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第590話 想定以上のダメージ
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アリスは影アリスを思い切り真正面から殴りつけた。それをまともに受けた影アリスは後ろに吹っ飛ぶ。
一方アリスはと言えば、どれほどの力で影アリスを殴ったのか、自身も頬を押さえて蹲った。
そんなアリスを遠巻きに見ていたリアンがポツリと言う。
「あれ? 影殴っても本体に影響無いんじゃなかったっけ?」
「そう聞いてたんすけど……めっちゃ痛そうっすね」
遠く離れているのでよく見えないが、蹲ったアリスは小さく震えているように見える。
「規定以上のダメージを食らったら、やはり本体にも影響があるのではないでしょうか? 例えば……空からピアノが降ってきてぺちゃんこになったりとか?」
真顔でシャルルがそんな事を言うと、リアンは明らかに「はぁ?」という顔をする。
「例えがよく分かんないんだけど? ていうか、何で空からピアノ?」
「それぐらいありえない衝撃だと言うことです。何せアリスは素手で地面を割りますからね。それに本気で殴られたら、やはり痛いでしょう?」
「痛いって言うか、そういう感情を抱く前に昇天すると思うんすよ」
そういう意味では頬を押さえて蹲る程度で済んでいて良かったと思うが、あれはあくまでもアリスだからだ。もしもあれが自分たちだったらと思うとゾッとするオリバーである。
「んー……つまり、今近づくのは危ないって事だよね?」
「そういう事です。ここで大人しくしていましょう、合図があるまで」
「あんたが何か魔法かけりゃ早くないですか?」
「どうでしょうね……アリスに効果的な魔法なんて果たしてあるのでしょうか……」
「やるだけムダムダ。あいつ、ライラの雷モロに受けても笑ってんだよ」
攻撃魔法のほとんどはアリスに通用しない。避けるのも早いし最悪悪ふざけしてやり返してきたりするのだ。下手したらこちらが巻き込まれて命を失いかねない。
三人は顔を見合わせて岩陰からそっとアリス達を見守っていた。
アリスに思い切り殴られた影アリスは、すぐに反撃に出てきた。体勢を立て直すついでにここぞとばかりに勢いをつけて殴りかかってくる。と、見せかけて急にしゃがみ込み、アリスの足を大きく払った。
「あいたぁ!」
「っふ!」
ステーンと絵に描いたように派手に転がったアリス。それを見てノアが思わず吹き出した。そんなノアをキャロラインが「コイツマジか」の目で見ている。
「や、ごめん。何か決闘って言うより派手な喧嘩だなと思って」
「気持ちは分かりますが、この状況を楽しんでいるのはノア様だけですよ」
呆れたような顔をしながらロープを弄るキリにノアは申し訳無さそうに頭を下げると、食い入るようにアリスVS影アリスを見守っている。
「だがしかし! 私はタダでは転ばないっ! チェストー!」
派手に転ばされたアリスは腕で体を支えて下半身を起こし、影アリスの足を絡め取った。そして体を反転させれば影アリスもあっさりと横倒しになる。
アリスはその上に跨って影アリスを見下ろすと、思い切りその頬を殴りつけるが、影アリスはそれでも抵抗しようと腹筋を使って起き上がり、アリスのお腹に思い切り頭突きをしてきた。
「や、やるなお主……」
不意打ちに弱いアリスは思わずお腹を押さえると、その途端に形勢が逆転してしまう。
二人はしばらくボカボカと殴り合っていたが、元は同じアリスだ。このままでは埒が明かない。
アリスは影アリスから距離を取ると、大きく息を吸い込んだ。
「影、あんたが私から離れている間、私は色々と新技を開発してたんだよ。あんたの知らない技をね! 見よ! マッハ拳!」
アリスはそう言って一旦しゃがみ込むと、目にも留まらぬ速さで影アリスに近寄って、思い切り振りかぶった。
「マッハ……拳……」
「っふ……ふふ……ちょ、もう止めて、ほんとに……」
呆れを通り越した様子で呟いたキャロラインとキリの言葉がピタリと重なった。それに堪えきれず、ノアはとうとうお腹を抱えて笑い出す。
ノアの可愛いアリスは本気になればなるほど何故か芝居がかる。それだけでも面白いのに、相変わらずのネーミングセンスが輪をかけてくる。
こちらで仲間たちが呆れているうちに、気づけばアリスが優勢になっていた。
アリスは影アリスにも追えないほどのスピードで動き、あちこちから影に向かって拳を繰り出している。
「アリス! ちょっと落ち着きなさい!」
しばらくマッハ拳の語彙力に呆然としていたキャロラインがハッとした時には、アリスは影アリスをボコボコにしていて思わずキャロラインが声をかけたが、アリスは止まらない。
「これは兄さまの敵! ぐふぅ! そしてこれはキリの分! げふぅ!」
おかしい。影を殴っても切りつけない限りは本体に影響は無いと思っていたのに、実際は物凄く痛い。
影アリスにやられても自力で逃げ出してきた影ノアと影キリはこれに耐えたのか。おまけに本体の二人は倒れるまで痛いとも何とも言っていなかった。もしかしたらノアとキリはアリスの知らない間に物凄く強靭な肉体を手に入れたのだろうか?
