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第512話 叡智の正体
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ニコッと微笑んだノアを見てアメリアが眉根を寄せる。それが図星だったのかどこか調子が悪いのかは分からないが、今ここで彼女を逃がす訳にはいかない。
ノアは一歩アメリアに近づいたが、まるでそれを察知したかのようにアメリアが急いでフードを解いて胸元から何かを取り出した。
「近寄らないでちょうだい! これが何か分かる? あなた達の知らない技術で出来た水晶よ。この水晶には不思議な力が宿ってるの」
アメリアが胸ポケットから取り出したのは、片手で持てるサイズの円柱の水晶だ。それで足元にあった焚き火に触れると、一瞬にして焚き火がその場から消えてしまう。
それを見てキリは目を丸くしたが、ノアはただ平然とそれを見ていた。
「それで? それは魔法じゃない。ただの科学だよ。なるほど。この世界はやっぱり科学を魔法と呼んでいるだけなんだな……。てことは何も持たずにそれが出来るこの星の生き物は体内にそれを持ってるのか……それとも元々はあちらの世界の人間にもあった? 興味深いな……観測者なら何か知ってるのかな」
ノアは言いながら胸に手を当て、すぐにそれを口元に持っていく。
「ノア様、今この状況で思考の渦に飛び込むのは止めてもらってもいいですか? あれが魔法ではないとはどういう事なんですか?」
「うん? あれは量子っていう科学の分野なんだよ。だから別に突然物質が消えた訳じゃなくて、ただ量子に戻っただけって話。同じ理屈であの水晶を使えばまた焚き火を元に戻すことも出来るはずだよ。ねぇ? アメリア」
「っ!」
「ほら、図星だ。リセット前の世界は量子で動いてたって事か。うん、それならアリスの言う誰も苦しまない世界が出来るかもしれないな」
アリスの願いを何が何でも叶えたいノアは、常にどこかにヒントが落ちていないかを探していたが、まさかこんな所で見つかるとは思わなかった。
この状況でやけに晴れ晴れとした笑顔を浮かべたノアを見て、アメリアとキリが引きつる。
「あなた……何者なの……?」
「何者って、ただのミジンコみたいな領地を引き継いだ伯爵家の当主だけど?」
「そういう事を聞いてるんじゃないのよっ! まぁもう何だっていいわ。これを知っているのならこれの脅威も知ってるはずよ。それ以上私に近づいたら私はこれを使ってこの世界を滅ぼすわ。そう、あの時のようにね」
アメリアはそう言って円柱の水晶を握りしめた。それを見てキリが動こうとしたのをノアが止める。
「それは困るな。キリ、ここにもう用はないよ、行こう」
「ですが――」
「いいから。それじゃあね。次に会う時にはそろそろ決着をつけようか、アメリア」
それだけ言ってノアは踵を返した。キリが怪訝な顔をして後をついてくるが、ノアの足取りは何故かとても軽かった。
「まぁ、もう今さらあなた達が何かをしても遅いんだけどね」
アメリアはノア達が立ち去ったのを確認してポシェットの中にエネルギーが満タンの水晶をしまうと、代わりにもう一つの水晶を取り出して捨てる。ノアのことだ。恐らく既にもう一つのシュタの水晶は回収済みだろう。
エネルギーがすっかり空っぽになった三角錐の水晶は、コロンと軽い音を立てて砂の上に転がった。
ノアは一歩アメリアに近づいたが、まるでそれを察知したかのようにアメリアが急いでフードを解いて胸元から何かを取り出した。
「近寄らないでちょうだい! これが何か分かる? あなた達の知らない技術で出来た水晶よ。この水晶には不思議な力が宿ってるの」
アメリアが胸ポケットから取り出したのは、片手で持てるサイズの円柱の水晶だ。それで足元にあった焚き火に触れると、一瞬にして焚き火がその場から消えてしまう。
それを見てキリは目を丸くしたが、ノアはただ平然とそれを見ていた。
「それで? それは魔法じゃない。ただの科学だよ。なるほど。この世界はやっぱり科学を魔法と呼んでいるだけなんだな……。てことは何も持たずにそれが出来るこの星の生き物は体内にそれを持ってるのか……それとも元々はあちらの世界の人間にもあった? 興味深いな……観測者なら何か知ってるのかな」
ノアは言いながら胸に手を当て、すぐにそれを口元に持っていく。
「ノア様、今この状況で思考の渦に飛び込むのは止めてもらってもいいですか? あれが魔法ではないとはどういう事なんですか?」
「うん? あれは量子っていう科学の分野なんだよ。だから別に突然物質が消えた訳じゃなくて、ただ量子に戻っただけって話。同じ理屈であの水晶を使えばまた焚き火を元に戻すことも出来るはずだよ。ねぇ? アメリア」
「っ!」
「ほら、図星だ。リセット前の世界は量子で動いてたって事か。うん、それならアリスの言う誰も苦しまない世界が出来るかもしれないな」
アリスの願いを何が何でも叶えたいノアは、常にどこかにヒントが落ちていないかを探していたが、まさかこんな所で見つかるとは思わなかった。
この状況でやけに晴れ晴れとした笑顔を浮かべたノアを見て、アメリアとキリが引きつる。
「あなた……何者なの……?」
「何者って、ただのミジンコみたいな領地を引き継いだ伯爵家の当主だけど?」
「そういう事を聞いてるんじゃないのよっ! まぁもう何だっていいわ。これを知っているのならこれの脅威も知ってるはずよ。それ以上私に近づいたら私はこれを使ってこの世界を滅ぼすわ。そう、あの時のようにね」
アメリアはそう言って円柱の水晶を握りしめた。それを見てキリが動こうとしたのをノアが止める。
「それは困るな。キリ、ここにもう用はないよ、行こう」
「ですが――」
「いいから。それじゃあね。次に会う時にはそろそろ決着をつけようか、アメリア」
それだけ言ってノアは踵を返した。キリが怪訝な顔をして後をついてくるが、ノアの足取りは何故かとても軽かった。
「まぁ、もう今さらあなた達が何かをしても遅いんだけどね」
アメリアはノア達が立ち去ったのを確認してポシェットの中にエネルギーが満タンの水晶をしまうと、代わりにもう一つの水晶を取り出して捨てる。ノアのことだ。恐らく既にもう一つのシュタの水晶は回収済みだろう。
エネルギーがすっかり空っぽになった三角錐の水晶は、コロンと軽い音を立てて砂の上に転がった。
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