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第391話 アリスのフィーリング

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 ノアの元にアミナスから意味不明な電話があった後アリス達がバセット領に戻ると、領地では上や下への大騒ぎになっていた。

「お~い皆~! どうしたの~!」

 広場の真ん中に集まる領民達に声をかけると、領民は一斉に振り返って眉を吊り上げてアリスに突進してくる。先頭はもちろんハンナだ。

「お嬢! これは一体どういう事だい!?」
「へ? 一体何が――うおぉぉぉ! マンモォォォ! なんでここに居るの!?」

 ハンナの言葉をかき消すように地響きと共にアリスの前に現れたのは地下であったマンモスだ。

「パオ~!」
「なになに? 仲間たちを連れて避難してきた? ふむふむ、残りはリー君の所? そっかそっか! やっぱ地下は危ないんだね!」
「……パオ……」

 スーは思っていた。まだ何も言っていない。それなのにどうしてこの娘は自分が伝えようとしている事を全て理解する事が出来るのだろうか? と。

 太古の昔は全ての動物が同じ言語を操っていたが、今はそうでは無いようだと言うことを地上に出てきて思い知ったのだけれど、どうにもこの娘だけは言語が分かる以前の問題だ。少し怖い。

 戸惑うようなスーの長い鼻を撫でてアリスはニカッと笑う。

「言葉なんていらないよ! 大体の事はフィーリングで分かるもん! 考えるな! 感じろ! だよ」
「……パ、パオ」

 言ってる意味もよく分からないし何となく頭の中を見透かされているようで気味が悪い。

「ノア様、もしかして先程のノエルが言っていたスーさんと言うのはこの方なのでは?」
「うん、かもしれないね。えっと、スーさん?」
「パオ」

 突然名前を呼ばれて見下ろすと、ノアと呼ばれた男がニコッと笑う。

「アミナスの話では地下の動物を避難させてきてくれたって事なのかな?」
「パオ」
「そっか、ありがとう。この星に起こっている事はもう聞いた?」

 ノアの問にスーは首を振った。気づけばスーの他にもあの氷に閉じ込められていた太古の動物達が集まってきている。その顔は皆真剣だ。

「それじゃあ説明するよ。実は――」

 そう言ってノアは簡潔に今この星で起ころうとしている事を話しだした。動物たちはその話にじっと耳を傾けている。最後まで聞き終えた時、動物達が一斉にノア達の前で頭を下げた。

「……僕に謝っても仕方ないし、別に君たちが悪い訳でもないよ。確かに君たちのした事がリセットのきっかけになったのかもしれない。でもそれはいつかきっと訪れる事だった。僕はそう思うよ」
「兄さま、どういう事?」
「ん? 何にでも必ず終わりがあるって事だよ。それがたまたま自分たちの時代に訪れたっていうだけの話。それは星の寿命も例外じゃない」
「まぁその通りなのですが、それだとこれからどうなるのです? 星が砕けて終わりですか?」
「いいや、終わりはただのきっかけに過ぎないよ。新しい世界の始まりのね」
「そうだよ! そのために私達は頑張ってる! 新しい世界に行くために! ね!」

 アリスがニカッと笑うと動物たちはようやく顔を上げた。きっと後悔も沢山あるのだろうが、今はそんな後悔している場合などではない。

「まぁでもはっきり言ってありがたいよ。君たちがここに来たと言うことは手伝ってくれると言うことだよね?」

 ノアが尋ねるとスーを筆頭に他の動物たちも声を上げた。億の兵士には到底叶わないだろうが、居ないよりはマシな戦力だ。

「それじゃあライト家に行ってもらおうかな。ルードさんに君たちの分の甲冑も用意してもらわないと。それから危ないと思ったらすぐに避難すること。それだけは約束して。はいこれ。使い方は分かるよね?」
「パオ!」

 スーはノアから妖精手帳を受け取り動物たちはそれを見てすぐにスーのどこかに触れる。それを確認したスーは勢いよく妖精手帳を破った。

 動物たちを見送ったアリス達が屋敷に戻って一番にしたのはリアンへの報告だった。スーの話によると残りの動物たちは皆ネージュに居るとの事だったので、絶対に怒っていると思ったのだが――。

『はいは~い』
「リー君! えっとあの地下の動物たちがさ、そっちに行ってると思うんだけど……」

 アリスが申し訳無さそうに言うと、スマホ越しにリアンの乾いた笑い声が聞こえてきた。

『ああ、来た来た。皆、領民達と仲良くベリー摘みに行ってるよ、はは」
「……えっと……お、怒って……ない?」
『怒る? 僕が? 今更こんな事で怒らないよ』
「そ、そう? だったらいいんだけど……ねぇ本当に怒ってない!? 何か怖いよ!」
『僕が怖いだなんて! あんたに比べりゃ僕なんて全然怖くないでしょ?』
「ひぃん! 兄さま~! リー君が壊れちゃったよ~!」

 いつものように一切突っ込んでこないリアンにアリスは本当に怖くなってきてスマホを思わずノアに渡すと、ノアはニコッと笑ってアリスからスマホを受け取る。

「リー君怒ってないんだって? 心広くなったねぇ。それじゃあ悪いんだけどその子達の面倒お願いね」

 弾んだ声でノアが言うと、スマホ越しに小さく舌打ちが聞こえてきた。続いて少しの沈黙とリアンにしては低い声が聞こえてくる。

『……あんたは相変わらずこれっぽっちも僕の心配をしないね?』
「してるしてる。胃薬送ろうか?」
『いらないよっ! 何なの、この子たち! ていうか何か地味に話通じて怖いんだけど!?』
「ああ、その子達は地下から避難してきた子たちだから。ある程度はもしかしたら通じるかもね。流石にあの太古の氷漬けの子たち程ではないにしても」
『そんな事聞いちゃいないよっ! どうして! この子達が! うちに来るのかって聞いてるの!』
「えー……もしかしてやっぱり怒ってるの? あと彼らがどうしてリー君の所に行ったかは、前にキリが言ったからだと思うけど?」
『あれか! 何を律儀に……はぁ、胃が痛い』
「ははは。まぁそういう訳だからお願いね。あ! それからオズとリゼを助ける方法もちゃんと考えといてね」
『はあ!? ちょっと待って、大体あんた達はいっつも――』

 リアンが言い終える前にノアはスマホを切るとアリスにスマホを返して笑う。

「大丈夫、リー君は通常運転だったよ」
「怒らせたの間違いでは?」
「まぁまぁ、細かい事言わない言わない。リー君は怒りをバネにするタイプだからあれぐらいが丁度いいんだよ」
「そういうのは一応本人に確認した方がいいと思うのですが」

 他人にお前は怒りをバネにするタイプだからと言われてわざと怒らされるのは果たして良い事なのだろうか? リアンからしてみればいい迷惑である。

 そんなキリにノアはニコッと笑っただけで何も言わない。そんなノアを見てキリは思う。やっぱりノアは魔王だ、と。

「さて、それじゃあ本題に入るよ。オズとリゼちゃんをどうにかして助けたい訳だけど、いかんせん情報がこれっぽっちも無いんだよね」
「あ、そう言えばノア様、レスター様からこれを預かっています」

 そう言ってキリがリュックから取り出したのはレスターが観測者の所から持ち帰った透明の板だ。

「ん? へぇ、樹脂で出来た板? 何で作ったんだろう」

 ノアは言いながら樹脂板を受け取りそれを読み始めた。丁寧な文章は所々砕けていて何となく観測者のイメージが崩れる。
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