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第542話 アレの親戚は勘弁してほしい
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「なんだ、ここももうほとんど終わりか」
「アーロ!」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには相変わらず無表情のアーロがいつの間にやら立っていた。
「ルイス王達が撤退令を出したという情報はもう聞いたか?」
「聞いたよ。あんたは今までどこにいたのさ?」
「俺はレヴィウスに居た。そこでその話を直接聞いたんだ。辺境の地を守っていた騎士たちに撤退令を出しながらここまでやってきたが、ここも大丈夫そうだな。次はセレアルに向かう。ではな」
それだけ言ってアーロは辺りを見渡すと、またすぐに消えてしまった。
「あ、ちょ! ……はぁ、ほんと自由な人だなぁ」
呆れたようにリアンが言うと、口を挟む隙も無かったアンソニーが笑う。
「アーロは昔からああだよ。こちらにスパイとして潜り込んできた時も、口数が少なく誰とも群れずいつも一人で行動していた。アメリアはそんなアーロをよく分からないと言っていたが、彼からすれば言葉を発している時間も惜しかったのだろう。ユアンから彼の事情は大体聞いていたからね。彼は今も昔もエリザベスの事ばかりだ」
「究極の愛って奴……っすかね?」
「究極かどうかは分からないが、流石バレンシア家という気はするね。あそこの一族は皆とても一途だ。再婚もしないし浮気もしない。そういう所はとても好感が持てるよ」
そう言ってアンソニーは肩を揺らすと、離れ離れになってしまった八重子の事を思った。
「ははは、案外あんたにもバレンシア家の血が流れてんのかもね」
その話を聞いて冗談交じりに言ったリアンの言葉に、アンソニーは口元に手を当てて考え込む。
「なるほど、その発想は無かったな。ありえないとは言い切れないね。父方は絶対に違うけれど、もしかしたら母方のルーツはバレンシアなのかもしれない。もっと言えば君とも遠い遠い親戚かもしれない」
「はぁ? 止めてよ、怖い冗談言うの」
「冗談ではないよ。今地上に居る生物はあのリセットを乗り越えた者の子孫が数多くいる。リセット後に新しい妖精王は確かに生物を創造し直した。けれど、どの生物を手掛けたのかは当時の妖精王に聞かなれば分からない。もしも人を創っていないのであれば、今地上に居る人間は全てあのリセットを乗り越えた者たちの子孫という事になる。そうなるとリー君、君と僕も親戚かもしれないよ?」
「うげぇ……勘弁してよ。その理屈で言ったらアレとも親戚かもって事になるじゃん」
そう言ってリアンが指さしたのは、未だにウッホウッホ言いながら暴れまわっているアリスだ。
「ははは! 確かにそういう事になるね! これは失礼した」
リアンがあまりにも嫌そうな顔をするのでアンソニーは思わず吹き出した。まだ若かった頃、自分にもこんな風に気のおけない友人たちが居た事を思い出す。彼らはもうとっくにこの世を去ってしまったけれど、いつの頃からかアンソニーもカールもそういう友人を作らないようにしていた。
皆、今も生まれ変わってどこかで元気にしているだろうか? 真名書のない自分たちには彼らの生まれ変わり先を知ることは出来ないが、どこかで楽しく暮らしてくれていたらそれでいい。
「お、終わったみたいだぞ!」
アンソニー達が何やら話し込んでいる間に、人形たちはその数をどんどん減らしていった。今はもうあれほど居た人形たちも数える程度しか居ない。
「アリス! それじゃあ私たちは行くわ! ルイスから兵士たちの撤退令が出たそうよ! あなた達もそろそろ次の準備に取り掛かりなさい」
「キャロライン様ぁ! ライラぁぁ! ティナも~~! ありがとぉぉぉぉ!」
アリスはニケの上から手を振るキャロラインに思い切り手を振り返して叫んだ。
やがてキャロライン達が見えなくなると、今度は一目散に避難していた仲間たちの元に戻る。
「ただいまっ! さて、次は皆の撤退だ! いっくぞ~!」
アリスは胸元で揺れるドラ笛を思い切り吹いた。その後も短く何度か笛を吹いて、最後にもう一度思い切り笛を吹いた所でとうとうドラ笛にヒビが入り、挙句の果てには音を立てて砕け散る。
派手な音を立てて砕け散った笛を見下ろしてリアンが青ざめながら言った。
「あ、あんた……どんだけの力込めて笛吹いたの……」
「えー? ちょっとだよぅ。酷使しすぎちゃったかなぁ?」
「いや、絶対にちょっとじゃないっすよ。あんた思い切り体折り曲げて吹いてたじゃないっすか! 笛割るってどんな肺活量なんすか!」
「はははははは! 見たかい? ユアン、エリス! 笛に耐えられない程の空気を送り込むだなんて尋常ではないね!」
お腹を抱えて笑うアンソニーに冷たい視線を送ってくるのはユアンとエリスだ。
「何がそんな面白いんだよ。これが娘だって聞かされた俺の身にもなってみろよ」
「それはもう、ご愁傷さまでした、としか言えねぇな……」
「そのセリフはそっくりそのままお前に返してやるよ」
何が起きても楽しいアンソニーとは違い、実の父親と育ての親は二人共アリスのとんでもない力を前に言葉を失う。
アリスとアンソニー以外の全員が青ざめて言葉を失っていると、突然どこからともなく物凄い羽音があちこちから聞こえだした。轟音と言っても過言ではないその羽音に思わず全員で空を見上げると、そこにはこちらに残っていたドラゴンたちが集まってきている。
