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第534話 異世界のワルキューレ
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「やはり、ここもか」
ルーデリアの人形たちはあらかた片付け終わったので、あとはアランに任せてアーロは一足先にレヴィウスにやってきていた。
レヴィウスはやはり大きな国だけあって、ルーデリアとは比にならないほどの人形で溢れかえっている。
けれどルーデリアと同じような違和感はここにもあった。ここに来てすぐに各地の兵士たちに聞いて回った所、やはりルーデリアと同じように敵はある時から急に王都に集まりだしたのだと言う。
「アランはオズの理性などと言っていたが、果たしてそうだろうか……それにしてもこれは一体何事だ?」
言いながらアーロは先程から頭や肩に降り積もる小さな花を手に取り首を傾げた。
「それはね、聖女様御一行がまいた物だよ」
「ノア?」
背後から聞こえた声にアーロが振り返ると、そこには砂埃で汚れきったノアとキリが居た。
「遅いよ。もうあらかた終わってるよ」
「そのようだな。しかし戦場に花とは呑気なものだな。これは聖女がやったのか?」
「そ。見て、兵士たちのあの恍惚とした顔。あの人形たちは皆、金色の光を見ると抵抗しなくなるんだ」
「むしろ自分から吸い寄せられるようにやって来るまでありますね。まるで肉を前にしたお嬢様のようです」
「右に同じ。ルーデリアでもそうだったんじゃない?」
ノアの言葉にアーロは頷いた。
「その通りだ。アランがそれに気づいたらしい。あと不思議な事が一つあった」
「なに?」
「グランとセレアルに現れた人形たちが、突然王都に集まりだしたんだ。ここでもそのようだな」
言いながらアーロが今もなお城壁をよじ登って城下町に入ってこようとする人形たちを見て言うと、ノアとキリもそちらに視線を移す。
「言われてみればそうだね。農地のどこからも危険だって連絡が無い」
「だろう? ルーデリアも同じだ。アランはそれはオズの最後の理性だと言っていたが」
ふむ、と腕を組んだノアとキリはまるで双子か何かのように全く同じ仕草をしている。やはり血の繋がりなど無くても、長年共にいると似通ってくるのだろうか。
「逆なんじゃないかな。人形が正しくエネルギーに戻りだした事で、オズとヴァニタスの負の感情が薄くなった。だからオズは人形たちを農地から遠ざけた」
「何故だ?」
「これは別に国争いをしている戦争ではないからだよ。オズは元々こっち側の人だった。それが負の感情を食べ過ぎたヴァニタスと融合した事で感情や理性が負の方に動かされたけれど、その数が減ってヴァニタスが正常に戻れば必然的にオズも元の感情を取り戻す。だからオズは生物が戻ってきた後の事を考えて農地を襲わせないようにさせた。いかにも愛を持っていなければいけない妖精王がやりそうな事だよ」
「ふむ、一理あるな。うっかり忘れそうになっていたが、俺たちが戦っているのは元妖精王だったな」
「うん。だからこういう演出は悪くないと思ってね」
そう言ってノアはアーロの肩に降り積もっている花を落としてやった。
「それで、その聖女様はもうここには居ないようだが?」
「ああ、今頃ルーデリアに行ってるんじゃないかな。その調子でルーデリアとメイリングにも回って来てって言ったから」
「大丈夫なのか? 聖女一行とは言えキャロラインとティナとライラなんだろう?」
「大丈夫。何せキャロラインが一足飛びで空飛ぶ馬を克服して氷の女王みたいになってたし、ライラちゃんは雷神に進化してるし、ティナさんは二人を守護する為にありとあらゆる魔法使ってたから、攻防完璧だったよ」
キャロラインの氷にライラの雷が当たりあちこちで爆発が起こり、兵士たちはおろか、セイですらも避難していた。あれはあれでとんでもない戦力だった。
「……そうか。そして暴れるだけ暴れて最後に花を降らせて去っていくのか……それは聖女一行というよりは厄災一行だな」
「ははは! 僕はワルキューレみたいだなって思ったよ」
「わるきゅーれ?」
「ああ、ごめん。姉妹星の話だよ。戦争で死んだ人の魂を天井に導く女神なんだけど、何だかそっくりだなって思ってさ」
