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第586話 孤立

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 洞窟を出てからどれぐらい歩いただろうか。ようやく目の前に見慣れたチャップマン商会の倉庫が見えてきた。人形たちは故意に建物を破壊したりはしないようで、ただ物珍しげに建物の周りをうろつき、中をしきりに覗き込もうとしているだけだ。

「良かった! 建物は無事みたいよ、ライラ!」
「ええ! 窓も壊されたりはしていないようです!」
「あの高さは既に人形たちには毒なのではないか?」

 そう言ってティナが倉庫の窓を見上げた。窓はかなり高い場所に設置されていて、人形たちが登ろうとしてもあそこまでは届かないし、万が一届いたとしてもその瞬間、きっと光になって溶けてしまうだろう。

「そうね。あれは確か泥棒対策であの高さにしたのよね?」
「はい。ここの倉庫にはまだ世間には出ていない商品が沢山あるので、リー君が中を覗いたり入ったり出来ないように窓を高くしようって」
「リー君は相変わらず用心深いな! 至る所に鼠返しまでついていて防犯対策はばっちりだな!」
「はい! 中にはコキシネル達の居住区もあるんです!」
「それは……誰も入ろうとしないわね」

 戦士妖精の家がそのまま新商品の倉庫になっていると聞いて、キャロラインは苦笑いを浮かべた。

 そこに突然オリバーからキャロラインに連絡が入った。

「二人共、ノア達から呼び出されたのだけれど、少し行ってきてもいいかしら?」
「かまわないぞ。ここまで来たら後は倉庫に結界を張るだけだしな」
「呼び出しだなんて何かあったのかもしれません! すぐに行ってください、キャロライン様。子どもたちはしっかり守りますので!」
「ありがとう、二人とも。それじゃあ少し行ってくるわ」

 頼もしい二人に笑顔を送ってキャロラインはすぐさま妖精手帳を使ってノア達の元へ向かった。
 
 
 
 時は少しだけ遡り、カインはシャルからの電話で地上の状況を詳しく聞いていた。

「そうか、分かった。それじゃあキャロライン達が子どもたちの所に行ってんだな?」
『ええ。それから、ノア達と連絡が取れません。そちらで調べてもらえますか?』
「ノア達と連絡が取れない? ああ、分かった。じゃな」

 カインは電話を切ってそのままノアに電話をしたが、シャルの言う通りノアとは連絡がつかない。それどころか、キリとアリス、シャルル、リアンとオリバーまでもが電話に出なかった。

「これは……何かあったか?」

 カインは慌ててレインボー隊たちから送られてくる情報を漁ったけれど、どこにもアリス達の情報がない。

「カイン、どうかしたか?」
「ああ、ルイス。ノア達と連絡が取れないんだ。そっちに何か情報は行ってないか?」
「なに!? こちらには何も来ていないぞ! そちらはどうだ?」

 青ざめて振り返ると、オルトもアルファも自分たちが持っていた資料をめくって首を振った。

「マズイな……何かあったか?」
「分かんね。何か情報入ったらすぐ教えて。俺はもう一回皆に連絡してくる」
「ああ。子どもたちにも何も連絡はいってないか?」
「駄目ですよ、ルイス様! 闇雲に子どもたちにそんな事を伝えたら、返って心配させてしまいます!」
「そ、そうだな。すまん。しかしあの面子で何かあるなどと考えにくいのだが」
「それは本当にそうだな。これは何かあったというよりも、今現在何かが継続中だと考える方が良いかもしれないな」

 オルトが眼鏡を上げながら敬語を使うのも止めて言うと、アルファとルイスは静かに頷いた。

 何にしても誰かがあちらに向かうべきかもしれない。そんな事を考えていたその時、オルトが小さな悲鳴を上げた。

「な、なんだ!?」

 驚いたルイスが急いでオルトを見ると、オルトはしゃがみ込んでおにぎりが入っている箱を覗き込んでいる。

「ど、どうかしたか? 好きに食べていいぞ?」
「あ、いや……減っている……ほら、また!」

 オルトはそう言って箱の中を指さした。すると、目の前でおにぎりが次々に消えていくのだ。それを見ていたルイスがポツリと言った。

「これは……恐らく回復中……だな」
「は?」
「こんな事をするのはアリスぐらいだ! やはり何かあったんだ!」

 声を荒らげたルイスの声が聞こえたのか、廊下からカインが戻ってきた。

「なんだよ、ルイス。大きな声で。で、そっちは誰かと連絡とれたか?」
「いや、誰とも繋がらない。ただ……おにぎりが消えている」
「ん?」
「だから! 先程からおにぎりが消えていくんだ! こんな事をするのはアリスぐらいだろう!?」
「おにぎりが……消える。そうだな。こんな事するのはアリスちゃんぐらいだな。シャルルが取り寄せてんのか?」
「恐らくそうに違いない。結構な量のおにぎりが消えた。カイン! これはやはり何かあったんじゃないのか!?」
「……ああ。ただ、おにぎりが消えているという事は、無事ではあるみたいだ。
何かがあって誰も連絡をしてくる余裕がない。そう考えるのが妥当だな」

 腕を組んで考え込んだカインを見て、オルトとアルファが何とも言えない顔をした。おにぎりが消えただけでそこまで推理するか? と思わなくもないが、アリスの事はこの二人の方がよほどよく理解している。

「つまり、これは嫁の仕業で、嫁たちの所になにかあったという事だな?」
「そのようですね。そうだ! 子どもたちは何か見ていないでしょうか?」
「先程ルイス王に心配させるから言うなと言わなかったか?」

 半眼になってオルトがアルファを見ると、アルファは慌てて首を振った。

「違います! レプリカに居る子達です!」
「ああ、なるほどな」

 そう言えばレプリカから子どもたちが地上を監視していると言っていた。それを思い出したオルトは机の上にモニターを取り出してレプリカに居る子どもたちに声をかけてみたが、こちらも誰とも繋がらない。一体何がどうなっているのだ!

「駄目だ! レプリカとも繋がらない!」
「まぁまぁ、落ち着いてください、オルトさん」

 イライラした様子で怒鳴ったオルトを慰めようとアルファが近寄ったその時だった。部屋が派手に光ったのだ。

「やぁ、しばらくお邪魔するよ」
「アンソニー王!?」

 光の中から聞こえてきた聞き覚えのある声は他の誰でもない、アンソニー王だ。やがて光が消えるとそこにはアンソニーとカールが立っている。

「ど、どうしてあなた達がここに?」

 驚いたアルファが二人に駆け寄ると、二人は互いに顔を見合わせて肩をすくめて見せた。

「情けないことにアリスにやられてね。逃げてきたんだ」
「……は?」

 アンソニーの言葉に固まったのはアルファだけではなかった。後ろでオルトもルイスもカインまでもが固まっている。
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