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第638話
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「あんたはリゼの正体を知ってた。それが分かった上で俺と会わせたんだろ?」
「何故そう思うのです?」
「あんたしか居ないからな、そんな事をするのは。リゼの正体はそいつにでも聞いたんだろう。あんたは割と早い段階でヴァニタスに封印されていた初代妖精王の力を知っていたな?」
オズワルドはヴァニタスに巣食う初代妖精王を指さして冷たい口調で言うと、アメリアは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「そんな事あるはずがありません。ただ、全ての出来事は必然ですわ。あなたがあの奴隷の少女に出会ったのも、あの奴隷が無惨にも殺されてしまった事も、全て必然なのです」
「そうか? 俺はお前はモルガナから星の姫の事を聞いていたと思っているが?」
「母から?」
「ああ。バラと共に継がれた歌にあるだろ? 今はアンソニー達が変えてしまったが、あの歌詞に出てくる星の姫はリゼの事だった。それを知っていたお前は俺に言ったな? 奴隷を持つのは楽しい事だ、と。そしてリゼは見事に奴隷の役を演じきろうとしていた。あわよくば俺があの箱の中でしたような残虐性を以てしてリゼに危害でも加えればいいとでも思っていたのだろうが、残念ながらそうはいかなかった。俺は奴隷の使い方を全く知らなかったんだ。そこでアリス達に出会い、奴隷制度というものがどれほど愚かな事かが分かった。俺はリゼの扱いを少しずつ学んだ。愛するという事を知った。だがそれでも良かったんだよな? お前にとっては俺がどちらに転ぼうと、ヴァニタスを追い詰めて初代妖精王の力を開放さえしてくれればそれで良かったんだから」
淡々と言うオズワルドの言葉にアメリアは少しも笑みを崩さなかったけれど、終始無言だ。そんなアメリアを見つめながらオズワルドは続けた。
「……が、残念ながらそれは失敗に終わったな。お前の言葉を借りるなら、これも必然だったと言うことか?」
そう言ってオズワルドが笑みを浮かべた瞬間、妖精王が隣に現れた。
「遅かったじゃないか」
オズワルドは妖精王がやってくる事など分かっていたかのように妖精王の方を向くことなく言うと、そんなオズワルドに妖精王は強かに笑う。
「そう言うな、オズ。お前の光を目覚めさせるのに手間取ったんだ」
「オズ!」
「ああ、リゼだ。今度は本物だな?」
「うん!」
リーゼロッテがオズワルドに腕を伸ばすと、オズワルドはいつものように優しくリーゼロッテを抱きしめる。それはやっぱり真綿に包まれているような不思議な感覚がする。
「……何故」
星の姫はヴァニタスに確実に殺されたはずだった。それなのに何故ここに居る? 今度は本物とはどういう意味だ? アメリアが思考を走らせるよりも先に、オズワルドは不敵に笑って言った。
「お前は全知全能の意味を理解していないのか? 妖精王は死者をも蘇らせる事が出来る」
「けれど、そんな事をしたらあなたは消されてしまう。そうでしょう? 妖精王」
初代妖精王はそれでソラというさらに高次元の何かの処罰で本体を無理やり送還されたと聞いた。
なるほど、オズワルドは思っていたよりもリーゼロッテを愛していたのか。妖精王と言っても所詮は生物だ。愛などというくだらない物に縛られ、簡単に自分の命を犠牲にする、愚かな生物なのだ。
アメリアは納得して薄ら笑いを浮かべると、そんなアメリアに妖精王が言った。
「我らが直接それをすれば、な。しかし、ノアが言うには何事にも抜け道というのがあってな? 我にしてもオズにしても今はこの星の管理者ではないのだ。だからここでお前を私利私欲で消滅させてしまったとしても、誰にも裁かれない」
「……」
そうなのか? 無言でヴァニタスに視線を移すと、ヴァニタスは苦しみもがきながらも笑い声を上げる。
『聖女の、末裔が……聞いて呆れる……お前達に、我が……本当に……力を、貸す……と?』
