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第652話
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「叔父さん! あなた、足が……」
カールは大量の武器を運んでやってきたニコラを見て驚きに目を見張った。
そんなカールの反応に、ニコラはニコニコしながら言う。
「いやぁ~やっぱりシャルル・フォルスターは凄いよ! これだけの年月を経てもなお、この魔力だからね! まぁ、一時的なものみたいだけど」
「シャルルに治してもらったのですか?」
「そうだよ! ほら、僕ってばやっぱ二人と比べたら足遅いから業を煮やして魔法をかけてくれたんだ」
「ニコラ、それは違うよ。彼はきっと純粋に君の足を治そうとしてくれたんだよ」
「まぁ、そうかも。シャルルは今も昔もやっさしいなぁ!」
そう言ってニコラは笑って自分の足を撫でた。相当長い間不自由だったので、むしろ逆に違和感だ。
「……何だかニコラさんは少しイメージと違いますね」
そんな身内のやりとりを聞いていたアランがポツリと言うと、三人は揃って首を傾げる。
「そうかな? 君のイメージの僕はどんなだったんだい?」
「いえ、何というかこう、もっと爽やかそうと言いますか、裏表が無さそうといいますか……」
このイメージはニコラが作った映画というものを見たノアが、ニコラはとにかくブラコンだということを聞いたせいかもしれない。
そんなアランにニコラは声を出して笑った。
「僕が爽やか!? 裏表が無さそう? そんな訳ないよ!」
「そ、そうみたいですね」
あまりにもあっさりと肯定してきたニコラにアランは思わず面食らってしまう。そんなアランに注釈を入れるようにアンソニーが言う。
「アラン、彼は少しノアに近いと思うよ。ただ彼と違うのは表と裏が常に一緒なんだ。だから彼の言動はちょくちょく誤解を招くが、そこまで悪い人間ではないよ」
「ええ、それは分かっています。何せあなた方がメイリングの次の王にニコラさんを推したのですから」
ニコラというのは、どうやらとても合理的な人のようだと納得したアランが言うと、アンソニーは笑顔で頷いた。
「ありがとう。そう言ってもらえると兄としても嬉しいよ」
「アラン君も昔のままなんだねぇ。当時の君は損ばかりする性質だったみたいだけど、今は違うみたいで安心したよ」
「叔父さん、そういう事は本人に伝えるべきではないかと」
「いいんですよ、カールさん。そう言えばあなた達は当時の僕たちを知っているのでしたね。またいつか詳しく聞かせてください」
「構わないよ。全部終わったら教えてあげるよ。それで兄さん、ここに全ての武器を集めておいたよ」
ニコラはそう言って地下の地図を取り出してアンソニーに渡した。そこには赤い丸印が至る所についている。それを見てアンソニーは頷いて地図を仕舞った。
「ありがとう、ニコラ。彼らも手伝ってくれたのかい?」
「うん。ありがたい事だよ、本当に」
シャルルとシャルはフォルスに向かう前にニコラと共に武器の移動をしてくれた。強力な魔法を使う彼らにかかれば武器の移動など本当に一瞬の事で、ニコラはとても感心していたのだが、今ひとつ分からない事がある。
「時にアラン君」
「はい?」
「あのシャルというのは誰だろう? シャルル君とそっくりだけど、血縁?」
「ああ、それは――話すと相当長くなるので、それこそ全て終わってからでも構いませんか?」
「もちろん。そっか、何かややこしい事情の子なんだね」
ニコラが納得したように言うと、何故かアンソニーが笑いだし、カールが呆れたような顔をしている。
「ニコラ、彼らの話を聞くと流石の君でも驚くと思うよ」
「そうなの?」
「はい。彼は……ノアは少し……いえ、大分変人です」
「それは僕も否定しないです」
ノアとは学生の頃からの付き合いだが、周りから魔王と呼ばれる程度には変人である。
そっと視線を伏せたアランを見てニコラが楽しそうに笑った。
「楽しみが一つ増えたよ。さあ、それじゃあ僕たちは来るべきに備えて準備をしようか!」
「そうだね。おや、あれは……」
ニコラの言葉に頷き移動しようとした四人の頭上に大きな影が過ぎった。一体何事かと見上げると、そこには大きなアオサギがこちらを見下ろして旋回している。
「ヴァニタスじゃないか! 随分大きくなって!」
