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第585話 アミナス、消灯
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ノエル達はチャップマン商会の倉庫に続く道をひたすら歩いていた。ティナがかけてくれた魔法のおかげで人形たちはこちらに近寄っては来ない。
けれど、魔法を学習した人形たちは光の外から時折魔法でこちらを攻撃してきていた。
「あっつ!」
アミナスはたまに飛んでくる火の玉が膝小僧を掠めてその場で飛び上がった。
「大丈夫? 焦げた?」
「大丈夫、かすっただけだもん。もう! あ! さては君だなぁ!? そんな奴はこうだ!」
そう言ってアミナスはレックスが止めるのも聞かずに火の玉を撃ってきた人形に飛びかかってハグしてやった。すると、途端に人形は白い煙を上げて消えてしまう。
そんなアミナスを見て叫んだのはキャロラインだ。青ざめて急いでアミナスの腕を強く掴んできた。
「アミナス! 危ないことはしないと約束したでしょう!?」
突然飛び出して行ったアミナスをキャロラインはすぐさま列に引きずり戻して、その頭に軽くゲンコツを落とした。
「ごめんなさい……つい」
「つい、ではないの! あなたに何かあったら、私はどんな顔をしてアリスとノアに会えばいいの! お願いだから、少しの間でいいから言う事をちゃんと聞いてちょうだい」
「……うん」
こんなにもキャロラインがアミナスを叱るのは初めての事だ。アミナスはしょんぼりと項垂れて列に戻り、ティナと手を繋いだ。
「仕方のない奴だな。いいか、アミナス。私の魔法も万能な訳ではないんだ。お前が強いのも知っているが、お前はまだ加減というものを知らない。キャロの言う事は正しい。分かるな?」
「うん」
「ならいいんだ。それに、お前の両親はお前たちを信頼してその役割を与えたんだ。それを裏切るような事はするな。もう絶対に勝手をして列を外れるなよ」
「分かった」
ティナの言う通りだ。アリスとノアはアミナス達を信頼してここに留まらせてくれたのだ。それを思い出したアミナスは、振り返って人形たちに舌を出して言った。
「もうあんた達の挑発には乗らないもんね!」
「そうそう、その調子だ」
振り返って舌を出すアミナスを見てティナが笑うと、後からライラとノエル達の声が聞こえてきた。
「ライラ、ジャスミン達は何をしようとしてるんだろう?」
「そうねぇ、多分、レプリカからお手伝いをしてくれようとしてるんだろうけど、ラジコンだけあっても無理よね。ああ、でもあちらにはクラーク伯爵がいらっしゃるからあるいは?」
「? ライラ?」
「ああ、ごめんなさい。そうね、あの子達が何をしようとしているのかは分からないけれど、この決断がきっと良い方に繋がると信じているわ」
「うん。そうだよね」
ライラの言葉にノエルが頷くと、何かに気付いたレオとカイが隣から話しかけてくる。
「ノエル様、すみません。お嬢様の光が弱まったような気がするのですが、気の所為でしょうか?」
「え?」
「ほら、輪郭が見えます。お嬢様、もしかしてお腹が減っているか眠いのでは?」
「……ほんとだ。アミナス! もしかして今眠い?」
ノエルが後から声をかけると、アミナスはトロンとした顔で振り向いて首を振った。あれはあからさまに眠いのを我慢している顔だ。
「眠いみたい。もう真っ暗だもんね……どうしよう」
「大丈夫よ。アミナス、抱っこしてあげるわ。一緒にこの子に乗りましょう」
「え!? 乗ってもいいの!?」
ライラの言葉にアミナスは顔を輝かせて走り寄ってきてすぐさまライラに抱っこをせがむ。
「いいわよ。ニケはまだ子馬だから二人乗りは慣れていないけど、この子はニケのお姉さんでエイルっていうのよ。この子は二人乗りなんて簡単にできてしまうわ」
「可愛い名前! よろしくね! エイル!」
アミナスがライラに抱き上げられたままエイルの首元に腕を伸ばすと、エイルは目を細めてアミナスの腕に顔を突っ込んできた。ブルルンと馬特有の鳴き声でアミナスに甘えてくる。
「さぁ、乗りましょう」
ライラがアミナスを抱いたまま言うと、エイルが乗りやすいように膝を折ってしゃがんでくれた。
「ありがとう、エイル」
ライラの言葉にエイルはまたブルルンと嘶いて颯爽と歩き出す。
しばらくはエイルの背中で喜んでいたアミナスだったが、次第にエイルの絶妙な揺れ具合とライラの暖かさでウトウトしだした。それでも必死に目をこすって起きていようと頑張るアミナスにライラは言う。
「アミナス、着いたら起こしてあげるわ。それまで寝てていいのよ」
「……うん……」
ライラの心地よい声にアミナスはとうとう目を閉じて、そのままライラの腕の中で深い眠りに落ちていく。それと同時にアミナスを包んでいた強烈な光が淡い光になった。
「消灯した」
