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第597話
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時はほんの少しだけ遡り、レプリカの子どもたちが集う広場には、今や子供以外にも星を守るのを手伝いたいと志願してきた人たちで溢れかえっていた。
「さぁ並んでくれ! こちらの物は既にカメラが搭載されている。受け取った者はそのままルークかローズの所で簡単な練習をしてほしい。そして最終試験はテオが行う。それに合格した者はあちらへ移動して説明を聞いてくれ!」
ライアンが声を張り上げると、集まった人たちは真剣な顔をして頷いた。
星が今どうなっているのか、ローズが操る『空飛ぶうさぎちゃん号』から映像がレプリカに送られてきている。そろそろ妖精王の出番だろうと思われる場面でも妖精王は一向に姿を現さず、皆がヤキモキしていた所に降って湧いたのがこの作戦だ。
最初は子どもたちだけで行う予定だったが、ノエル達はどうやら全ての在庫をこちらに寄越してくれたようで、集まった子どもたち全員に渡したとしても有り余る程の数があったのだ。
ジャスミンからラジコンを受け取った人たちはそれぞれルークとローズの所に行き、真剣な顔をして操作方法を学び、少しの練習をして試験を受けた。
「はい、お兄さん合格。クラーク伯爵の所でスマホと連携してもらって。何か見つけたらすぐに連絡お願いします」
「分かりました!」
テオよりも少しだけ年上の青年はそう言ってテオに頭を下げて足早にクラーク伯爵の元へと向かう。
「試験ご苦労さまでした。それでは連携しますね。これであなたの操縦するラジコンから常に映像がここへ送られてくるようになります。もしも何かを発見した場合はすぐにその場所をマッピングして、この番号へメッセージしてください。それではラジコンをあちらに送りますね」
そう言ってクラーク家当主アベルが細かい説明が載った紙を青年に渡すと、青年の眼の前でラジコンをアランから受け取っていた妖精手帳を使って星に送った。その途端、青年のスマホに勝手に映像が送られてくる。
「おお!」
「成功ですね。では、よろしくお願いします」
「は、はい!」
青年はスマホとコントローラーを握りしめて早足で幼い妹の元へ戻った。
「兄ちゃん一番だったよ!」
「ああ。シア、見てろよ。兄ちゃん頑張るからな!」
「うん!」
二人は孤児だ。兄が10歳の時、両親がある日突然姿を消した。兄に残されたのは生まれたばかりの幼い妹、シアだけだった。兄は妹を守るためそれから毎日盗みを繰り返して生計を立てていた。本当は真っ当に働きたかったけれど、日雇いの仕事だけでは二人が生きていく事は難しかったのだ。
そんなある日、とうとう兄は警邏隊に捕まってしまう。そこへたまたまやってきたのがチャップマン商会のダニエルだった。
兄の事情を聞いたダニエルは憤り、そのまま二人を保護して隣町の国が経営する孤児院に二人を入れてくれたのだ。
孤児院では簡単な仕事をしていた。兄は今まで盗んだ物の代金を支払い、罪を償った。
それから二人は両親と居た時よりもずっと穏やかな生活を送っていた。たまに王妃キャロラインがやってきて冒険の話を皆に聞かせてくれたり、アリスの作った新作を味見したり、毎日は驚くほど楽しかった。
世界がこんなにも楽しい所だと知ったのは、全て孤児院の、助けてくれた皆のおかげだったのだ。
「恩返ししような、シア」
「うん!」
兄妹はスマホに映された変わり果てた星の姿を見て決意を固めた。
「はい、合格。このままクラーク伯爵の所に行って。あ、君スマホ持ってる?」
テオが幼い少年に尋ねると、少年は首を傾げた。そんな少年の仕草を見てテオも首を傾げてしまう。そこへ一人の少女が慌てた様子で駆け寄ってきた。少年と同じぐらいの年齢だ。その子はさっきテオが合格を告げた子だった。
「すみません! この子、耳が聞こえないんです。でもこの作戦には絶対に参加したいって……出来ますか?」
「もちろん。そうか、聞こえないのか。それじゃあえっと……」
テオがちらりと少女を見ると、少女は胸を叩いて言った。
「私が通訳します!」
そう言って少女は手話を使って少年とコミュニケーションを図ると、少年は花が咲いたように笑って大きく頷く。