金色の氷と金色の雷が混ざり合うさまは見ていてとても幻想的だった。そして唖然としている間に大量の人形をエネルギーに戻して花を撒いていったのだ。
ルーデリアの人形たちはあらかた片付け終わったので、あとはアランに任せてアーロは一足先にレヴィウスにやってきていた。
レヴィウスはやはり大きな国だけあって、ルーデリアとは比にならないほどの人形で溢れかえっている。
けれどルーデリアと同じような違和感はここにもあった。ここに来てすぐに各地の兵士たちに聞いて回った所、やはりルーデリアと同じように敵はある時から急に王都に集まりだしたのだと言う。
「アランはオズの理性などと言っていたが、果たしてそうだろうか……それにしてもこれは一体何事だ?」
言いながらアーロは先程から頭や肩に降り積もる小さな花を手に取り首を傾げた。
「それはね、聖女様御一行がまいた物だよ」
「ノア?」
背後から聞こえた声にアーロが振り返ると、そこには砂埃で汚れきったノアとキリが居た。
「遅いよ。もうあらかた終わってるよ」
「そのようだな。しかし戦場に花とは呑気なものだな。これは聖女がやったのか?」
「そ。見て、兵士たちのあの恍惚とした顔。あの人形たちは皆、金色の光を見ると抵抗しなくなるんだ」
「むしろ自分から吸い寄せられるようにやって来るまでありますね。まるで肉を前にしたお嬢様のようです」
「右に同じ。ルーデリアでもそうだったんじゃない?」
ノアの言葉にアーロは頷いた。
「その通りだ。アランがそれに気づいたらしい。あと不思議な事が一つあった」
「なに?」
「グランとセレアルに現れた人形たちが、突然王都に集まりだしたんだ。ここでもそのようだな」
言いながらアーロが今もなお城壁をよじ登って城下町に入ってこようとする人形たちを見て言うと、ノアとキリもそちらに視線を移す。
「言われてみればそうだね。農地のどこからも危険だって連絡が無い」
「だろう? ルーデリアも同じだ。アランはそれはオズの最後の理性だと言っていたが」
ふむ、と腕を組んだノアとキリはまるで双子か何かのように全く同じ仕草をしている。やはり血の繋がりなど無くても、長年共にいると似通ってくるのだろうか。
「逆なんじゃないかな。人形が正しくエネルギーに戻りだした事で、オズとヴァニタスの負の感情が薄くなった。だからオズは人形たちを農地から遠ざけた」
「何故だ?」
「これは別に国争いをしている戦争ではないからだよ。オズは元々こっち側の人だった。それが負の感情を食べ過ぎたヴァニタスと融合した事で感情や理性が負の方に動かされたけれど、その数が減ってヴァニタスが正常に戻れば必然的にオズも元の感情を取り戻す。だからオズは生物が戻ってきた後の事を考えて農地を襲わせないようにさせた。いかにも愛を持っていなければいけない妖精王がやりそうな事だよ」
「ふむ、一理あるな。うっかり忘れそうになっていたが、俺たちが戦っているのは元妖精王だったな」
「うん。だからこういう演出は悪くないと思ってね」
そう言ってノアはアーロの肩に降り積もっている花を落としてやった。
「それで、その聖女様はもうここには居ないようだが?」
「ああ、今頃ルーデリアに行ってるんじゃないかな。その調子でルーデリアとメイリングにも回って来てって言ったから」
「大丈夫なのか? 聖女一行とは言えキャロラインとティナとライラなんだろう?」
「大丈夫。何せキャロラインが一足飛びで空飛ぶ馬を克服して氷の女王みたいになってたし、ライラちゃんは雷神に進化してるし、ティナさんは二人を守護する為にありとあらゆる魔法使ってたから、攻防完璧だったよ」
キャロラインの氷にライラの雷が当たりあちこちで爆発が起こり、兵士たちはおろか、セイですらも避難していた。あれはあれでとんでもない戦力だった。
「……そうか。そして暴れるだけ暴れて最後に花を降らせて去っていくのか……それは聖女一行というよりは厄災一行だな」
「ははは! 僕はワルキューレみたいだなって思ったよ」
「わるきゅーれ?」
「ああ、ごめん。姉妹星の話だよ。戦争で死んだ人の魂を天井に導く女神なんだけど、何だかそっくりだなって思ってさ」
金色の氷と金色の雷が混ざり合うさまは見ていてとても幻想的だった。そして唖然としている間に大量の人形をエネルギーに戻して花を撒いていったのだ。
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