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第530話 ちょっとした意地悪
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アリスと話す前は確かに自暴自棄になっていてリーゼロッテはおろか、誰のことも考えなどしなかった。アリスに怒鳴られ、バカと言われてようやく自分の立ち位置を思い出したのだ。
アリスに賭けると決めた時、オズワルドは自分の未来が2つに枝分かれした事を悟った。一つはアリスが成功した場合だ。何らかの方法を見つけて、またリーゼロッテと旅を再開する事が出来る未来だ。
もう一つはオズワルドは消滅するが、星は生き残る未来だ。その場合、リーゼロッテにはもう二度と会う事は叶わないが、少なくともリーゼロッテは生き残る。
アリスが提示してきた未来はオズワルドにとってはどちらになっても最良だと言えた。
「……ごめんなさい。少し意地悪を言ったわ」
「別にいい。俺は妖精王の名を剥奪された、言わば罪人だ。けれどオズワルドという名を貰った時、俺は自ら妖精王という名への執着を捨てた。俺は空っぽで善悪の区別もなく、沢山のものが足りなかった。だが、今なら分かる。どうして追放されたかのかが。妖精王があたりまえに持っている物を俺は持っていなかった。リゼと旅をしてようやくそれらを拾い集める事が出来たようだ。負の感情を抱いた魂たちはどんどん浄化されていっている。俺もヴァニタスも少しずつ以前の事を思い出してきた。やるなら、今だ。ただ……その前にもう一度だけ、リゼと会いたかった。俺がここへ来たのはそれだけの理由だ」
「……あんた……もし、もう一度妖精王の名を取り戻せるとしたら、あんたは欲しいと思う?」
「さっき言っただろ? その名への執着は捨てた」
オズワルドはそこまで言って、ふと何かを思い出したかのように口元に手を当てて考え込んだ。
「いや、待て。いつかは……そうだな、取り戻したいな」
「いつか、でいいの?」
「ああ、いつかでいい。あいつと約束をしたんだ。この星の育成が終わったら、いつか一緒に星を創ろうと。そこへはディノとあいつの嫁とリゼを連れて行こう、と」
オズワルドが真顔でそんな事を言うと、観測者は一瞬キョトンとして吹き出した。
「それはいいわね。その夢が叶うよう私も願っているわ。アミナス、リゼちゃんを連れてきてあげてちょうだい。オズに会わせてあげましょう」
観測者が振り返りながら言うと、アミナスは滝のように涙と鼻水を流している。
「うぅ……ぶん(うん)」
「……お嬢様、俺が行くのであなたはせめて鼻水を拭いてください」
「あじがど(ありがと)。うっ……うぅ……おぶぅ(オズぅ)! うだがっでごべん~~(疑ってごめん~)!」
アミナスはカイから借りたハンカチで鼻水を拭ってオズワルドに飛びついた。そんなアミナスをオズワルドは平然と受け止めてアミナスを見下ろして言う。
「疑われるのは別にいいけど……汚いな」
「びどい(ひどい)!」
「お前はどこまでもアリスにそっくりだな。あいつは俺に怒鳴りながら泣きそうな顔をしていた。流石に泣きはしなかったが、同じような顔をしていたよ」
だから信じようと思ったのだ。泣きそうなほど自分の事を考えていてくれたのかと思うと、忘れていた何かを思い出したような気がした。
人形が増える度にオズワルドに負の感情が流れ込んできて、いっそリゼだけを連れてここから逃げ出してしまおうかと何度も考えたが、世界中で人形たちが正しく浄化されていくにつれて不思議とそんな風には思わなくなった。あれほど荒れ狂っていたヴァニタスも今はオズワルドの中で静かにその時を待っている。
「父さまもだよ。父さまもオズの事心配してる」
「ノアが? ああ……でも、そうかもな。あいつのやることはいつも合理的だ。一見悪魔のような所業でも、あいつの根源もまた愛だ。お前の両親はどちらも変わっているが、悪い人間ではないな」
「うん!」
両親を思いがけず褒められたアミナスが勢いよく頷いたその隣で、観測者は眉根を寄せている。
「あれが愛~? やっぱり生物の心の機微を受け取るのは妖精王の方が上手いのかしらねぇ。私にはノアちゃんはどこまでも悪魔だったけどねぇ」
いきなり家に押しかけてきたと思ったらパソコンを貸してくれと言って上がり込み、挙句の果てには徹夜までさせられたのだ。徹夜など美肌の大敵だというのに!
