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第605話
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「嫌味? 確かに当時は、というよりも事情を知るまでは確かに俺はお前のした事を許せなかったが、アリスが居なければルーデリアが滅びていたかもしれない。そういう意味では感謝している」
「それは別にお前とエリザベスの子でもそうなってたかもしれないだろうが。俺はエリザベスに酷いことをした。アリスにとっても最低の父親だ。そう思っててくれた方が俺にとっては良かったんだよ」
「そうか? 例えば俺とリサが卒業してすんなり結婚していたとしても、たとえ娘が生まれていても、ああはならなかったと思うが」
「言っとくが、俺だってちゃんと子育てに携わってたらあんな娘に育ててねぇよ!」
腐ってもアーロもユアンも公爵家出身だ。まともにこの二人の元でアリスが育っていたら、アリスはきっとああはならなかっただろう。
さっさと戻ろうと踵を返したユアンの腕をアーロが掴んだ。あまりにも咄嗟の事にユアンが思わずその手を振り払うと、振り払われたアーロの手が壁の宝石に当たってしまった。
そして次の瞬間――。
「……ここは……どこだ?」
「……」
壁画が一瞬にして見たこともない絵になった。ユアンは周りを見渡して頭の中にある地下の通路の地図をどうにか思い出そうとするが、いくら思い返してもこの壁画は見覚えがない。
「ユアン、ここはどこなんだ?」
「わからん。地下だから方角も分からねぇ。参ったな」
「一旦外に出るか?」
「出たって多分分からないと思うぞ。壁画は森林の絵だ。ということは、地上もどっかの森の中って事なんだ。ここの絵は地上の風景と連動してる」
「なるほど。やはり面白い仕掛けだな。しかし今はこんな所でのんきに探検をしている場合でもない。これを使おう」
そう言ってアーロはポシェットの中からインディゴを取り出した。
「インディゴ、すまないが一番近い場所に居る仲間の所まで連れて行ってくれないか?」
コクリ。
「いい子だ。行くぞ、ユアン」
「ああ。てか、誰のせいで……まぁいい。悪いな、インディゴ」
ユアンの言葉にインディゴはもう一度頷いて蹲ると、どこかから反応が返ってきたのかてくてくと歩き出した。
「これ便利だよな。地下でも大人気だったんだ」
「地下にもレインボー隊が居たのか?」
「ああ。ただ地下では動かなかったけどな。当時ここはディノの管轄だった。だけどこれの販売が始まったとき、俺とアルファは子どもたちの分をまとめて地下に持ち込んだんだ。感触とかが子どもたちは好きだろうと思って。いつまでも地下に居る訳じゃないし、地上に出たら動くのもいるかもしれないしな」
言いながらインディゴの後ろ姿を見ていたユアンの耳にアーロの小さな笑い声が聞こえる。
「なんだよ」
「お前は本当に昔から変わらないな。世話焼きで情に厚い。孤立している俺をずっと追い回していたのは、それが理由だったんだな」
当時はただ単に勝手について回ってくる鬱陶しい男だと思っていたが。
「いや、あの時はお前を監視するっていう役目があったんだよ。だから必要以上にお前に絡んだんだが、肝心のお前はずっと屋上でエリザベスとダベるだけで何も情報は得られないし、特に目立った動きもしないしで何度途中で放り出そうと思った事か」
そしてその間にどんどん深みにハマっていってしまったのはアーロには口が裂けても言えない。正にミイラ取りがミイラになってしまったのだ。
そんなユアンの心など全く知らないアーロはさらに笑う。
「それは悪かったな。あの当時、俺は家のことは何も知らなかった。バレンシア家は既に全ての出来事は終わった事だと思っていたんだ。俺が当時知っていたのは、外に絶対に漏らす事が出来ない技術を、うちが保管しているという話だけだ。それも当主にならなければ知ることは出来なかった」
