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第596話
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「それじゃあ作戦変更な。エネルギーをヴァニタスから横取りしてどっかに保管。その間にディノを目覚めさせてアメリアからバラを引き剥がす。で、ヴァニタスにエネルギーを返してどっっか他所の星に運んでもらって、その後残ったエネルギーもオズの力を借りずにどうにかして他所の星に運び出す。なぁ、これ無理じゃね?」
指折り数えながら言うカインに仲間たちは全員顔を見合わせて黙り込む。その中にはあろうことかアンソニーとカールまでもが含まれていた。
「思うんだが――」
それまで会議室の入り口で仲間たちの話をじっと聞いていたアーロが口を開くと、あからさまに仲間たちが驚いたような顔をしてアーロを凝視してくる。
「びっくりした! あんた居たなら声ぐらいかけなよ!」
「そっすよ! ああ、今本気で心臓がギュッてなったっす」
「アーロ、いつの間にそこに居たの? 私も少し驚いてしまったわ」
「それだけの存在感を隠すとは流石だな、アーロ!」
口々にそんな事を言う仲間たちにアーロは相変わらず少しも動じる事なく言った。
「ずっと居たが。あと、声もかけたが」
「そうですよ。アーロは僕たちと一緒にここへ来ましたよ」
「ただじっと置物のように佇んでいただけですよね?」
仲間たちの反応に慌てるアランとからかうシャルにリアンは申し訳なさそうに笑う。
「あ、ほんと? 全然気づかなかった。ごめんごめん」
「いや、それは別に構わない。ところで、思うんだが」
「あ、うん。どうぞ」
相変わらずマイペースなアーロが何か話したそうにしているのでリアンが先を促すと、ようやくアーロは頷いて話しだした。
「ディノを目覚めさせるタイミングを早めてはどうだ?」
「と、言うと?」
「まずお前達が姉妹星に移り、ヤエを救助する」
「うん?」
「その間にディノを目覚めさせ、エネルギーを一箇所に集めさせる。ここはリゼに頼めばいい。元々は星の姫なんだ。覚醒すればそれぐらい出来るだろう。そしてヴァニタスとオズを引き離しオズを正気に戻す。その後オズには姫の元へ向かってもらう。妖精王にはその間に残りの負のエネルギーを一掃してもらいオズと合流。それからお前たちは戻るといい。最終決戦が待っているぞ」
そこまで言ってアーロは最後にアンソニーとカールを指さした。その言葉にアンソニーもカールもキョトンとしている。
「君の作戦では僕たちはこちらに戻るのかい?」
「当然だろう。ニコラもこちらへ戻すべきだ。なんだ、戻らないつもりだったのか?」
「まぁ……そうだね。そもそも戻り方が分からないんだ」
「そんなもの、ノアに聞けば一発だ。こいつの事だ。どうせ既にお前たちが戻れるよう随所に根回し済みに決まっている。そうだろう? ノア」
「もちろん。既に往復切符は手に入れてあるよ」
「おや? もしかしてカールはこの事を知っていた?」
ニコッと笑ったノアを見て仲間たちがなんとも言えない顔をしているが、アンソニーはそんな仲間たちを見渡してふとカールに尋ねた。
「ええ、まぁ。黙っていましたが、私もその方がいいと思うので」
「なるほど。参ったね。既にこちらへ戻ってくる為の外堀は埋められていたということか。それで? 最終決戦というのは?」
うっかり聞き逃しそうになったが、アーロは何やら不穏な話をしていた気がする。
「最終決戦は最終決戦だ。開放されたヴァニタスを引き連れたアメリアの軍隊と戦う事になると思うぞ」
「ど、どういう事!? もしかしてまだあっちに行ってない人たちが居たの!?」
思わずアリスが身を乗り出すと、アーロは首を振った。
「おかしいと思わなかったか? アメリアがたった一人こちらに残り、何の策もなくただバラが咲くのを待っていたと思うか?」
「確かに。エミリーをあっちに送ったのは失敗だったかな」
アーロの言葉を聞いて納得したようにノアが頷くと、アーロは首を振る。
「いや、エミリーを送ろうが送るまいがどのみち時が来ればアメリアの軍隊はこちらへ戻ってきていたはずだ」