地下で話をする事も出来るようになったヴァニタスとは一言の会話も無いままここへやってきてしまったが、どうやらヴァニタスは既に相当数のエネルギーを蓄えたようだ。
「ここに居たのか! 探したのだぞ」
ヴァニタスはそう言って豆粒のように小さいアンソニー達を見つけて舞い降りた。大きくなった体は今にも霧散してしまいそうだった頃とは比べ物にならない。
「ヴァニタス! もうそろそろ出発かい?」
地上に下りてきたヴァニタスにニコラが駆け寄ると、ヴァニタスは首をもたげてニコラの頬に嘴を寄せる。
「ああ。もう少し吸収したらな。自分の限界を思い出すにも丁度良いだろう?」
笑いながらそんな事を言うヴァニタスにアンソニーもニコラも笑うが、カールだけは厳しい顔をしている。
「冗談はほどほどにしておいてください。私達がどれほど苦労したと思っているのですか」
「相変わらずカールは真面目だなぁ。もういいじゃないの、昔の事は。それにヴァニタスだって立派な被害者だよ。もうあちこちを飛んで回ってきたかい?」
「ああ。久しぶりに大空を何の遠慮もなく飛んだ。どうしてこの感覚を忘れていられたのだろうな」
そう言ってヴァニタスは大きな羽根を広げる。そんなヴァニタスにアンソニーが頭を下げた。
「地下で言いそびれていたんだが、君を利用してしまって本当にすまなかったね、ヴァニタス」
星の姫から無理やりヴァニタスを引き剥がしたのはアンソニー達だ。あの時の事を思うと今でも胸が痛む。
だから余計にヴァニタスが本来の姿をこうして取り戻した事を嬉しく思った。
そんなアンソニーの謝罪にヴァニタスはゆっくりと首を振る。
「それは違うぞ、アンソニー。我らはそなた達に救われたのだ。あのまま姫と共に居れば、我らは姫と共にいずれ消滅していた。そうならずに済んだのは、そなた達が我らを引き剥がしてくれたからだ」
「けれど、何もあそこまで力技で引きはがす事は無かったかな、とは思うよ」
苦笑いを浮かべたアンソニーにヴァニタスも頷く。
「それはそうだな! はは、冗談だ。あれぐらいしなければ我らは切り離せなかった。何せ姫はもうとうの昔に意識を失くしていたのだから。姫にも会ったが、彼女は泣いてくれたのだ。我のために! 我と話をする事が出来て嬉しいと言って!」
「それは良かったね。君はずっと姫とディノの心配をしていた」
「ああ、そうだ。我が旅立つ時、見送ってくれたのは彼らだけだ。多くの生物は我の事を理解出来なかった。我は死をもたらす死神だったのだ。彼らは友人だ。古い古い友人なのだ」
「彼らもきっと君のことをそう思ってるよ。それに僕たちも、英雄たちもレプリカに移動した者たちも皆、今は君のことを正しく理解している。君が次にこの星へやってきた時は、もしかしたら全員が君を歓迎してくれるかもしれないね」
「そうですよ、ヴァニタス。僕たちの付き合いはまだ浅いですが、あなたはもう大切な仲間で、星にとってとても重要な役割だと言うことも知っています。これからあなたがどんな旅を送るのかは分かりませんが、道中、どうかお気をつけて」
アランが静かに言うと、ヴァニタスはまた大きな翼を広げて声高らかに笑った。
「そなた達も我に運ばれるのが少しでも先になるよう、いつまでも息災であってくれ。運が良ければまた会えるだろう。それでは、達者でな!」
そう言ってヴァニタスが飛び立とうとしたその時、それまで黙っていたカールが叫んだ。
「ヴァニタス! 少し待ってください。カイン経由でノアから伝言です」
「ノアから? なんだ?」
ノアと聞いて思わず身構えたヴァニタスにカールは静かに言った。
「アメリアは初代の錫杖を持っているそうです。対処をするように、との事ですが、何の事だか分かりますか?」
カールが不思議そうな顔をするのとは裏腹に、それを聞いたヴァニタスがゴクリと息を呑んだ。
「初代の……錫杖……だと?」
「ええ、そう書いてありますが……もしかしてまた何か良くない事が追加されますか?」
一体どうやったらこんなに次から次へと問題が出てくるのか! カールは思わずモノクルを押し上げた。
「……そうだな、良くない事に使われると大変な事になるな……。己の錫杖すら聖女に預けていたとは、何という事だ……我が身がしでかしたことながら、ソラに何と申し開きをすれば良いのか……」
そう言ってヴァニタスは頭を抱えた。そんなヴァニタスを見てアンソニー達は互いの顔を見合わせて察する。
「ヴァニタス、とりあえず反省は後だよ。何か対処が出来ないか君もここを旅立つ前に考えてくれ」
「ああ、もちろんだ」
