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第529話 予期せぬ訪問者
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先程ノエル達と二手に分かれたアミナス達は、一足先にディノの寝室に戻ってきていた。
ディノの部屋の扉は薄いカーテン一枚で仕切られているが、その薄いカーテンが強力な結界となっていて、妖精王の許可が無ければ中に入ることが出来ない。
レオがカーテンに触れようとしたその時。
「待って! ……誰か居る」
カーテンの奥から誰かの気配を感じたアミナスはレオを止めて感覚を研ぎ澄ました。妖精王でもディノでも無い力を持つ者が中に居る。
アミナスの言葉に全員がゴクリと息を呑んで中の様子を伺ったが、生憎アミナスのように何かを感じる事は出来なかった。
「……私が行くわ。あんた達はここに居なさい」
子どもたちを死ぬ気で守れと妖精王に口を酸っぱくして言われていた観測者が一歩前に出ると、それをアミナスが止めた。
「私も行くよ。カイもついてきて」
「ええ、もちろんです」
「では俺とレックスはリゼとここに居ます」
この面子でまともに戦えるのは恐らくアミナスとカイだろう。そう判断したレオの言葉にレックスも頷く。
「アミナス、気をつけて」
「うん、分かってる!」
心配そうなレックスにアミナスはニカッと笑って返事をすると、静かにカーテンに触れる。
部屋に入ると、ディノのベッドを覆っていた天蓋付きのカーテンが揺れていた。そのカーテンの内側にはディノが今も眠っているが、どうやら侵入者はそこに居るようだ。ここは妖精王の結界内だと言うのに、一体自分たち以外の誰が入ることが出来たというのか。普通に考えれば仲間内の誰かだとは思うが、今は皆地上の事で手一杯でここへやってくる事などまずないだろう。
アミナスは珍しく緊張した面持ちでカーテンを一気に引いた。そして短く息を呑む。
「……オズ……?」
その後姿に確かに見覚えがあった。以前愛用していた黒いローブは着ていないが、そのどこか寂しげな佇まいと後ろ姿は確かにオズワルドだ。彼が何故ここへ?
アミナスが聞くよりも早く、オズワルドが振り向いてアミナスに近寄ってきた。
「リゼは?」
「リ、リゼは渡さないよっ!」
アリスにもノアにもノエルにもいつも言われる事がある。ぜったいに無理はするな。自分よりも強いと思った相手には手を出すな。これはバセット家のお願いだ。
けれど今はそんなお願いなど守っている場合ではないと思い、一歩下がってアリスとお揃いの剣を構えようとした所を観測者とカイに止められた。
「お嬢様、相手は選んでください!」
「そうよ! このおバカ! ……で、あんたはどうやってここへ入ったの?」
闇雲にオズワルドと戦おうとするアミナスを羽交い締めにして観測者が言うと、オズワルドは慌てた様子一つ見せずに小さく息を吸った。
「妖精王と魔力の交換をした。いや、俺の力を預けた。その時に妖精王と俺には繋がりができた」
「……なるほどね。それでここへ入る事が出来たのね。それで? リゼちゃんを取り返しに来た?」
観測者はあくまでも星の成り行きを観測する立場なので、戦闘力は妖精王には程遠い。ただ、いざという時に妖精王の存在を無効化する術を観測者は持っている。その事を知っているのかいないのか、オズワルドは少しだけ肩を竦めて見せた。そんな仕草はそこら辺の人と何も変わらない。
「違う。顔を見に来ただけだ。アミナス、剣を下ろせ」
「……ほんとに? 下ろした途端、殴りかかってきたりしない?」
「普段どんな生活をしてるんだ?」
疑わしそうに剣を渋々下ろしたアミナスを見てオズワルドが真顔で問うと、カイが後から答えてくれた。
「あまりにもお嬢様がしつこいのでノエル様がたまに使うのです。本人は油断大敵という言葉を体に教え込んでいる、などと言っていましたが、本当はお嬢様の相手が面倒なのです」
「そんな事ないもんっ! 兄さまは喜んで私と遊んでくれてるんだもん!」
「残念ながらそう思っているのはお嬢様だけです。少なくとも俺は面倒だなと思っています」
「きぃぃぃ!」
カイの言葉にアミナスはその場で地団駄を踏んで奥歯を噛み締めた。悔しいけれど口では決して勝てないのを、痛いほど理解しているのだ。
「この子たちの事は置いておいて。顔を見に来たってどういう事? あんたリゼちゃんを取り返すって躍起になってたじゃないの」
観測者の言葉にオズワルドはピクリと肩を動かした。しばらくどう答えようか考えあぐねている様子だったが、やがて決心したかのように顔を上げる。
「……アリスと話した。俺は……アリスを信じたい」
必ずオズワルドが助かる手段を見つけてくれるとアリスは言ってくれた。成功しても失敗しても、オズワルドはその言葉を信じたかった。
「信じられるの? アリスは確かに色々と規定外だけれど、あくまでもあの子はただの人間よ? また裏切られてしまうかもしれないわよ?」
「分かっている。一度目の裏切りは俺が望んだ事じゃない。けれど、今回は結果がどうあれ、アリスに賭けようと思った。俺がたとえ消えても、リゼの魂が無事なら……それでいい」
「なによ、自暴自棄になってるの?」
「アリスにも同じことを言われたが、これは自暴自棄じゃない。今俺がリゼを取り戻したところで、リゼに危険が及ぶのは目に見えている。それならばリゼはお前たちに任せておいた方がいい。星の姫だか何だか知らないが、俺にとってリゼはリゼだ。リゼがいつか目を覚まし、どこかで笑っていれば、俺はもうそれでいい」