「どうやってさ? 今はレプリカとこことの移動手段は閉じられているはずでしょ?」
「簡単な話だ。それこそ初代妖精王には簡単に出来る事だ。その力を今はアメリアが手に入れているという事は、必ず何か仕掛けてくるに違いない」
「だが、所詮相手は人間だろう? だったらこちらの方に分があるだろう!」
一番脅威なのは何と言っても初代妖精王の計り知れない力だ。ルイスが言うと、キャロラインとカインは頷いたが、ノア達は腕を組んで考え込んでいる。
「ルイス、そうはいかないかもしれませんよ」
「ん? どういう事だ? シャルル」
「初代妖精王の力を持っていると言う事は、もしかしたら――」
「古代妖精が敵に回る可能性があるわね」
「観測者さん! 終わったの!? 次元無事に閉じられた!?」
突然現れた観測者にアリスが駆け寄ると、観測者は真面目な顔をして頷き、部屋の中を見渡す。
「これだけ集まると壮観ね。次元は無事に結界を張ってきたから大丈夫よ」
「ちょっと待て! 観測者どの、さっきのは一体どういう意味だ!」
「落ち着いてちょうだい、ルイス王。初代妖精王の力に古代妖精達は逆らえない。何故なら古代妖精の生みの親だから。もしもアメリアが古代妖精をこちらにけしかけてくるつもりだとしたら厄介ね。何せ古代妖精は海や陸や空そのものなんですもの。こうしちゃいられないわ! ちょっと私古代妖精の中に創ってあるゲートを閉じてくるわね! アデュー!」
「あ……行っちゃった……」
それだけ言って観測者は部屋を飛び出して行ってしまった。そんな観測者の背中をアリスはポカンとして見送っていたが、それどころではない。
「に、兄さま! ど、どうする!? 古代妖精まで復活しちゃうかもだよ!」
「う~ん、困ったね。どうしよっかね? でもまずはアーロの作戦について話そうか。僕は良いと思うよ。どのみちディノはそろそろ目覚めてもらった方がいいかもしれない」
「ですがノア様、ディノを目覚めさせるとレックスが……」
「大丈夫。目覚めさせるだけならどうにもならないよ。魔力の返還さえしなきゃね。その為にはアンソニー王、カールさん、すぐに地球に行く準備をして。ほら早く」
ノアが促すと、アンソニーとカールは互いに顔を見合わせて困惑している。そんな二人を見てカインが口を開いた。
「いやノア、お前せめて説明してやれよ。どうしてそんな急ぐんだよ?」
「はっきり言って邪魔なんだよね、あのゲート。あれがあるばっかりにエネルギーは今もあそこに凝縮されてる。そこをアメリアに目をつけられたら本当に厄介なんだよ。だからさっさと壊したいんだ。そうしたら少しの空きが出来るでしょ?」
「なるほど。要は厄介払いしたいという訳だね? 分かった。それでは僕たちはあちらでヤエとニコラと合流してこよう。その後はどうすればいいんだい?」
「ヤエさんの家族が居る所にまとまって隠れていて。時が来たらカールさん、お願いね」
そう言ってチラリとカールを見ると、カールは困惑したような顔をしている。
「お願いね、と言われましてもその時がいつか私には分からないのですが」
「手紙を届けるよ。アラン、ゲートの作り方は覚えてる?」
「え、ええ」
「だったらあのゲートを壊す時に主要部分だけを取り外して手紙を一通送れるぐらいのエネルギーを溜めておいて保管しといて。それからニコラさんが確実に手紙を受信出来るゲートを早めに仕上げてもらっておいてね」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな事を突然言われても――」
「アラン様なら出来るよ! だって、天才魔道士だもん!」
「ア、アリスさん……分かりました。やってみます」
いつまで経ってもアリスに弱いアランにリアンとオリバーが白い目を向けてくるが、アリスに期待をかけられたら断れないアランだ。
「さて、それじゃあ皆動こう。アリス、アンソニー王達に防災セット多めに渡して。それが済んだらディノの寝室に集合ね」
「了解! すぐに荷物送るからちょっと待っててね! アンソニー王、カールさん」
それだけ言ってアリスは妖精手帳を使って部屋から消える。その後を追うようにアンソニーとカール、そしてアランも鳥居ゲートの元へ向かった。