「っふ! 止めてよ、レックス! アミナスは光源じゃないんだから」
素直なレックスの言葉に思わずノエルが吹き出すと、気持ちよさそうに眠るアミナスを見て微笑む。
「今何時なのでしょうね? 我々も隙を見つけて少し眠った方がいいかもしれません」
「そうだね。これが一段落したらディノの部屋で少し寝よう」
どのみち妖精王が動き出すまでディノを蘇らせる事は出来ない。それに、その時レックスに何が起こるかも分からないのだ。その為にどこかでしっかり眠っておいた方がいい。
「アミナスは眠ったの?」
一番後を歩いていたキャロラインが声をかけると、ライラが首だけで振り返って頷く。それを見てキャロラインは小さく笑って頷き返した。
「走ったりしょげたり眠ったり忙しい子ね」
思わずキャロラインがつぶやくと、その声が聞こえたのか、ライラの元までやってきていたティナが笑った。
「アリスにそっくりじゃないか! それにしてもアミナスが眠ると暗いな!」
「本当よ。もう少し間隔を縮めましょう。あなた達は大丈夫なの? 眠くない?」
「まだ大丈夫です」
「俺も大丈夫ですね」
「俺もです」
「僕もまだいける」
口々に答えた子どもたちを見てキャロラインが笑う。
「流石お兄さんね。それじゃあもう少しだけ頑張ってちょうだい。もうじき見えてくるはずよ」
そう言ってキャロラインは前方を指差したが、あいにく人形たちの群れで何も見えない。人形たちはアミナスの発光が収まったのを良い事にジリジリとこちらに近寄ってきていた。
「マズイな。アミナスの光が絞られた途端にこれか。もう一重外側に結界を張っておく。お前たちは円から絶対に出るなよ」
ティナは言いながら詠唱をして結界を強めたが、ずっと魔法を使っているティナの体力もそろそろ限界に近い。
「ティナ、無理は駄目よ」
「そうは言うが、私たちは何としてでも子どもたちを安全な場所まで送り届けなければ。その為なら多少の無理はするさ」
それを聞いて青ざめたのはノエルだ。
「もう少し早く移動しよう。あとティナ、これ、アミナスのだけど」
ノエルはそう言って寝ているアミナスのポシェットからオートミールクッキーを取り出してティナに手渡した。
「ありがとう、ノエル。いいのか?」
「いいよ。アミナスは洞窟に出る前に母さまから送られてきたおにぎりって言う食べ物をたらふく食べてたから」
「そうか。では遠慮なくいただこう。ああ、美味いな。しかし……硬いな!」
歯が鍛えられそうだ! そんな事を言いながらティナはクッキーを頬張る。体力はほぼ限界に近いが、子どもたちや友人達のこういう優しさがティナの気力をいとも容易く復活させた。
けれど、魔法を学習した人形たちは光の外から時折魔法でこちらを攻撃してきていた。
「あっつ!」
アミナスはたまに飛んでくる火の玉が膝小僧を掠めてその場で飛び上がった。
「大丈夫? 焦げた?」
「大丈夫、かすっただけだもん。もう! あ! さては君だなぁ!? そんな奴はこうだ!」
そう言ってアミナスはレックスが止めるのも聞かずに火の玉を撃ってきた人形に飛びかかってハグしてやった。すると、途端に人形は白い煙を上げて消えてしまう。
そんなアミナスを見て叫んだのはキャロラインだ。青ざめて急いでアミナスの腕を強く掴んできた。
「アミナス! 危ないことはしないと約束したでしょう!?」
突然飛び出して行ったアミナスをキャロラインはすぐさま列に引きずり戻して、その頭に軽くゲンコツを落とした。
「ごめんなさい……つい」
「つい、ではないの! あなたに何かあったら、私はどんな顔をしてアリスとノアに会えばいいの! お願いだから、少しの間でいいから言う事をちゃんと聞いてちょうだい」
「……うん」
こんなにもキャロラインがアミナスを叱るのは初めての事だ。アミナスはしょんぼりと項垂れて列に戻り、ティナと手を繋いだ。
「仕方のない奴だな。いいか、アミナス。私の魔法も万能な訳ではないんだ。お前が強いのも知っているが、お前はまだ加減というものを知らない。キャロの言う事は正しい。分かるな?」
「うん」
「ならいいんだ。それに、お前の両親はお前たちを信頼してその役割を与えたんだ。それを裏切るような事はするな。もう絶対に勝手をして列を外れるなよ」
「分かった」
ティナの言う通りだ。アリスとノアはアミナス達を信頼してここに留まらせてくれたのだ。それを思い出したアミナスは、振り返って人形たちに舌を出して言った。
「もうあんた達の挑発には乗らないもんね!」
「そうそう、その調子だ」
振り返って舌を出すアミナスを見てティナが笑うと、後からライラとノエル達の声が聞こえてきた。
「ライラ、ジャスミン達は何をしようとしてるんだろう?」
「そうねぇ、多分、レプリカからお手伝いをしてくれようとしてるんだろうけど、ラジコンだけあっても無理よね。ああ、でもあちらにはクラーク伯爵がいらっしゃるからあるいは?」
「? ライラ?」