「ありがとう。それじゃあ君たちは二人一組で頼むよ。このままクラーク伯爵の所へ行って、スマホと連携してもらってね」
「はい!」
少女は頷いてすぐさまそれを少年に伝えると、少年はやはり満面の笑みを浮かべる。そんなあまりにも邪気のない笑顔を見て思わずテオも微笑んでしまった。
耳が聞こえない子も今回の作戦に参加している。それを知ったテオはそれまであちこちの見張りをしていたユーゴに説明を書いた看板を用意してもらった。どんな人も同じ星に住んでいるのだ。自分達が住む世界を守りたいと思うのは当然の事だ。
ちらりとクラーク家のテントを見ると、アベルもまた少年と少女の頭を撫でて微笑んでいる。あの少年達はどうやら笑うだけで人々を朗らかな気持ちにさせるらしい。物凄い才能だ。
それからも人々がラジコンを持ってやってきた。その一人一人をテオがテストしていく。中にはラジコンの操作がイマイチで不合格になる人も居た。
けれどそんな人達にもやるべき事はある。
「ごめんなさい、ちょっと操作が不安だから君は不合格だよ」
テオが言うと、少女は悲しそうに視線を伏せた。そんな少女にテオは言う。
「でもやるべき事はある。そちらをやってくれる?」
「え?」
「ラジコンを操作する事だけが世界を救う訳じゃない。ここに集まった人たちは皆、世界を、星を守る手助けをしたいと願った人たちだ。君もそうだよね?」
「うん」
「だったら君の仕事は沢山送られてくる情報をまとめる事をしてほしい。ライト家へ行って、その説明を聞いてきてくれる?」
「私にも……出来る事ありますか?」
「もちろん。誰にでも、どんな人にも出来る事がある。向き不向きはそりゃあるけれど、だからと言って役割が無い訳ではないよ」
「私、頑張る!」
「うん、その意気だ」
はにかみながら笑顔を浮かべた少女にテオは一枚の紙を渡してライト家に送り出した。少女はその紙を持って嬉々としてライト家のテントに向かって駆けていく。
中には声を荒らげる人たちも居たけれど、テオは公爵家の長男だ。強くは言えずすごすごとその場を去る者や、合格した人に嫌がらせをしていく人も居た。そういう人たちをルーイとユーゴを始めとする有志で集まった騎士団の人たちが片っ端から捕まえて行く。
「さぁ並んでくれ! こちらの物は既にカメラが搭載されている。受け取った者はそのままルークかローズの所で簡単な練習をしてほしい。そして最終試験はテオが行う。それに合格した者はあちらへ移動して説明を聞いてくれ!」
ライアンが声を張り上げると、集まった人たちは真剣な顔をして頷いた。
星が今どうなっているのか、ローズが操る『空飛ぶうさぎちゃん号』から映像がレプリカに送られてきている。そろそろ妖精王の出番だろうと思われる場面でも妖精王は一向に姿を現さず、皆がヤキモキしていた所に降って湧いたのがこの作戦だ。
最初は子どもたちだけで行う予定だったが、ノエル達はどうやら全ての在庫をこちらに寄越してくれたようで、集まった子どもたち全員に渡したとしても有り余る程の数があったのだ。
ジャスミンからラジコンを受け取った人たちはそれぞれルークとローズの所に行き、真剣な顔をして操作方法を学び、少しの練習をして試験を受けた。
「はい、お兄さん合格。クラーク伯爵の所でスマホと連携してもらって。何か見つけたらすぐに連絡お願いします」
「分かりました!」
テオよりも少しだけ年上の青年はそう言ってテオに頭を下げて足早にクラーク伯爵の元へと向かう。
「試験ご苦労さまでした。それでは連携しますね。これであなたの操縦するラジコンから常に映像がここへ送られてくるようになります。もしも何かを発見した場合はすぐにその場所をマッピングして、この番号へメッセージしてください。それではラジコンをあちらに送りますね」
そう言ってクラーク家当主アベルが細かい説明が載った紙を青年に渡すと、青年の眼の前でラジコンをアランから受け取っていた妖精手帳を使って星に送った。その途端、青年のスマホに勝手に映像が送られてくる。
「おお!」
「成功ですね。では、よろしくお願いします」
「は、はい!」
青年はスマホとコントローラーを握りしめて早足で幼い妹の元へ戻った。
「兄ちゃん一番だったよ!」
