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第567話 種明かし

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「ああ、ここから。あいつらの前で魔法や武器を使うと模倣されるが、もしかしたらあいつらから見えない所からならそれが出来ないんじゃないかと思ったんだよ。で、アーロ、人形が感電したらすぐにお前の魔法使え」
「? ああ、なるほど。分かった。やってみよう」
「よく分かんないけどやってみる! そいやぁ!!!」

 アリスは皆から少しだけ離れて剣を思い切り横に薙ぎ払うと、剣先からライラ仕込みの雷が放出され、崖下に居た人形たちに直撃した。

 それを見てアーロがすぐさま詠唱をしだすと、空は雲ひとつ無い青空だと言うのに、突然雨が降り出した。最初はポツポツだった雨脚は次第に強まり、人形たちだけがずぶ濡れになっていく。

 それを見てエリスは驚いたようにアーロを見た。

「お前、水魔法か!」
「ああ、言ってなかったか?」
「全然聞いてねぇよ! 何だよ! 今まで魔法なんて使ってるとこ見たこと無かったから使えないのかと思ってた!」

 エリスが目を丸くしている間にも、人形たちはアリスに感電させられた挙げ句アーロの降らせる雨によって止めをさされている。

「本来こいつは魔法得意だぞ。というより、何でも出来たんだ、昔から」
「なるほどな。天才肌って奴か。まぁ存在自体が独特だもんな」
「今は仮面も手伝ってるが、この雰囲気は当時からだな。けど、まさかこんなにも四六時中女の事ばかり考えてる奴だとは思ってなかったよ」

 呆れたように言うユアンに、エリスが深く頷いた。

 アーロの考え事はほとんどがエリザベスに繋がっている。アーロはスパイ活動する前はとにかく色んな所で色んな事をしていたが、まさかそれが全てエリザベスの為だったとは思ってもいなかったユアンだ。

 自分の事など全く眼中に無かったのかと思うと何だか全てが馬鹿らしくなるが、それ以上にずっとエリザベスだけを想っていたのかという事を知れた事で少しだけホッとしたりするから不思議だ。バレンシア家の人間は誰も彼もがバカかと思うほど一途だと聞いてはいたが、それはアーロも例外ではなかったようで安心した。

「あんたも大変だったんだな。問題児に縁があんのか?」
「それはあんたもだろ? こんな事に巻き込まれて、アンソニーにさえ目をつけられなきゃ、今頃静かにどっかで暮らせてただろうに」
「かもな。でも俺たちの運命はどのみちアリスと出会った時点で決まってたんだろうさ。よし! これが終わったら一杯飲むか!」

 ユアンがどんな道を選ぼうとしているのかをもちろんエリスも知っているけれど、少しでもユアンの足枷になりたい。何せアリスやノア、キリがそう望むのだから。

 エリスの言葉にユアンは苦笑いを浮かべて曖昧に頷く。今はそれだけでも十分だった。

「ところで俺はいつまで雨を降らせればいい? そそろそろ洪水が起こりそうだが」

 何やらユアンとエリスが仲良くお喋りしている間にも地表にはどんどん水が溜まっていく。そこにアリスの雷が落ちると阿鼻叫喚だ。

「ああ、ここってなだらかな盆地になってんだな。ちょうどいいじゃねぇか。そのままどんどん降らせろよ」
「お前……自分の魔法は使わない癖に」
「使わないんじゃなくて使えねぇんだよ。知ってんだろ!?」

 眉を吊り上げて言い返そうとしたユアンの手をアリスが唐突に掴んできた。ふと見るとアリスは困ったような顔をして剣をユアンに見せてくる。

「どうした? ブスになってんぞ」
「パパぁ、ライラの雷充電切れちゃったよぅ」
「それ充電式なのかよ? マジか。じゃあもうあいつらあのまま沈めるか?」
「俺の魔力も無尽蔵ではないんだぞ? 無茶言うな」
「エリスは炎だっけ? 参ったな。詰んだか」

 ユアンの考えは正しかった。人形たちの目の前で使わなければ、人形たちは模倣出来ない。万が一模倣してその場で使ったたとしても、それは自分達の首を締めるだけだ。

 けれどそれも長くは続かないだろう。人形たちの学習能力は驚くほど早い。次の作戦を考えるまでの間持てばいいが――。

 ユアンがそんな事を考えていたその時、突然林の奥が光った。ふと見ると、さっきまで林の中で蠢いていた黒い塊が一瞬にして一掃されてしまっている。

「なんだ? 新手か?」
「違う……アンソニー王だ! お~い! こっちこっち~!」

 突然の金色の光を見てアリスもユアンと同じように林を凝視していたが、それがアンソニーだと言うことにいち早く気づいたアリスは大きく手を振った。

「は? 見えねぇんだけど?」
「アンソニー王もあれか? マッハ剣使えんのか?」

 確かにアンソニーの太刀筋は恐ろしく早かった。一度やられたからそれは知っているが、流石にここまでは早くなかったはずだ。

 エリスが首を傾げて林を見てみたが、アリスの視線が既に崖下に注目していると認識したと同時にアンソニーが突然目の前に現れた。

「ははは、君は僕の動きが見えたのかい?」
「うん! めっちゃ走るの早いね、アンソニー王」
「これは走るのが早い訳ではないよ。僕の魔法は風なんだ。それを使ってるんだよ」
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