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第560話 地獄絵図
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アリス達が洞穴から顔だけ出して地上を見ると、そこはまるで地獄のようだった。
「これは……大変だぁ」
真っ黒で大きな人形は、前の人形と違って好き勝手に暴れ倒している。地下でルークが見せてくれた時には空と地上がくっきりと二色に分かれていたが、いざ地上に出てみると、辺りは人形に覆い尽くされていて空など一切見えはしない。
「大惨事ですね。兵士たちを避難させて良かったです」
「全くだ。まさか第2陣がこんなだとはな。そんだけ負のエネルギーが溜まってたって事か」
ため息を落としながら周りを見渡すユアンに、エリスも頷く。
「これは掃除のしがいがあるな。アリス、お前はちょっと離れて戦えよ」
「うん。それじゃあちょっと行ってくるよ! 師匠たちも気をつけてね!」
そう言ってアリスは洞穴から飛び出して、すぐさま剣を抜いた。
先程の人形たちはご丁寧に市内地に集まってくれていたが、今度の人形はどうやらそうではないらしく、こんな林の中にもうじゃうじゃと蔓延っていた。
アリスは剣を片手に目を閉じて大きく息を吸い込むと、カッと目を見開いて集中する。
人形たちは武器など持っていない。数が多いだけで片っ端から倒せばいいだけだと思っていたアリスが正面から人形に突っ込んで行くと、人形たちはその巨体からは考えられないスピードでアリスの剣を避けた。
「うっそぉ! 今の避けるの!?」
これはなかなかやりにくいかもしれない。そんな事を考えながらアリスが剣を持つ手に力を込めて正面に居た人形に斬りかかると、人形は案外あっさりと切り裂くことが出来た。
ところが、安堵したのもつかの間、人形たちは仲間が切り裂かれたのを見るなり、突然その姿を変えたのだ。
「えぇぇ!? 変身も出来るのぉぉぉ!? ちょちょ、武器まで持ってんじゃん! これはヤバい! 師匠たちに知らせないと!」
アリスは踵を返して洞穴まで戻ると、まだ戦闘準備をしていたエリス達に早口で伝えた。
「師匠! 師匠! 大変だよ! あいつら変身するよ!」
「どういう事だ? アリス。落ち着いて話してくれないか」
あまりにも早口のアリスを止めるようにアーロが言うと、アリスは2,3度深呼吸をして言う。
「変身出来るんだよ! 自由自在に! あとね、最初は武器持ってなかったのに、私が切りつけた途端に周りに居た子達が武器を持ち出したんだ! あれは……あれはレインボー隊だよ!」
「なるほど。つまり、レインボー隊のように学習して姿を変える、とそういう事ですか?」
「そう!」
「マジかよ。厄介だな。アリス、あいつらはお前の武器を模倣したのか?」
「うん!」
「だとしたら、切られた時に周りの奴らにそいつが剣の情報を伝搬させると考えたらいいのか。あんま凝った武器は使わない方がいいな。カール、そういう訳だからお前は戦力外だ」
「そのようですね。では私も地下に戻り、伝令役を引き受けます」
「ああ、頼んだ。それから先に言っとくが、俺も戦力外だと思っていてくれ。ただ、状況判断は出来る。あの崖のてっぺんから都度指示を出す」
体力と戦力ははっきり言ってユアンの専門外だが、それでも地下に残らなかったのは、実際に敵を見なければ作戦の立てようが無いと判断したからだ。
「ああ、分かった。気をつけろよ、ユアン」
「……お前もな、アーロ」
それだけ言ってユアンはアリスから預かった妖精手帳を使って崖の上に移動した。そこから見下ろす限り、林全体が真っ黒に埋め尽くされていて、もはや地表が見えない。
「ここは青空が見えるし敵も居ない……ということは、あの場所からあいつらはここへ登ってくる事は出来ないという事か」
どうやら人形には人形なりのルールがあるようだ。その境目がどこにあるのかと崖から身を乗り出して確認すると、ちょうど一体の人形が崖を登って来ようとしていた。
「なんだよ、登れんのかよ! ――ん?」
急いで武器を取り出そうとしたユアンが目にしたのは、境界だと思われる所に人形が触れた途端、人形たちは呻きながら一瞬で霧散していく姿だった。
それを見て思わずユアンは叫んだ。
「おい! そいつら空と地上の境界を超える事は出来ないみたいだ! 境界はこの崖の中腹辺りだ! できる限り武器を使わずに追い込め!」
武器を学習するのだとしたら、出来る限り戦わずに追い詰めた方が得策だ。ユアンの声が聞こえたのか、どこからともなくアリスの元気な声が聞こえてくる。
「分かったよパパ~~! それじゃあ投げるね~!」
「おー! ……ん? 投げる?」
一体どういう事だ? と思いながらユアンはもう一度崖から下を見ろそうと身を屈めた瞬間、目の前を物凄い勢いで何かが通り抜けた。
「は!?」
驚いて通り抜けた何かを目で追うと、それは一瞬にしてユアンの目の前で霧散する。後には白い煙が立ち上り、そのまま青空に溶けていった。
「……そんなバカな」
ユアンはあまりの出来事にもう一度恐る恐る崖の下を覗き込むと、やはり一体、また一体と人形たちが打ち上がってくるのが見える。
「投げるって……投げるって、物理で投げんのかよ! このバカ娘!!!」
