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第595話
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「ノア達が一旦こちらに戻ってくるそうだ」
「そっか。それじゃあいい機会だし全員をここに集めようか。あと、兄貴からさっきからやたらと連絡が入るんだ。これも共有したいし」
ルイスの元に入ったノアからの連絡を聞いてカインが言うと、ルイスが頷きすぐさま他の仲間達に連絡を取り始める。
しばらくして、英雄たちがレヴィウスの地下シェルターに集まった。
「子どもたちとティナとライラは?」
いくら待ってもティナとライラがやって来ない事を心配したリアンが言うと、キャロラインが自分のスマホを確認してリアンに見せてくれる。
「ライラは力を使いすぎて眠ってしまっているのよ。だから子供たちとティナと一緒にディノの地下に避難しているそうよ」
「そう。ありがと、お姫様」
あれほど無茶をするなと言ったのに、ライラはどうやら魔力が空っぽになるまで戦ったようだ。眉根を寄せるリアンを慰めるようにキャロラインが言う。
「ライラね、凄かったそうよ。たった一人で倉庫の周りに居た人形たちを追い払ったんですって」
「……ほんと、馬鹿なんだから」
相変わらず後先を考えずに無茶をするライラを叱りつけたい気持ちと、誇らしくて愛しく思う気持ちが相まって思わずリアンはいつもの嫌味を言ってしまったが、そんなリアンの本心が分かっているのか仲間たちがリアンを見る目が生暖かい。
「とりあえず変態! さっきの説明しないとでしょ!? それから妖精王達はまだ結界張ってんの!? あと、パパと師匠はどうしたの!」
「リー君、照れ隠しがあからさますぎますゾ!」
「うるさいっ!」
耳まで真っ赤にしたリアンがフイとそっぽを向くと、ようやく仲間たちはそれぞれの場所で起こった事を話しだした。
「なるほどな。まとめると、オズが根城にしているのはフォルスで間違い無さそうだ。あと、兄貴から連絡があって、アメリアはどうやらフォルスに居るみたいだ」
カインがメモを見ながら言うと、シャルとアランが頷いた。
「私達二人共オズの姿は確認しましたが、アメリアの姿は確認出来ていません」
「バラが発動したのであればアメリアはオズの側にやってくるかと思っていたのですが、近くまでは来ているんですね。まだ接触はしていないようですが」
困ったようなアランの言葉にノアが言う。
「まだ分からないからじゃない? オズが完璧にバラに支配されたという確証が無い。だからまだ近寄っては来ないって事だと思うけどね」
「そう考えるのが妥当でしょうね。バラの効力をアメリアは正確に知らないはずです。あの用心深いアメリアです。簡単に姿は表さないでしょうね」
「カールの言う通りだよ。アメリアは君たちが思っているよりもずっと執念深く、我慢強い。僕でさえ脱帽しそうになるほどね」
穏やかな顔をして言うアンソニーに皆の視線が集まったが、アンソニーはそんな視線を物ともせずに続けた。
「僕がアメリアであれば、皆の前に姿を現すのは妖精王がオズとヴァニタスを引き離した時だね。ノアの話が正しいのであれば、オズとヴァニタスが分離したと同時に初代妖精王の力はヴァニタスという実体を手に入れる訳だから」
「それはそっすよね。今はオズが初代妖精王の力を抑え込んでいる状態なんすもんね」
「そっか……でもさ、オズとヴァニタスが離れたってこっちは妖精王とオズが味方になるわけでしょ? たとえ初代妖精王の力をヴァニタスが手に入れたとしても、流石に二人も妖精王を相手にするのは無理じゃない?」
「リー君、初代妖精王だけじゃないよ。ヴァニタス自身の力も開放されてしまうんだよ」
「あ、そっか。でもヴァニタス自身の力ってどれほどのものなの?」
そう言ってリアンがちらりとアンソニー達を見たが、二人は困ったように視線を下げた。
「すまないが、僕たちも実体を持ったヴァニタスをこの目で見た訳じゃないんだよ。ただ、たとえ実体が無くとも彼の力は凄まじい。何せ地上のエネルギーを他の星にまとめて運ぶほどの力を持つのだからね。妖精王達の階級や特権なんかは僕たちにも分からないけれど、正のエネルギーを腹いっぱい食べたヴァニタスが初代妖精王の力を得たら……ちょっと想像も出来ないね。しかも操るのがアメリアだとしたら、素直に彼女がヴァニタスに他の星にエネルギーを運ばせるとは思えない」
静かなアンソニーの言葉に仲間たちは黙り込んだ。そんな中、ふとカインが口を開く。
「それってさ、もしかしてこっちが勝ってもマズイんじゃないの? ヴァニタスが万が一エネルギーを運べなかったらこの星は終わるんだよな?」
「ちょっと待ってちょうだい。だとしたら私達が今している事は全部無駄だということ?」
どちらが勝ったとしても結局エネルギーが溢れてこの星はパンクしてしまうではないか! 思わずキャロラインが立ち上がると、そんなキャロラインの手をルイスがそっと握ってきた。