「ああ、ごめんなさい。そうね、あの子達が何をしようとしているのかは分からないけれど、この決断がきっと良い方に繋がると信じているわ」
「うん。そうだよね」
ライラの言葉にノエルが頷くと、何かに気付いたレオとカイが隣から話しかけてくる。
「ノエル様、すみません。お嬢様の光が弱まったような気がするのですが、気の所為でしょうか?」
「え?」
「ほら、輪郭が見えます。お嬢様、もしかしてお腹が減っているか眠いのでは?」
「……ほんとだ。アミナス! もしかして今眠い?」
ノエルが後から声をかけると、アミナスはトロンとした顔で振り向いて首を振った。あれはあからさまに眠いのを我慢している顔だ。
「眠いみたい。もう真っ暗だもんね……どうしよう」
「大丈夫よ。アミナス、抱っこしてあげるわ。一緒にこの子に乗りましょう」
「え!? 乗ってもいいの!?」
ライラの言葉にアミナスは顔を輝かせて走り寄ってきてすぐさまライラに抱っこをせがむ。
「いいわよ。ニケはまだ子馬だから二人乗りは慣れていないけど、この子はニケのお姉さんでエイルっていうのよ。この子は二人乗りなんて簡単にできてしまうわ」
「可愛い名前! よろしくね! エイル!」
アミナスがライラに抱き上げられたままエイルの首元に腕を伸ばすと、エイルは目を細めてアミナスの腕に顔を突っ込んできた。ブルルンと馬特有の鳴き声でアミナスに甘えてくる。
「さぁ、乗りましょう」
ライラがアミナスを抱いたまま言うと、エイルが乗りやすいように膝を折ってしゃがんでくれた。
「ありがとう、エイル」
ライラの言葉にエイルはまたブルルンと嘶いて颯爽と歩き出す。
しばらくはエイルの背中で喜んでいたアミナスだったが、次第にエイルの絶妙な揺れ具合とライラの暖かさでウトウトしだした。それでも必死に目をこすって起きていようと頑張るアミナスにライラは言う。
「アミナス、着いたら起こしてあげるわ。それまで寝てていいのよ」
「……うん……」
ライラの心地よい声にアミナスはとうとう目を閉じて、そのままライラの腕の中で深い眠りに落ちていく。それと同時にアミナスを包んでいた強烈な光が淡い光になった。
「消灯した」
「っふ! 止めてよ、レックス! アミナスは光源じゃないんだから」
素直なレックスの言葉に思わずノエルが吹き出すと、気持ちよさそうに眠るアミナスを見て微笑む。
「今何時なのでしょうね? 我々も隙を見つけて少し眠った方がいいかもしれません」
「そうだね。これが一段落したらディノの部屋で少し寝よう」
どのみち妖精王が動き出すまでディノを蘇らせる事は出来ない。それに、その時レックスに何が起こるかも分からないのだ。その為にどこかでしっかり眠っておいた方がいい。
「アミナスは眠ったの?」
一番後を歩いていたキャロラインが声をかけると、ライラが首だけで振り返って頷く。それを見てキャロラインは小さく笑って頷き返した。
「走ったりしょげたり眠ったり忙しい子ね」
思わずキャロラインがつぶやくと、その声が聞こえたのか、ライラの元までやってきていたティナが笑った。
「アリスにそっくりじゃないか! それにしてもアミナスが眠ると暗いな!」
「本当よ。もう少し間隔を縮めましょう。あなた達は大丈夫なの? 眠くない?」
「まだ大丈夫です」
「俺も大丈夫ですね」
「俺もです」
「僕もまだいける」
口々に答えた子どもたちを見てキャロラインが笑う。
「流石お兄さんね。それじゃあもう少しだけ頑張ってちょうだい。もうじき見えてくるはずよ」
そう言ってキャロラインは前方を指差したが、あいにく人形たちの群れで何も見えない。人形たちはアミナスの発光が収まったのを良い事にジリジリとこちらに近寄ってきていた。
「マズイな。アミナスの光が絞られた途端にこれか。もう一重外側に結界を張っておく。お前たちは円から絶対に出るなよ」
ティナは言いながら詠唱をして結界を強めたが、ずっと魔法を使っているティナの体力もそろそろ限界に近い。
「ティナ、無理は駄目よ」
「そうは言うが、私たちは何としてでも子どもたちを安全な場所まで送り届けなければ。その為なら多少の無理はするさ」
それを聞いて青ざめたのはノエルだ。
「もう少し早く移動しよう。あとティナ、これ、アミナスのだけど」
ノエルはそう言って寝ているアミナスのポシェットからオートミールクッキーを取り出してティナに手渡した。
「ありがとう、ノエル。いいのか?」
「いいよ。アミナスは洞窟に出る前に母さまから送られてきたおにぎりって言う食べ物をたらふく食べてたから」
「そうか。では遠慮なくいただこう。ああ、美味いな。しかし……硬いな!」
歯が鍛えられそうだ! そんな事を言いながらティナはクッキーを頬張る。体力はほぼ限界に近いが、子どもたちや友人達のこういう優しさがティナの気力をいとも容易く復活させた。
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