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第591話 オズワルドが生き残る方法

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「アリス、そこらへんでいいよ。ねぇ影アリス、少しは正気を取り戻したかな?」

 ノアがグッタリと動かない影アリスに声をかけると、影アリスは涙目でコクリと頷く。やっぱりだ。影アリスのおでこにオズの紋様が浮かび上がってきている。

 影アリスの反応を見てノアが頷くと、それが合図だったと言わんばかりにキリと影ノア、影キリが駆け寄ってきて影アリスを取り押さえた。

 すかさずノアは影アリスのポシェットの中を漁って小さなメモ用紙を確認すると、影アリスに渡してやる。

「それじゃあ影アリス、レプリカでしっかり解除しておいで。あと、全部終わったらオズにお礼言うんだよ?」

 コクリ。

 影アリスは素直に頷いて自らお縄についた。そんなノアと影アリスを皆がギョッとしたような顔をして見ている。

「影、解除後はあなたの判断に任せます。お花畑には辛いでしょうが、よく考えて行動してください」

 キッ!

 こんな時でもしっかり嫌味を言うキリを影アリスは睨んで、持っていたメモを乱暴に引きちぎってその場から消えてしまう。

「さてアリス、怪我した所見せて」
「うん……ねぇ、めちゃくちゃ痛いんだけど、何で兄さまとキリは平気だったの?」

 頬を押さえながらアリスが言うと、ノアは苦笑いを浮かべる。

「それは影アリスが僕たちの影に本気で殴りかかってきたりしなかったからだよ」
「そうですよ。あなたの影に本気で殴られたら俺たちなどひとたまりもありません。ところでノア様、先程の話なのですが、どういう事ですか?」

 オズワルドにお礼を言えとか、刀をオズワルドに取られているだとか、それではまるでオズワルドがまだこちらの味方のようではないか。

「え? 今のが答えだよ。オズが影アリスに渡したのはレプリカ行きの妖精手帳だったんだ」
「は? なんでオズがそんな事すんの? 操られてるんでしょ?」
「それがそもそも違うのかもしれない」
「ど、どういう事っすか?」
「オズがバラに操られているというよりも、オズの中に居るヴァニタスが操られているのかもしれない」
「どういう事なの? ヴァニタスだけが操られているのなら、影アリスがあなた達を襲う必要なんて無かったはずでしょう?」

 首を傾げたキャロラインにノアは苦笑いを浮かべる。

「それは簡単だよ。単純にオズは影アリスを逃がそうとしたんだよ」
「だとしても! 何も襲う必要はなかったでしょう⁉」
「いいや、必要だよ。何か命令をしなければ影アリスを自分から離れさせる事は出来ないからオズはその手段を選んだんだよ」
「それはそうですね。何せ影アリスはオズの眷属……あ! もしかして」

 シャルルはそこまで言ってノアを見ると、ノアは真顔で頷いた。

「そう、眷属。確かにオズの中に居るヴァニタスはアメリアに支配されているのかもしれない。でも、オズの直属の眷属になった影アリスはアメリアの支配下にはおけないんだよ。もしもオズが完全にアメリアに支配されていたならきっと、まず僕たちの影を完全に始末していたはずなんだ。でもそれはしなかった。その時点でオズ自身が操られている訳じゃないって事が分かる。そりゃそうだよね。バラの制約自体、元々は初代妖精王が創ったものなんだから。同じ妖精王の力を持つオズを支配下に置けるとは思えない」
「でも兄さま、だったらどうしてオズの中のヴァニタスはアメリアの言いなりになってるの?」
「うーん、オズの作戦か、それか思った以上にヴァニタスへのバラの支配が強いかだね」
「作戦、ですか?」
「うん」
「それじゃあオズは最初からこうなる事が分かってたって事?」

 アリスの言葉にノアが腕組をして言う。

「だと思うよ。いや、まさかここに来てバラが関与してくるとまでは思っていなかったかもしれないけど、人形たちが復活しだしたら自我が無くなるだろうとは考えていたかもしれないね」

