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第561話 普通の人間に出来る事
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アリスはユアンの言葉を聞いて剣を仕舞い、人形たちの下に潜り込んでは次々に勢いよく上に放り投げた。人形の図体は大きいが、重さはあまり感じない。
「どっこいしょー! そ~れぇ!」
チラリと見えた崖上からユアンが青ざめた表情でこちらを見下ろしてくるが、そんな事には構っていられない。妖精王がこちらに戻ってくるまでに、少しでも数は減らしておきたかった。
「アリス、少しいいか。コツを教えてくれ」
アーロは追ってくる人形たちをユアンの指示に従って崖まで誘導していたが、アリスの言うように人形たちはすぐに学習してしまい、もう誰もアーロについてきてくれなくなってしまったのだ。
アーロは先程から奇声を上げて人形をぶん投げているアリスの元へ行くと、アリスに倣って人形を打ち上げだした。そんなアーロを見てユアンが崖上から怒鳴ってくる。
「アーロ! お前自分の年齢考えろよ! 腰やられるぞ!」
「失礼な。俺はまだ元気だ。お前こそ若返ったからと言って胡座をかいていたら痛い目に遭うぞ」
「俺はもう散々痛い目見てんだよ! 何でもいいからお前はアリスの真似すんな! あとアリス、お前の周りから人形が引いていってる。全部エリスの方に向かってるぞ!」
アリスに捕まれば空に向かって投げられると学習したのか、人形たちは徐々にあから距離を取り出していた。それを聞いてアリスは急いで走り出す。
「パパ、ありがとう! 師匠、今行くからね! アーロ、ここはお願い」
「ああ、分かった。気をつけろよ」
「うん!」
アリスはそう言って走り出すとエリスの元へと急いだ。
エリスは斬っても斬っても減らない人形たちを前に、大きな息をついていた。
「ヤバいな。学習されると思うと炎も使えないし数が全く減らねぇぞ」
地中から生えてきているのかと思うほど、人形たちは次から次へと湧いてくる。レヴィウスでもこの状態なのだ。一番人形たちが集結しているというフォルスは一体どうなっているというのか。
四方八方から襲いかかってくる敵を一体ずつ確実に仕留めていくが、これでは埒が明かない。エリスがそんな事を考えていたその時、
「師匠! 避けて!」
「は? うぉぉぉ!」
目の前を雷のような物が物凄いスピードで横切っていった。あまりの速さにエリスが見えたものすら残像だったと気づいてふと見ると、それまで自分の周りに居た人形たちはすっかり消えている。
「ア、アリス、お前何したんだよ?」
「私気づいちゃったんだ! 学習出来ないぐらい早く倒せばいいなって! テヘペロ!」
「……いや、まぁそれはそうなんだけどな? それが出来るのは言っちゃなんだがお前だけなんだわ。普通の人間は何かの動作をする前に一旦構えるとかそういう動作を挟む必要があってだな――って、聞けよぉぉぉ!」
エリスが話し終わらないうちにアリスがまた剣を握りしめた。そして何をしたのか分からないまま、次の雷がまた地を這っていく。アリスはと言えば、さっきまでと同じ、ただ剣を握って立っているだけだ。
「ドヤ!」
「ドヤ! じゃねぇんだよ! 見ろよ! 人形たちも困惑してるじゃねぇか!」
エリスの言う通り人形たちにはアリスの動きが読み取れなかったようで、剣を出したり雷を出したりしながら右往左往している。
「だって、そうでもしないと減らないんだもん! 私だって疲れるんだからね! もう体中バラバラになりそうな負荷なんだから!」
「じゃあ止めろよ! お前こそ戦う度に学習して変な技編み出してるじゃねぇか!」
「何を仰るか師匠! 私は死ぬまで日々学習をし続ける! 大地の化身、アリスですぞ!」
「……もう好きにしろ」