ブチブチと観測者が心の中で文句を言っていると、ようやくレオとレックスがリーゼロッテを抱えてやってきた。
「お待たせしました。オズ、お久しぶりです」
「久しぶり。カイに聞いた。リゼに会いに来た?」
「ああ、久しぶりだな。リゼにもだが、ディノにも会いに来たんだ。ようやく俺も本物のディノを見ることが出来たよ。こいつが箱の中の俺の正気をずっと保ってくれていたんだ。感謝してる」
そう言ってオズワルドはディノが眠るベッドに目を向けると、それを見てレックスも頷いた。
「うん、ディノも喜んでる。ん? いつか星を創るの?」
ディノから送られてきたイメージをオズワルドに伝えると、オズは小さく微笑んだ。
「ああ。無事に俺が生き残れば、な」
言いながらオズワルドはレオが横抱きにしているリーゼロッテに近寄り、その白い頬をそっと撫でた。
アリスに賭けると決めた時、オズワルドは自分の未来が2つに枝分かれした事を悟った。一つはアリスが成功した場合だ。何らかの方法を見つけて、またリーゼロッテと旅を再開する事が出来る未来だ。
もう一つはオズワルドは消滅するが、星は生き残る未来だ。その場合、リーゼロッテにはもう二度と会う事は叶わないが、少なくともリーゼロッテは生き残る。
アリスが提示してきた未来はオズワルドにとってはどちらになっても最良だと言えた。
「……ごめんなさい。少し意地悪を言ったわ」
「別にいい。俺は妖精王の名を剥奪された、言わば罪人だ。けれどオズワルドという名を貰った時、俺は自ら妖精王という名への執着を捨てた。俺は空っぽで善悪の区別もなく、沢山のものが足りなかった。だが、今なら分かる。どうして追放されたかのかが。妖精王があたりまえに持っている物を俺は持っていなかった。リゼと旅をしてようやくそれらを拾い集める事が出来たようだ。負の感情を抱いた魂たちはどんどん浄化されていっている。俺もヴァニタスも少しずつ以前の事を思い出してきた。やるなら、今だ。ただ……その前にもう一度だけ、リゼと会いたかった。俺がここへ来たのはそれだけの理由だ」
「……あんた……もし、もう一度妖精王の名を取り戻せるとしたら、あんたは欲しいと思う?」
「さっき言っただろ? その名への執着は捨てた」
オズワルドはそこまで言って、ふと何かを思い出したかのように口元に手を当てて考え込んだ。
「いや、待て。いつかは……そうだな、取り戻したいな」
「いつか、でいいの?」
「ああ、いつかでいい。あいつと約束をしたんだ。この星の育成が終わったら、いつか一緒に星を創ろうと。そこへはディノとあいつの嫁とリゼを連れて行こう、と」
オズワルドが真顔でそんな事を言うと、観測者は一瞬キョトンとして吹き出した。
「それはいいわね。その夢が叶うよう私も願っているわ。アミナス、リゼちゃんを連れてきてあげてちょうだい。オズに会わせてあげましょう」
観測者が振り返りながら言うと、アミナスは滝のように涙と鼻水を流している。
「うぅ……ぶん(うん)」
「……お嬢様、俺が行くのであなたはせめて鼻水を拭いてください」
「あじがど(ありがと)。うっ……うぅ……おぶぅ(オズぅ)! うだがっでごべん~~(疑ってごめん~)!」
アミナスはカイから借りたハンカチで鼻水を拭ってオズワルドに飛びついた。そんなアミナスをオズワルドは平然と受け止めてアミナスを見下ろして言う。
「疑われるのは別にいいけど……汚いな」
「びどい(ひどい)!」
「お前はどこまでもアリスにそっくりだな。あいつは俺に怒鳴りながら泣きそうな顔をしていた。流石に泣きはしなかったが、同じような顔をしていたよ」
だから信じようと思ったのだ。泣きそうなほど自分の事を考えていてくれたのかと思うと、忘れていた何かを思い出したような気がした。
人形が増える度にオズワルドに負の感情が流れ込んできて、いっそリゼだけを連れてここから逃げ出してしまおうかと何度も考えたが、世界中で人形たちが正しく浄化されていくにつれて不思議とそんな風には思わなくなった。あれほど荒れ狂っていたヴァニタスも今はオズワルドの中で静かにその時を待っている。
「父さまもだよ。父さまもオズの事心配してる」
「ノアが? ああ……でも、そうかもな。あいつのやることはいつも合理的だ。一見悪魔のような所業でも、あいつの根源もまた愛だ。お前の両親はどちらも変わっているが、悪い人間ではないな」
「うん!」
両親を思いがけず褒められたアミナスが勢いよく頷いたその隣で、観測者は眉根を寄せている。
「あれが愛~? やっぱり生物の心の機微を受け取るのは妖精王の方が上手いのかしらねぇ。私にはノアちゃんはどこまでも悪魔だったけどねぇ」
いきなり家に押しかけてきたと思ったらパソコンを貸してくれと言って上がり込み、挙句の果てには徹夜までさせられたのだ。徹夜など美肌の大敵だというのに!
ブチブチと観測者が心の中で文句を言っていると、ようやくレオとレックスがリーゼロッテを抱えてやってきた。
「お待たせしました。オズ、お久しぶりです」
「久しぶり。カイに聞いた。リゼに会いに来た?」
「ああ、久しぶりだな。リゼにもだが、ディノにも会いに来たんだ。ようやく俺も本物のディノを見ることが出来たよ。こいつが箱の中の俺の正気をずっと保ってくれていたんだ。感謝してる」
そう言ってオズワルドはディノが眠るベッドに目を向けると、それを見てレックスも頷いた。
「うん、ディノも喜んでる。ん? いつか星を創るの?」
ディノから送られてきたイメージをオズワルドに伝えると、オズは小さく微笑んだ。
「ああ。無事に俺が生き残れば、な」
言いながらオズワルドはレオが横抱きにしているリーゼロッテに近寄り、その白い頬をそっと撫でた。
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