるようにその肩を叩いて小声で「大変立派でした。王、王妃」と呟いた。その一言にルイスとキャロラインの目からとうとう大粒の涙が溢れる。
「……」
そんな二人を見て思わずユーゴも泣きそうになってしまうが、すんでの所でそれは堪えた。自分まで泣いてしまったら収拾がつかなくなってしまう。泣くのは家に帰ってからこっそりと泣こう。
今回の放送は永遠に皆のスマホに残る。後から何度でも見返すことが出来るようにとアランが改造してくれた。
この放送がどんな風に民に伝わったかは分からないが、今出来ることの精一杯を伝える事が出来たはずだ。
時は少しだけ遡り、妖精王は子供たちのレインボー隊が無事にディノの結界を破った事をノアに知らせると、すぐさまノアから一体のレインボー隊が妖精王の元に送られてきた。
妖精王は送られてきたレインボー隊を見て愛しいような困ったような不思議な表情を浮かべる。
「そうか、お前が行くのか。ネイビー」
コクリ。
ネイビーは残っている片腕を上げて妖精王をじっと見上げてくる。顔は無いが何となく彼の言いたいことが分かって妖精王はそっとネイビーを抱き上げた。
あの日片腕を失くしたネイビーには修理が終わった今も片腕が無いままだ。ネイビーはあの日のことをずっと後悔しているようで、片腕を治すことを拒んだと聞いている。彼なりの戒めのつもりなのだろう。
「我はお前達の事を長い間随分誤解していた。最初は所詮人形ごときに何が出来るのかと思っていたが、お前たちはそれぞれに感情を持ちずっと自分たちの正義を貫いているのだな。すまなかったな」
言いながらネイビーの失った腕を撫でると、ネイビーは首を横に振る。
「許してくれるか、そうか。ありがとう。お前達は我の管理から完全に外れた不思議な生物だ。人の手を介してのみ創られるお前たちもまた、この星の大事な住人なのだ。我は今からお前に結界を破る魔法をかけるが、約束してくれ。次は決して危ない事はしない、と」
妖精王の言葉にネイビーはコクリと頷くと、そっと妖精王の手に自分の手を重ねてきた。プルプルした質感で、とても冷たくて気持ちがいい。
「ははは、我にも気をつけろ、と?」
コクリ。
「そうだな。我も気をつけながら最善を尽くすと約束しよう。それでは魔法をかけるぞ」
そう言って妖精王はその場で仰向けになったネイビーに魔法をかけると、途端にネイビーの体から色が無くなり無色透明になった。
「いいか、ネイビー。これでお前の体は誰にも見えなくなった。だが気をつけろ。勘のいい奴や動物にこの誤魔化しは効かない。もしも危ないと思ったら探索の途中でもいい。すぐにこの紙を破るのだ。そうすればどこに居ようとも我の所に繋がるようになっている」
コクリ。
「よし、いい子だ。それではそうだな……アリスの所に送るか。あいつなら気づくだろう」
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