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第520話 最後のピン

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「でしょ? でもこれでその謎も解決した。何年もかけて作って貯蔵してたにしても量が異常だったんだよね。そもそもオピリアを最初に作ってたのは旧教会で、アンソニー達が旧教会を乗っ取った時に多分オピリア畑も潰してたと思うんだ。それでもアメリア達はオピリアを使ってた。それはもうどこかから湧いて出てきたとしか考えられなかったんだけど、はは、文字通り湧いて出てきてたんだね!」

 謎が解けてスッキリしたノアが笑うと、そんなノアをキリが不信げに見てくる。

「あなたはやはりこの星の人間ではないのですね。それにしても、一体あなたは何を見たら動揺するのでしょう?」

 何が起こっても動じないノアに、キリはようやくノアが異世界から来た人間なのだという事を心の底から納得した。学生の時にそれを知って以来ずっとどこか半信半疑だったけれど、今回の事でようやくそれを完全に受け入れる事が出来たのだ。

「嫌だな、キリ。僕は毎日動揺してるよ、アリスに」
「ああ、それはそうですね。お嬢様には俺も毎日動揺していますね」
「アリスだけはね、僕の予想の範疇を大幅に振り切っていくんだよ、いつも。予想が出来ないから一緒にいると楽しいんだけど、たまに本気で驚くような事をするからなぁ」

 言いながらノアは最愛の妻、アリスのドヤ顔を思い出して笑った。きっと今もどこかで予想外の事をしてリアンやオリバーに叱られているに違いない。

「……」

 そんなノアに激しく同意しながらも自分のスマホが光っている事に気づいたキリが確認すると、そこには何やら見覚えのある湖をアリスが下着姿で泳いでいる写真がリアンから送られてきた。

「ノア様、そんなお嬢様は今、地下のどこかで泳いでいるようですよ」
「は?」

 唐突なキリからのアリス情報にノアは思わず首を傾げた。そんなノアにキリはリアンから送られてきたメッセージを見せてくれる。

「ほら、これ」
「……なんで?」
「分かりません。分かりませんが、何か事情があったのでしょう。そう思うことにします」
「……うん」

 諦めたようなキリにノアは頷いて簡単な手紙を書き、アメリアから奪った金のピンを取り出して妖精手帳でレックスの元へ送った。

 それからすぐに最後のピンをレックスに送った事を全員に伝える。

 これで金のピンは全て揃った。後は子どもたちがディノを蘇らせるだけである。

 ノアは一仕事終えたとばかりに大きく伸びをして言った。

「さあキリ、それじゃあ僕たちも参戦しに行こうか。ついでに道中も見て回ろう」
「はい。そろそろ俺も我慢の限界でした」

 アリスではないが、そろそろ裏方も飽きてきた。あちこちから入る情報によると、皆それぞれの場所で人形と戦っているという。そういう情報が入れば入るほどウズウズしていたのはノアにも秘密だ。

 キリは背中から双剣を取り出してノアの隣に立つと、互いに顔を見合わせて走り出す。行き先はレヴィウスの王都だ。
 
 
 
「おい! ノアから最後のピンが見つかったと連絡が入ったぞ!」

 今しがたノアから送られてきたメッセージを見て、ルイスはその場で飛び跳ねそうになるのをグッと堪えた。

「おー、ほんとだ。こっち向かってるってさ」

 ルイスの隣からスマホを覗き込んだカインが言うと、さらにその隣からオルトが覗き込んできて頷く。

「助かるな。来るのはノアとキリか?」
「だな。これでちょっとは楽になるといいけど」

 レヴィウスは広い。それなのに兵士が一番少なかった。フォルスやルーデリアからもいくらか派遣されてきてはいるが、何せセイ一人で管理しているので、末端までの情報が追いつかないでいた。

「圧倒的にレヴィウスは広すぎるからな。アーロもルーデリアが落ち着いたらこちらに向かうと言っていたぞ」
「そうか、頼もしいな。ところであの米はどうなった?」
「妖精たちが全部配ってくれた。感想は……まだだな」

 ルーデリアの優秀なシェフ二人から送られてきた米の管理はカインがしていた。 味見をしてすぐさま妖精たちを招集して米を各地に送りはしたが、まだ各地の拠点伝令たちから何の連絡もない。もしかしたら気づいていない可能性もあるが、何の感想もないのはザカリーとスタンリーが可哀想なので、せめて何かしらの報告はほしいものだ。

「まぁ、皆まだ戦っているのだろう。気長に待とう。もうじき日が落ちる。昼と夜の体勢が入れ替わったら感想も来るだろうしな」
「ルイスの言う通りだな。ところでキャロライン達は何してんだよ? あいつら全然連絡寄越さないんだけど?」

 あのノアでさえこうしてこまめに連絡をしてくるというのに、珍しい事にキャロライン達からは何の連絡もない。まさか既にやられたなんて事はないだろうな? と思いルイスを見ると、ルイスはバツが悪そうに視線を泳がせた。
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