「さて、それじゃあ僕たちも移動しよう」
「移動するって一体どこに……」
首を傾げたルイスにノアはニコッと笑った。
「もちろん、子どもたちの所にだよ。それに、レプリカの子達も何か思いついたみたいだしね」
指折り数えながら言うカインに仲間たちは全員顔を見合わせて黙り込む。その中にはあろうことかアンソニーとカールまでもが含まれていた。
「思うんだが――」
それまで会議室の入り口で仲間たちの話をじっと聞いていたアーロが口を開くと、あからさまに仲間たちが驚いたような顔をしてアーロを凝視してくる。
「びっくりした! あんた居たなら声ぐらいかけなよ!」
「そっすよ! ああ、今本気で心臓がギュッてなったっす」
「アーロ、いつの間にそこに居たの? 私も少し驚いてしまったわ」
「それだけの存在感を隠すとは流石だな、アーロ!」
口々にそんな事を言う仲間たちにアーロは相変わらず少しも動じる事なく言った。
「ずっと居たが。あと、声もかけたが」
「そうですよ。アーロは僕たちと一緒にここへ来ましたよ」
「ただじっと置物のように佇んでいただけですよね?」
仲間たちの反応に慌てるアランとからかうシャルにリアンは申し訳なさそうに笑う。
「あ、ほんと? 全然気づかなかった。ごめんごめん」
「いや、それは別に構わない。ところで、思うんだが」
「あ、うん。どうぞ」
相変わらずマイペースなアーロが何か話したそうにしているのでリアンが先を促すと、ようやくアーロは頷いて話しだした。
「ディノを目覚めさせるタイミングを早めてはどうだ?」
「と、言うと?」
「まずお前達が姉妹星に移り、ヤエを救助する」
「うん?」
「その間にディノを目覚めさせ、エネルギーを一箇所に集めさせる。ここはリゼに頼めばいい。元々は星の姫なんだ。覚醒すればそれぐらい出来るだろう。そしてヴァニタスとオズを引き離しオズを正気に戻す。その後オズには姫の元へ向かってもらう。妖精王にはその間に残りの負のエネルギーを一掃してもらいオズと合流。それからお前たちは戻るといい。最終決戦が待っているぞ」
そこまで言ってアーロは最後にアンソニーとカールを指さした。その言葉にアンソニーもカールもキョトンとしている。
「君の作戦では僕たちはこちらに戻るのかい?」
「当然だろう。ニコラもこちらへ戻すべきだ。なんだ、戻らないつもりだったのか?」
「まぁ……そうだね。そもそも戻り方が分からないんだ」
「そんなもの、ノアに聞けば一発だ。こいつの事だ。どうせ既にお前たちが戻れるよう随所に根回し済みに決まっている。そうだろう? ノア」
「もちろん。既に往復切符は手に入れてあるよ」
「おや? もしかしてカールはこの事を知っていた?」
ニコッと笑ったノアを見て仲間たちがなんとも言えない顔をしているが、アンソニーはそんな仲間たちを見渡してふとカールに尋ねた。
「ええ、まぁ。黙っていましたが、私もその方がいいと思うので」
「なるほど。参ったね。既にこちらへ戻ってくる為の外堀は埋められていたということか。それで? 最終決戦というのは?」
うっかり聞き逃しそうになったが、アーロは何やら不穏な話をしていた気がする。
「最終決戦は最終決戦だ。開放されたヴァニタスを引き連れたアメリアの軍隊と戦う事になると思うぞ」
「ど、どういう事!? もしかしてまだあっちに行ってない人たちが居たの!?」
思わずアリスが身を乗り出すと、アーロは首を振った。
「おかしいと思わなかったか? アメリアがたった一人こちらに残り、何の策もなくただバラが咲くのを待っていたと思うか?」
「確かに。エミリーをあっちに送ったのは失敗だったかな」
アーロの言葉を聞いて納得したようにノアが頷くと、アーロは首を振る。
「いや、エミリーを送ろうが送るまいがどのみち時が来ればアメリアの軍隊はこちらへ戻ってきていたはずだ」
「どうやってさ? 今はレプリカとこことの移動手段は閉じられているはずでしょ?」
「簡単な話だ。それこそ初代妖精王には簡単に出来る事だ。その力を今はアメリアが手に入れているという事は、必ず何か仕掛けてくるに違いない」
「だが、所詮相手は人間だろう? だったらこちらの方に分があるだろう!」
