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第619話

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「ディノ、そんなエゴ生き物なら皆持ってるよ! 誰だって親しい人が居なくなったら悲しむし、死んでほしくないって思うよ! 頭ではどれだけ分かっていても、それは理屈じゃない。感情なんてそんな単純じゃないもん! それにね、ディノがそうやってエゴを振りかざしてこの二人に永遠の命を渡したからこそ、今こうやって皆が集まって星を守る為に動けてるんだよ。結果、ディノがした事は星を守るための一貫に過ぎなかったって事だよ! ちゃんと証拠もあるよ!」
「証拠? 私がした事が間違っていなかったという証拠か?」
「うん! それはね、ソラが動いてないって事!」

 アリスが胸を張って言うと、仲間たちが全員頷いた。

「それはそうよね。アリスの言う通りだわ。ソラという存在を知ったからこそ分かるのだけれど、妖精王が言うにはソラという方は生物の自主性は重んじているようだけれど、自由な振る舞いには必ず罰を与えているもの」
「そうですよね……だからリセットの原因を作った初代妖精王を処分したんだって言ってましたもんね」

 確か妖精王はそう言っていたはずだ。

 ライラの言葉にシャルルも頷く。

「その通りですよ、ディノ。ソラは今のこの現状を読めていたのではないでしょうか。だからこそリセット前の生物であるあなたを残した。あなたが唯一無二の親友を得る事も、その親友の死を受け入れられなくて悲しむことも視野に入っていたのだとしたら、あなたのとった行動は何一つ間違いではなかったはずです」
「おまけにもう一つ付け足すと、ソラは別にこの二人が永遠に生き続ける事を許した訳ではありませんよ」
「どういう……意味だ?」

 シャルの言葉にディノが問うと、シャルは腕を組んで言う。

「時が来たらヤエさんを助けにこの二人が姉妹星に渡るように仕向けたからです。いえ、仕向けたというよりはそれが必然だったというべきかもしれませんね」
「僕たちはヤエを助ける為に姉妹星に移り、君がかけた魔法を解除してきたんだ。それが出来たのは、彼らが観測者という存在を探し出しエネルギーを効率良く貯める術を僕たちに教えてくれたからだ。そして全員でこちらに戻ってくる為の妖精王との契約の根回しもしてくれた。それは僕たちが仕掛けた前の戦争で築き上げた彼らと妖精王との絆があってこその事なんだよ」
「ディノ、世界はいつだって必然で出来ています。だからあなたが何かしようとも、ソラがそれを許したという事は、その時点でそれは必要な事だったと言うことなんだと、私は思いますよ」
「カールまで……そうか、ソラの規制が入らなかったのは、そういう意図があったからだったのか。ソラの存在は初代妖精王から聞いていたが、そこまでの力のある方だったのだな……」
「ソラはね、この星の事、すっごく愛してくれてるんだなって思うよ」

 アリスが言うと、アランが首を傾げた。

「そうですか? どうしてアリスさんはそう思うのです?」
「えー、だって、愛してなかったらこんな何百年も何千年も様子見しないよ! いらないなって思った時点でドカンしてポイだよ! でもそれをしなかったって事は、ソラにとってこの星はとても思い入れが深くて可愛いんだろうなって。妖精王の代わりをしてくれたのだって、きっとそういう事なんだと私は思ってるよ!」
「相変わらずお嬢様はお花畑で良いですね。まぁでもあながち間違いではないでしょう。星の存続などソラにとっては簡単な事でしょうから」
「ただの実験台って可能性もあるけどね。いや、モデル星にしたいのかな? そこらへんは分からないけど、ソラにとって星は我が子同然の存在なんだと思うよ。どんな星でも宇宙に生まれた時点で簡単に投げ出したりはきっとしない。それにほら、手のかかる子って何だかんだ言いながらも可愛いでしょ?」

 そう言ってノアはちらりとアリスを見たが、それと同時に信じられないものでも見るかのようなキリの視線が突き刺さる。

 皆の話を聞いてディノがようやく顔を上げた。涙こそ流していないが、ラピスラズリの青い瞳が、何だか揺らめいて見える。

「ディノ、改めて言わせてもらおう。ありがとう。君の不死の魔法のおかげでようやくここまでやってくる事が出来たんだ。君や姫だけが星の責任を背負う時代はもう終わりだ。これからはこの星に住む生物が全ての力を合わせて共に進んで行く、そんな時代がやってきたんだよ」
「そうだよ、ディノ。そしてそんな時代こそ、父さんが目指した時代だよ。争うのではなく、より良い世界を目指し、全ての生物が幸せを噛みしめる事が出来る世界。それが父さんの理想だった。そのためにディノ、もう少しだけ力を貸してくれる?」
「! もちろんだ……もちろんだとも」

 力強く答えたディノは、クルリと皆に背を向けた。不思議な感覚だが、何故か肩が小刻みに震える。これが泣きそうになるという感覚か。

 そんなディノの前に回り込んできたのはレックスだ。同じぐらいの身長のディノを、レックスが正面から抱きしめてくる。

「僕も感謝してる。ありがとう、ディノ。僕の命は無駄じゃなかった。僕には大切な役割があった。それが分かっただけでも、僕はとても嬉しい」
「レックス……」

 ディノはそっとレックスを抱き返すと、二人はしばらくそのまま無言で抱き合っていた。互いの鉱石を通じて色んな感情が二人の間を行き来する。それはとても心地よくて優しくて感じたことの無い感情だった。
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