「うちが欲しかったのは正にその情報だったんだよ。だから俺は大した魔法を使うわけでも無いのに金積んで学園に入った。それはお前があの学園に入ったからだ」
「なるほど。では、本来であればお前は俺と友人にならなければならなかったのか」
「そういう事だ。けどお前、協調性は無いわ、いつもぼっちだわ、おまけに無口だわで全然誰とも絡まねぇし」
「俺はこう見えて人見知りが激しいんだ」
「あれがただの人見知り!? 人見知りにしても限度があんだろ!」
「だが本当の事だ。俺は仲良くなるのに最低でも二年はかかる。だからリサをみすみす他の男に取られたんだぞ」
エリザベスとようやくまともに会話が出来るようになり、もしかしたらこれが恋心かもしれないと気付いた時には既にエリザベスは庭師の男の子どもを妊娠していた。
だからあのときアーロはエリザベスの恋を応援する事しか出来なかったのだ。
「知るかよ! 自分で蒔いた種だろうが! まぁいいさ。そのおかげでお前の皆の印象はただのぼっちだったからな。それならそれでこっちからしたら好都合だ。どこにも情報が漏れないんだから」
顔が整いすぎて黙って立っていればそれだけで人はアーロを敬遠する。公爵家というのもあったのだろうが、アーロの人付き合いの悪さは定評があった。
「それである時から俺に絡んでこなくなったのか」
「ああ。別にお前と仲良くする必要が無くなったからな。でも監視だけはしてたぞ、ずっと」
けれどそれをしたばっかりにキャスパーにアーロとエリザベスの関係を気づかれてしまったのだ。あの頃は後々こんな事になるなどと夢にも思わなかった。
ユアンは覚悟を決めたように息を吸い込み言う。
「……悪かったな、アーロ」
「なんだ、急に」
「俺がエリザベスとお前の関係をキャスパーに気づかせてしまった。だからエリザベスはうちの家に狙われた。あいつがあんな目に遭ったのは、やっぱり俺のせいなんだ」
「それは俺ではなくてリサに言うべきだ。だからこそお前には生きろと言っている。もしもお前が今のまま消えたら、リサが悲しむだけじゃない。アリスだってノエル達だって悲しむ。何よりも、お前の魂がいつまで経っても救われない」
「……っ」
アーロの言葉にユアンは拳を握りしめた。心の中をまるで覗き見でもされたかのような気持ち悪さだ。
今となればアーロへの恋愛感情云々はただの言い訳に過ぎない。本当は今まで自分がしてきた色んな事への罪悪感に押し潰されそうになって、この場から、この世界から逃げてしまいたかっただけだ。地下で子どもたちやアンソニー達の面倒を見ていたのだって、罪悪感が少しでも軽くならないかと思ってしていたことだ。
それを知られたら最後、きっと誰も自分など見向きもしなくなるだろう。それが怖かった。そうなる前に消えてしまいたかった。どんな感情でもいいから、誰かの心の中に残りたかったのかもしれない。
「俺は人見知りだ。お前がどう思っていようと、俺にとって友人と呼べるような奴はハリーとお前ぐらいしか居ない。友人が間違えた道を進もうとしているなら、止めるべきだろう?」
「……知るか。生憎俺に友人は居ないんだよ」
ユアンはポツリと言って俯いた。
友人と言ってくれるのか。今更、友人だと思っているなどと言うのか。やっぱり憎まれ口を叩いたユアンに、それでもアーロは怒ったりはしなかった。
「ところで話は変わるがユアン」
「なんだよ」
「あれはどこの子だろうか?」
まだまだユアンには言いたい事があるが、今はそれどころではない。アーロは通路の先を指さして言った。
「え? あっ! あいつ!」
ユアンはアーロが指差す先を見て駆け出した。アレはどう見ても前にアルファと見た少女のお化けだ。幽霊の類は心底苦手なユアンだが、あの少女は幽霊だとは思えない。何というか、おどろおどろしさが全く無いのだ。幽霊独特の切羽詰まった感じもしない。
「おい、ユアン!」
「アーロ、壁に触んなよ! 絶対にだ! 大人しくそこで立って待ってろ!」
