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第519話 オピリアの謎
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ノアとキリはアメリアをその場に残して足早にディノの通路を出た。
「はぁ~! やっぱり外の空気が一番だね」
狭い所はあまり得意ではない。そんな事を考えながら外の空気を思い切り吸い込んだノアとは裏腹に、キリが珍しくがっかりした様子で大きなため息を落とした。
「どうしたの? キリ」
「どうしたの、ではありません。目の前にアメリアがたった一人で居たというのにみすみす見逃すなんて」
ありえない。キリはそんな言葉を飲み込んでノアを見たが、ノアは悪びれる事もなくニコッと笑うだけだ。
「はぁ、あなたの考えを聞かせてもらえますか? ノア様」
キリはもう一度大きなため息を落としてノアに尋ねた。これがアリスなら確実に殴っていただろうが、ノアが何の考えも無しにアメリアをあのまま放置するとは思えない。きっと何らかの思惑があるに違いないのだ。
この兄妹には毎日振り回され続けているせいで、もう何が起こっても驚かない。
そんなキリを横目にノアはポケットからある物を取り出した。
「これな~んだ?」
「っ! い、いつの間に!?」
キリの目の前に差し出されたのは、間違いなくあの金色のピンだ。一体いつの間にノアはアメリアから金のピンを奪ったというのか!
驚くキリにノアはふふん、と鼻を鳴らして教えてくれた。
「さっき。アメリアと話してる最中に」
「ど、どうやって?」
「レッド君に頼んで」
「……頼んで? あの場にレッドが居たのですか?」
そもそも何かノアがレッドに頼んでいたか? 不思議に思って首を傾げたキリにノアが笑った。
「居たよ。レッド君は今は透明になってて誰にも見えないけど、さっき僕はレッド君にサインを送ったんだ。僕がこうしたら場所。こうしたら『取ってきて』ってね」
そう言ってノアは手を胸に当て、それから口元に持っていく。それを見てキリが納得したように深く頷く。
「あの唐突に関係の無い話をしだした時ですか。でもよく見つけましたね」
「見つける事はさほど難しく無かったんだ。アメリアは昔から大切な物はいつも心臓に近い所に置いていた。僕はそれを知ってたから彼女がフードを解くのを待ってたんだよ」
「……なるほど。だからもう用は無いと言ったのですか」
「そういう事。金のピンが無くなったアメリアはあの通路から出られない。何せ彼女にはもうディノの加護も無いからね」
「あなたという人は」
違う意味で呆れた顔をしたキリにノアはニコッと笑っただけだった。
「だけどアメリアがそれに気づいて自暴自棄になってあの水晶を使うのだけは阻止しなきゃね」
「あの水晶についても不思議で仕方ないんですが、ノア様はあれの正体を知っているんですよね?」
「う~ん、厳密に言うとあれでどこまでの事が出来るのかは僕にも分からない。ただ一つだけ言えるのは、あれがもし量子で出来た古代技術の叡智なんだとしたら、何も無いと思われている場所から何でも作り上げてしまう事が出来るって事ぐらいかな」
「それは……思い描けば、という事ですか?」
「いや、確かあれで触れればいいだけだったと思う。とはいえどこまでの事があれに出来るのかは定かじゃないけどね。例えば生物や星みたいな複雑な構成の物は無理なんじゃないかな」
あれが使えるのは比較的簡単な分子構造をしている物のはずだけれど、そんな物を作ったり消したりしたところで何かが出来るとも思えない。アメリアがあれを何に使う気なのかが分からない上に、そもそもノアの知る構造よりもはるか高性能であれば、どこまで出来るか分からないので楽観視は出来ない。
「なるほど……お嬢様なんかに持たせたらとても危険な物だということだけは分かりました」
「うん。アリスにうっかり持たせたら、毎日毎食肉になりかねないから危険だね。でも驚いたよ。まさかアメリアがあんな物を持ってるなんてね。これで納得がいった」
「何のです?」
「大量に作られたオピリアの謎についてだよ」
「?」
「オピリアは確かに地上の至る所で栽培されてた。でもさ、変じゃない? オピリア一本から取れる薬はほんのちょっとだよ。それをアメリアは湯水のように使ってたんだ。それも師匠たちがオピリア畑を燃やしても燃やしても際限なくね。資源は限りがある。ましてやオピリアは植物で、種を蒔いたからと言ってすぐに採取出来る訳でもないのに、どうやって生成していたのか気になってたんだよ」
「……言われてみればそうですね」
ノアの言う通りだ。後半なんかはオピリア畑などほとんど無かったはずだ。それなのにどうやって、どこからアメリアはオピリアを調達してきていたのだろうか。
「はぁ~! やっぱり外の空気が一番だね」
狭い所はあまり得意ではない。そんな事を考えながら外の空気を思い切り吸い込んだノアとは裏腹に、キリが珍しくがっかりした様子で大きなため息を落とした。
「どうしたの? キリ」
「どうしたの、ではありません。目の前にアメリアがたった一人で居たというのにみすみす見逃すなんて」
ありえない。キリはそんな言葉を飲み込んでノアを見たが、ノアは悪びれる事もなくニコッと笑うだけだ。
「はぁ、あなたの考えを聞かせてもらえますか? ノア様」
キリはもう一度大きなため息を落としてノアに尋ねた。これがアリスなら確実に殴っていただろうが、ノアが何の考えも無しにアメリアをあのまま放置するとは思えない。きっと何らかの思惑があるに違いないのだ。
この兄妹には毎日振り回され続けているせいで、もう何が起こっても驚かない。
そんなキリを横目にノアはポケットからある物を取り出した。
「これな~んだ?」
「っ! い、いつの間に!?」
キリの目の前に差し出されたのは、間違いなくあの金色のピンだ。一体いつの間にノアはアメリアから金のピンを奪ったというのか!