そんな見当違いな事を考えながらアリスは影アリスを殴り続けた。
「アリス! もういいから! それ以上殴ったらあんた顔また腫れ上がるよ! ちょっと変態! キリ! 笑ってないで止めなってば!」
見兼ねたリアンがとうとう岩陰から飛び出すと、その後を追うようにオリバーとシャルルも飛び出してくる。それが聞こえたのか、ようやくノアが動いた。
一方アリスはと言えば、どれほどの力で影アリスを殴ったのか、自身も頬を押さえて蹲った。
そんなアリスを遠巻きに見ていたリアンがポツリと言う。
「あれ? 影殴っても本体に影響無いんじゃなかったっけ?」
「そう聞いてたんすけど……めっちゃ痛そうっすね」
遠く離れているのでよく見えないが、蹲ったアリスは小さく震えているように見える。
「規定以上のダメージを食らったら、やはり本体にも影響があるのではないでしょうか? 例えば……空からピアノが降ってきてぺちゃんこになったりとか?」
真顔でシャルルがそんな事を言うと、リアンは明らかに「はぁ?」という顔をする。
「例えがよく分かんないんだけど? ていうか、何で空からピアノ?」
「それぐらいありえない衝撃だと言うことです。何せアリスは素手で地面を割りますからね。それに本気で殴られたら、やはり痛いでしょう?」
「痛いって言うか、そういう感情を抱く前に昇天すると思うんすよ」
そういう意味では頬を押さえて蹲る程度で済んでいて良かったと思うが、あれはあくまでもアリスだからだ。もしもあれが自分たちだったらと思うとゾッとするオリバーである。
「んー……つまり、今近づくのは危ないって事だよね?」
「そういう事です。ここで大人しくしていましょう、合図があるまで」
「あんたが何か魔法かけりゃ早くないですか?」
「どうでしょうね……アリスに効果的な魔法なんて果たしてあるのでしょうか……」
「やるだけムダムダ。あいつ、ライラの雷モロに受けても笑ってんだよ」
攻撃魔法のほとんどはアリスに通用しない。避けるのも早いし最悪悪ふざけしてやり返してきたりするのだ。下手したらこちらが巻き込まれて命を失いかねない。
三人は顔を見合わせて岩陰からそっとアリス達を見守っていた。
アリスに思い切り殴られた影アリスは、すぐに反撃に出てきた。体勢を立て直すついでにここぞとばかりに勢いをつけて殴りかかってくる。と、見せかけて急にしゃがみ込み、アリスの足を大きく払った。
「あいたぁ!」
「っふ!」
ステーンと絵に描いたように派手に転がったアリス。それを見てノアが思わず吹き出した。そんなノアをキャロラインが「コイツマジか」の目で見ている。
「や、ごめん。何か決闘って言うより派手な喧嘩だなと思って」
「気持ちは分かりますが、この状況を楽しんでいるのはノア様だけですよ」
呆れたような顔をしながらロープを弄るキリにノアは申し訳無さそうに頭を下げると、食い入るようにアリスVS影アリスを見守っている。
「だがしかし! 私はタダでは転ばないっ! チェストー!」
派手に転ばされたアリスは腕で体を支えて下半身を起こし、影アリスの足を絡め取った。そして体を反転させれば影アリスもあっさりと横倒しになる。
アリスはその上に跨って影アリスを見下ろすと、思い切りその頬を殴りつけるが、影アリスはそれでも抵抗しようと腹筋を使って起き上がり、アリスのお腹に思い切り頭突きをしてきた。
「や、やるなお主……」
不意打ちに弱いアリスは思わずお腹を押さえると、その途端に形勢が逆転してしまう。
二人はしばらくボカボカと殴り合っていたが、元は同じアリスだ。このままでは埒が明かない。
アリスは影アリスから距離を取ると、大きく息を吸い込んだ。
「影、あんたが私から離れている間、私は色々と新技を開発してたんだよ。あんたの知らない技をね! 見よ! マッハ拳!」
アリスはそう言って一旦しゃがみ込むと、目にも留まらぬ速さで影アリスに近寄って、思い切り振りかぶった。
「マッハ……拳……」
「っふ……ふふ……ちょ、もう止めて、ほんとに……」
呆れを通り越した様子で呟いたキャロラインとキリの言葉がピタリと重なった。それに堪えきれず、ノアはとうとうお腹を抱えて笑い出す。
ノアの可愛いアリスは本気になればなるほど何故か芝居がかる。それだけでも面白いのに、相変わらずのネーミングセンスが輪をかけてくる。
こちらで仲間たちが呆れているうちに、気づけばアリスが優勢になっていた。
アリスは影アリスにも追えないほどのスピードで動き、あちこちから影に向かって拳を繰り出している。
「アリス! ちょっと落ち着きなさい!」
しばらくマッハ拳の語彙力に呆然としていたキャロラインがハッとした時には、アリスは影アリスをボコボコにしていて思わずキャロラインが声をかけたが、アリスは止まらない。
「これは兄さまの敵! ぐふぅ! そしてこれはキリの分! げふぅ!」
おかしい。影を殴っても切りつけない限りは本体に影響は無いと思っていたのに、実際は物凄く痛い。
影アリスにやられても自力で逃げ出してきた影ノアと影キリはこれに耐えたのか。おまけに本体の二人は倒れるまで痛いとも何とも言っていなかった。もしかしたらノアとキリはアリスの知らない間に物凄く強靭な肉体を手に入れたのだろうか?
そんな見当違いな事を考えながらアリスは影アリスを殴り続けた。
「アリス! もういいから! それ以上殴ったらあんた顔また腫れ上がるよ! ちょっと変態! キリ! 笑ってないで止めなってば!」
見兼ねたリアンがとうとう岩陰から飛び出すと、その後を追うようにオリバーとシャルルも飛び出してくる。それが聞こえたのか、ようやくノアが動いた。
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