 ノアの言葉にリアンが何かに気付いたかのようにハッとした。

「もしかしてあいつ、それが分かってたから妖精王に自分の魔力預けたのかな⁉」
「そうなの?」
「うん、ジャスミンが言ってたんだ。妖精王はオズの魔力を一方的に預けられたみたいって」
「なるほど。だから妖精王は地下の全てを再現する事が出来たんだね。だとすると余計にこれはオズの計画だったのかもしれない。事前に自分の魔力を妖精王に分けておくことで自分を倒す時に妖精王が少しでも楽になるように、ってね」
「それは……少し自己犠牲がすぎるのでは?」
「そうでもないよ。オズが生き残るには2つの選択肢しかないんだ。一つは完膚なきまでにこの星を壊してこの星の管理者になる事。もう一つは妖精王に最後の浄化をさせて、ついでに自分の穢れも払ってもらう事。オズは後者を選んだんじゃないかな。これからもリゼとこの星の旅を続けたいのならなおさら、そうするしか手立ては無かった」
「ところが魔力が弱った所にアメリアのバラが復活しちゃって、まんまとヴァニタスが乗っ取られたって事? それ、結局意味ないじゃん」

 呆れたようなリアンの脇腹をオリバーが窘めるように小突いた。

「リー君、それは流石のオズにも予想は出来なかったと思うんすよ。だって、俺たちはアメリアの願いは完全に不老不死か新教会の永続だろうって思ってたんすから」
「まぁそれはそうなんだけどさ。それじゃあ影アリスが完全にオズの眷属になったのもオズの作戦?」
「だと思うよ。バラにヴァニタスが支配されそうになった時、オズはまず一番に影アリスを完全に自分の支配下においた。そしてすぐに影アリスに命令を出したんだ」
「だとしたらオズは本当に影アリスをこちらに戻すためだけに命令を出したという事?」
「多分ね。でないとあらかじめレプリカ行きの妖精手帳を渡したりしない。オズはヴァニタスがバラに支配される直前、影アリスにアンソニー王達を捕まえて来いって言った。そう言えば影キリと影の僕はそれを止めようと影アリスを追う。もちろん戦闘にはなるよ? でも影アリスは影の僕たちを倒せとは命令されてはいなかった。だから僕たちは無事だったんだ」
「ど、どうして⁉ 普通に解除すれば良かったじゃん!」
「それはしたくても出来なかったんだよ、多分。間に合わなかったって言った方が正しいのかもしれないけど」
「間に合わなかった、ですか?」
「うん。オズとヴァニタスは融合しちゃってるんだ。それこそ妖精王が引き剥がさない限りはオズもまた今までのように自由にならないんだと思うよ」
「それで苦肉の策で命令を出して自分から遠ざけたということですか」
「そういう事。皆も見たでしょ? さっき影アリスのおでこにオズの紋章が浮かんでた。あれはオズが影アリスとの関係を切ったからだよ。お前はいらない、どこにでも好きな所に行けってね」
「それがつまり解除という事ではないのですか?」
「いいえ、違います。一度入った紋章が表に出てきたという事は、相手を自由にしてやるという事ですが、眷属ではなくなったという事ではありません。あくまでも支配者はオズで、影アリスはオズの魔法によって動いているという意味です。恐らくですが、それがオズに出来る限界だったのでしょう。アメリアはあわよくば影アリスも使いこなそうとしていたのかもしれませんね」
「それは……すんでの所で助かったって事……っすね」

 感慨深そうに言うオリバーに仲間たちが頷いていた頃、アリスだけは全く別の事を考えていた。

「え⁉ ねぇ! それってレプリカに行った途端、影アリスは影に戻るって事⁉」

 アリスの言葉にシャルルが一瞬困ったように視線を逸して無言で頷く。

「そ、それは……私の影、どうなるの? も、もしかしてペラペラに戻っちゃうって事⁉」
「……かもしれません」
「ひょえぇ! だ、誰か持って帰ってきてくれるかなぁ?」
「心配するのそこ? まぁとりあえず分かったよ。つまり、オズは今自分の中で暴れそうになってるヴァニタスを抑えるのに必死って事だよね?」
「そういう事。リー君は相変わらず理解が早いね。ただ一つ心配なのは、オズが妖精王に自分の魔力を預けてしまっている事だね。どこまでオズがヴァニタス、というよりも初代妖精王の力に敵うのかが問題だよ」
「そっか……結果的にオズの中に初代妖精王の力が入り込んだって事なんだもんね。ちょ! これってすぐにでも王子達に報告した方がいいんじゃないの⁉」

 ノアの言葉を頷きながら聞き入っていたリアンだったが、ふと顔を上げて早口で言うと、アリス以外の全員が神妙な顔をして頷いた。
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