とうとう匙を投げたエリスにアリスはいつものようにニカッと笑って、目にも止まらぬスピードで駆け出した。これは多分、動いたら自分も斬られかねないと判断したエリスがアーロの元に移動すると、アーロは腰を押さえて崖の中腹辺りで休憩している。
「アーロ! 大丈夫か? どこか痛めたのか!?」
まさかあのアーロがそんな簡単にやられるなんて。エリスは咄嗟にアーロに駆け寄ろうとしたが、そんなエリスを止めたのはユアンだ。
「エリス、ほっとけ! だから言ったんだよ! 腰いわすぞって!」
「ふむ……剣を振るうのと何かを上に投げるのではやはり筋肉の使い方が違うな。これは練習しておくべきかもしれない」
「冷静に分析してる場合じゃねぇんだよ! もういい、俺が行く!」
「駄目だ。お前は弱いんだからそこに居ろ」
「お前はほんっとうに、いちいちイライラする奴だな!」
アーロには微塵も悪気はない。それが分かっているだけにイライラするユアンだが、アーロの言葉は当たっている。自分が言った所でどうにもなあらず、むしろ迷惑をかけるのが目に見えている。
「あー……つまり、大丈夫なんだな?」
二人のやりとりに呆れつつエリスは崖を登りアーロの元に行くと、アーロは大きく伸びをして頷いた。
「大丈夫だ。問題無い。エリス、学習されても勝てば問題ないんだよな?」
「ああ、まぁそりゃそうだろうがお前、まさか正面から突っ込むのか?」
「もうそれしか方法は無いだろう」
何よりそういう戦い方しか知らない。アーロはそんな言葉を飲み込んでベルトを締め直して腰を固定すると、ため息をついたエリスを置いて崖下に下りた。
そんなアーロに待っていましたと言わんばかりに人形たちが襲いかかってくる。
「負の感情など、ここで全て開放してしまえ」
アーロはそう言って剣を取り出して構えると、真正面から飛び込んできた人形を切りつけた。すると途端に人形は切り裂かれて白い煙を上げて消えていくが、アーロはそんな事よりも他の人形に注視していた。
人形たちはアリスが言うように次々にアーロが持つ剣を同じような剣を片手に襲いかかってくる。
「本当に学習すんだな。っと、あっち側の増援が来たみたいだぞ」
ユアンは目を凝らして林の奥に視線をやると、真っ黒の塊がこちらに向かってぞろぞろとやってきていた。
「どっこいしょー! そ~れぇ!」
チラリと見えた崖上からユアンが青ざめた表情でこちらを見下ろしてくるが、そんな事には構っていられない。妖精王がこちらに戻ってくるまでに、少しでも数は減らしておきたかった。
「アリス、少しいいか。コツを教えてくれ」
アーロは追ってくる人形たちをユアンの指示に従って崖まで誘導していたが、アリスの言うように人形たちはすぐに学習してしまい、もう誰もアーロについてきてくれなくなってしまったのだ。
アーロは先程から奇声を上げて人形をぶん投げているアリスの元へ行くと、アリスに倣って人形を打ち上げだした。そんなアーロを見てユアンが崖上から怒鳴ってくる。
「アーロ! お前自分の年齢考えろよ! 腰やられるぞ!」
「失礼な。俺はまだ元気だ。お前こそ若返ったからと言って胡座をかいていたら痛い目に遭うぞ」
「俺はもう散々痛い目見てんだよ! 何でもいいからお前はアリスの真似すんな! あとアリス、お前の周りから人形が引いていってる。全部エリスの方に向かってるぞ!」
アリスに捕まれば空に向かって投げられると学習したのか、人形たちは徐々にあから距離を取り出していた。それを聞いてアリスは急いで走り出す。
「パパ、ありがとう! 師匠、今行くからね! アーロ、ここはお願い」
「ああ、分かった。気をつけろよ」
「うん!」
アリスはそう言って走り出すとエリスの元へと急いだ。
エリスは斬っても斬っても減らない人形たちを前に、大きな息をついていた。
「ヤバいな。学習されると思うと炎も使えないし数が全く減らねぇぞ」
地中から生えてきているのかと思うほど、人形たちは次から次へと湧いてくる。レヴィウスでもこの状態なのだ。一番人形たちが集結しているというフォルスは一体どうなっているというのか。
