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第644話
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「そうだ、オズワルドとやらはここに居るのか?」
「オズ? いるよ。呼んでこようか?」
「ああ。彼には世話になった。我は彼の中でずっと守られていたのだ」
「そうなんだ。オズはやっぱり元とは言え妖精王だね。愛がないなんて、ほんっとうに見る目ない!」
アリスはそう言ってすぐさまその場を離れてオズワルドを引きずってくる。
「なんだ、もう終わったのか。随分早かった……何事だ?」
あんなにも負のエネルギーに長年塗れていたヴァニタスを浄化するのに随分早かったなと思えば、何やらヴァニタスが丸ハゲになっているではないか。所々オマケのような産毛が生えてはいるが、目も当てられない状態にオズワルドでさえ思わず絶句してしまった。
「お嬢様の仕業です。察してください」
「……なるほど。納得した。それで? 俺に何の用事だ?」
「まずは礼を。あなたは我をずっと守っていてくれた。あなたを取り込もうとする我の力を最小限に留め、しかるべき時に開放してくれた。本当に……ありがとう」
「構わないさ。俺だって生き延びるのに必死だっただけだからな。それよりも悲惨だな。ちょっと待て」
そう言ってオズワルドはヴァニタスに自分の魔力を送り込んだ。するとどうだ。今まで丸ハゲだったヴァニタスの体に、あれよあれよという間に産毛が生えてきたではないか。それはやがて立派な羽根になり、ヴァニタスの全身を覆い尽くす。
「お~! 立派なアオサギになった!」
「オズ、そんな事して大丈夫なの?」
「大丈夫。少しぐらいどうって事無い」
心配そうに言うリーゼロッテをオズワルドは抱き寄せてグリグリと頭を撫でると、リーゼロッテはくすぐったそうに笑う。
「ひひひ! ここもどんどん良カップルになっていきますな! ぎゃん!」
「カップリング乞食は止めてください、お嬢様。ヴァニタスが立派なアオサギに戻ることが出来たので我々もあちらに戻りましょう。ヴァニタス、目覚めてすぐで申し訳ないのですが、あなたも参加してください」
「我に出来る事があるのか?」
「あると思いたいです。何せあなた、いえ、初代の恨みによって暴走した古代妖精達がアメリアと共に世界を滅ぼそうとしているのですから」
「……重ね重ねすまない」
キリの言葉にヴァニタスはシュンと項垂れると、渋々キリの後に従った。
古代妖精達は元々は初代妖精王が創った星への加護だった。どんな時でもこの星から大気や水が無くならないよう、大きな天変地異が起こってもこれだけは決して揺るがぬようにする為、わざわざ姿を与えたのだ。それが今は牙を剥き星に襲いかかっているという。
仲間たちの元に戻ると、そこでは既に大方の作戦は立て終えて、今は最終のまとめの段階に入っていた。そこにヴァニタスとオズワルド、そして妖精王が加わる。
「ではノア、私達はフォルスに移動します。誰か、地下からのルートの案内を頼めますか?」
シャルルとシャルが言いながら立ち上がると、すぐさまニコラが手を上げた。
「僕が行くよ。彼らを送り届けたらすぐ兄さんたちの所に合流するね。そうだ! ここぞとばかりにあれも使おう」
「あれ、とは?」
「武器だよ。父さんが残した負の遺産だ。ここで使い切ってしまおうと思って」
「使わずに廃棄するという選択肢はないのですか?」
「そうしたいのは山々なんだけどね、これには既に物凄い魔力が蓄えられてて解体するのにものすごーくお金がかかっちゃうんだよ」
「……何てものを作ってしまったのですか、あなたのお父様は」
呆れたようなシャルの言葉にニコラが苦笑いを浮かべる。
「実際に作ったのは父さんが残したノートを盗んだスチュアート家なんだけどね。それを僕たちが没収したってだけ。解体したいけど出来ないからずっと隠してあったんだ。兄さん、いいよね?」