一番脅威なのは何と言っても初代妖精王の計り知れない力だ。ルイスが言うと、キャロラインとカインは頷いたが、ノア達は腕を組んで考え込んでいる。
「ルイス、そうはいかないかもしれませんよ」
「ん? どういう事だ? シャルル」
「初代妖精王の力を持っていると言う事は、もしかしたら――」
「古代妖精が敵に回る可能性があるわね」
「観測者さん! 終わったの!? 次元無事に閉じられた!?」
突然現れた観測者にアリスが駆け寄ると、観測者は真面目な顔をして頷き、部屋の中を見渡す。
「これだけ集まると壮観ね。次元は無事に結界を張ってきたから大丈夫よ」
「ちょっと待て! 観測者どの、さっきのは一体どういう意味だ!」
「落ち着いてちょうだい、ルイス王。初代妖精王の力に古代妖精達は逆らえない。何故なら古代妖精の生みの親だから。もしもアメリアが古代妖精をこちらにけしかけてくるつもりだとしたら厄介ね。何せ古代妖精は海や陸や空そのものなんですもの。こうしちゃいられないわ! ちょっと私古代妖精の中に創ってあるゲートを閉じてくるわね! アデュー!」
「あ……行っちゃった……」
それだけ言って観測者は部屋を飛び出して行ってしまった。そんな観測者の背中をアリスはポカンとして見送っていたが、それどころではない。
「に、兄さま! ど、どうする!? 古代妖精まで復活しちゃうかもだよ!」
「う~ん、困ったね。どうしよっかね? でもまずはアーロの作戦について話そうか。僕は良いと思うよ。どのみちディノはそろそろ目覚めてもらった方がいいかもしれない」
「ですがノア様、ディノを目覚めさせるとレックスが……」
「大丈夫。目覚めさせるだけならどうにもならないよ。魔力の返還さえしなきゃね。その為にはアンソニー王、カールさん、すぐに地球に行く準備をして。ほら早く」
ノアが促すと、アンソニーとカールは互いに顔を見合わせて困惑している。そんな二人を見てカインが口を開いた。
「いやノア、お前せめて説明してやれよ。どうしてそんな急ぐんだよ?」
「はっきり言って邪魔なんだよね、あのゲート。あれがあるばっかりにエネルギーは今もあそこに凝縮されてる。そこをアメリアに目をつけられたら本当に厄介なんだよ。だからさっさと壊したいんだ。そうしたら少しの空きが出来るでしょ?」
「なるほど。要は厄介払いしたいという訳だね? 分かった。それでは僕たちはあちらでヤエとニコラと合流してこよう。その後はどうすればいいんだい?」
「ヤエさんの家族が居る所にまとまって隠れていて。時が来たらカールさん、お願いね」
そう言ってチラリとカールを見ると、カールは困惑したような顔をしている。
「お願いね、と言われましてもその時がいつか私には分からないのですが」
「手紙を届けるよ。アラン、ゲートの作り方は覚えてる?」
「え、ええ」
「だったらあのゲートを壊す時に主要部分だけを取り外して手紙を一通送れるぐらいのエネルギーを溜めておいて保管しといて。それからニコラさんが確実に手紙を受信出来るゲートを早めに仕上げてもらっておいてね」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな事を突然言われても――」
「アラン様なら出来るよ! だって、天才魔道士だもん!」
「ア、アリスさん……分かりました。やってみます」
いつまで経ってもアリスに弱いアランにリアンとオリバーが白い目を向けてくるが、アリスに期待をかけられたら断れないアランだ。
「さて、それじゃあ皆動こう。アリス、アンソニー王達に防災セット多めに渡して。それが済んだらディノの寝室に集合ね」
「了解! すぐに荷物送るからちょっと待っててね! アンソニー王、カールさん」
それだけ言ってアリスは妖精手帳を使って部屋から消える。その後を追うようにアンソニーとカール、そしてアランも鳥居ゲートの元へ向かった。
「さて、それじゃあ僕たちも移動しよう」
「移動するって一体どこに……」
首を傾げたルイスにノアはニコッと笑った。
「もちろん、子どもたちの所にだよ。それに、レプリカの子達も何か思いついたみたいだしね」
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