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第557話 レックス誕生秘話

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『そうだな。最初にオズと話したのはお前たちが生まれるよりもずっと前だ。その時に私たちは沢山の話をした。けれどその時の彼は慈悲など持たず、殺戮だけを好むような奴だったのだ。妖精王の名を剥奪したソラへの復讐だけを考えているような、そんな奴だった。だから私とは根本的にはソリが合わなかったし、お互いそれを理解していた。それでも私たちは話し相手が欲しかった。それだけで私とオズは繋がっていたのだ。アンソニー達の実験でオズがここへ召喚された時、私はもう既に眠りについていた。オズはまず私を探してくれたようだったが、私との約束は覚えてはいなかった』
「約束?」
『ああ。お願いと言った方がいいかもしれない。オズはここへ召喚する間際、出られない箱の中で絶望していた。自らの存在を消そうとしていたのだ。その時に私はオズに姫の事を話した。自分はこれからとある事情で眠りにつかなければならない事、その時に一人置いて行かなければならなくなった姫の事、それから自分の分身、レックスの事を』
「僕の事も話した?」
『話したとも。あまりにも熱心にレックスの事を語るので、オズは長い間レックスとは姫との間に出来た私の子供だと勘違いしていたようだったが』
「……どんな親ばかを発揮したのです?」

 呆れたようなカイの突っ込みにディノの笑い声が部屋中に響き渡る。

『それまでに私は何体かレックスのような人形を創ってはみたのだが、やはり魂が入らなければ人形はあくまで人形。全てすぐに壊れてしまった。そんな時に生まれたのがレックスだ。地下で子供が生まれなくなり、衰退していくばかりだった所にようやく出来た新しい命だった。ところが、レックスはその時に母親を失いレックス自身も死の気配に取り憑かれていた。そんな家族の姿にレックスの兄は心を病み、レックスを蘇らせる術を求めて地下を去った。ただ一人地下に残された最後の子供は息絶えようとしている。私はこの子が地下の全ての存在の結晶だと思った。この地下にはあらゆる生物が生きて暮らしていた。そんな世界もあったのだと言うことを、私はこの子に託したかった。そうして出来たのがレックスだ。それまでは地下にある鉱石を使い創っていたが、レックスだけは私の血と骨を使った。常に私の魔力がレックスに供給されるように、と』
「それがレックス誕生の理由だったんだね。それじゃあ元々はレックスに目をやらせるつもりなんて無かったということ?」
『そうだ。この子は生まれた時から大きな試練を受けた。人の子のように生きる事は難しいかもしれないが、少しでも幸せになってほしかったのだ。けれどそうはいかなくなってしまった。私はとうとう動けなくなってしまった。私は星と姫を守護しなければならない。だというのに、それが出来なくなってしまったのだ。だから私はレックスに私の目を託した。私の代わりに地上を見てきて欲しい、と。何かあればすぐにアンソニー達に報告出来るように、けれどレックスの存在や所在は彼らには隠していた』
「なんで? 早く言えばアンソニー王達に育ててもらえたかもしれないのに!」

 レックスに初めて会った時、レックスの恰好はボロボロだった。その恰好を見ればレックスがどこでどんな生活をしてきたのかが一目で分かる程度にはひどい有様で、最初の頃は意思の疎通すらままならなかった。

 アミナスがそんな事を思い出して眉を吊り上げると、ディノが自嘲気味に笑う。

『アンソニー達の事は信頼していたしそうしても良かったのだろうが、その頃には既にアメリア達が動いていた。レックスの存在が万が一アンソニー達から漏れたらアメリアは間違いなくレックスを壊し、体内から賢者の石を取り出そうとするだろう。それは、つまりレックスの本当の死を意味する。私がもしも神であれば、たった一人の人間の魂にそこまで執着する事も無かったのかもしれない。けれど、レックスはもう一人の私であり、かけがえのない息子であり、地下世界の結晶だ。何よりも私が、私だけがレックスの親代わりで居たかった……』
「……ディノ」

 初めて聞くディノの本音にレックスは言葉を詰まらせた。そんな風にディノは自分の事を思っていたのか。怒涛のように流れ込んでくるディノの感情は激しかった。レックスは自分だけの子供だと言い張る傲慢さ、羞恥、エゴ。

 けれど、それを凌ぐ程の愛おしさがレックスの心にまるで津波のように押し寄せてくる。
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