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第626話
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「さほどの時間は経っていないというのに、何だか半世紀ぐらい会っていない気がするな、オズ」
妖精王が言うと、オズワルドはふん、と鼻で笑う。
「呑気に話している余裕があるのか? とてもそうは見えないが」
「お主の言う通り、余裕はないな。ただ、あまり我を舐めないでほしい」
そう言って妖精王は少年の変身を解くと、後に現れたのは絶世の美青年だ。
「なんだ、お前の本体はそれか。ちゃちい子供の姿になっていたのは周りを欺くためか?」
「それもあるが、まぁ他にも色々とな。こう見えて案外我は優秀なのだ」
そう言って妖精王は手早く空中に魔法陣を描いた。それはどんどん巨大化してあっという間にオズワルドの体を拘束する。
「すまんな、オズ、ヴァニタス。少しだけ我慢をしていてくれ」
妖精王が言うと、一瞬オズワルドが小さく微笑んだように見えた。
けれど次の瞬間、オズワルドが苦しそうに呻いてその表情と声がガラリと変わる。
『好きにさせぬ……これ以上、もう好きになどさせぬ……ここは我の星だ……ここは! 我の! 星だ!』
「っ!?」
不思議な声だった。脳内に直接響いてくるような、懐かしくて恐ろしいような声に思わず妖精王は怯んでしまう。
その一瞬の隙をついてオズワルドに真っ黒な翼が生えた。それは禍々しいほど黒く、妖精王の羽根には到底見えない。
「これ、は」
その力の根源を探ろうとしていた妖精王がふと魔法陣を描く手を止めた。オズワルドを今しがた支配しようとしている力は、ソラに還ったはずの初代妖精王の物だと気づいてしまったからだ。
「ソラへ戻ったのは本体だけだったと言うことか! あやつ、思念と魔力をここへ丸々置いて行ったのか!」
間違いなくどこかに初代妖精王の力が絡んでいるだろうとは思っていたが、まさか魔力と思念をそのままこの星に置いていっているとは思わなかった。
『出来損ないの妖精王、封じ込めるには骨が折れたぞ。ゴミはゴミらしくさっさと塵になれば良い物を』
「オズはゴミなどではない。ゴミはお前だろう。星と生物を蹂躙し、ソラに静粛された化け物の成れの果てが」
『何とでも言うがいい。ヴァニタスが集めたエネルギーは随分少ないが、悪くない。恨みと憎しみは、喜びよりも強い力を発揮するという事を我が教えてやろう』
そう言って初代妖精王は手を空に翳した。詠唱も何もせずとも黒い闇の矢が妖精王めがけて降り注ぐ。
「っ! なんだこれは!」
矢が掠った所から流れ込んでくるのは怒りや悲しみだ。妖精王は眉をしかめながら必死になって矢を避けた。
『逃げるばかりで脳のない若き妖精王。我の力を知らぬ愚かな者よ。この星から去るがいい』
逃げ惑う妖精王めがけて黒い矢は降り注ぐ。妖精王はあちこち逃げ回りながら反撃の機会を伺っているようだが、そんな事をして時間お稼いでも何も解決などしない。
久しぶりに手に入れた若く新しい肉体はとても使いやすかった。この体を初代妖精王に譲渡した忠実な下僕には癪だが感謝しなくてはならない。
初代妖精王は目を閉じて詠唱を始めた。それを聞いて妖精王は急いで飛び退くがもう遅い。
『無駄だ。お前はここで散れ』
初代妖精王がそう言って印を結んだその時、妖精王が誰かに向かって叫んだ。
「オズ! 今だ!」
『!?』
初代妖精王が最後の印を結ぼうとしたその時、突然手が固まったように動かなくなった。一体何事から手を見ると、指先から金色の光が迸り始める。
『な、に? 何だ、これは!』
誰に対しての質問でもなかったが、不意に頭の中に何かのイメージが焼き付いた。金色に輝くオズワルドの姿だ。それは紛れもなく妖精王の力で、何よりも強大だ。
そう思った瞬間、体が燃え上がるように熱くなった。
『う、ぐっ……お、ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
初代妖精王は突然の焼け付くような感覚に思わず叫び声を上げた。その瞬間、何かがプツンと切れた感覚がして、急に体が宙に投げ出されたような感覚になる。
ハッとした時には既に遅く、気づけば目の前にオズワルドがこちらを見下ろして浮いていた。
「あんたの敗因は驕り高ぶった事だ。一人ぼっちのお前には分からないだろうな、爺さん」
妖精王が逃げ惑う振りをして描いた魔法陣は、オズワルドとヴァニタスを引き離すための魔法陣だった。その中にはオズワルドが妖精王に預けた魔力も含まれていたのだ。
『な、何故、体が、我の体を返せぇぇぇ!!!!!!!』
突然の浮遊感の正体がオズワルドの体からヴァニタスが完全に切り離されたのだと知った時には既に遅かった。
けれどまだ勝機はある。もう一度体を乗っ取ればいいだけの話なのだから。それをするぐらいの力はまだ残っている。
ヴァニタスの体を使い空に舞い上がった初代妖精王は羽根を巧みに使って魔法陣を描きあげると、それをオズワルドに向かって振りかぶった。
それを見て妖精王が怒鳴る。
「オズ!」
「ああ、受け止めてやる」
初代妖精王の力とまともにやりあえばきっと勝てない。かと言って避ければ妖精王の身が危ない。この星に妖精王はまだ必要不可欠だ。