後ろから声をかけられて振り返ると、アーロは今しがた壁に手をつこうとしていたのか、中途半端な体勢で静止している。ここでアーロだけがどこかへ飛ばされたらもう本当に目も当てられない。
アーロがそれを聞いてシャンと立ったのを見てユアンは前方を見て怒鳴る。
「おい、お前!」
ユアンの声に気付いた少女は、ユアンを見るなり胸にインディゴを抱きかかえて駆け寄ってきた。その顔は正に満面の笑みだ。
「パパだ! パパ! やっと見つけた!」
「パパじゃねぇけどお前! どこ行ってたんだよ! あのとき、何で消えたんだ!」
心配しただろ! という言葉を飲み込んでユアンは少女を抱き上げた。
あの時は少女から抱きついてきたが、今度はユアンから抱き上げる。そしてもう絶対に離さないぞ、と心に誓う。
この少女は幽霊ではない。多分……恐らく。
「ユアン……お前、実はリサの他にも……?」
そんなユアンの行動を見ていたアーロが駆け寄って言うと、ユアンはそれを聞いてキッと睨んでくる。
「お前、それ以上言ったら本気で殴るぞ!?」
エリザベスは唯一アーロが愛した女だから抱けた。それ以外の女性にユアンは全く反応しない。それを知ってか知らずかアーロはそんな事を言う。
ユアンは少女を強く抱きしめたままアーロを睨みつけると、すぐさま少女に視線を移した。
「で、お前はどうしてあのとき俺たちの前から姿を消したんだ?」
「消してない。ずっと居た。でも保たなかったの」
「?」
「ん? ……あ、あの時の人だ。パパじゃない」
「違うって言ってんだろ」
「まだ耳と目を上手く使えないの。ねぇ、パパどこ?」
「どこって、こっちが聞きてぇよ」
目を細めてじっとユアンを見つめてくる少女にユアンが言うと、そのやりとりを聞いていたアーロが口を開いた。
「おいユアン、この子が何を言ってるのか俺にはさっぱり分からないんだが」
「俺にも分かんねぇ。とりあえず皆の所に戻るぞ。そこにこいつの父親が居るはずなんだ」
「そうなのか?」
「ああ、らしい」
そしてそれは多分、ユアンと同じ髪の色と瞳をしている。そこはユアンは伏せておいた。そんな人物は一人しか居なかったからだ。
「それは別にお前とエリザベスの子でもそうなってたかもしれないだろうが。俺はエリザベスに酷いことをした。アリスにとっても最低の父親だ。そう思っててくれた方が俺にとっては良かったんだよ」
「そうか? 例えば俺とリサが卒業してすんなり結婚していたとしても、たとえ娘が生まれていても、ああはならなかったと思うが」
「言っとくが、俺だってちゃんと子育てに携わってたらあんな娘に育ててねぇよ!」
腐ってもアーロもユアンも公爵家出身だ。まともにこの二人の元でアリスが育っていたら、アリスはきっとああはならなかっただろう。
さっさと戻ろうと踵を返したユアンの腕をアーロが掴んだ。あまりにも咄嗟の事にユアンが思わずその手を振り払うと、振り払われたアーロの手が壁の宝石に当たってしまった。
そして次の瞬間――。
「……ここは……どこだ?」
「……」
壁画が一瞬にして見たこともない絵になった。ユアンは周りを見渡して頭の中にある地下の通路の地図をどうにか思い出そうとするが、いくら思い返してもこの壁画は見覚えがない。
「ユアン、ここはどこなんだ?」
「わからん。地下だから方角も分からねぇ。参ったな」
「一旦外に出るか?」
「出たって多分分からないと思うぞ。壁画は森林の絵だ。ということは、地上もどっかの森の中って事なんだ。ここの絵は地上の風景と連動してる」
「なるほど。やはり面白い仕掛けだな。しかし今はこんな所でのんきに探検をしている場合でもない。これを使おう」
そう言ってアーロはポシェットの中からインディゴを取り出した。
「インディゴ、すまないが一番近い場所に居る仲間の所まで連れて行ってくれないか?」
コクリ。
「いい子だ。行くぞ、ユアン」
「ああ。てか、誰のせいで……まぁいい。悪いな、インディゴ」
