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第518話 新商品は役に立つ!
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「何だかグニャグニャしてるね。何だろう? あれ」
「ねぇ、まさかあそこに入ったりしないよね? てかオズはどこ行ったんだろ?」
アリスの言う通り、火口は虹が混じり合ったように鮮やかなマーブル模様になっていた。あれは確実にリアン達がよく知る火口ではない。
「……最初は綺麗って思ったけど……あれ、多分入っちゃダメな奴だと思う」
「珍しいっすね、あんたがそんな事言うの」
こういうのを見ると率先して突っ込んで行きそうなアリスが躊躇った。それに驚いたオリバーが言うと、アリスは仁王立ちをしたまま首だけで振り返ってキッとオリバーを睨んできた。
「失礼な! 首ゾワがする時は常に気をつけてますぞ! 冗談は置いといて、あそこ、多分ここじゃない」
「? 意味分かんないんだけど?」
「何て言ったらいいんだろう。あそこだけこの世じゃない。下手に突っ込んだらお化けと出くわしそうな気がする」
「……それは怖いね?」
「怖いっすね」
何だか思ってたのと違うアリスからの答えに困惑した顔でリアンとオリバーは顔を見合わせたが、アリスがこんな反応をするのは止めておけという事だと言うことを二人はよく知っている。
「じゃ、僕たちはあっちを追う?」
リアンはそれまで順調に自分たちの後を追ってきていた影アリスが、オルゾ山の麓で突然方向を変えた事に気づいて指さした。
「その方が確実っすね。アリス、行くっすよ」
「分かった。ここまで運んでくれてありがとう、ドラオ!」
「ギュ!」
「はい、これお礼ね。今はこれだけしか無いけど、全部終わったらバセット領に遊びにおいで。もっと沢山お肉あげる」
「ギュギュ!」
ドラオは元気に返事をしてそのまま地上に下りた。数百メートル先を影アリス達がどこかへ向かって真っ直ぐに走っていくのが見える。
「よし! 追いかけよう!」
ドラオから下りたアリスは足の腱を伸ばして走り出そうとした所でリアンに止められた。
「ちょっと待った。モブ、僕のリュックからぬいぐるみ取って。えーっと、それからこれをこうして……よし、ジャスミン、ローズ、繋がってる?」
既に走り出そうとしているアリスの首根っこを捕まえてその場に留まらせたリアンは、アランが魔改造したぬいぐるみをオリバーに取り出してもらい、その間にイヤーマフによく似た端末を取り出してそれを頭につけた。
『ええ、繋がってるわ、父さま』
『大丈夫だよ~』
「ん。それじゃあ中継お願い」
『分かったわ! それじゃあ、うさちゃんカメラ起動!』
『操作は任せて~!』
ローズはそう言ってぬいぐるみ専用端末を操作し始めた。
すると、それまでリアンを映していたジャスミンの持っている端末の画面に、周りの景色が映し出され始める。それはどんどん上昇していき、やがて前方を走る影アリス達を捉えた。
『父さま、そのまま真っすぐよ。一つ目の三叉路を右へ』
「了解。ほら、二人共ボケっとしてないで行くよ!」
「へぁ!? な、なんでうさちゃん飛んでんの!?」
「てか誰と喋ってんすか!?」
一体何が目の前で起こっているのか全く理解出来ないオリバーとアリスがリアンに尋ねると、リアンは走り出しながら答えた。
「あれだよ、ほら、変態が持って帰ってきたラジコンだっけ? あれを魔道士と改造したんだよ。変態が言うにはあんた達の世界じゃあれはおもちゃだったんでしょ?」
「う、うん。でもこれはラジコンではなくて、最早ドローンでは……?」
アリスのあちらの知識にもあったドローンという機械は、たった数年の間にあっという間に進化した。それを追い越すかのような進化にアリスも珍しく驚いてしまう。
「ドローンって言うの? よく分かんないけど、これって偵察機にちょうどいいねって話になったんだよ、魔道士と。それでカメラとか取り付けやすいし既に音声も送受信出来るあのぬいぐるみを改造したんだ」
「あ、あんたいつの間にそんなもん作ってたんっすか!」
「あのラジコン見た時からだよ。使えるなって思って。ダメだった?」
「いや、ダメではないんすけど……で、操縦してんのがローズっすか?」
「うん。皆で練習したけどローズが一番上手だったんだ。なんでもやっとくもんだね」
遊びの延長で皆で試しに飛ばしてみたが、ローズが一番スムーズにぬいぐるみを飛ばす事が出来た。ちなみに一番下手くそだったのはライラである。
「……あんたんとこも大概何に備えてたんすか……」