「ああ、構わないよ。地上に生物が居ない事など恐らくこの先無いだろうからね。出来るなら全て使い切ってしまってくれ」
「分かった。それじゃあ行こうか!」
アンソニーの許しを得て意気揚々とニコラは胸から下げた鍵を弄ると部屋を出ていく。そんなニコラに顔を見合わせながらも渋々ついていくシャルルとシャルに仲間たちが同情の視線を送っていたのは言うまでもない。
三人が出ていくのを黙って見送っていたリアンがポツリと言う。
「あの人さ、結構厄介そうだね。変態ぐらいヤバいんじゃないの?」
「分かるかい? そうなんだ。ニコラは普段から少し変わっているが、ここぞという時の思い切りが凄すぎてね。研究に打ち込んでくれている間はいいんだけど、それが外に向くと危ないね」
「二人共、全部聞こえてるよ。お口縫おうか?」
リアンとアンソニーの言葉にノアがニッコリ笑って言うと、二人はすぐさま無言で首を振った。
「ところで未来の僕はどこまでの未来を書いていたのかな?」
「アメリアが古代妖精を連れて出てきた所までだよ。そこから先は未知だ」
「なるほど。それじゃあ今ここに居る僕たちが先頭ってことか。失敗出来ないね」
どうせなら全て終わってから手紙を送ってほしかったが、もしかしたらそれは出来ない事情があったのかもしれない。
「それじゃあ僕は過去の君たちに手紙を書いてくるよ」
「ああ、よろしく頼むよ。カール、僕たちも行こうか」
「はい。アランさん、一緒にお願い出来ますか?」
「僕でいいのですか?」
「もちろんです。この面子の中ではあなたが一番まともです」
淡々というカールにアランが照れたように笑ったが、それに意を反したのはリアンだ。
「いや、この面子で一番まともなのは僕でしょ」
「リー君はなんでこんな所で対抗心燃やすんすか?」
「元よりあなた達は数に入っていません。何故なら、あなた達はアリスのお目付け役だと認識しているからです」
リアンの言葉にカールは深く頷くと、静かにアリスを見ながら言う。
「……嫌な認識だなぁ」
「全くっすね」
何だか妙な説得力にリアンとオリバーは思わず呟く。後ろからアリスの奇声が聞こえてきて、二人は顔を見合わせてうんざりとした様子でため息をついたのだった。
「それじゃあルイス、俺たちは下手に動くと返って足手まといになるからここから司令塔すんぞ。そこら中のモニターかき集めて来よう」
「ああ、そうだな。しかし地下を徘徊して大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。アメリアはもう地下には下りて来ないだろうからな」
「何故言い切れる?」
はっきりと断言したカインにルイスが言うと、カインはモニターを指さして言う。
「あの状態でアメリアが今更俺たちにターゲット絞ってくると思うか?」
モニターの中ではアメリアが古代妖精を使って今もやりたい放題している。そんな惨状を見てルイスはようやく納得した。
「確かに。では探しに行くか。観測者どの、すまないが手伝ってくれ」
「もちろんよ。カインはともかくあなたは危なっかしいからね。そうだ、影ちゃんたちは私達の護衛につけてもいいかしら?」
そう言って観測者は立ち上がり、頷いたノアを確認してルイスとカインの元へ向かう。何だか変な面子だが、戦力外の自分たちはこうやって裏から支えるしかないのだ。
「私達も行きましょうか、ライラ、ティナ」
「ああ、そうだな。エリスはどこだったか」
ティナが振り返ると、エリスは周りを見渡してユアンとアーロを指さして言った。
「俺はあそこのチームだ。アーロはともかくパパの戦闘力は心配だからな」
エリスが言った瞬間、ユアンがギロリとこちらを睨みつけてくる。
「おい! 聞こえてんぞ!」
「はは、悪い。そういう訳だ、ティナ。絶対に、無事で居てくれ」
「分かっている。お前もな、エリス」
「ああ」