「ああ。シア、見てろよ。兄ちゃん頑張るからな!」
「うん!」
二人は孤児だ。兄が10歳の時、両親がある日突然姿を消した。兄に残されたのは生まれたばかりの幼い妹、シアだけだった。兄は妹を守るためそれから毎日盗みを繰り返して生計を立てていた。本当は真っ当に働きたかったけれど、日雇いの仕事だけでは二人が生きていく事は難しかったのだ。
そんなある日、とうとう兄は警邏隊に捕まってしまう。そこへたまたまやってきたのがチャップマン商会のダニエルだった。
兄の事情を聞いたダニエルは憤り、そのまま二人を保護して隣町の国が経営する孤児院に二人を入れてくれたのだ。
孤児院では簡単な仕事をしていた。兄は今まで盗んだ物の代金を支払い、罪を償った。
それから二人は両親と居た時よりもずっと穏やかな生活を送っていた。たまに王妃キャロラインがやってきて冒険の話を皆に聞かせてくれたり、アリスの作った新作を味見したり、毎日は驚くほど楽しかった。
世界がこんなにも楽しい所だと知ったのは、全て孤児院の、助けてくれた皆のおかげだったのだ。
「恩返ししような、シア」
「うん!」
兄妹はスマホに映された変わり果てた星の姿を見て決意を固めた。
「はい、合格。このままクラーク伯爵の所に行って。あ、君スマホ持ってる?」
テオが幼い少年に尋ねると、少年は首を傾げた。そんな少年の仕草を見てテオも首を傾げてしまう。そこへ一人の少女が慌てた様子で駆け寄ってきた。少年と同じぐらいの年齢だ。その子はさっきテオが合格を告げた子だった。
「すみません! この子、耳が聞こえないんです。でもこの作戦には絶対に参加したいって……出来ますか?」
「もちろん。そうか、聞こえないのか。それじゃあえっと……」
テオがちらりと少女を見ると、少女は胸を叩いて言った。
「私が通訳します!」
そう言って少女は手話を使って少年とコミュニケーションを図ると、少年は花が咲いたように笑って大きく頷く。
「ありがとう。それじゃあ君たちは二人一組で頼むよ。このままクラーク伯爵の所へ行って、スマホと連携してもらってね」
「はい!」
少女は頷いてすぐさまそれを少年に伝えると、少年はやはり満面の笑みを浮かべる。そんなあまりにも邪気のない笑顔を見て思わずテオも微笑んでしまった。
耳が聞こえない子も今回の作戦に参加している。それを知ったテオはそれまであちこちの見張りをしていたユーゴに説明を書いた看板を用意してもらった。どんな人も同じ星に住んでいるのだ。自分達が住む世界を守りたいと思うのは当然の事だ。
ちらりとクラーク家のテントを見ると、アベルもまた少年と少女の頭を撫でて微笑んでいる。あの少年達はどうやら笑うだけで人々を朗らかな気持ちにさせるらしい。物凄い才能だ。
それからも人々がラジコンを持ってやってきた。その一人一人をテオがテストしていく。中にはラジコンの操作がイマイチで不合格になる人も居た。
けれどそんな人達にもやるべき事はある。
「ごめんなさい、ちょっと操作が不安だから君は不合格だよ」
テオが言うと、少女は悲しそうに視線を伏せた。そんな少女にテオは言う。
「でもやるべき事はある。そちらをやってくれる?」
「え?」
「ラジコンを操作する事だけが世界を救う訳じゃない。ここに集まった人たちは皆、世界を、星を守る手助けをしたいと願った人たちだ。君もそうだよね?」
「うん」
「だったら君の仕事は沢山送られてくる情報をまとめる事をしてほしい。ライト家へ行って、その説明を聞いてきてくれる?」
「私にも……出来る事ありますか?」
「もちろん。誰にでも、どんな人にも出来る事がある。向き不向きはそりゃあるけれど、だからと言って役割が無い訳ではないよ」
「私、頑張る!」
「うん、その意気だ」
はにかみながら笑顔を浮かべた少女にテオは一枚の紙を渡してライト家に送り出した。少女はその紙を持って嬉々としてライト家のテントに向かって駆けていく。
中には声を荒らげる人たちも居たけれど、テオは公爵家の長男だ。強くは言えずすごすごとその場を去る者や、合格した人に嫌がらせをしていく人も居た。そういう人たちをルーイとユーゴを始めとする有志で集まった騎士団の人たちが片っ端から捕まえて行く。
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