あのラジコンが見つかった時にはまだこんな事になるなんて思ってもいなかった。それなのにリアンは既にラジコンに目をつけていて、なおかつ操作の練習をしていたのか。
「備えてた訳じゃなくて、新商品の開発してたんだよ。おもちゃだって聞いたからそれの試作をしてたの。で、今回こんな事になったからついでに改造しちゃおって話になっただけの話だから。でもせっかく作ったし、ここでしっかり宣伝しておかないとね!」
「どこまで商魂逞しいんすか!」
「あ、もちろんカメラ機能つけたのはこの子にだけだから! 悪用はされないようにちゃんと修正は入れるよ!」
キメッ! とポーズを取ったリアンにアリスは何故か誇らしげに頷いているし、オリバーは完全に呆れている。
「で、さっきからあのぬいぐるみが子どもたちに情報を送ってんすか?」
さっきからリアンは迷うこと無くどこかへ向かって走っている。その足取りには一切の迷いが見られない。
「そゆこと。あのぬいぐるみからジャスミンに映像が送られてて、それを見て道案内してくれてんの。役に立つでしょ? うちの子達」
「……そっすね」
普段子どもたちの中ではあまり目立たないジャスミンとローズだが、いざという時は誰よりも度胸が据わっている。そういう所はライラにそっくりだ。
『父さま、もうすぐ洞穴が見えてくると思うわ。三人はそこへ入っていった』
「ん、了解。その先も入れそう?」
『ええ。既にローズが二足歩行モードに切り替えて追ってるわ』
「流石。それじゃあ引き続きよろしく。ぬいぐるみにグリーンを乗せてるから目印を書いておいて」
『分かったわ』
「ね? うちの子達凄いでしょ?」
ジャスミンとの通信を切るなりドヤ顔で振り向いたリアンを見てアリスは目を輝かせて頷き、オリバーは渋々頷く。
「で、どこ行けばいいんすか?」
「もう少し行った所に洞穴があるって。そこから中へ入ってったみたい」
「洞穴って事は、多分地下に繋がる通路なんすよね?」
「だと思うよ。アリス、最悪の事態に備えといてよね」
「うん。あ! あれかな!?」
リアンの指示通り目の前に洞穴が見えてきた。直ぐ側には小さな湖があり、その立地を見て納得する。やはりここはディノの地下への入り口だったのだろう。
「狭いなぁ。はい、あんた一番ね。で、次僕。最後にモブね」
「は~い!」
「っす」
何だかいっつもこの順番だなと思いながらもオリバーはアリスとリアンが洞穴に入っていくのを確認すると、自分も身をかがめて二人の後を追った。
「ねぇ、まさかあそこに入ったりしないよね? てかオズはどこ行ったんだろ?」
アリスの言う通り、火口は虹が混じり合ったように鮮やかなマーブル模様になっていた。あれは確実にリアン達がよく知る火口ではない。
「……最初は綺麗って思ったけど……あれ、多分入っちゃダメな奴だと思う」
「珍しいっすね、あんたがそんな事言うの」
こういうのを見ると率先して突っ込んで行きそうなアリスが躊躇った。それに驚いたオリバーが言うと、アリスは仁王立ちをしたまま首だけで振り返ってキッとオリバーを睨んできた。
「失礼な! 首ゾワがする時は常に気をつけてますぞ! 冗談は置いといて、あそこ、多分ここじゃない」
「? 意味分かんないんだけど?」
「何て言ったらいいんだろう。あそこだけこの世じゃない。下手に突っ込んだらお化けと出くわしそうな気がする」
「……それは怖いね?」
「怖いっすね」
何だか思ってたのと違うアリスからの答えに困惑した顔でリアンとオリバーは顔を見合わせたが、アリスがこんな反応をするのは止めておけという事だと言うことを二人はよく知っている。
「じゃ、僕たちはあっちを追う?」
リアンはそれまで順調に自分たちの後を追ってきていた影アリスが、オルゾ山の麓で突然方向を変えた事に気づいて指さした。
「その方が確実っすね。アリス、行くっすよ」
「分かった。ここまで運んでくれてありがとう、ドラオ!」
「ギュ!」
「はい、これお礼ね。今はこれだけしか無いけど、全部終わったらバセット領に遊びにおいで。もっと沢山お肉あげる」
「ギュギュ!」
ドラオは元気に返事をしてそのまま地上に下りた。数百メートル先を影アリス達がどこかへ向かって真っ直ぐに走っていくのが見える。
「よし! 追いかけよう!」
ドラオから下りたアリスは足の腱を伸ばして走り出そうとした所でリアンに止められた。
「ちょっと待った。モブ、僕のリュックからぬいぐるみ取って。えーっと、それからこれをこうして……よし、ジャスミン、ローズ、繋がってる?」
既に走り出そうとしているアリスの首根っこを捕まえてその場に留まらせたリアンは、アランが魔改造したぬいぐるみをオリバーに取り出してもらい、その間にイヤーマフによく似た端末を取り出してそれを頭につけた。