思わず頭を抱えて叫んだユアンだったが、この時ようやく誰しもがアリスの事をゴリラと称する理由が分かった気がしたけれど、それはむしろゴリラに失礼である。
「これは……大変だぁ」
真っ黒で大きな人形は、前の人形と違って好き勝手に暴れ倒している。地下でルークが見せてくれた時には空と地上がくっきりと二色に分かれていたが、いざ地上に出てみると、辺りは人形に覆い尽くされていて空など一切見えはしない。
「大惨事ですね。兵士たちを避難させて良かったです」
「全くだ。まさか第2陣がこんなだとはな。そんだけ負のエネルギーが溜まってたって事か」
ため息を落としながら周りを見渡すユアンに、エリスも頷く。
「これは掃除のしがいがあるな。アリス、お前はちょっと離れて戦えよ」
「うん。それじゃあちょっと行ってくるよ! 師匠たちも気をつけてね!」
そう言ってアリスは洞穴から飛び出して、すぐさま剣を抜いた。
先程の人形たちはご丁寧に市内地に集まってくれていたが、今度の人形はどうやらそうではないらしく、こんな林の中にもうじゃうじゃと蔓延っていた。
アリスは剣を片手に目を閉じて大きく息を吸い込むと、カッと目を見開いて集中する。
人形たちは武器など持っていない。数が多いだけで片っ端から倒せばいいだけだと思っていたアリスが正面から人形に突っ込んで行くと、人形たちはその巨体からは考えられないスピードでアリスの剣を避けた。
「うっそぉ! 今の避けるの!?」
これはなかなかやりにくいかもしれない。そんな事を考えながらアリスが剣を持つ手に力を込めて正面に居た人形に斬りかかると、人形は案外あっさりと切り裂くことが出来た。
ところが、安堵したのもつかの間、人形たちは仲間が切り裂かれたのを見るなり、突然その姿を変えたのだ。
「えぇぇ!? 変身も出来るのぉぉぉ!? ちょちょ、武器まで持ってんじゃん! これはヤバい! 師匠たちに知らせないと!」
アリスは踵を返して洞穴まで戻ると、まだ戦闘準備をしていたエリス達に早口で伝えた。
「師匠! 師匠! 大変だよ! あいつら変身するよ!」
「どういう事だ? アリス。落ち着いて話してくれないか」
あまりにも早口のアリスを止めるようにアーロが言うと、アリスは2,3度深呼吸をして言う。
「変身出来るんだよ! 自由自在に! あとね、最初は武器持ってなかったのに、私が切りつけた途端に周りに居た子達が武器を持ち出したんだ! あれは……あれはレインボー隊だよ!」
「なるほど。つまり、レインボー隊のように学習して姿を変える、とそういう事ですか?」
「そう!」
「マジかよ。厄介だな。アリス、あいつらはお前の武器を模倣したのか?」
「うん!」
「だとしたら、切られた時に周りの奴らにそいつが剣の情報を伝搬させると考えたらいいのか。あんま凝った武器は使わない方がいいな。カール、そういう訳だからお前は戦力外だ」
「そのようですね。では私も地下に戻り、伝令役を引き受けます」
「ああ、頼んだ。それから先に言っとくが、俺も戦力外だと思っていてくれ。ただ、状況判断は出来る。あの崖のてっぺんから都度指示を出す」
体力と戦力ははっきり言ってユアンの専門外だが、それでも地下に残らなかったのは、実際に敵を見なければ作戦の立てようが無いと判断したからだ。
「ああ、分かった。気をつけろよ、ユアン」
「……お前もな、アーロ」
それだけ言ってユアンはアリスから預かった妖精手帳を使って崖の上に移動した。そこから見下ろす限り、林全体が真っ黒に埋め尽くされていて、もはや地表が見えない。
「ここは青空が見えるし敵も居ない……ということは、あの場所からあいつらはここへ登ってくる事は出来ないという事か」
どうやら人形には人形なりのルールがあるようだ。その境目がどこにあるのかと崖から身を乗り出して確認すると、ちょうど一体の人形が崖を登って来ようとしていた。
「なんだよ、登れんのかよ! ――ん?」
急いで武器を取り出そうとしたユアンが目にしたのは、境界だと思われる所に人形が触れた途端、人形たちは呻きながら一瞬で霧散していく姿だった。
それを見て思わずユアンは叫んだ。
「おい! そいつら空と地上の境界を超える事は出来ないみたいだ! 境界はこの崖の中腹辺りだ! できる限り武器を使わずに追い込め!」
武器を学習するのだとしたら、出来る限り戦わずに追い詰めた方が得策だ。ユアンの声が聞こえたのか、どこからともなくアリスの元気な声が聞こえてくる。
「分かったよパパ~~! それじゃあ投げるね~!」
「おー! ……ん? 投げる?」
一体どういう事だ? と思いながらユアンはもう一度崖から下を見ろそうと身を屈めた瞬間、目の前を物凄い勢いで何かが通り抜けた。
「は!?」
驚いて通り抜けた何かを目で追うと、それは一瞬にしてユアンの目の前で霧散する。後には白い煙が立ち上り、そのまま青空に溶けていった。
「……そんなバカな」
ユアンはあまりの出来事にもう一度恐る恐る崖の下を覗き込むと、やはり一体、また一体と人形たちが打ち上がってくるのが見える。
「投げるって……投げるって、物理で投げんのかよ! このバカ娘!!!」
思わず頭を抱えて叫んだユアンだったが、この時ようやく誰しもがアリスの事をゴリラと称する理由が分かった気がしたけれど、それはむしろゴリラに失礼である。
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