そう言ってエリスはアーロとユアンと共に地下を去った。それを見てキャロラインとティナ、ライラも自分たちの持ち場に移動していった。
「オズ? いるよ。呼んでこようか?」
「ああ。彼には世話になった。我は彼の中でずっと守られていたのだ」
「そうなんだ。オズはやっぱり元とは言え妖精王だね。愛がないなんて、ほんっとうに見る目ない!」
アリスはそう言ってすぐさまその場を離れてオズワルドを引きずってくる。
「なんだ、もう終わったのか。随分早かった……何事だ?」
あんなにも負のエネルギーに長年塗れていたヴァニタスを浄化するのに随分早かったなと思えば、何やらヴァニタスが丸ハゲになっているではないか。所々オマケのような産毛が生えてはいるが、目も当てられない状態にオズワルドでさえ思わず絶句してしまった。
「お嬢様の仕業です。察してください」
「……なるほど。納得した。それで? 俺に何の用事だ?」
「まずは礼を。あなたは我をずっと守っていてくれた。あなたを取り込もうとする我の力を最小限に留め、しかるべき時に開放してくれた。本当に……ありがとう」
「構わないさ。俺だって生き延びるのに必死だっただけだからな。それよりも悲惨だな。ちょっと待て」
そう言ってオズワルドはヴァニタスに自分の魔力を送り込んだ。するとどうだ。今まで丸ハゲだったヴァニタスの体に、あれよあれよという間に産毛が生えてきたではないか。それはやがて立派な羽根になり、ヴァニタスの全身を覆い尽くす。
「お~! 立派なアオサギになった!」
「オズ、そんな事して大丈夫なの?」
「大丈夫。少しぐらいどうって事無い」
心配そうに言うリーゼロッテをオズワルドは抱き寄せてグリグリと頭を撫でると、リーゼロッテはくすぐったそうに笑う。
「ひひひ! ここもどんどん良カップルになっていきますな! ぎゃん!」
「カップリング乞食は止めてください、お嬢様。ヴァニタスが立派なアオサギに戻ることが出来たので我々もあちらに戻りましょう。ヴァニタス、目覚めてすぐで申し訳ないのですが、あなたも参加してください」
「我に出来る事があるのか?」
「あると思いたいです。何せあなた、いえ、初代の恨みによって暴走した古代妖精達がアメリアと共に世界を滅ぼそうとしているのですから」
「……重ね重ねすまない」
キリの言葉にヴァニタスはシュンと項垂れると、渋々キリの後に従った。
古代妖精達は元々は初代妖精王が創った星への加護だった。どんな時でもこの星から大気や水が無くならないよう、大きな天変地異が起こってもこれだけは決して揺るがぬようにする為、わざわざ姿を与えたのだ。それが今は牙を剥き星に襲いかかっているという。
仲間たちの元に戻ると、そこでは既に大方の作戦は立て終えて、今は最終のまとめの段階に入っていた。そこにヴァニタスとオズワルド、そして妖精王が加わる。
「ではノア、私達はフォルスに移動します。誰か、地下からのルートの案内を頼めますか?」
シャルルとシャルが言いながら立ち上がると、すぐさまニコラが手を上げた。
「僕が行くよ。彼らを送り届けたらすぐ兄さんたちの所に合流するね。そうだ! ここぞとばかりにあれも使おう」
「あれ、とは?」
「武器だよ。父さんが残した負の遺産だ。ここで使い切ってしまおうと思って」
「使わずに廃棄するという選択肢はないのですか?」
「そうしたいのは山々なんだけどね、これには既に物凄い魔力が蓄えられてて解体するのにものすごーくお金がかかっちゃうんだよ」
「……何てものを作ってしまったのですか、あなたのお父様は」
呆れたようなシャルの言葉にニコラが苦笑いを浮かべる。
「実際に作ったのは父さんが残したノートを盗んだスチュアート家なんだけどね。それを僕たちが没収したってだけ。解体したいけど出来ないからずっと隠してあったんだ。兄さん、いいよね?」
「ああ、構わないよ。地上に生物が居ない事など恐らくこの先無いだろうからね。出来るなら全て使い切ってしまってくれ」
「分かった。それじゃあ行こうか!」