ディノの部屋の扉は薄いカーテン一枚で仕切られているが、その薄いカーテンが強力な結界となっていて、妖精王の許可が無ければ中に入ることが出来ない。
レオがカーテンに触れようとしたその時。
「待って! ……誰か居る」
カーテンの奥から誰かの気配を感じたアミナスはレオを止めて感覚を研ぎ澄ました。妖精王でもディノでも無い力を持つ者が中に居る。
アミナスの言葉に全員がゴクリと息を呑んで中の様子を伺ったが、生憎アミナスのように何かを感じる事は出来なかった。
「……私が行くわ。あんた達はここに居なさい」
子どもたちを死ぬ気で守れと妖精王に口を酸っぱくして言われていた観測者が一歩前に出ると、それをアミナスが止めた。
「私も行くよ。カイもついてきて」
「ええ、もちろんです」
「では俺とレックスはリゼとここに居ます」
この面子でまともに戦えるのは恐らくアミナスとカイだろう。そう判断したレオの言葉にレックスも頷く。
「アミナス、気をつけて」
「うん、分かってる!」
心配そうなレックスにアミナスはニカッと笑って返事をすると、静かにカーテンに触れる。
部屋に入ると、ディノのベッドを覆っていた天蓋付きのカーテンが揺れていた。そのカーテンの内側にはディノが今も眠っているが、どうやら侵入者はそこに居るようだ。ここは妖精王の結界内だと言うのに、一体自分たち以外の誰が入ることが出来たというのか。普通に考えれば仲間内の誰かだとは思うが、今は皆地上の事で手一杯でここへやってくる事などまずないだろう。
アミナスは珍しく緊張した面持ちでカーテンを一気に引いた。そして短く息を呑む。
「……オズ……?」
その後姿に確かに見覚えがあった。以前愛用していた黒いローブは着ていないが、そのどこか寂しげな佇まいと後ろ姿は確かにオズワルドだ。彼が何故ここへ?
アミナスが聞くよりも早く、オズワルドが振り向いてアミナスに近寄ってきた。
「リゼは?」
「リ、リゼは渡さないよっ!」
アリスにもノアにもノエルにもいつも言われる事がある。ぜったいに無理はするな。自分よりも強いと思った相手には手を出すな。これはバセット家のお願いだ。
けれど今はそんなお願いなど守っている場合ではないと思い、一歩下がってアリスとお揃いの剣を構えようとした所を観測者とカイに止められた。
「お嬢様、相手は選んでください!」
「そうよ! このおバカ! ……で、あんたはどうやってここへ入ったの?」
闇雲にオズワルドと戦おうとするアミナスを羽交い締めにして観測者が言うと、オズワルドは慌てた様子一つ見せずに小さく息を吸った。
「妖精王と魔力の交換をした。いや、俺の力を預けた。その時に妖精王と俺には繋がりができた」
「……なるほどね。それでここへ入る事が出来たのね。それで? リゼちゃんを取り返しに来た?」
観測者はあくまでも星の成り行きを観測する立場なので、戦闘力は妖精王には程遠い。ただ、いざという時に妖精王の存在を無効化する術を観測者は持っている。その事を知っているのかいないのか、オズワルドは少しだけ肩を竦めて見せた。そんな仕草はそこら辺の人と何も変わらない。
「違う。顔を見に来ただけだ。アミナス、剣を下ろせ」
「……ほんとに? 下ろした途端、殴りかかってきたりしない?」
「普段どんな生活をしてるんだ?」
疑わしそうに剣を渋々下ろしたアミナスを見てオズワルドが真顔で問うと、カイが後から答えてくれた。
「あまりにもお嬢様がしつこいのでノエル様がたまに使うのです。本人は油断大敵という言葉を体に教え込んでいる、などと言っていましたが、本当はお嬢様の相手が面倒なのです」
「そんな事ないもんっ! 兄さまは喜んで私と遊んでくれてるんだもん!」
「残念ながらそう思っているのはお嬢様だけです。少なくとも俺は面倒だなと思っています」
「きぃぃぃ!」
カイの言葉にアミナスはその場で地団駄を踏んで奥歯を噛み締めた。悔しいけれど口では決して勝てないのを、痛いほど理解しているのだ。
「この子たちの事は置いておいて。顔を見に来たってどういう事? あんたリゼちゃんを取り返すって躍起になってたじゃないの」
観測者の言葉にオズワルドはピクリと肩を動かした。しばらくどう答えようか考えあぐねている様子だったが、やがて決心したかのように顔を上げる。
「……アリスと話した。俺は……アリスを信じたい」
必ずオズワルドが助かる手段を見つけてくれるとアリスは言ってくれた。成功しても失敗しても、オズワルドはその言葉を信じたかった。
「信じられるの? アリスは確かに色々と規定外だけれど、あくまでもあの子はただの人間よ? また裏切られてしまうかもしれないわよ?」
「分かっている。一度目の裏切りは俺が望んだ事じゃない。けれど、今回は結果がどうあれ、アリスに賭けようと思った。俺がたとえ消えても、リゼの魂が無事なら……それでいい」
「なによ、自暴自棄になってるの?」
「アリスにも同じことを言われたが、これは自暴自棄じゃない。今俺がリゼを取り戻したところで、リゼに危険が及ぶのは目に見えている。それならばリゼはお前たちに任せておいた方がいい。星の姫だか何だか知らないが、俺にとってリゼはリゼだ。リゼがいつか目を覚まし、どこかで笑っていれば、俺はもうそれでいい」
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