「アーロ!」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには相変わらず無表情のアーロがいつの間にやら立っていた。
「ルイス王達が撤退令を出したという情報はもう聞いたか?」
「聞いたよ。あんたは今までどこにいたのさ?」
「俺はレヴィウスに居た。そこでその話を直接聞いたんだ。辺境の地を守っていた騎士たちに撤退令を出しながらここまでやってきたが、ここも大丈夫そうだな。次はセレアルに向かう。ではな」
それだけ言ってアーロは辺りを見渡すと、またすぐに消えてしまった。
「あ、ちょ! ……はぁ、ほんと自由な人だなぁ」
呆れたようにリアンが言うと、口を挟む隙も無かったアンソニーが笑う。
「アーロは昔からああだよ。こちらにスパイとして潜り込んできた時も、口数が少なく誰とも群れずいつも一人で行動していた。アメリアはそんなアーロをよく分からないと言っていたが、彼からすれば言葉を発している時間も惜しかったのだろう。ユアンから彼の事情は大体聞いていたからね。彼は今も昔もエリザベスの事ばかりだ」
「究極の愛って奴……っすかね?」
「究極かどうかは分からないが、流石バレンシア家という気はするね。あそこの一族は皆とても一途だ。再婚もしないし浮気もしない。そういう所はとても好感が持てるよ」
そう言ってアンソニーは肩を揺らすと、離れ離れになってしまった八重子の事を思った。
「ははは、案外あんたにもバレンシア家の血が流れてんのかもね」
その話を聞いて冗談交じりに言ったリアンの言葉に、アンソニーは口元に手を当てて考え込む。
「なるほど、その発想は無かったな。ありえないとは言い切れないね。父方は絶対に違うけれど、もしかしたら母方のルーツはバレンシアなのかもしれない。もっと言えば君とも遠い遠い親戚かもしれない」
「はぁ? 止めてよ、怖い冗談言うの」
「冗談ではないよ。今地上に居る生物はあのリセットを乗り越えた者の子孫が数多くいる。リセット後に新しい妖精王は確かに生物を創造し直した。けれど、どの生物を手掛けたのかは当時の妖精王に聞かなれば分からない。もしも人を創っていないのであれば、今地上に居る人間は全てあのリセットを乗り越えた者たちの子孫という事になる。そうなるとリー君、君と僕も親戚かもしれないよ?」
「うげぇ……勘弁してよ。その理屈で言ったらアレとも親戚かもって事になるじゃん」
そう言ってリアンが指さしたのは、未だにウッホウッホ言いながら暴れまわっているアリスだ。
「ははは! 確かにそういう事になるね! これは失礼した」
リアンがあまりにも嫌そうな顔をするのでアンソニーは思わず吹き出した。まだ若かった頃、自分にもこんな風に気のおけない友人たちが居た事を思い出す。彼らはもうとっくにこの世を去ってしまったけれど、いつの頃からかアンソニーもカールもそういう友人を作らないようにしていた。
皆、今も生まれ変わってどこかで元気にしているだろうか? 真名書のない自分たちには彼らの生まれ変わり先を知ることは出来ないが、どこかで楽しく暮らしてくれていたらそれでいい。
「お、終わったみたいだぞ!」
アンソニー達が何やら話し込んでいる間に、人形たちはその数をどんどん減らしていった。今はもうあれほど居た人形たちも数える程度しか居ない。
「アリス! それじゃあ私たちは行くわ! ルイスから兵士たちの撤退令が出たそうよ! あなた達もそろそろ次の準備に取り掛かりなさい」
「キャロライン様ぁ! ライラぁぁ! ティナも~~! ありがとぉぉぉぉ!」
アリスはニケの上から手を振るキャロラインに思い切り手を振り返して叫んだ。
やがてキャロライン達が見えなくなると、今度は一目散に避難していた仲間たちの元に戻る。
「ただいまっ! さて、次は皆の撤退だ! いっくぞ~!」
アリスは胸元で揺れるドラ笛を思い切り吹いた。その後も短く何度か笛を吹いて、最後にもう一度思い切り笛を吹いた所でとうとうドラ笛にヒビが入り、挙句の果てには音を立てて砕け散る。
派手な音を立てて砕け散った笛を見下ろしてリアンが青ざめながら言った。
「あ、あんた……どんだけの力込めて笛吹いたの……」
「えー? ちょっとだよぅ。酷使しすぎちゃったかなぁ?」
「いや、絶対にちょっとじゃないっすよ。あんた思い切り体折り曲げて吹いてたじゃないっすか! 笛割るってどんな肺活量なんすか!」
「はははははは! 見たかい? ユアン、エリス! 笛に耐えられない程の空気を送り込むだなんて尋常ではないね!」
お腹を抱えて笑うアンソニーに冷たい視線を送ってくるのはユアンとエリスだ。
「何がそんな面白いんだよ。これが娘だって聞かされた俺の身にもなってみろよ」
「それはもう、ご愁傷さまでした、としか言えねぇな……」
「そのセリフはそっくりそのままお前に返してやるよ」
何が起きても楽しいアンソニーとは違い、実の父親と育ての親は二人共アリスのとんでもない力を前に言葉を失う。
アリスとアンソニー以外の全員が青ざめて言葉を失っていると、突然どこからともなく物凄い羽音があちこちから聞こえだした。轟音と言っても過言ではないその羽音に思わず全員で空を見上げると、そこにはこちらに残っていたドラゴンたちが集まってきている。
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