「……この出来損ないが。そうよね、おかしいと思ったの。あの売女はあなたを随分信用していたようだけれど、私はそもそもあなたを信用なんてしていない。だって、あなたは私が泣いても叫んでも助けてなどくれなかった。やはり、あなたはただの畜生よ。妖精王の力だけが残った、薄汚い畜生よ。それから妖精王? ノアが何を言ったか知らないけれど、抜け道なんてその後にルールを作れば簡単にあなた達のした愚行をいくらでも止める事が出来るの。例えばソラとやらが今からその法を作ったとしたらどうなるのかしらね? ソラという方がどんな方かは分からないけれど、この星を愛しているのならこの星に済む生物の事も愛しているはずよね?」
「そうだな。我らがそれをすれば、あるいはソラが本当にそんな法を作ればな。お前はソラをどんな奴だと思っているのだ? お前が思っているようにソラは一生物など助けはしない。情など無駄だぞ。あれは合理性の塊だ。何より今回リゼを生き返らせたのは残念ながら我らではないのだ」
不敵に笑う妖精王にオズワルドもキョトンとしている。
「そうなのか?」
「ああ。お前はアリス達を信じたと言っていたな? お前が石鹸の礼に渡した妖精王の粉は、正しく使われた」
「! はは、まさに必然だな」
あの時はこんな事になるなど思ってもいなくて、渡せるものが何一つなかったので自身の鱗粉を渡したが、まさかあれをここで使われるとは思ってもいなかった。
「残念だな、アメリア。さらに言うとその妖精王の粉をかけたのも我ではないんだ。かかれ! お前たち!」
アメリアが口を開いて何かを言いかけるよりも先に妖精王が声を上げた。それと同時に岩陰から三体の影が飛び出してくる。
「!?」
「影か!」
「そうだ。お前の真似をしてみたのだ。なかなか良い出来だろう?」
「レプリカに送ったんだけどな。どうしてここに居る?」
「我の家族が手を貸してくれたのだ。それからノアの家族もだ。オズ、お前が信じた者達は、お前はおろかこの星に済む全ての命を本気で救う気だ。お前の判断は、間違えてはいなかった」
「そうだよオズ! 皆言ってたもん。もう家族だって!」
「……家族……か」
オズはポツリと言ってリーゼロッテの頬にキスをすると、リーゼロッテの耳元で囁いた。
「今度こそ迎えに行く。家族の所で大人しくしていろ。もう一人の自分に惑わされるな。今のお前こそが、俺のリーゼロッテだ」
「うん」
リーゼロッテがしっかりと頷くと、急に体がフワフワしだした。それと同時に眼の前の景色が揺らいでオズワルドも妖精王もアメリアも消えてしまった。
「何故そう思うのです?」
「あんたしか居ないからな、そんな事をするのは。リゼの正体はそいつにでも聞いたんだろう。あんたは割と早い段階でヴァニタスに封印されていた初代妖精王の力を知っていたな?」
オズワルドはヴァニタスに巣食う初代妖精王を指さして冷たい口調で言うと、アメリアは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「そんな事あるはずがありません。ただ、全ての出来事は必然ですわ。あなたがあの奴隷の少女に出会ったのも、あの奴隷が無惨にも殺されてしまった事も、全て必然なのです」
「そうか? 俺はお前はモルガナから星の姫の事を聞いていたと思っているが?」
「母から?」
「ああ。バラと共に継がれた歌にあるだろ? 今はアンソニー達が変えてしまったが、あの歌詞に出てくる星の姫はリゼの事だった。それを知っていたお前は俺に言ったな? 奴隷を持つのは楽しい事だ、と。そしてリゼは見事に奴隷の役を演じきろうとしていた。あわよくば俺があの箱の中でしたような残虐性を以てしてリゼに危害でも加えればいいとでも思っていたのだろうが、残念ながらそうはいかなかった。俺は奴隷の使い方を全く知らなかったんだ。そこでアリス達に出会い、奴隷制度というものがどれほど愚かな事かが分かった。俺はリゼの扱いを少しずつ学んだ。愛するという事を知った。だがそれでも良かったんだよな? お前にとっては俺がどちらに転ぼうと、ヴァニタスを追い詰めて初代妖精王の力を開放さえしてくれればそれで良かったんだから」
淡々と言うオズワルドの言葉にアメリアは少しも笑みを崩さなかったけれど、終始無言だ。そんなアメリアを見つめながらオズワルドは続けた。
「……が、残念ながらそれは失敗に終わったな。お前の言葉を借りるなら、これも必然だったと言うことか?」
そう言ってオズワルドが笑みを浮かべた瞬間、妖精王が隣に現れた。
「遅かったじゃないか」
オズワルドは妖精王がやってくる事など分かっていたかのように妖精王の方を向くことなく言うと、そんなオズワルドに妖精王は強かに笑う。