「無茶だ! 避けろ!」
妖精王の叫び声とは裏腹に初代妖精王の魔法陣は大きく膨らんでいった。
妖精王が言うと、オズワルドはふん、と鼻で笑う。
「呑気に話している余裕があるのか? とてもそうは見えないが」
「お主の言う通り、余裕はないな。ただ、あまり我を舐めないでほしい」
そう言って妖精王は少年の変身を解くと、後に現れたのは絶世の美青年だ。
「なんだ、お前の本体はそれか。ちゃちい子供の姿になっていたのは周りを欺くためか?」
「それもあるが、まぁ他にも色々とな。こう見えて案外我は優秀なのだ」
そう言って妖精王は手早く空中に魔法陣を描いた。それはどんどん巨大化してあっという間にオズワルドの体を拘束する。
「すまんな、オズ、ヴァニタス。少しだけ我慢をしていてくれ」
妖精王が言うと、一瞬オズワルドが小さく微笑んだように見えた。
けれど次の瞬間、オズワルドが苦しそうに呻いてその表情と声がガラリと変わる。
『好きにさせぬ……これ以上、もう好きになどさせぬ……ここは我の星だ……ここは! 我の! 星だ!』
「っ!?」
不思議な声だった。脳内に直接響いてくるような、懐かしくて恐ろしいような声に思わず妖精王は怯んでしまう。
その一瞬の隙をついてオズワルドに真っ黒な翼が生えた。それは禍々しいほど黒く、妖精王の羽根には到底見えない。
「これ、は」
その力の根源を探ろうとしていた妖精王がふと魔法陣を描く手を止めた。オズワルドを今しがた支配しようとしている力は、ソラに還ったはずの初代妖精王の物だと気づいてしまったからだ。
「ソラへ戻ったのは本体だけだったと言うことか! あやつ、思念と魔力をここへ丸々置いて行ったのか!」
間違いなくどこかに初代妖精王の力が絡んでいるだろうとは思っていたが、まさか魔力と思念をそのままこの星に置いていっているとは思わなかった。
『出来損ないの妖精王、封じ込めるには骨が折れたぞ。ゴミはゴミらしくさっさと塵になれば良い物を』
「オズはゴミなどではない。ゴミはお前だろう。星と生物を蹂躙し、ソラに静粛された化け物の成れの果てが」
『何とでも言うがいい。ヴァニタスが集めたエネルギーは随分少ないが、悪くない。恨みと憎しみは、喜びよりも強い力を発揮するという事を我が教えてやろう』
そう言って初代妖精王は手を空に翳した。詠唱も何もせずとも黒い闇の矢が妖精王めがけて降り注ぐ。
「っ! なんだこれは!」
矢が掠った所から流れ込んでくるのは怒りや悲しみだ。妖精王は眉をしかめながら必死になって矢を避けた。
『逃げるばかりで脳のない若き妖精王。我の力を知らぬ愚かな者よ。この星から去るがいい』
逃げ惑う妖精王めがけて黒い矢は降り注ぐ。妖精王はあちこち逃げ回りながら反撃の機会を伺っているようだが、そんな事をして時間お稼いでも何も解決などしない。
久しぶりに手に入れた若く新しい肉体はとても使いやすかった。この体を初代妖精王に譲渡した忠実な下僕には癪だが感謝しなくてはならない。
初代妖精王は目を閉じて詠唱を始めた。それを聞いて妖精王は急いで飛び退くがもう遅い。
『無駄だ。お前はここで散れ』
初代妖精王がそう言って印を結んだその時、妖精王が誰かに向かって叫んだ。
「オズ! 今だ!」
『!?』
初代妖精王が最後の印を結ぼうとしたその時、突然手が固まったように動かなくなった。一体何事から手を見ると、指先から金色の光が迸り始める。
『な、に? 何だ、これは!』
誰に対しての質問でもなかったが、不意に頭の中に何かのイメージが焼き付いた。金色に輝くオズワルドの姿だ。それは紛れもなく妖精王の力で、何よりも強大だ。
そう思った瞬間、体が燃え上がるように熱くなった。
『う、ぐっ……お、ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
初代妖精王は突然の焼け付くような感覚に思わず叫び声を上げた。その瞬間、何かがプツンと切れた感覚がして、急に体が宙に投げ出されたような感覚になる。
ハッとした時には既に遅く、気づけば目の前にオズワルドがこちらを見下ろして浮いていた。
「あんたの敗因は驕り高ぶった事だ。一人ぼっちのお前には分からないだろうな、爺さん」
妖精王が逃げ惑う振りをして描いた魔法陣は、オズワルドとヴァニタスを引き離すための魔法陣だった。その中にはオズワルドが妖精王に預けた魔力も含まれていたのだ。
『な、何故、体が、我の体を返せぇぇぇ!!!!!!!』
突然の浮遊感の正体がオズワルドの体からヴァニタスが完全に切り離されたのだと知った時には既に遅かった。
けれどまだ勝機はある。もう一度体を乗っ取ればいいだけの話なのだから。それをするぐらいの力はまだ残っている。
ヴァニタスの体を使い空に舞い上がった初代妖精王は羽根を巧みに使って魔法陣を描きあげると、それをオズワルドに向かって振りかぶった。
それを見て妖精王が怒鳴る。
「オズ!」
「ああ、受け止めてやる」
初代妖精王の力とまともにやりあえばきっと勝てない。かと言って避ければ妖精王の身が危ない。この星に妖精王はまだ必要不可欠だ。
「無茶だ! 避けろ!」
妖精王の叫び声とは裏腹に初代妖精王の魔法陣は大きく膨らんでいった。
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