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第380話 罪と罰

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「これは失礼。こういう経緯で僕たちはディノと共に真名書から消えた魂を凍結させてきたんだよ」
「ん? ねぇねぇ、ディノはリゼがさらわれた事に怒ったんだよね? もう仲直りはしてるの?」

 キョトンとしてアリスが聞くと、アンソニーはアリスを見て何故か笑顔で言う。

「怒ったね。でもディノだって事情を聞けば許してくれた。あいつはそういう奴だよ。君も知ってるだろ?」
「うん、ディノは優しいね。ちょっと優しすぎるけど」
「そうなんだ。ディノも星も優しすぎる。優しいというのはね、難しいんだ。一歩間違えればそれは無関心にも繋がる。イノセンスにしてもそうだ。彼女が転生を繰り返すようになった事で、彼女への感心が薄れてしまったんだ。彼らは有り余るほどの魔力やエネルギーを持っていて、他者を顧みる事をあまりしない。反省もさほどしない。それはいずれ生物は全て死に絶える事を知っているからだ。彼らの寿命と我々の寿命は違いすぎる。ディノはとても優しいけど、寂しくもあったんだろう。だから罰として僕達にこんなとんでもない魔法をかけたんだよ、彼は」

 そう言ってアンソニーは自身を指さした。そんなアンソニーを見てアリス達は首を傾げる。

「不死だよ。僕は死ねない。この星ではね。歳も取れない。ディノの魔力の影響がある限り」
「ア、アンソニー王は不死なんですか!?」

 それまで黙ってずっとメモを取っていたライラが驚いて顔を上げると、アンソニーは困ったように頷いた。

「そうなんだ。まぁそれがイノセンスを勝手に連れ出して彼女が転生を繰り返すようになってしまった僕への罰なんだよ、ディノなりのね。どのみち僕たちの年の取り方は皆と一緒ではなくなっていたしね。ディノはイノセンスを愛してた訳じゃない。恋心はあったかもしれないが、それはただイノセンスの寿命が星と同じほどの長さだったからに過ぎない。寂しさからイノセンスを縛り付けてイノセンスの寿命を縮めるだなんて馬鹿げていると思わないかい?」
「それは……そうですね。でもそうしたら今度はあなたが!」
「うん、僕はその方が都合が良かったんだ。僕には僕で長生きをしなければならない事情があったからね。だからディノと協力する事が出来たんだよ。この罰を受けたのは僕とニコラだ。カールは馬鹿でね……自らこの業を背負ったんだ。本当に馬鹿な事を」
「あなた達だけでは色々と不安だったので仕方ありませんね」
「ほらね、こんな事を言うんだ。こういう頑固な所は本当にヤエそっくりだよ」

 そう言ってアンソニーは八重子そっくりの黒い髪と黒い目のカールを見て懐かしげに目を細めた。

「……ヤエさんって、アンソニー王の奥様?」

 ポツリとキャロラインが言うと、アンソニーは少しだけ視線を伏せて頷く。

「そうだよ。僕のたった一人の伴侶だ」
「それじゃあレヴェナ王妃は? あの方の事は……あなたは愛していなかったのですか!?」

 メイリングに視察に行った時、キャロラインの言葉にレヴェナは酷く傷ついた顔をしていた。あの時の顔が今もキャロラインは忘れる事が出来ないでいる。

「レヴェナか。もちろん愛しているさ。何せ彼女はニコラの子孫なのだから。彼女を赤ん坊の頃から愛しているよ。けれどそれは夫婦の愛ではないね。そもそも彼女が本当に愛しているのはこの子だよ」

 そう言ってアンソニーはカールを指差すと、カールは苦虫を潰したような顔をした。

「私は結婚はしません。というか出来ないでしょう、こんな状態で。不死の魔法も解けないままなのですから」
「それでもいいとレヴェナは言うと思うけどね」
「そうはいきません。彼女にはきっと耐えられない。私が……耐えられなかったのだから」