『ええ、繋がってるわ、父さま』
『大丈夫だよ~』
「ん。それじゃあ中継お願い」
『分かったわ! それじゃあ、うさちゃんカメラ起動!』
『操作は任せて~!』
ローズはそう言ってぬいぐるみ専用端末を操作し始めた。
すると、それまでリアンを映していたジャスミンの持っている端末の画面に、周りの景色が映し出され始める。それはどんどん上昇していき、やがて前方を走る影アリス達を捉えた。
『父さま、そのまま真っすぐよ。一つ目の三叉路を右へ』
「了解。ほら、二人共ボケっとしてないで行くよ!」
「へぁ!? な、なんでうさちゃん飛んでんの!?」
「てか誰と喋ってんすか!?」
一体何が目の前で起こっているのか全く理解出来ないオリバーとアリスがリアンに尋ねると、リアンは走り出しながら答えた。
「あれだよ、ほら、変態が持って帰ってきたラジコンだっけ? あれを魔道士と改造したんだよ。変態が言うにはあんた達の世界じゃあれはおもちゃだったんでしょ?」
「う、うん。でもこれはラジコンではなくて、最早ドローンでは……?」
アリスのあちらの知識にもあったドローンという機械は、たった数年の間にあっという間に進化した。それを追い越すかのような進化にアリスも珍しく驚いてしまう。
「ドローンって言うの? よく分かんないけど、これって偵察機にちょうどいいねって話になったんだよ、魔道士と。それでカメラとか取り付けやすいし既に音声も送受信出来るあのぬいぐるみを改造したんだ」
「あ、あんたいつの間にそんなもん作ってたんっすか!」
「あのラジコン見た時からだよ。使えるなって思って。ダメだった?」
「いや、ダメではないんすけど……で、操縦してんのがローズっすか?」
「うん。皆で練習したけどローズが一番上手だったんだ。なんでもやっとくもんだね」
遊びの延長で皆で試しに飛ばしてみたが、ローズが一番スムーズにぬいぐるみを飛ばす事が出来た。ちなみに一番下手くそだったのはライラである。
「……あんたんとこも大概何に備えてたんすか……」
あのラジコンが見つかった時にはまだこんな事になるなんて思ってもいなかった。それなのにリアンは既にラジコンに目をつけていて、なおかつ操作の練習をしていたのか。
「備えてた訳じゃなくて、新商品の開発してたんだよ。おもちゃだって聞いたからそれの試作をしてたの。で、今回こんな事になったからついでに改造しちゃおって話になっただけの話だから。でもせっかく作ったし、ここでしっかり宣伝しておかないとね!」
「どこまで商魂逞しいんすか!」
「あ、もちろんカメラ機能つけたのはこの子にだけだから! 悪用はされないようにちゃんと修正は入れるよ!」
キメッ! とポーズを取ったリアンにアリスは何故か誇らしげに頷いているし、オリバーは完全に呆れている。
「で、さっきからあのぬいぐるみが子どもたちに情報を送ってんすか?」
さっきからリアンは迷うこと無くどこかへ向かって走っている。その足取りには一切の迷いが見られない。
「そゆこと。あのぬいぐるみからジャスミンに映像が送られてて、それを見て道案内してくれてんの。役に立つでしょ? うちの子達」
「……そっすね」
普段子どもたちの中ではあまり目立たないジャスミンとローズだが、いざという時は誰よりも度胸が据わっている。そういう所はライラにそっくりだ。
『父さま、もうすぐ洞穴が見えてくると思うわ。三人はそこへ入っていった』
「ん、了解。その先も入れそう?」
『ええ。既にローズが二足歩行モードに切り替えて追ってるわ』
「流石。それじゃあ引き続きよろしく。ぬいぐるみにグリーンを乗せてるから目印を書いておいて」
『分かったわ』
「ね? うちの子達凄いでしょ?」
ジャスミンとの通信を切るなりドヤ顔で振り向いたリアンを見てアリスは目を輝かせて頷き、オリバーは渋々頷く。
「で、どこ行けばいいんすか?」
「もう少し行った所に洞穴があるって。そこから中へ入ってったみたい」
「洞穴って事は、多分地下に繋がる通路なんすよね?」
「だと思うよ。アリス、最悪の事態に備えといてよね」
「うん。あ! あれかな!?」
リアンの指示通り目の前に洞穴が見えてきた。直ぐ側には小さな湖があり、その立地を見て納得する。やはりここはディノの地下への入り口だったのだろう。
「狭いなぁ。はい、あんた一番ね。で、次僕。最後にモブね」
「は~い!」
「っす」
何だかいっつもこの順番だなと思いながらもオリバーはアリスとリアンが洞穴に入っていくのを確認すると、自分も身をかがめて二人の後を追った。
応援ありがとうございます!
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