アンソニーの許しを得て意気揚々とニコラは胸から下げた鍵を弄ると部屋を出ていく。そんなニコラに顔を見合わせながらも渋々ついていくシャルルとシャルに仲間たちが同情の視線を送っていたのは言うまでもない。
三人が出ていくのを黙って見送っていたリアンがポツリと言う。
「あの人さ、結構厄介そうだね。変態ぐらいヤバいんじゃないの?」
「分かるかい? そうなんだ。ニコラは普段から少し変わっているが、ここぞという時の思い切りが凄すぎてね。研究に打ち込んでくれている間はいいんだけど、それが外に向くと危ないね」
「二人共、全部聞こえてるよ。お口縫おうか?」
リアンとアンソニーの言葉にノアがニッコリ笑って言うと、二人はすぐさま無言で首を振った。
「ところで未来の僕はどこまでの未来を書いていたのかな?」
「アメリアが古代妖精を連れて出てきた所までだよ。そこから先は未知だ」
「なるほど。それじゃあ今ここに居る僕たちが先頭ってことか。失敗出来ないね」
どうせなら全て終わってから手紙を送ってほしかったが、もしかしたらそれは出来ない事情があったのかもしれない。
「それじゃあ僕は過去の君たちに手紙を書いてくるよ」
「ああ、よろしく頼むよ。カール、僕たちも行こうか」
「はい。アランさん、一緒にお願い出来ますか?」
「僕でいいのですか?」
「もちろんです。この面子の中ではあなたが一番まともです」
淡々というカールにアランが照れたように笑ったが、それに意を反したのはリアンだ。
「いや、この面子で一番まともなのは僕でしょ」
「リー君はなんでこんな所で対抗心燃やすんすか?」
「元よりあなた達は数に入っていません。何故なら、あなた達はアリスのお目付け役だと認識しているからです」
リアンの言葉にカールは深く頷くと、静かにアリスを見ながら言う。
「……嫌な認識だなぁ」
「全くっすね」
何だか妙な説得力にリアンとオリバーは思わず呟く。後ろからアリスの奇声が聞こえてきて、二人は顔を見合わせてうんざりとした様子でため息をついたのだった。
「それじゃあルイス、俺たちは下手に動くと返って足手まといになるからここから司令塔すんぞ。そこら中のモニターかき集めて来よう」
「ああ、そうだな。しかし地下を徘徊して大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。アメリアはもう地下には下りて来ないだろうからな」
「何故言い切れる?」
はっきりと断言したカインにルイスが言うと、カインはモニターを指さして言う。
「あの状態でアメリアが今更俺たちにターゲット絞ってくると思うか?」
モニターの中ではアメリアが古代妖精を使って今もやりたい放題している。そんな惨状を見てルイスはようやく納得した。
「確かに。では探しに行くか。観測者どの、すまないが手伝ってくれ」
「もちろんよ。カインはともかくあなたは危なっかしいからね。そうだ、影ちゃんたちは私達の護衛につけてもいいかしら?」
そう言って観測者は立ち上がり、頷いたノアを確認してルイスとカインの元へ向かう。何だか変な面子だが、戦力外の自分たちはこうやって裏から支えるしかないのだ。
「私達も行きましょうか、ライラ、ティナ」
「ああ、そうだな。エリスはどこだったか」
ティナが振り返ると、エリスは周りを見渡してユアンとアーロを指さして言った。
「俺はあそこのチームだ。アーロはともかくパパの戦闘力は心配だからな」
エリスが言った瞬間、ユアンがギロリとこちらを睨みつけてくる。
「おい! 聞こえてんぞ!」
「はは、悪い。そういう訳だ、ティナ。絶対に、無事で居てくれ」
「分かっている。お前もな、エリス」
「ああ」
そう言ってエリスはアーロとユアンと共に地下を去った。それを見てキャロラインとティナ、ライラも自分たちの持ち場に移動していった。
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