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第568話 アリスの決断
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「へぇ~! 追い風って事? いいな~私もそういう魔法が良かった!」
「君は魔法なんて使わなくても十分だろう? おや? どうしたんだい? 皆変な顔をして」
「そりゃ変な顔にもなんだろ! てか、あんた今まで風使ってたのか! それであんなに早かったんだな!?」
思わず突っ込んだエリスにアンソニーは悪気もなく笑った。
「ネタバラシをしてしまうと面白くないかなと思って黙っていたんだけど、バレてしまったね。まさか風を使った僕を目で追える人がいるなんてね」
そう言ってチラリとアリスを見ると、アリスは得意げに笑っている。
「動体視力を磨くのは狩りの鉄則だからね! 数百メートル先のネズミの行動を追えないようではバセット領の森では生きて行けないよ! ね? 師匠」
「ああ。ていうか、家があんのに森で暮らそうとするアホな人間はお前ぐらいだからな。他の皆はそんな能力無くたって生きていけるんだぞ、アリス」
エリスの言葉にアリスは口元を押さえて愕然としている。
「いや、そんな「初めて知りました!」みたいな顔されても困るわ」
「君たちは相変わらずだね。ところでどうだい? 作戦は上手くいってるかい?」
「見ての通りだよ。あいつら次から次へと湧いてくる。おまけにこっちの武器やら魔法やら模倣しちまうんだよ」
「模倣? それは厄介だね。なるほど、だからここから攻撃をしていたのか」
「そういう事。で、そっちはどうなんだよ? 王様が来たって事は妖精王ももうすぐなのか?」
ユアンの言葉に、それまでニコニコしていたアンソニーが突然真顔になった。
「そうだった。それを伝えなければ。アメリアが消えた。誰かが彼女を手助けしているようだ」
「……は? どういう事だよ? もう地上には誰も居ないはずだろ?」
「そうだね。けれど彼女はディノの制約を破り、どこかへ消えた。次元を開いてね」
「それは、次元に入ったということか?」
未だに雨を降らしながらアーロが言うと、アンソニーは首を振った。
「いいや。次元に入れば命の保証はない。それは人間如きがどうにか出来るような話ではない。従ってアメリアがそんな賭けに出るとは思えない。考えられるのは一つだね。彼女の背のバラが咲いた。これしか考えられない」
「でもさ、でもアメリアがそのバラに願おうとしてたのは新教会の永続なんだよね?」
確かそう言っていたはずだ。アリスの言葉にアンソニーは曖昧に頷いて腕を組んだ。
「そう思っていたんだけれど、もしかしたらバラの力をもっと違うことに使ったのかもしれないね。かと言って単純にあそこから出られるようになんて事をバラに願うような馬鹿な事はしないだろう。考えられるのは、何かを自分の味方につけたのではないかって事だね」
「そんなの……オズしか居ないじゃん……」
アリスは涙を浮かべて俯いた。オズワルドはアリスと約束してくれた。必ず今回の作戦を成功させる、と。もしかしたらそれがアメリアの手によって無理やり捻じ曲げられてしまうかもしれない。
「まだ分からないんだ、アリス。そんな顔すんな」
「でもパパ……オズと約束したんだよ。私、絶対にオズを助けるって」
「ああ。だったら余計にそんな顔すんな。死ぬ気で救う手立てを考えろ、アリス。オズもそれを待ってる」
「……ぶん」
アリスはユアンの言葉を聞いて涙を拭うと、視線を上げて何処ともなく睨みつける。もう迷わない。アメリアははっきりと敵だ。
「もう、躊躇わない。アメリアはここに居てはいけない人だ」
決意を込めてアリスが言うと、エリスが驚いたような顔をした。
「珍しいな、お前がそんな事言うの」
今までは罪を憎んで人を憎まずのアリスだったが、どうやら完全に何かがブチギレたらしい。
「師匠、悪魔が一人居て、それが全然改心しなくてその為に何万人、何百万人の人が犠牲になるのは間違えてるよね?」
「そうだな」
「だったら、たった一人の悪魔を成敗するしかないよね?」
「おお。で、具体的にはどうするつもりなんだ?」
「悪いことをしたらね、大きな岩の下に何千年も閉じ込められるんだよ。それを実践するよ!」
そう、確かそんな感じ。アリスはフワッとした琴子時代の知識を思い出して言うと、エリスは苦笑いを浮かべた。
「あ、やっぱ殺しはしないんだな」
「当たり前だよ! 死んだらそこで終わりじゃん! そうやって負の魂達が集まったのがこの子達だよ! この子達自身が何かをした訳じゃないのにこんな目に遭うのはもっと違うよ!」
「……そうだな。魂が何度転生しても、それは以前のこいつらじゃない。次の世代に業を背負わせるのは違うよな」
やっぱりアリスはアリスだった。それを確信したエリスが思わず微笑んでいると、後方でユアンがアンソニーとアーロに「ほら、君にそっくりだ」とか「お前も学生時代にあんな事をよく言っていたぞ」などと言われている。