ユアンの言葉にインディゴはもう一度頷いて蹲ると、どこかから反応が返ってきたのかてくてくと歩き出した。
「これ便利だよな。地下でも大人気だったんだ」
「地下にもレインボー隊が居たのか?」
「ああ。ただ地下では動かなかったけどな。当時ここはディノの管轄だった。だけどこれの販売が始まったとき、俺とアルファは子どもたちの分をまとめて地下に持ち込んだんだ。感触とかが子どもたちは好きだろうと思って。いつまでも地下に居る訳じゃないし、地上に出たら動くのもいるかもしれないしな」
言いながらインディゴの後ろ姿を見ていたユアンの耳にアーロの小さな笑い声が聞こえる。
「なんだよ」
「お前は本当に昔から変わらないな。世話焼きで情に厚い。孤立している俺をずっと追い回していたのは、それが理由だったんだな」
当時はただ単に勝手について回ってくる鬱陶しい男だと思っていたが。
「いや、あの時はお前を監視するっていう役目があったんだよ。だから必要以上にお前に絡んだんだが、肝心のお前はずっと屋上でエリザベスとダベるだけで何も情報は得られないし、特に目立った動きもしないしで何度途中で放り出そうと思った事か」
そしてその間にどんどん深みにハマっていってしまったのはアーロには口が裂けても言えない。正にミイラ取りがミイラになってしまったのだ。
そんなユアンの心など全く知らないアーロはさらに笑う。
「それは悪かったな。あの当時、俺は家のことは何も知らなかった。バレンシア家は既に全ての出来事は終わった事だと思っていたんだ。俺が当時知っていたのは、外に絶対に漏らす事が出来ない技術を、うちが保管しているという話だけだ。それも当主にならなければ知ることは出来なかった」
「うちが欲しかったのは正にその情報だったんだよ。だから俺は大した魔法を使うわけでも無いのに金積んで学園に入った。それはお前があの学園に入ったからだ」
「なるほど。では、本来であればお前は俺と友人にならなければならなかったのか」
「そういう事だ。けどお前、協調性は無いわ、いつもぼっちだわ、おまけに無口だわで全然誰とも絡まねぇし」
「俺はこう見えて人見知りが激しいんだ」
「あれがただの人見知り!? 人見知りにしても限度があんだろ!」
「だが本当の事だ。俺は仲良くなるのに最低でも二年はかかる。だからリサをみすみす他の男に取られたんだぞ」
エリザベスとようやくまともに会話が出来るようになり、もしかしたらこれが恋心かもしれないと気付いた時には既にエリザベスは庭師の男の子どもを妊娠していた。
だからあのときアーロはエリザベスの恋を応援する事しか出来なかったのだ。
「知るかよ! 自分で蒔いた種だろうが! まぁいいさ。そのおかげでお前の皆の印象はただのぼっちだったからな。それならそれでこっちからしたら好都合だ。どこにも情報が漏れないんだから」
顔が整いすぎて黙って立っていればそれだけで人はアーロを敬遠する。公爵家というのもあったのだろうが、アーロの人付き合いの悪さは定評があった。
「それである時から俺に絡んでこなくなったのか」
「ああ。別にお前と仲良くする必要が無くなったからな。でも監視だけはしてたぞ、ずっと」
けれどそれをしたばっかりにキャスパーにアーロとエリザベスの関係を気づかれてしまったのだ。あの頃は後々こんな事になるなどと夢にも思わなかった。
ユアンは覚悟を決めたように息を吸い込み言う。
「……悪かったな、アーロ」
「なんだ、急に」
「俺がエリザベスとお前の関係をキャスパーに気づかせてしまった。だからエリザベスはうちの家に狙われた。あいつがあんな目に遭ったのは、やっぱり俺のせいなんだ」
「それは俺ではなくてリサに言うべきだ。だからこそお前には生きろと言っている。もしもお前が今のまま消えたら、リサが悲しむだけじゃない。アリスだってノエル達だって悲しむ。何よりも、お前の魂がいつまで経っても救われない」
「……っ」
アーロの言葉にユアンは拳を握りしめた。心の中をまるで覗き見でもされたかのような気持ち悪さだ。
