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第379話 摩耗する魂

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「ねぇアンソニー王、そういう人達は元々そういう魂の色って事なのかな?」

 確か妖精王は言っていた。真名書に乗っている名前の色はずっと同じ色をしている、と。だとすれば今アンソニーの言ったように今回の事で刻印を受けた人達は、今回無事に魂が戻ったとしても、次に転生した時にはやはり消えるという事なのではないのか。

 ノアの言葉にアンソニーは少しだけ考えてシャルを指さした。

「そうだな、何て説明をすればいいのか。そこの君、シャルだったか? 君が時空を移動する時に使うゲートにはいくつか必須要項があるはずだ。それは何だい?」
「それは答えなければいけませんか?」
「別に答えなくても構わないよ。僕たちは既に知っている。説明をするのが面倒だなと思っただけだから」
「……はぁ。いいですよ、私から説明します。ゲートを使うにはまず妖精王の加護が必須です。そしてある一定以上の魔力も。その二つが揃って初めて行き来出来るのです」
「その通り。それでは妖精王の加護というものはどういう物か分かるかい?」
「魔力の根源ではないのですか?」
「そうだね。星を守護する妖精王の力を元に君たちは魔力を使えている訳だ。けれどそれも一種のゲートなんだよ。受け取る側の力が弱ければ、魔力を上手く使えない。そういう人達はあの妖精王が持つ真名が載った本から消えそうな人達だ。あの本から消えたら君たちも知っている通り、この星での転生が叶わなくなる。そしてそれは誰しもに必ず起こる事なんだよ」
「それはつまり魂は次第に摩耗していくと、そういう事? 妖精王はもしかしてそれを知らないと言うことなの?」

 キャロラインの言葉にアンソニーは笑顔を浮かべた。

「そう。魂は誰の物でもいずれ摩耗して消える。そしてただのエネルギーに戻り、そこからまた新しい魂が生まれる。余ったエネルギーは大気を漂いながらヴァニタスの到着を待つ。それがこの世界の理だ。妖精王がそれを知っていたかどうかは本人に聞いてみなければ分からないが、ただそれは魂が健全に摩耗された場合の話で、この星に限ってはその大前提が既に違う」
「一度リセットをしているからだよね?」
「そうだよ。この星の魂は全て一度リセットされてしまった。無理矢理に終わらせた事で、魂の一部が本から消し飛んでしまい、大量のエネルギーが一度に放出されてしまったんだ」

 アンソニーの言葉に仲間たちはさらに黙り込む。星がリセットされた事も知っていたし妖精王もその事については悔やんでいたが、それはこういう事だったのか。

 仲間たちが静まり返る中、ノアがポツリと言う。

「正にゲームだね。セーブをせずに強制終了をした事でデータの一部が飛んでしまったって事か。そうなったら時間をかけてサルベージするしか無い。もしかしたらあなた達はその作業をずっとしてきたのかな?」
「ははは、君は流石転生者だね。僕とカール、そしてニコラはこの星の秘密を知ってしまった。それからずっとそこら中に漂っている魂に戻れなかったエネルギーを探していたんだ。全てを見つける事が出来ればヴァニタスに運んでもらえる。そうすれば行き場を失くしたエネルギーは救われる。あのまま放っておいたら星に残骸が溜まり続けてこの星はいずれ壊れてしまうからね」
「ちょっと変態、どういう事? 分かりやすく説明して」
「えー? うーんと、スマホの掃除と一緒だよ。スマホはいらない写真とかメッセージとかを放置してるとエラー警告が出るでしょ? それはスマホの容量がその人の魔力を超えちゃいそうだからなんだよ。それが出たら写真を消すなりメッセージを消すなりしないと新しい写真を撮れないし、メッセージも受け取れない。それと同じことが星で起こってるって事」
「え、ヤバいじゃん。それじゃあ今は星にエラーメッセージが出てるって事?」
「うん。だからこの人達がエネルギーというか壊れた魂を集めて凍結してたんじゃない?」
「君は敏いね。説明する手間が省けていい。集めたエネルギーを凍結しようと思いついたのはディノだ。そしてそれは今も続いている。ヴァニタスが復活するまではこれからも続くだろうね。それほどにこの星の容量はもう限界なんだ。彼はリセットを目の当たりにして相当落ち込んでいた。星のあちこちに散らばった魂の残骸を拾い集めようと必死になっていた。それはヴァニタスの存在を知っていたからだ。ディノからもう聞いているかもしれないが、ヴァニタスは本来他所の星に魂だったエネルギーを運ぶ役割をするとても重要な神だ。それなのに星をリセットしたことで規定以上の魂が妖精王の本から消えてしまった。その魂達を救済する為にヴァニタスはエネルギーに戻った魂を一斉に他所の星に運ぼうとしたが、自身の規定量を超えてエネルギーを飲み込んだが為にヴァニタス自身が砕けてしまったんだよ」
「その原因を作ったのが当時の生物たちなのですよ。人間もドラゴンも妖精も、全ての生物たちが自己の為にしでかした過ちが原因です。その後、砕けたヴァニタスをイノセンスがたった一人で拾い集めました。彼女の涙は春を呼ぶと言われていましたが、一欠片集めるごとに彼女はその力を失い、全ての欠片を集め終わると、彼女は深い眠りに落ちてしまったのです。ディノは信じていました。長い時間をかけてイノセンスがヴァニタスを浄化してまたこの星は元通りになるだろうと。きっと凍結された魂も無事にまたヴァニタスに運ばれるだろうと。もちろん星もそう信じていたようですが、ある日、私たちは知ってしまいました。そんな日はもう永遠に来ないということを」

 アンソニーの言葉を継いだカールが言い終えると、隣でアンソニーは誇らしげに頷いている。見た目の年齢はカールの方が上だが、やはりアンソニーが親なのだ。

「そんな自慢げに頷かれても困るのですが。それで、あなた達はそれを知って今回の暴挙に出たのですか? リゼをさらったのもあなた達なのですか?」

 まるで他人事のような二人にキリは視線を鋭くして言った。

「暴挙ね。まぁどう受け取ってもらっても構わないが、リゼというのはイノセンスの事かな? そうだよ。彼女をさらったのは僕だ。というよりも、ヴァニタスを浄化させ続ける事が彼女の寿命をどんどん削ると言うことを星もディノも気付いていなかったんだよ。だから僕たちがイノセンスをヴァニタスごと引き受けたんだ。まずはイノセンスからヴァニタスを引き剥がした。その時にイノセンスの身体は朽ち果ててしまってね。あれには焦ったな!」
「あなたとおじさんはいつもやる事が雑いのです。だから私がやると言ったのに!」

 モノクルを押し上げてカールが言うと、アンソニーは苦笑いを浮かべる。

「だけどそのおかげでイノセンスの魂だけは救う事が出来たからいいじゃないか。まぁ、そのせいでイノセンスも転生を繰り返すようになってしまったけれど」
「失敗していたらどうするのですか、全く。大体あなた達は昔から――」
「そういう親子喧嘩は後でやってほしいんすけど?」

 まだ何か言いかけたカールに呆れた声でオリバーが言うと、アンソニーとカールは顔を見合わせて咳払いを一つする。
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