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第378話 ヴァニタスの本当の仕事

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 レプリカに仲間たち全員が集まったのは、アリスがノアと合流してから半時ほど経った頃だ。

「何だか全員でこうやって集まるの随分久しぶりな気がするわ」

 しっかり戦闘服、もとい聖女モードの衣装に身を包んだキャロラインが言うと、それまでずっとキャロラインを写真に撮っていたアリスがニカッと笑いながら頷く。

「本当ですよ! 私はこんなにもキャロライン様と一緒に居たいのに!」

 いつだってキャロラインにくっついていたいアリスが言うと、キャロラインは苦笑いをしながらアリスの頭を撫でてくれる。

「あなたも随分頑張ったと聞いたわ。偉かったわね、アリス」
「はい! 超頑張りました!」

 キャロラインに褒められた事が嬉しくてアリスが思わずキャロラインに飛び付こうとすると、すぐさまそれをリアンに阻止される。

「そういうの後でやんな。ほら、あっち行くよ」
「ぶー!」
「キリみたいに耳引っ張ろうか!?」

 そう言ってアリスの耳を掴もうとすると、アリスは一歩リアンから距離を取って首を振る。

「歩く! ちゃんと歩くから!」

 耳は実は痛いのだ! アリスはそんな事を考えながらキャロラインの手を取って皆が集まっている場所に移動した。
 

 レプリカには人工的な物が何もない。つまりあるのは野原だけである。その一角に縛り上げられて転がされているアンソニーとカールを囲んで仲間たちは座り込んでいた。

「せめて座らせてはくれないか?」

 アンソニーが言うと、ルイスがそれを聞いてフンと鼻を鳴らした。

「そう言って逃げるつもりだろう!? そうは問屋が卸さんぞ!」
「いや、このレプリカのどこに逃げるんすか。さっきまでここ見て周ってたんすけど、ここ本当に何にも無いっすよ? 逃げた所でって感じっす」
「そうそう。ルイス、お前の気持ちも分かるけど、せめて上着は羽織らせてやんない? 見てるこっちが寒いんだけど」

 言いながらカインは肌着だけのアンソニーとカールを見てブルリと身体を震わせた。

「ですが何か魔法を使うかもしれませんよ?」

 アンソニーとカールを睨んだままシャルルが言うと、アランも同じように考えていたのかしっかりと頷いたが、それを否定したのはシャルだ。

「それは無いですね。ここは妖精王のレプリカです。この二人にはここで魔法を使うのは無理でしょう」

 シャルの言葉にアンソニーとカールが同じ表情をして言う。

「その通りだよ。僕たちはどのみちもう何も出来ないし、する事もない。後はヴァニタスとオズワルドの仕事だからね」
「縄を解けとは言いませんが、せめて起こしてほしいですね」
「仕方ないなぁ。まぁ僕たちも別にあなた達に危害を加えたい訳じゃないしね。アリス、起こしてあげて」
「うん! ほい!」

 ノアに言われて片手で軽々二人を起こしたアリスにアンソニーが苦笑いを浮かべた。

「これがユアンの娘ねぇ。世界は案外狭いな」
「全く同感ですね。それで、私たちに何を聞きたいのです?」
「聞きたいことは山ほどあるんだけど、まずはじめにアメリアはあなたの娘ではない?」

 ずっとそう思い込んできたので話がややこしかったが、そうでないとすればアンソニー達とアメリア達はユアンの言ったように完全にバラバラに動いていたのかもしれない。それを知るためにもこれはかなり重要な質問だ。

 ノアの言葉にカールは軽く頷いた。

「もちろん違いますよ。私とアメリアはどこか似ていますか?」
「……似てないけど」
「そうでしょう? それに私はモルガナには恨まれているのでそれはありえませんね。他には?」
「そうだな、あなた達の願いは今でも姉妹星に行くって事でいい?」

 ノアが二人に尋ねると、二人はあっさりとそれを認めた。

「そうだね。僕たちの、いや、僕の願いはそれだね。だからこの星を犠牲にしようとした。そしてそれはもうすぐ成功しそうだ」
「それは嘘だよね? あなたの映画を見たよ。それからユアンが話してくれた。アスピレーションの後編の内容と、本当のあなた達の目的を」

 少しは動揺するかと思ったが、ノアの言葉にアンソニーは相変わらず笑顔を浮かべているし、カールは何を思っているかさっぱり分からない。

「ユアンはね、ああ見えて本当にお人好しなんだ。今までに何度もこの件から手を引けと伝えたんだけど、彼は絶対に譲らなかった。家をどうしても潰したいんだってさ。愛する人の幸せの為に」

 そう言ってアンソニーはちらりとアーロを見た。するとアーロはいつものように無表情でただ頷く。

「あいつは昔からそういう奴だな。とにかく頑固なんだ」
「……もしかしてユアンの気持ちは彼に伝わっていないのかい?」

 不思議そうにノアに尋ねてくるアンソニーに、今度はノアが苦笑いを浮かべる。

「どうだろう? 正しく伝わってるのかどうかは僕にもちょっと……」
「ふぅん。まぁいいさ、どっちでも。ユアンはあのまま最後の引き金の役割を果たすつもりみたいだ。馬鹿な奴だな。痣のない奴がヴァニタスに吸収されたらもう二度と転生は叶わないのに」
「待って、それどういう意味? ヴァニタスに吸収されるのはバラの痣がある人達なんでしょ? つまり、奴隷の痣を持つ人って事なんだよね?」

 確かにバラの痣がある者たちの身体はそのままにしておけと星は言っていたが、あの痣はそもそも奴隷の痣ではないのか? 不思議に思ったリアンがアンソニーに問うと、アンソニーはキョトンとした顔をして言った。

「奴隷か、その言葉は嫌いだな。そもそも僕は奴隷制度には大反対なんだ。そういう意味では今も奴隷制度を復活させようとあれこれ画策しているスチュアート家はさっさと滅びてほしいね。それから君たちは一つ大きな誤解をしているようだ。あの痣は奴隷と呼ばれる人達にだけついている訳ではない。逆にあの痣があるからと言って全員がヴァニタスに吸収される訳でもない」
「……え?」

 アンソニーの言葉に仲間たちは全員黙り込んだ。あの痣は奴隷の証で、その痣を無作為につけていたと思っていたのだがそれすらも誤解だというのか?

「当然じゃないか。奴隷としての痣がある者がヴァニタスに吸収されるというのなら、あの時に奴隷の刻印を付けられた妖精たちもその対象のはずだろう? 君たちの誰かの中に妖精が気を失ったという話を聞いた人はいるかい?」
「……そう言えば……居ない、な。それにキャメルの所のメイド、カサンドラも元奴隷だって言ってたけどピンピンしてたな……」

 何かを思い出したかのようにカインが言うと、アランとシャルもハッとした顔をしている。

「そうだろう? あの痣は自然と浮かんでくるんだよ。言わばヴァニタスからの刻印だ。違う星に届ける為の目印とでも言うべきか。君たちはきっとこう思っていたはずだ。あの痣をつけられた者たちはヴァニタスに全て吸収されてしまうのだろう、と。けれどそうじゃない。ヴァニタスの刻印でなければそれは発動しない。だから今回の事で意識を失ったのは次の転生が無かった者達だよ」
「そう言えばメイリングから避難してきた人達の中には身寄りがしっかりしている人達も沢山居たわ……あれはそういう事だったのね……」

 キャロラインは何かに納得したように頷いて目を閉じた。恋人が、子供が、祖父が突然意識を失ったと泣いて縋ってきた人達は一人や二人ではない。
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