今となればアーロへの恋愛感情云々はただの言い訳に過ぎない。本当は今まで自分がしてきた色んな事への罪悪感に押し潰されそうになって、この場から、この世界から逃げてしまいたかっただけだ。地下で子どもたちやアンソニー達の面倒を見ていたのだって、罪悪感が少しでも軽くならないかと思ってしていたことだ。
それを知られたら最後、きっと誰も自分など見向きもしなくなるだろう。それが怖かった。そうなる前に消えてしまいたかった。どんな感情でもいいから、誰かの心の中に残りたかったのかもしれない。
「俺は人見知りだ。お前がどう思っていようと、俺にとって友人と呼べるような奴はハリーとお前ぐらいしか居ない。友人が間違えた道を進もうとしているなら、止めるべきだろう?」
「……知るか。生憎俺に友人は居ないんだよ」
ユアンはポツリと言って俯いた。
友人と言ってくれるのか。今更、友人だと思っているなどと言うのか。やっぱり憎まれ口を叩いたユアンに、それでもアーロは怒ったりはしなかった。
「ところで話は変わるがユアン」
「なんだよ」
「あれはどこの子だろうか?」
まだまだユアンには言いたい事があるが、今はそれどころではない。アーロは通路の先を指さして言った。
「え? あっ! あいつ!」
ユアンはアーロが指差す先を見て駆け出した。アレはどう見ても前にアルファと見た少女のお化けだ。幽霊の類は心底苦手なユアンだが、あの少女は幽霊だとは思えない。何というか、おどろおどろしさが全く無いのだ。幽霊独特の切羽詰まった感じもしない。
「おい、ユアン!」
「アーロ、壁に触んなよ! 絶対にだ! 大人しくそこで立って待ってろ!」
後ろから声をかけられて振り返ると、アーロは今しがた壁に手をつこうとしていたのか、中途半端な体勢で静止している。ここでアーロだけがどこかへ飛ばされたらもう本当に目も当てられない。
アーロがそれを聞いてシャンと立ったのを見てユアンは前方を見て怒鳴る。
「おい、お前!」
ユアンの声に気付いた少女は、ユアンを見るなり胸にインディゴを抱きかかえて駆け寄ってきた。その顔は正に満面の笑みだ。
「パパだ! パパ! やっと見つけた!」
「パパじゃねぇけどお前! どこ行ってたんだよ! あのとき、何で消えたんだ!」
心配しただろ! という言葉を飲み込んでユアンは少女を抱き上げた。
あの時は少女から抱きついてきたが、今度はユアンから抱き上げる。そしてもう絶対に離さないぞ、と心に誓う。
この少女は幽霊ではない。多分……恐らく。
「ユアン……お前、実はリサの他にも……?」
そんなユアンの行動を見ていたアーロが駆け寄って言うと、ユアンはそれを聞いてキッと睨んでくる。
「お前、それ以上言ったら本気で殴るぞ!?」
エリザベスは唯一アーロが愛した女だから抱けた。それ以外の女性にユアンは全く反応しない。それを知ってか知らずかアーロはそんな事を言う。
ユアンは少女を強く抱きしめたままアーロを睨みつけると、すぐさま少女に視線を移した。
「で、お前はどうしてあのとき俺たちの前から姿を消したんだ?」
「消してない。ずっと居た。でも保たなかったの」
「?」
「ん? ……あ、あの時の人だ。パパじゃない」
「違うって言ってんだろ」
「まだ耳と目を上手く使えないの。ねぇ、パパどこ?」
「どこって、こっちが聞きてぇよ」
目を細めてじっとユアンを見つめてくる少女にユアンが言うと、そのやりとりを聞いていたアーロが口を開いた。
「おいユアン、この子が何を言ってるのか俺にはさっぱり分からないんだが」
「俺にも分かんねぇ。とりあえず皆の所に戻るぞ。そこにこいつの父親が居るはずなんだ」
「そうなのか?」
「ああ、らしい」
そしてそれは多分、ユアンと同じ髪の色と瞳をしている。そこはユアンは伏せておいた。そんな人物は一人しか居なかったからだ。
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