「キャロ、落ち着け。まだ決定ではないんだ」
「そ、それはそうだけれど……では、どうすればいいというの……?」
全身から力が抜けていくかのようにキャロラインがストンと席につくと、そんなキャロラインを見てそれまでおにぎりを貪っていたアリスがキョトンとして言った。
「何で皆そんなに慌ててるの?」
「お嬢様、お願いですからよく分からないのなら口を挟まないでもらえますか?」
呆れたようにキリが言うと、アリスはやはりキョトンとしている。
「え? だって簡単じゃない? ヴァニタスにご飯あげなきゃいいんじゃん」
「は?」
アリスの言葉に思わず仲間たちは顔を見合わせたが、そんなアリスの意図を正しく汲んだのか、ノアとキリがポンと手を打った。
「なるほど。確かにその通りですね」
「ほんとだね。どうしてその可能性に気づかなかったんだろう。アリスはやっぱり天才なんじゃない?」
「天才と何とかとは紙一重と言いますからね」
「おいお前たち! 二人だけで納得せずに通訳をしてくれ!」
バセット家だけが分かるアリス語に思わずルイスが声を荒らげると、ノアは腕を組んで言った。
「簡単な話だよ。つまり、ヴァニタスがこれ以上のエネルギーを吸収する前に倒す。それだけの話」
「そ、そんな事出来るの?」
目を丸くしたキャロラインにノアは考え込む。アリスの導き出す答えはいつでも単純明快だけれど、流石に今回ばかりは難しいのではないだろうか。
「そこは妖精王に聞いてみないと何とも言えないけど、ディノと妖精王の力があれば何とかなりそうな気がしない?」
「どうだろうね。エネルギーは大気を漂い、ヴァニタスの合図で一斉に浮かび上がるという。そのエネルギーを横取りした後はどうするんだい?」
「問題はそこなんだよ。元々の予定ではヴァニタスをオズから引き離した時点で全て解決するはずだったんだよね。そしてヴァニタスにこの星からエネルギーを運んでもらってハッピーエンドのはずだったんだけど……」
「違うよ、兄さま! ヴァニタスだけじゃ無理だって言ってたじゃん! オズも助けたいならどっちみちどこかにエネルギーを保管しなきゃいけないんだよ!」
拳を握りしめてアリスが言うと、ノアは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。どうやら本気で忘れていたようだ。
「そうだったそうだった。ヴァニタス以外にもよその星にエネルギーを送る方法を見つけないといけないんだった」
けれど裏を返せばその方法さえ解れば、ヴァニタスを倒すことも可能かもしれない。
「そっか。それじゃあいい機会だし全員をここに集めようか。あと、兄貴からさっきからやたらと連絡が入るんだ。これも共有したいし」
ルイスの元に入ったノアからの連絡を聞いてカインが言うと、ルイスが頷きすぐさま他の仲間達に連絡を取り始める。
しばらくして、英雄たちがレヴィウスの地下シェルターに集まった。
「子どもたちとティナとライラは?」
いくら待ってもティナとライラがやって来ない事を心配したリアンが言うと、キャロラインが自分のスマホを確認してリアンに見せてくれる。
「ライラは力を使いすぎて眠ってしまっているのよ。だから子供たちとティナと一緒にディノの地下に避難しているそうよ」
「そう。ありがと、お姫様」
あれほど無茶をするなと言ったのに、ライラはどうやら魔力が空っぽになるまで戦ったようだ。眉根を寄せるリアンを慰めるようにキャロラインが言う。
「ライラね、凄かったそうよ。たった一人で倉庫の周りに居た人形たちを追い払ったんですって」
「……ほんと、馬鹿なんだから」
相変わらず後先を考えずに無茶をするライラを叱りつけたい気持ちと、誇らしくて愛しく思う気持ちが相まって思わずリアンはいつもの嫌味を言ってしまったが、そんなリアンの本心が分かっているのか仲間たちがリアンを見る目が生暖かい。
「とりあえず変態! さっきの説明しないとでしょ!? それから妖精王達はまだ結界張ってんの!? あと、パパと師匠はどうしたの!」
「リー君、照れ隠しがあからさますぎますゾ!」
「うるさいっ!」
耳まで真っ赤にしたリアンがフイとそっぽを向くと、ようやく仲間たちはそれぞれの場所で起こった事を話しだした。
「なるほどな。まとめると、オズが根城にしているのはフォルスで間違い無さそうだ。あと、兄貴から連絡があって、アメリアはどうやらフォルスに居るみたいだ」
カインがメモを見ながら言うと、シャルとアランが頷いた。
「私達二人共オズの姿は確認しましたが、アメリアの姿は確認出来ていません」
「バラが発動したのであればアメリアはオズの側にやってくるかと思っていたのですが、近くまでは来ているんですね。まだ接触はしていないようですが」
困ったようなアランの言葉にノアが言う。
「まだ分からないからじゃない? オズが完璧にバラに支配されたという確証が無い。だからまだ近寄っては来ないって事だと思うけどね」