そう言ってヴァニタスは全員を背中に乗せるとその場から離れ、メイリングの山奥の祠に移動した。
カールは大量の武器を運んでやってきたニコラを見て驚きに目を見張った。
そんなカールの反応に、ニコラはニコニコしながら言う。
「いやぁ~やっぱりシャルル・フォルスターは凄いよ! これだけの年月を経てもなお、この魔力だからね! まぁ、一時的なものみたいだけど」
「シャルルに治してもらったのですか?」
「そうだよ! ほら、僕ってばやっぱ二人と比べたら足遅いから業を煮やして魔法をかけてくれたんだ」
「ニコラ、それは違うよ。彼はきっと純粋に君の足を治そうとしてくれたんだよ」
「まぁ、そうかも。シャルルは今も昔もやっさしいなぁ!」
そう言ってニコラは笑って自分の足を撫でた。相当長い間不自由だったので、むしろ逆に違和感だ。
「……何だかニコラさんは少しイメージと違いますね」
そんな身内のやりとりを聞いていたアランがポツリと言うと、三人は揃って首を傾げる。
「そうかな? 君のイメージの僕はどんなだったんだい?」
「いえ、何というかこう、もっと爽やかそうと言いますか、裏表が無さそうといいますか……」
このイメージはニコラが作った映画というものを見たノアが、ニコラはとにかくブラコンだということを聞いたせいかもしれない。
そんなアランにニコラは声を出して笑った。
「僕が爽やか!? 裏表が無さそう? そんな訳ないよ!」
「そ、そうみたいですね」
あまりにもあっさりと肯定してきたニコラにアランは思わず面食らってしまう。そんなアランに注釈を入れるようにアンソニーが言う。
「アラン、彼は少しノアに近いと思うよ。ただ彼と違うのは表と裏が常に一緒なんだ。だから彼の言動はちょくちょく誤解を招くが、そこまで悪い人間ではないよ」
「ええ、それは分かっています。何せあなた方がメイリングの次の王にニコラさんを推したのですから」
ニコラというのは、どうやらとても合理的な人のようだと納得したアランが言うと、アンソニーは笑顔で頷いた。
「ありがとう。そう言ってもらえると兄としても嬉しいよ」
「アラン君も昔のままなんだねぇ。当時の君は損ばかりする性質だったみたいだけど、今は違うみたいで安心したよ」
「叔父さん、そういう事は本人に伝えるべきではないかと」
「いいんですよ、カールさん。そう言えばあなた達は当時の僕たちを知っているのでしたね。またいつか詳しく聞かせてください」
「構わないよ。全部終わったら教えてあげるよ。それで兄さん、ここに全ての武器を集めておいたよ」
ニコラはそう言って地下の地図を取り出してアンソニーに渡した。そこには赤い丸印が至る所についている。それを見てアンソニーは頷いて地図を仕舞った。
「ありがとう、ニコラ。彼らも手伝ってくれたのかい?」
「うん。ありがたい事だよ、本当に」
シャルルとシャルはフォルスに向かう前にニコラと共に武器の移動をしてくれた。強力な魔法を使う彼らにかかれば武器の移動など本当に一瞬の事で、ニコラはとても感心していたのだが、今ひとつ分からない事がある。
「時にアラン君」
「はい?」
「あのシャルというのは誰だろう? シャルル君とそっくりだけど、血縁?」
「ああ、それは――話すと相当長くなるので、それこそ全て終わってからでも構いませんか?」
「もちろん。そっか、何かややこしい事情の子なんだね」
ニコラが納得したように言うと、何故かアンソニーが笑いだし、カールが呆れたような顔をしている。
「ニコラ、彼らの話を聞くと流石の君でも驚くと思うよ」
「そうなの?」
「はい。彼は……ノアは少し……いえ、大分変人です」
「それは僕も否定しないです」
ノアとは学生の頃からの付き合いだが、周りから魔王と呼ばれる程度には変人である。
そっと視線を伏せたアランを見てニコラが楽しそうに笑った。
「楽しみが一つ増えたよ。さあ、それじゃあ僕たちは来るべきに備えて準備をしようか!」
「そうだね。おや、あれは……」
ニコラの言葉に頷き移動しようとした四人の頭上に大きな影が過ぎった。一体何事かと見上げると、そこには大きなアオサギがこちらを見下ろして旋回している。
「ヴァニタスじゃないか! 随分大きくなって!」
地下で話をする事も出来るようになったヴァニタスとは一言の会話も無いままここへやってきてしまったが、どうやらヴァニタスは既に相当数のエネルギーを蓄えたようだ。
「ここに居たのか! 探したのだぞ」