四方八方から襲いかかってくる敵を一体ずつ確実に仕留めていくが、これでは埒が明かない。エリスがそんな事を考えていたその時、
「師匠! 避けて!」
「は? うぉぉぉ!」
目の前を雷のような物が物凄いスピードで横切っていった。あまりの速さにエリスが見えたものすら残像だったと気づいてふと見ると、それまで自分の周りに居た人形たちはすっかり消えている。
「ア、アリス、お前何したんだよ?」
「私気づいちゃったんだ! 学習出来ないぐらい早く倒せばいいなって! テヘペロ!」
「……いや、まぁそれはそうなんだけどな? それが出来るのは言っちゃなんだがお前だけなんだわ。普通の人間は何かの動作をする前に一旦構えるとかそういう動作を挟む必要があってだな――って、聞けよぉぉぉ!」
エリスが話し終わらないうちにアリスがまた剣を握りしめた。そして何をしたのか分からないまま、次の雷がまた地を這っていく。アリスはと言えば、さっきまでと同じ、ただ剣を握って立っているだけだ。
「ドヤ!」
「ドヤ! じゃねぇんだよ! 見ろよ! 人形たちも困惑してるじゃねぇか!」
エリスの言う通り人形たちにはアリスの動きが読み取れなかったようで、剣を出したり雷を出したりしながら右往左往している。
「だって、そうでもしないと減らないんだもん! 私だって疲れるんだからね! もう体中バラバラになりそうな負荷なんだから!」
「じゃあ止めろよ! お前こそ戦う度に学習して変な技編み出してるじゃねぇか!」
「何を仰るか師匠! 私は死ぬまで日々学習をし続ける! 大地の化身、アリスですぞ!」
「……もう好きにしろ」
とうとう匙を投げたエリスにアリスはいつものようにニカッと笑って、目にも止まらぬスピードで駆け出した。これは多分、動いたら自分も斬られかねないと判断したエリスがアーロの元に移動すると、アーロは腰を押さえて崖の中腹辺りで休憩している。
「アーロ! 大丈夫か? どこか痛めたのか!?」
まさかあのアーロがそんな簡単にやられるなんて。エリスは咄嗟にアーロに駆け寄ろうとしたが、そんなエリスを止めたのはユアンだ。
「エリス、ほっとけ! だから言ったんだよ! 腰いわすぞって!」
「ふむ……剣を振るうのと何かを上に投げるのではやはり筋肉の使い方が違うな。これは練習しておくべきかもしれない」
「冷静に分析してる場合じゃねぇんだよ! もういい、俺が行く!」
「駄目だ。お前は弱いんだからそこに居ろ」
「お前はほんっとうに、いちいちイライラする奴だな!」
アーロには微塵も悪気はない。それが分かっているだけにイライラするユアンだが、アーロの言葉は当たっている。自分が言った所でどうにもなあらず、むしろ迷惑をかけるのが目に見えている。
「あー……つまり、大丈夫なんだな?」
二人のやりとりに呆れつつエリスは崖を登りアーロの元に行くと、アーロは大きく伸びをして頷いた。
「大丈夫だ。問題無い。エリス、学習されても勝てば問題ないんだよな?」
「ああ、まぁそりゃそうだろうがお前、まさか正面から突っ込むのか?」
「もうそれしか方法は無いだろう」
何よりそういう戦い方しか知らない。アーロはそんな言葉を飲み込んでベルトを締め直して腰を固定すると、ため息をついたエリスを置いて崖下に下りた。
そんなアーロに待っていましたと言わんばかりに人形たちが襲いかかってくる。
「負の感情など、ここで全て開放してしまえ」
アーロはそう言って剣を取り出して構えると、真正面から飛び込んできた人形を切りつけた。すると途端に人形は切り裂かれて白い煙を上げて消えていくが、アーロはそんな事よりも他の人形に注視していた。
人形たちはアリスが言うように次々にアーロが持つ剣を同じような剣を片手に襲いかかってくる。
「本当に学習すんだな。っと、あっち側の増援が来たみたいだぞ」
ユアンは目を凝らして林の奥に視線をやると、真っ黒の塊がこちらに向かってぞろぞろとやってきていた。
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