「そう考えるのが妥当でしょうね。バラの効力をアメリアは正確に知らないはずです。あの用心深いアメリアです。簡単に姿は表さないでしょうね」
「カールの言う通りだよ。アメリアは君たちが思っているよりもずっと執念深く、我慢強い。僕でさえ脱帽しそうになるほどね」
穏やかな顔をして言うアンソニーに皆の視線が集まったが、アンソニーはそんな視線を物ともせずに続けた。
「僕がアメリアであれば、皆の前に姿を現すのは妖精王がオズとヴァニタスを引き離した時だね。ノアの話が正しいのであれば、オズとヴァニタスが分離したと同時に初代妖精王の力はヴァニタスという実体を手に入れる訳だから」
「それはそっすよね。今はオズが初代妖精王の力を抑え込んでいる状態なんすもんね」
「そっか……でもさ、オズとヴァニタスが離れたってこっちは妖精王とオズが味方になるわけでしょ? たとえ初代妖精王の力をヴァニタスが手に入れたとしても、流石に二人も妖精王を相手にするのは無理じゃない?」
「リー君、初代妖精王だけじゃないよ。ヴァニタス自身の力も開放されてしまうんだよ」
「あ、そっか。でもヴァニタス自身の力ってどれほどのものなの?」
そう言ってリアンがちらりとアンソニー達を見たが、二人は困ったように視線を下げた。
「すまないが、僕たちも実体を持ったヴァニタスをこの目で見た訳じゃないんだよ。ただ、たとえ実体が無くとも彼の力は凄まじい。何せ地上のエネルギーを他の星にまとめて運ぶほどの力を持つのだからね。妖精王達の階級や特権なんかは僕たちにも分からないけれど、正のエネルギーを腹いっぱい食べたヴァニタスが初代妖精王の力を得たら……ちょっと想像も出来ないね。しかも操るのがアメリアだとしたら、素直に彼女がヴァニタスに他の星にエネルギーを運ばせるとは思えない」
静かなアンソニーの言葉に仲間たちは黙り込んだ。そんな中、ふとカインが口を開く。
「それってさ、もしかしてこっちが勝ってもマズイんじゃないの? ヴァニタスが万が一エネルギーを運べなかったらこの星は終わるんだよな?」
「ちょっと待ってちょうだい。だとしたら私達が今している事は全部無駄だということ?」
どちらが勝ったとしても結局エネルギーが溢れてこの星はパンクしてしまうではないか! 思わずキャロラインが立ち上がると、そんなキャロラインの手をルイスがそっと握ってきた。
「キャロ、落ち着け。まだ決定ではないんだ」
「そ、それはそうだけれど……では、どうすればいいというの……?」
全身から力が抜けていくかのようにキャロラインがストンと席につくと、そんなキャロラインを見てそれまでおにぎりを貪っていたアリスがキョトンとして言った。
「何で皆そんなに慌ててるの?」
「お嬢様、お願いですからよく分からないのなら口を挟まないでもらえますか?」
呆れたようにキリが言うと、アリスはやはりキョトンとしている。
「え? だって簡単じゃない? ヴァニタスにご飯あげなきゃいいんじゃん」
「は?」
アリスの言葉に思わず仲間たちは顔を見合わせたが、そんなアリスの意図を正しく汲んだのか、ノアとキリがポンと手を打った。
「なるほど。確かにその通りですね」
「ほんとだね。どうしてその可能性に気づかなかったんだろう。アリスはやっぱり天才なんじゃない?」
「天才と何とかとは紙一重と言いますからね」
「おいお前たち! 二人だけで納得せずに通訳をしてくれ!」
バセット家だけが分かるアリス語に思わずルイスが声を荒らげると、ノアは腕を組んで言った。
「簡単な話だよ。つまり、ヴァニタスがこれ以上のエネルギーを吸収する前に倒す。それだけの話」
「そ、そんな事出来るの?」
目を丸くしたキャロラインにノアは考え込む。アリスの導き出す答えはいつでも単純明快だけれど、流石に今回ばかりは難しいのではないだろうか。
「そこは妖精王に聞いてみないと何とも言えないけど、ディノと妖精王の力があれば何とかなりそうな気がしない?」
「どうだろうね。エネルギーは大気を漂い、ヴァニタスの合図で一斉に浮かび上がるという。そのエネルギーを横取りした後はどうするんだい?」
「問題はそこなんだよ。元々の予定ではヴァニタスをオズから引き離した時点で全て解決するはずだったんだよね。そしてヴァニタスにこの星からエネルギーを運んでもらってハッピーエンドのはずだったんだけど……」
「違うよ、兄さま! ヴァニタスだけじゃ無理だって言ってたじゃん! オズも助けたいならどっちみちどこかにエネルギーを保管しなきゃいけないんだよ!」
拳を握りしめてアリスが言うと、ノアは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。どうやら本気で忘れていたようだ。
「そうだったそうだった。ヴァニタス以外にもよその星にエネルギーを送る方法を見つけないといけないんだった」
けれど裏を返せばその方法さえ解れば、ヴァニタスを倒すことも可能かもしれない。
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