驚くキリにノアはふふん、と鼻を鳴らして教えてくれた。
「さっき。アメリアと話してる最中に」
「ど、どうやって?」
「レッド君に頼んで」
「……頼んで? あの場にレッドが居たのですか?」
そもそも何かノアがレッドに頼んでいたか? 不思議に思って首を傾げたキリにノアが笑った。
「居たよ。レッド君は今は透明になってて誰にも見えないけど、さっき僕はレッド君にサインを送ったんだ。僕がこうしたら場所。こうしたら『取ってきて』ってね」
そう言ってノアは手を胸に当て、それから口元に持っていく。それを見てキリが納得したように深く頷く。
「あの唐突に関係の無い話をしだした時ですか。でもよく見つけましたね」
「見つける事はさほど難しく無かったんだ。アメリアは昔から大切な物はいつも心臓に近い所に置いていた。僕はそれを知ってたから彼女がフードを解くのを待ってたんだよ」
「……なるほど。だからもう用は無いと言ったのですか」
「そういう事。金のピンが無くなったアメリアはあの通路から出られない。何せ彼女にはもうディノの加護も無いからね」
「あなたという人は」
違う意味で呆れた顔をしたキリにノアはニコッと笑っただけだった。
「だけどアメリアがそれに気づいて自暴自棄になってあの水晶を使うのだけは阻止しなきゃね」
「あの水晶についても不思議で仕方ないんですが、ノア様はあれの正体を知っているんですよね?」
「う~ん、厳密に言うとあれでどこまでの事が出来るのかは僕にも分からない。ただ一つだけ言えるのは、あれがもし量子で出来た古代技術の叡智なんだとしたら、何も無いと思われている場所から何でも作り上げてしまう事が出来るって事ぐらいかな」
「それは……思い描けば、という事ですか?」
「いや、確かあれで触れればいいだけだったと思う。とはいえどこまでの事があれに出来るのかは定かじゃないけどね。例えば生物や星みたいな複雑な構成の物は無理なんじゃないかな」
あれが使えるのは比較的簡単な分子構造をしている物のはずだけれど、そんな物を作ったり消したりしたところで何かが出来るとも思えない。アメリアがあれを何に使う気なのかが分からない上に、そもそもノアの知る構造よりもはるか高性能であれば、どこまで出来るか分からないので楽観視は出来ない。
「なるほど……お嬢様なんかに持たせたらとても危険な物だということだけは分かりました」
「うん。アリスにうっかり持たせたら、毎日毎食肉になりかねないから危険だね。でも驚いたよ。まさかアメリアがあんな物を持ってるなんてね。これで納得がいった」
「何のです?」
「大量に作られたオピリアの謎についてだよ」
「?」
「オピリアは確かに地上の至る所で栽培されてた。でもさ、変じゃない? オピリア一本から取れる薬はほんのちょっとだよ。それをアメリアは湯水のように使ってたんだ。それも師匠たちがオピリア畑を燃やしても燃やしても際限なくね。資源は限りがある。ましてやオピリアは植物で、種を蒔いたからと言ってすぐに採取出来る訳でもないのに、どうやって生成していたのか気になってたんだよ」
「……言われてみればそうですね」
ノアの言う通りだ。後半なんかはオピリア畑などほとんど無かったはずだ。それなのにどうやって、どこからアメリアはオピリアを調達してきていたのだろうか。
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