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第342話 ダムを破壊する

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「ここさぁ、もうちょっと右側から行った方がよくない?」

 リアンが言うと、アリスも頷く。

「だね。あともう5センチってとこかな。こことここに爆薬仕掛けてぇ~――」
「ちょっとでも被害は少なくしたいよね。入り口はバーリーのど真ん中にある噴水の下か……どうやってここに水流し込むの?」
「それはですね、鉱石妖精たちが噴水そのものを避けてくれました。そうしたらやっぱりその下に妙な空間があったそうで!」

 キースはこの話が決まった時、バーリーの水路に携わっている人達(妖精も含む)にすぐさま連絡を取った。すると彼らはすぐに行動に出てくれたのだ。

 彼らの話では噴水を避けた跡地には水道管のさらに下に何やら怪しい空洞があったらしい。

「よく空洞があるなんて分かったね。目視出来るほど穴が開いてたって事?」
「そうみたいです。でも以前水道管を設置した時にはそんな物は見つからなかったはずなんですけどねぇ」

 リアンの質問にキースが首を捻りながら答えると、横からアリスがズイっと会話に割り込んできた。

「ディノの力が止まったからだよ!」
「ディノの力が止まった? どういう事?」
「あのね、今までディノの地下は全ての場所が稼働してたけど、今その稼働してた場所のほとんどをディノが閉じちゃったんだ。だからそこから恩恵を受けてた王の地下がその形を保て無くなってきてるんだよ」
「え、じゃあもしかしたら水攻めしたら勝手に崩れるかもってそういう事?」
「イエス! だから本当に怖いのは水浸しになることよりも地盤沈下なんだよね。もしくは地震とかさ。多分兄さまはそれも伝えてくれてると思うけど……」

 ノアの事だ。きっとこの事に気づいてそれも含めて伝えてくれているはずだ。
 

 そしてその翌日。

「発破よ~い!」

 アリス達はバーリーのダム付近の茂みに居た。

 アリスの掛け声の後すぐさまクルスの号令が聞こえてくる。それに次いであちこちにダイナマイトの音が響き渡った。

「ちょっとー! 何で私の掛け声に反応しないのよ~!」
「いや、今の俺らのボス、クルスなんで」

 拳を振り上げてそんな事を言うアリスに答えたのは、鉱夫のおじさんだ。

「ちぇー」
「ははは」

 唇を尖らせるアリスを見てクルスも鉱夫達も笑う。

 全てをノア達から聞いた後、クルスがとった行動はまず鉱夫達に話を聞くことだった。

『誰かの意見だけで決めたくないんです』

 そう言って鉱夫達とすぐさま連絡をとったクルスをノアとアーロは褒め称えてくれたが、こういう時に一つだけの情報で全てを鵜呑みにするのはとても危険だ。

 それからクルスは鉱夫達の話を聞き、鉱夫達と共にスルガを助け出そうと決めた。

「それじゃあ上に連絡しましょう。でも本当にいいんですか? このまま最大で流したら間違いなくバーリーの半分は水浸しですよ?」
「昨日の領主達や領民達の顔見たでしょ? 何なら僕たちよりもやる気満々だったよ」

 そう言ってノアは苦笑いを浮かべた。

 昨夜、遅くまで作戦会議をしていた所に次々に領民達が差し入れを持ってやってきた。誰もが背中に大きな荷物を抱え、そのままキースとアリス達に挨拶をしてゾロゾロとマヤーレとポワソンに避難して行った。その時の領民達の顔は皆やる気に満ち溢れていて逆に勇気を貰ったアリスたちだ。

「そうでしたね。では合図します」

 それを思い出したクルスも笑みを浮かべてその場で手を上げた。それを見て一羽の鷹がアリスの肩から舞い上がる。リーンだ。この作戦に目立たない伝令役が必ず必要だということで、今朝寝ていたカインを叩き起こしてリーンを借りてきた。

