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第430話 異世界から持ち込まれた本

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「まぁ、その戦争ももうじき終わるよ。ただあなたに待ってるのは今度は情報戦なんかじゃなくて、武器での戦争だけど」
「本当に困ったものだよ。どうやら僕の人生は一生戦争というものに付きまとわれるらしい」
「大丈夫ですよ、私も最後までお付き合いしますから」
「いや、それは今でも止めたいけれどね。君は僕に、僕たちに付き合う必要はないんだよ。もうそろそろ自分の人生を歩んでいいんだ」
「その言葉はそっくりそのままお返ししますよ。皆がどれほどあなたの事を心配したと思うのです? いつまでも一人の女性を思い続けるあなたを、周りがどれほど苦しく思っていたか」
「それは仕方ない。ヤエは僕の運命の人だ。僕は皆が思っている以上に幸せ者なんだよ、そういう人に巡り会えたんだからね。そういう意味では僕はとても自分勝手に生きているよ」
「……これですよ。始終この調子なのです。分かりますか? 私の苦労が」

 そう言ってカールは深い溜息をついてモノクルを押し上げた。そんなカールを見てアランは苦笑いだが、ノアだけはうんうんと頷いている。

「そうなんだよ。運命の人に出会ってしまったら、何としてでも助けたいし次も絶対に一緒になりたいって思うものなんだよ。そういう意味では僕もアンソニー王に賛成するよ。あなたはとても幸せ者だ」
「そうだろう? まぁ君の伴侶はどう見ても助けられる側ではないけれどね」
「そこが悲しい所なんだよね。でもアリスは言ってくれたからね! 兄さまが居ないとこの世界はつまんないって!」
「それは単純に振り回せる人間が一人減るからでは?」

 謎にドヤ顔をしたノアを見て、シャルが呆れたように言うと、ノアはキッとシャルを睨んでくる。

「えっと、そろそろ話を戻しましょう。この装置はどこに源動力をセットするのです?」
「ああ、そうだったね。随分話が逸れてしまった。これは源動力をどこかにセットする訳ではないんだ。常にここに星からのエネルギーが送られてくるようになっている。このメーター、これが今のエネルギーの溜まり具合だ。まだ半分もいかないだろう? 人を一人あちらに送るほどの源動力は、せめてここまでは溜まらないと無理だ。今のままではせいぜい手紙一通が限界だね」

 そう言ってアンソニーは鳥居の脇に置いてある装置のメーターを指さした。

「これはそもそもどうやって作ったのです?」

 不思議な見たこともない装置にアランが感心したように言うと、アンソニーが何故か胸を張った。

「ニコラが見つけてきた本に書いてあったんだそうだ。それを改良して出来たのがこの装置なんだよ」
「その文献ってどこにあったんだろう?」
「分らない。ニコラはとにかく読書家で、ありとあらゆる分野の本をよく読み漁っていたんだ。その為に色んな所から本を仕入れていたんだけど、そのうちの一冊だったみたいなんだよ。あの時は注文した覚えもない本が混じっていたとか何とか言っていたが、その本のおかげでこれが完成したんだ」
「……不思議な話だね。そんな知識を持っている人なんて、この星には居ないと思うけど」

 まるでこうなる事を誰かが予測してニコラの元に本を送りつけたみたいだ。どうやらそれはアンソニー王も思っているようで、ノアの言葉にアンソニーも深く頷く。

「僕もそう思うよ。だからあの本こそが異世界から持ち込まれた本なんじゃないかと思っているよ、僕は。そしてそんな事が出来るのは一人しか居ない」
「観測者……か。やっぱり僕たちは観測者に一度会ってみた方がいいのかもしれない」

 もしも観測者がその本をニコラに渡したのだとしたら、もっと効率の良い方法があるかもしれない。ジャスミンが予言した戦争の幕開けはもう目の前まで迫ってきているが……。

「ところで不思議だったんですが、あなた達は何度か手紙のやり取りをしていますよね? こちらから送れるのは分かるのですが、向こうからはどうやって送られてくるのでしょう? 互いに連絡が取り合える訳ではないのに、どうしてそんな事が?」

 不思議そうに首を傾げたアランの質問にカールが待っていたとばかりに口を開いた。

「最初は我々もその手段が分からなくて苦労したのですが、叔父からの手紙で全てに納得がいきました。母さんや叔父が行った時代というのは戦争真っ只中です。毎日のようにあちこちで莫大なエネルギーが動いていたと手紙にはありました。あちらから不定期に届いた手紙はそのエネルギーを使ったそうです。そしてそのエネルギーが集中する場所さえ作る事が出来れば、このゲートのような物を作る事が出来ると叔父は考えたようで、あちらの世界に着くなりすぐにそれに着手したようなのです」
「ニコラさん凄いね」
「まぁこのゲートを作ったのがニコラだからね。ただ魔法が使えなくて相当苦労したようだけれど。そのおかげでそれまでは偶然でしか届かなかった手紙や通知が、確実にこちらに届くようになった……はずだよ」
「はず?」
「うん。だってニコラがあちらに行ってそれを完成させたかどうかは僕たちにも分らない。何せそれからニコラからの連絡が無いからね」
「……それは多分、戦争が終わったからじゃないかな。戦時中のようにエネルギーが供給出来なくなってしまったんだよ」

 ノアの言葉にアンソニーとカールが納得したように頷いた。

「そうなのかい?」
「うん。長崎の原爆投下が8月9日。そして終戦したのは同月の14日なんだよ。流石にこの短期間にそれを作るのは難しいと思うんだ」
「それは確かに厳しいね。連絡はなくとも無事で居てくれている事を願っているよ」
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