ヴァニタスはそう言って豆粒のように小さいアンソニー達を見つけて舞い降りた。大きくなった体は今にも霧散してしまいそうだった頃とは比べ物にならない。
「ヴァニタス! もうそろそろ出発かい?」
地上に下りてきたヴァニタスにニコラが駆け寄ると、ヴァニタスは首をもたげてニコラの頬に嘴を寄せる。
「ああ。もう少し吸収したらな。自分の限界を思い出すにも丁度良いだろう?」
笑いながらそんな事を言うヴァニタスにアンソニーもニコラも笑うが、カールだけは厳しい顔をしている。
「冗談はほどほどにしておいてください。私達がどれほど苦労したと思っているのですか」
「相変わらずカールは真面目だなぁ。もういいじゃないの、昔の事は。それにヴァニタスだって立派な被害者だよ。もうあちこちを飛んで回ってきたかい?」
「ああ。久しぶりに大空を何の遠慮もなく飛んだ。どうしてこの感覚を忘れていられたのだろうな」
そう言ってヴァニタスは大きな羽根を広げる。そんなヴァニタスにアンソニーが頭を下げた。
「地下で言いそびれていたんだが、君を利用してしまって本当にすまなかったね、ヴァニタス」
星の姫から無理やりヴァニタスを引き剥がしたのはアンソニー達だ。あの時の事を思うと今でも胸が痛む。
だから余計にヴァニタスが本来の姿をこうして取り戻した事を嬉しく思った。
そんなアンソニーの謝罪にヴァニタスはゆっくりと首を振る。
「それは違うぞ、アンソニー。我らはそなた達に救われたのだ。あのまま姫と共に居れば、我らは姫と共にいずれ消滅していた。そうならずに済んだのは、そなた達が我らを引き剥がしてくれたからだ」
「けれど、何もあそこまで力技で引きはがす事は無かったかな、とは思うよ」
苦笑いを浮かべたアンソニーにヴァニタスも頷く。
「それはそうだな! はは、冗談だ。あれぐらいしなければ我らは切り離せなかった。何せ姫はもうとうの昔に意識を失くしていたのだから。姫にも会ったが、彼女は泣いてくれたのだ。我のために! 我と話をする事が出来て嬉しいと言って!」
「それは良かったね。君はずっと姫とディノの心配をしていた」
「ああ、そうだ。我が旅立つ時、見送ってくれたのは彼らだけだ。多くの生物は我の事を理解出来なかった。我は死をもたらす死神だったのだ。彼らは友人だ。古い古い友人なのだ」
「彼らもきっと君のことをそう思ってるよ。それに僕たちも、英雄たちもレプリカに移動した者たちも皆、今は君のことを正しく理解している。君が次にこの星へやってきた時は、もしかしたら全員が君を歓迎してくれるかもしれないね」
「そうですよ、ヴァニタス。僕たちの付き合いはまだ浅いですが、あなたはもう大切な仲間で、星にとってとても重要な役割だと言うことも知っています。これからあなたがどんな旅を送るのかは分かりませんが、道中、どうかお気をつけて」
アランが静かに言うと、ヴァニタスはまた大きな翼を広げて声高らかに笑った。
「そなた達も我に運ばれるのが少しでも先になるよう、いつまでも息災であってくれ。運が良ければまた会えるだろう。それでは、達者でな!」
そう言ってヴァニタスが飛び立とうとしたその時、それまで黙っていたカールが叫んだ。
「ヴァニタス! 少し待ってください。カイン経由でノアから伝言です」
「ノアから? なんだ?」
ノアと聞いて思わず身構えたヴァニタスにカールは静かに言った。
「アメリアは初代の錫杖を持っているそうです。対処をするように、との事ですが、何の事だか分かりますか?」
カールが不思議そうな顔をするのとは裏腹に、それを聞いたヴァニタスがゴクリと息を呑んだ。
「初代の……錫杖……だと?」
「ええ、そう書いてありますが……もしかしてまた何か良くない事が追加されますか?」
一体どうやったらこんなに次から次へと問題が出てくるのか! カールは思わずモノクルを押し上げた。
「……そうだな、良くない事に使われると大変な事になるな……。己の錫杖すら聖女に預けていたとは、何という事だ……我が身がしでかしたことながら、ソラに何と申し開きをすれば良いのか……」
そう言ってヴァニタスは頭を抱えた。そんなヴァニタスを見てアンソニー達は互いの顔を見合わせて察する。
「ヴァニタス、とりあえず反省は後だよ。何か対処が出来ないか君もここを旅立つ前に考えてくれ」
「ああ、もちろんだ」
そう言ってヴァニタスは全員を背中に乗せるとその場から離れ、メイリングの山奥の祠に移動した。
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