 リーンは大空に舞い上がりその場で二度三度旋回してまた舞い降りてくる。それを見たダム上に居た管理者がダムの水量調節のつまみを最大限まで回すと、ぎゅっと目を閉じてボタンを押した。その途端ダムから勢いよく大量の水が放出されていく。

 大量の水が一気に放出された事で辺りには轟音が響き渡った。それを聞いてノアが薄く笑う。

「さてここからだよ。うまくいくといいけど」

 ノアが視線を対岸に移すと、広場の噴水まで一直線に大きな岩が並べて置かれている。あれはアリスと鉱石の妖精たちが深夜に一生懸命並べた岩だ。出来るだけ勢いよく地下に水を流したくて置いてはみたが、果たして上手くいくかどうかは大きな賭けだ。

「まぁどのみち逃げ場ないんだから大丈夫なんじゃないの? 嫌でも出口に出てくるでしょ」

 リアンが言うと、ノアは頷いては見せたがどこか不満げだ。

「何でそんな不満そうなの」
「いや~どうせならど派手に海に放出させたかったよね?」
「それしたら下手したら水圧で死んじゃうんだけど?」
「それは……ねぇ? 自業自得って言うか、仕方ないよね?」
「……」

 ニコッと笑ったノアを見てリアンは思わずノアから視線を逸した。今回の事が起こってからずっと思っていた事だが、やはりノアは今回の事を相当怒っている。

「ただ問題が一つある。もしあちらが転移魔法などを使った場合はどうなる?」
「そっすよ。あっちはこういう時の為の逃げ道も絶対に用意してると思うんすけど」
「そうだね。でも確実に地上には出てくる。そうしたらもうこっちのものだよ。地上であれば、遠慮なくどこからでもあいつらを捕まえる事は可能だよ。アリスをゴーすればね」
「任せとけぃ!」

 ノアの言葉にアリスはすぐさま親指を立ててニカッと笑う。地下では狭くて暴れる事が出来ないが、地上ではいくら暴れてもどうとでもなる。

「え? でも場所分かんないじゃん。妖精王の本も使えないでしょ?」
「使えないね」
「じゃあどうすんの!」
「あの人達さ、まだディノのピン持ってるんだよね。アンソニーはもう何も持ってないけど、カールはまだ持ってる。カールさえ捕まえれば多分アンソニーは出てくるよ」
「なんで」
「アンソニーはカールだけは一緒に連れて行きたいみたいだからさ」

 けれどここまでの事をしておきながらやすやすと幸せを掴ませてなんてやらない。そう言ってノアは薄く笑った。

「星が言うにはディノの一部を持っていたらね、ディノは妖精王みたいにどこまでも追えるみたいなんだよ。だからターゲットはカール一人だ。後ははっきり言って雑魚だよ」

 あの星の最後の言葉、ディノの一部を追って、というのは恐らくそういう事だろう。ディノの全てを取り返し、ディノを何としてでも目覚めさせなければならない。

「雑魚って……あんたね」
「だってそうじゃない? アンソニーは多分アメリアさえ連れて行く気なんてさらさらないと思うよ。カールはどう思ってるのか分からないけど」

 何せアメリアはカールとモルガナとの子だ。自分の娘をそんなに簡単に切り捨てられるかどうかは分からないが、カールからアメリアへの愛情など欠片も見られなかった。

「アメリアは……もしかしたらカールの子ですらないのかもしれないね」

 ポツリと呟いたノアにアリスとリアンがギョッとする。

「え? いやでもそれは……」

 何か言おうとリアンは口を開いたが、よくよく考えると確かに自分の娘にする仕打ちではないような気がする。単純に利用しているような、そんな気がしてならなかったのだ。

「聖女が必要だった。だからアメリアを使ったみたいだけど、何か腑に落ちないんだよ、ずっと」
「……確かに。まぁでもそれは本人たちに聞くのが早いよ。それよりも僕たちも移動しよ」
「だね。皆、僕たちはポワソンに行ってくるよ。アーロとキリを置いていくから何かあったらすぐに知らせて」
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