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第642話

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「だから余計にヴァニタスの浄化を急がなければならない。このままではせっかくのAMINASの働きが無駄になってしまう。アメリアが放出したエネルギーは先の2つの次元よりも大きかったからな」

 腕を組んで妖精王が言うと、アリス達の方から声が上がった。

「アメリアが動き出したみたいだよ! あいつ……何連れてんの!?」

 リアンはテオ達から送られてくるモニターを見て息を飲んだ。

 どうやらレプリカの偵察隊は偵察が終わるなりそのままラジコンをあちこちに設置してくれていたようだ。

 モニターの中ではアメリアが何か大きな生き物の肩に乗って移動しているのが見える。

「ゴーレム……それに、よく見えないけど透明な何かもいるね」
「ねぇ兄さま、あれが古代妖精なんじゃ?」
「多分ね。妖精王、観測者さん、ちょっと確認してみてくれる?」

 ノアが二人を呼ぶと、二人はすぐさまこちらにやってきて言葉を失った。

「何てこと……古代妖精達は本当にアメリア側についたの?」
「我も初めて見るが……こんなもの、どうやって対処すればいいのだ!」

 古代妖精は自然そのものが妖精化したものだ。際限なくいくらでも大きくなれるし、いくらでも小さくなれる。そしてその力は自然の力と同じように水害や風害などのありとあらゆる天災を引き起こすと言われている。

「止めるしかないだろ。かと言って退治をする訳にもいかないけどな」
「何か策はあるか?」

 いつの間にかやってきたオズワルドにアーロが尋ねると、オズワルドは肩を竦めて見せる。

「無い。ただ一つあるとすれば……」

 オズワルドはそう言ってちらりとディノを見る。

「説得ぐらいかな。昔なじみからのさ」
「それでどうにか出来りゃ世話ないよ! あれが説得でどうにかなると本気で思ってんの!?」
「リー君の言う通り、あれはちょっと説得すんの難しいんじゃないっすか?」

 モニターの中では既に古代妖精たちは木を踏みつけ川をせき止めやりたい放題だ。

「妖精たちは悪意がない。そもそも善悪の概念も無い。善悪とは人が決めたルールだからだが、今回ばかりは少々やりすぎだな」

 モニターを皆と同じように眺めていたディノが言うと、仲間たちも神妙な顔をして頷いた。

「諦めるのはまだ早いよ! 善悪がないなら、生物がいるとこんなにも楽しいって思い出させてあげればいいんだよっ!」

 何だか既に諦めムードの仲間たちを見てアリスは声を上げた。

 自然と生物は昔からずっと共存してきたのだ。彼らにとって生物など居ても居なくてもいいかもしれないが、居たほうが楽しいと思わせてやれば、もしかしたら攻撃を止めてくれるかもしれない。

 アリスの説明にいつもの調子を一番に取り戻したのは、やっぱりキャロラインとライラだ。

「そうよね。よく考えればこちらにも大地の化身が二人も居るんだったわ。それに自然に姿形が出来たということは、殴ることも出来るって事だものね」

 ニコニコしながらそんな事を言うライラにリアンはギョッとしたような顔をしている。

「ライラさん? もしかしてやっつけようとしてない? 駄目だよ? あれ空気とか水とかなんだからね? あと、何度も言うけどコイツもアイツも人間だからね!?」

 そう言ってリアンはアリスとアミナスを指さして言うと、ライラはコロコロと笑うだけだ。はっきり言ってめちゃくちゃ不安である。

「そうね、アリスの言う通りだわ。私達は今まで自然と共に生きてきたのだもの。敵とか味方とかそういうのではないのよね。私達の敵はアメリアだけよ」
「そうです! だからアメリアをまず何とかしないと。兄さま、何か良い方法ある?」
「うーん……そう言えばヴァニタスの方はどうなってるの? あそこにまだ初代妖精王の意思が残ってるんじゃない?」
「それだ! 初代の魔力の事は本人に聞けばいいんだよ! ちょっと行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃい」

 アリスはノアの言葉を受けて颯爽と走り出した。そんなアリスの後ろ姿をニコニコしてノアは見守っている。

「あんたさ、追い出した?」
「追い出すなんてとんでもない! ああ見えてアリスは説得上手なんだよ」
「上手というか、言うまで殴る、ですけどね。心配なのでちょっと見てきます」
「うん、お願いね。ありがとうキリ」

 いつもアリスの尻拭いをさせられるキリは、こういう時はまるで癖づいているかのように一番に動く。それに甘えっぱなしのノアだ。
 

 アリスは核の中心になる湖の中でヴァニタスを浄化し続けているリーゼロッテの元へ行くと、しばらくその光景を見ていた。

 リーゼロッテは目を閉じてヴァニタスの羽根を撫でてやりながら声をかけている。不思議な事に撫でられる度にヴァニタスから真っ黒な羽根を抜け落ち、その代わりに物凄いスピードで薄青い羽根が生えている。

「おぉ! 本当にアオサギなんだね!」

 思わずアリスが声をかえると、それまで目を閉じていたリーゼロッテがパチリと目を開いて、アリスを見るなり安心したように微笑んだ。

「体調は大丈夫? リゼ」
「うん! アリスも撫でる?」
「いいの?」
「平気だと思う。ヴァニタスは元々生物が大好きなんだよ」
「そうなんだ。それじゃあ失礼して」

 アリスは言うなり湖にじゃぶじゃぶ入ると、ずぶ濡れになるのも構わずにリーゼロッテの隣に腰掛けてヴァニタスに触れた。こういう時に一切の躊躇もしないのがアリスである。

 ところが、アリスが触れた途端ヴァニタスに異変が起こった。それまでじっとしていたヴァニタスが、アリスが触った途端に暴れ出したのだ。

「ど、どうしたの!? ヴァニタス!」

 そんなヴァニタスの様子にリーゼロッテが困惑したように慌てると、それまで一言も発しなかったヴァニタスがうめき声を上げながら話しだしたではないか。

『な、なんだ……この……デタラメな力は……誰だ!?』
「誰って、アリスだよ?」

 アリスはキョトンとしながらそれでもヴァニタスに触れていると、それまでは一枚一枚剥がれ落ちていた羽根が、突然ゴソッと抜けた。

「ひっ!」
『怖い!』

 それを見てリーゼロッテと星が同時に声を上げるが、それでもアリスが触った所からヴァニタスの羽根がどんどん抜け落ちていく。

 流石のヴァニタスもこれには焦ったのか、アリスの手から逃れようと身を捩るが、アリスは絶対に離さない。

「もうちょっとだから! ほら、大人しくしないと毟るよ!?」
『は、離せ! 我はまだこの感情を忘れたくはないのだ!』
「感情なんてそんなすぐに忘れない忘れない! 大丈夫だってば! ね!」
『ね! ではないのだ! 我の原動力はこの負のエネルギー……なの……に……』
「ヴァ、ヴァニタス?」

 地底から響くような恐ろしい声が段々遠のいたかと思うと、とうとうヴァニタスはぐったりと動かなくなり、次の瞬間には真っ黒な羽根だけがバサリといっぺんに抜け落ちる。

「……ど、どうしよう……」

 こんな事は初めてでリーゼロッテは青ざめた。今のリーゼロッテは星の姫の時の記憶もしっかりとあるので、余計に大変な事が起こっている事を理解していた。もちろんそれは星もだ。

『た、大変……』
「大丈夫だよ! ヴァニタスはそんなヤワじゃないって! とりあえず洗ってあげよっと」
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