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第552話 根は良い人

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「おい、いい加減離せよ」
「離しません。この非常事態だと言うのにそんな理由で一人うろつかれては困るのですよ、パパさん」

 キリはユアンとアルファが核にやってきた理由を聞いて、コイツマジか、の視線をユアンに送るなり、ユアンの腕を掴んで離さなかった。

「言ってくれんな。お前にとってはそんな事でも、俺にとってはなかなか重大なんだよ」
「では聞きますが、あなたがここで勝手な行動を取ったばかりにアーロが何かに巻き込まれた場合はどうです? あなたの独りよがりな行いのせいでアーロばかりか母さんもゴリラも悲しむでしょう。それでもあなたは後悔しないと誓えますか?」
「ゴリっ……いや、違う。それは――」

 思わずユアンはお嬢様をゴリラ呼ばわりする従者がどこに居るのだと問い詰めようとしたが、今はそういう話はしていない事に気づいて言葉を濁す。

「あなたには無理ですよ。他者を簡単に切り捨てられるような人ではないのですから。あなたはアーロだけではなく、母さんの事もゴリラの事も孫達の事も全部まとめて心配するようなお花畑です。そう、あなたは完全にライトなお嬢様です」
「キ、キリ君、それぐらいにしてあげて……」

 顔から表情という表情が消え去っていくユアンを見てアルファがキリを止めようとしたが、キリは絶対に止めない。

「そんなあなたを唯一大人しくここに留める方法は一つです。パパさん、俺も、あなたにはここに居て欲しいです。ゴリラとあなたを見ていると、どうやらうちのゴリラ様は何故かあなたの言う事は理屈抜きによく聞くようです。それはきっと、あなたとアレが同じ土を持ったお花畑同士だからでしょう。ですから今後の事を考えて、あなたにはこの世にとどまってほしい。もっと言うと、一旦は自分の気持ちを抑えて作戦に参加してください。俺たちの為に」

 キリが言い終えてユアンの腕を離すと、ユアンはもう逃げはしなかった。悔しそうに眉根を寄せて何か言いたげだが、キリはそれ以上は聞かなかった。

「ねぇねぇキリ? パパを説得するのにちょくちょく私を貶すのはなんで? あとあんた私の事ゴリラって呼ぶのにどんどん躊躇いがなくなってない?」

 大人しくついてくるユアンに満足げなキリに、前を歩いていたアリスが振り返って言うと、キリは真顔で小首を傾げた。

「別に貶してなどいません。真実です。それにあなたの事を俺は外ではゴリラと呼んでいますよ。けれど皆に通じるのです。だからもうあなたはゴリラなのだな、と」
「ちょっと! どこのどいつよ! それで通じるの!」
「ははは、アリスってば。言わなくても分かるでしょ? 君の事を知ってるほぼ全員がそれで通じるよ。まぁ何でもいいけどね、あなたに今勝手にうろちょろされて、さっきみたいな事になると困るんですよ、お義父さん。それにアーロとは距離を置いておけばいいじゃないですか。あれだけの人数が居るんだから」
「物理的な距離の問題でもないんだが……まぁ、そうだな。お前たちの言う通りだ。俺の感情ごときで和を乱すのは俺の趣味じゃないしな」

 大きなため息を落としたユアンを見てノアはニコッと笑った。久しぶりにアーロと話した事で思わず感情的になってしまったが、それは自分らしくない。

 視線を上げたユアンを見て、ノアもキリもアルファも満足げに頷いた。
 
 
 
 広場では皆で円になってレプリカの子どもたちがあちこちから集めてきた映像を見ていた。

「困ったっすね。マジで凶暴化してるっす」

 モニターに映し出された人形たちは、さっきまで自分たちが相手をしていた人形の倍ほどの大きさになっていた。

「ええ。リー君、この映像はローズが操作をして送ってくれているの?」

 オリバーの言葉にキャロラインも顔をしかめながら頷くと、リアンのスマホの映像を見ながら言う。

「そだよ。どっか見たい所ある?」
「そうね、王都の周辺を見て回ってくれるかしら?」
「ローズ、今の聞こえた? 王都の方まで行ってみて」
『分かった~。ちょっと待ってて~』
「すみません、それが終わったらフォルスの方も行ってみていただけると嬉しいのですが」
『うん、いいよ~』

 キャロラインに引き続きシャルルのお願いにローズはコントローラーを握りなおす。そんなローズの耳に今度は聞いた事の無い硬い男の人の声が聞こえてきた。

「ローズさん、その後はレヴィウスも見てもらっても?」
『はいは~い。それじゃあその後はメイリングに行くよ~』

 どうやら声の主はレヴィウスの誰かだったようだ。やはり皆、自分の国が心配なのだろう。それを聞いてローズは先にメイリングにも行くことを伝えると、今度は優しげな声が聞こえてくる。

「おや、うちも来てくれるのかい? ありがとう、お嬢さん」
『いいよ~。ちょっと時間かかるからカメラ回しとくね~』
「うん、ありがとうローズ。そういう訳だから僕のスマホはこのまま置いておくね。誰か定期的にチェックして」
「ああ、ありがとうリー君。それから子どもたち」

 レプリカに一部の子どもたちをやると決めた時には思いつきもしなかった事だが、今思えばこうして離れた場所からサポートしてくれるのは本当にありがたい。
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