 カールは視線を伏せて意識を失った状態で運ばれてきたレヴェナを思い出した。 彼女の身体にくっきりとバラの痣が浮かんでいるのをカールはレヴェナが小さい頃から知っていた。だからいずれこうなる事も分かっていたけれど、いざその時がやってくると胸が苦しくて、眠るレヴェナを直視することすら出来なかった。

 これをきっと愛と呼ぶのだろう。

 けれどカールにはレヴェナの思いを受け入れる事が出来なかった。いつまでも年を取らないカールの隣に居れば、レヴェナもカールもいずれ辛い思いをするに違いないのだから。

「そうだ! そう言えばこれ! アンソニー王に返さなきゃ!」

 レヴェナの話が出た事でアリスは海岸で拾ったペンダントをポシェットから取り出した。それを見てアンソニーは懐かしそうに目を細める。

「まだレヴェナはそれを持っていたのか。どこでこれを?」
「えっとね、フォルスの地下壊した時に出てきたんだよ。これ、やっぱりレヴェナ様のなの?」
「ああ。レヴェナの趣味でね、彼女は早い段階で自分の運命を知っていた。だから自分が気に入った色んな人と絵姿を描いてそれをいつもペンダントにしていたんだ。だから彼女の寄木細工には色んな人と描かれた大量のペンダントが入っているよ。それにしてもこれがフォルスに? ああ、そうか、モルガナかアメリアがレヴェナの寄木細工を持ち出したのか」
「ありえますね。そして中を見てさぞかし愕然とした事でしょう。何せレヴェナの寄木細工にはペンダントしか入っていませんから」

 薄く笑ったカールを見てノアは言う。

「そう仕向けたのはあなた達だよね? モルガナもアメリアもずっと何かを探していた。それは寄木細工に入った何かだった。だから彼女たちは寄木細工を集めていたんじゃない?」
「え? いやでもお前、あれはディノの眼の鍵を探すためだったんだよな?」

 カインの言葉にノアは首を振った。

「もちろんそれもあっただろうけど、多分本当に探してたのはもっと別の物だよ。そう、例えば二人の不死の秘密とかね」
「!」

 ノアの言葉に仲間たちが息を呑んだ。モルガナとアメリアは確かに生に異様に執着していた。だからこそ不死と言う現象に目がくらんでも何もおかしな事ではない。

「で、でも兄さま、それは無理じゃない? だってアンソニー王とカールさんがこうなったのはディノの罰なんだから」
「そうだね。でもアリス、例えばゲートを開くには一定の条件がある。それと同じで、大きな魔法を使うには必ず何か条件があるんだよ。そうでないと誰でも簡単に大きな魔法を使えてしまう。そうならないように大概は大きな誓約があるはずなんだ。禁断魔法と同じだね。だからあの二人がここまでしてこの人達の側にいたのにはもっと違う理由があって、この二人はそれが分かっていたから彼女たちを監視していたんだと思うよ。違う?」

 ノアの問にアンソニーは一瞬目を丸くして吹き出した。

「ああ、本当に君は! その通りだよ。僕とニコラはディノの罰を受けた。不死という魔法だ。けれどそれをするにはある物が必要だったんだ。それこそ彼女たちがずっと探していた物なんだよ」
「そ、それは一体……」
「特殊な魔石だ。この星がリセットされる前にあった鉱石で、名前は『賢者の石』。ノアは聞いた事があるんじゃないかな? 父さんが知っていたぐらいだから」
「……ファンタジーの王道だね。賢者の石、もしくはそれから出来るエリクサーは不死の薬だって言われてるもんね。で、それをあなた達は持っている、と?」
「正しくは持っていた。今はもう無いよ。あれはとうの昔にディノの化身の一部になったから」
「ディノの化身の一部になった?」
「そうだよ。彼の化身が今も持っていると思うよ。彼の心臓の核の部分こそがその賢者の石なんだから」
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