やっぱりアリスの言った通り、アリスはユアンに性格も似ているようだった。
「君は魔法なんて使わなくても十分だろう? おや? どうしたんだい? 皆変な顔をして」
「そりゃ変な顔にもなんだろ! てか、あんた今まで風使ってたのか! それであんなに早かったんだな!?」
思わず突っ込んだエリスにアンソニーは悪気もなく笑った。
「ネタバラシをしてしまうと面白くないかなと思って黙っていたんだけど、バレてしまったね。まさか風を使った僕を目で追える人がいるなんてね」
そう言ってチラリとアリスを見ると、アリスは得意げに笑っている。
「動体視力を磨くのは狩りの鉄則だからね! 数百メートル先のネズミの行動を追えないようではバセット領の森では生きて行けないよ! ね? 師匠」
「ああ。ていうか、家があんのに森で暮らそうとするアホな人間はお前ぐらいだからな。他の皆はそんな能力無くたって生きていけるんだぞ、アリス」
エリスの言葉にアリスは口元を押さえて愕然としている。
「いや、そんな「初めて知りました!」みたいな顔されても困るわ」
「君たちは相変わらずだね。ところでどうだい? 作戦は上手くいってるかい?」
「見ての通りだよ。あいつら次から次へと湧いてくる。おまけにこっちの武器やら魔法やら模倣しちまうんだよ」
「模倣? それは厄介だね。なるほど、だからここから攻撃をしていたのか」
「そういう事。で、そっちはどうなんだよ? 王様が来たって事は妖精王ももうすぐなのか?」
ユアンの言葉に、それまでニコニコしていたアンソニーが突然真顔になった。
「そうだった。それを伝えなければ。アメリアが消えた。誰かが彼女を手助けしているようだ」
「……は? どういう事だよ? もう地上には誰も居ないはずだろ?」
「そうだね。けれど彼女はディノの制約を破り、どこかへ消えた。次元を開いてね」
「それは、次元に入ったということか?」
未だに雨を降らしながらアーロが言うと、アンソニーは首を振った。
「いいや。次元に入れば命の保証はない。それは人間如きがどうにか出来るような話ではない。従ってアメリアがそんな賭けに出るとは思えない。考えられるのは一つだね。彼女の背のバラが咲いた。これしか考えられない」
「でもさ、でもアメリアがそのバラに願おうとしてたのは新教会の永続なんだよね?」
確かそう言っていたはずだ。アリスの言葉にアンソニーは曖昧に頷いて腕を組んだ。
「そう思っていたんだけれど、もしかしたらバラの力をもっと違うことに使ったのかもしれないね。かと言って単純にあそこから出られるようになんて事をバラに願うような馬鹿な事はしないだろう。考えられるのは、何かを自分の味方につけたのではないかって事だね」
「そんなの……オズしか居ないじゃん……」
アリスは涙を浮かべて俯いた。オズワルドはアリスと約束してくれた。必ず今回の作戦を成功させる、と。もしかしたらそれがアメリアの手によって無理やり捻じ曲げられてしまうかもしれない。
「まだ分からないんだ、アリス。そんな顔すんな」
「でもパパ……オズと約束したんだよ。私、絶対にオズを助けるって」
「ああ。だったら余計にそんな顔すんな。死ぬ気で救う手立てを考えろ、アリス。オズもそれを待ってる」
「……ぶん」
アリスはユアンの言葉を聞いて涙を拭うと、視線を上げて何処ともなく睨みつける。もう迷わない。アメリアははっきりと敵だ。
「もう、躊躇わない。アメリアはここに居てはいけない人だ」
決意を込めてアリスが言うと、エリスが驚いたような顔をした。
「珍しいな、お前がそんな事言うの」
今までは罪を憎んで人を憎まずのアリスだったが、どうやら完全に何かがブチギレたらしい。
「師匠、悪魔が一人居て、それが全然改心しなくてその為に何万人、何百万人の人が犠牲になるのは間違えてるよね?」
「そうだな」
「だったら、たった一人の悪魔を成敗するしかないよね?」
「おお。で、具体的にはどうするつもりなんだ?」
「悪いことをしたらね、大きな岩の下に何千年も閉じ込められるんだよ。それを実践するよ!」
そう、確かそんな感じ。アリスはフワッとした琴子時代の知識を思い出して言うと、エリスは苦笑いを浮かべた。
「あ、やっぱ殺しはしないんだな」
「当たり前だよ! 死んだらそこで終わりじゃん! そうやって負の魂達が集まったのがこの子達だよ! この子達自身が何かをした訳じゃないのにこんな目に遭うのはもっと違うよ!」
「……そうだな。魂が何度転生しても、それは以前のこいつらじゃない。次の世代に業を背負わせるのは違うよな」
やっぱりアリスはアリスだった。それを確信したエリスが思わず微笑んでいると、後方でユアンがアンソニーとアーロに「ほら、君にそっくりだ」とか「お前も学生時代にあんな事をよく言っていたぞ」などと言われている。
やっぱりアリスの言った通り、アリスはユアンに性格も似ているようだった。
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