「そう言うな、オズ。お前の光を目覚めさせるのに手間取ったんだ」
「オズ!」
「ああ、リゼだ。今度は本物だな?」
「うん!」
リーゼロッテがオズワルドに腕を伸ばすと、オズワルドはいつものように優しくリーゼロッテを抱きしめる。それはやっぱり真綿に包まれているような不思議な感覚がする。
「……何故」
星の姫はヴァニタスに確実に殺されたはずだった。それなのに何故ここに居る? 今度は本物とはどういう意味だ? アメリアが思考を走らせるよりも先に、オズワルドは不敵に笑って言った。
「お前は全知全能の意味を理解していないのか? 妖精王は死者をも蘇らせる事が出来る」
「けれど、そんな事をしたらあなたは消されてしまう。そうでしょう? 妖精王」
初代妖精王はそれでソラというさらに高次元の何かの処罰で本体を無理やり送還されたと聞いた。
なるほど、オズワルドは思っていたよりもリーゼロッテを愛していたのか。妖精王と言っても所詮は生物だ。愛などというくだらない物に縛られ、簡単に自分の命を犠牲にする、愚かな生物なのだ。
アメリアは納得して薄ら笑いを浮かべると、そんなアメリアに妖精王が言った。
「我らが直接それをすれば、な。しかし、ノアが言うには何事にも抜け道というのがあってな? 我にしてもオズにしても今はこの星の管理者ではないのだ。だからここでお前を私利私欲で消滅させてしまったとしても、誰にも裁かれない」
「……」
そうなのか? 無言でヴァニタスに視線を移すと、ヴァニタスは苦しみもがきながらも笑い声を上げる。
『聖女の、末裔が……聞いて呆れる……お前達に、我が……本当に……力を、貸す……と?』
「……この出来損ないが。そうよね、おかしいと思ったの。あの売女はあなたを随分信用していたようだけれど、私はそもそもあなたを信用なんてしていない。だって、あなたは私が泣いても叫んでも助けてなどくれなかった。やはり、あなたはただの畜生よ。妖精王の力だけが残った、薄汚い畜生よ。それから妖精王? ノアが何を言ったか知らないけれど、抜け道なんてその後にルールを作れば簡単にあなた達のした愚行をいくらでも止める事が出来るの。例えばソラとやらが今からその法を作ったとしたらどうなるのかしらね? ソラという方がどんな方かは分からないけれど、この星を愛しているのならこの星に済む生物の事も愛しているはずよね?」
「そうだな。我らがそれをすれば、あるいはソラが本当にそんな法を作ればな。お前はソラをどんな奴だと思っているのだ? お前が思っているようにソラは一生物など助けはしない。情など無駄だぞ。あれは合理性の塊だ。何より今回リゼを生き返らせたのは残念ながら我らではないのだ」
不敵に笑う妖精王にオズワルドもキョトンとしている。
「そうなのか?」
「ああ。お前はアリス達を信じたと言っていたな? お前が石鹸の礼に渡した妖精王の粉は、正しく使われた」
「! はは、まさに必然だな」
あの時はこんな事になるなど思ってもいなくて、渡せるものが何一つなかったので自身の鱗粉を渡したが、まさかあれをここで使われるとは思ってもいなかった。
「残念だな、アメリア。さらに言うとその妖精王の粉をかけたのも我ではないんだ。かかれ! お前たち!」
アメリアが口を開いて何かを言いかけるよりも先に妖精王が声を上げた。それと同時に岩陰から三体の影が飛び出してくる。
「!?」
「影か!」
「そうだ。お前の真似をしてみたのだ。なかなか良い出来だろう?」
「レプリカに送ったんだけどな。どうしてここに居る?」
「我の家族が手を貸してくれたのだ。それからノアの家族もだ。オズ、お前が信じた者達は、お前はおろかこの星に済む全ての命を本気で救う気だ。お前の判断は、間違えてはいなかった」
「そうだよオズ! 皆言ってたもん。もう家族だって!」
「……家族……か」
オズはポツリと言ってリーゼロッテの頬にキスをすると、リーゼロッテの耳元で囁いた。
「今度こそ迎えに行く。家族の所で大人しくしていろ。もう一人の自分に惑わされるな。今のお前こそが、俺のリーゼロッテだ」
「うん」
リーゼロッテがしっかりと頷くと、急に体がフワフワしだした。それと同時に眼の前の景色が揺らいでオズワルドも妖精王もアメリアも消えてしまった。
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