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第662話

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「恐らく。モルガナを攫った時に村が一つ焼かれてる。僕たちはそれをバラの力だと思ってたけど、もしかしたら錫杖の力だったのかもしれない。モルガナを攫った男はその後すぐに新教会を立ち上げた男に殺されたってアンソニー王は言ってた。この人こそが本物のアメリアの父親。で、僕の仮説はこうだよ。モルガナはその利用価値を知っている人間によって、とある村から誘拐された。けれど、それを追ってきた新教会を立ち上げた人物によって殺される。彼はその後モルガナを守るために新教会を立ち上げた。その時に味方の振りをして入り込んだのがスチュアート家の人間だった。もしかしたら今のアメリアも偽モルガナもスチュアートの者かもね。そしてそれを脅威とみなしたのがバレンシア家とアンソニー一派で、新教会に潜り込みどうにか立て直そうとしたけれど、それは叶わなかった。そしてこの時には既に本当のモルガナは偽物のモルガナになっていた可能性がある」
「ふむ……理には適っているな。という事はアンソニー達も一杯食わされたという事か」
「そういう事。スチュアート家の人間は表向きには宗教戦争を装って裏でモルガナから錫杖とバラを取り上げるよう画策してたんじゃないかなって。その為にまずは新教会を立ち上げた男を殺し、本物のモルガナから錫杖を取り上げて川に突き落とした。そして錫杖を使ってバラも取り上げる。その後にアンソニー達が教会に入り込んだんじゃないかな」

 でなければアンソニー達がモルガナの入れ替わりに気づかないはずがない。アメリアの出自を完璧に知っていたということは、本物のモルガナは結構早い段階でアメリアと共にこの世を去っていたということだ。

「何という事だ……いくら罪を重ねれば気が済むのだ……」
「もしもこれが正しかったとすれば、あそこに居るアメリアは錫杖の呪いをいずれ受ける。バラが消えればね」
「なるほど、それで自滅するかもと言ったのか」
「そういう事。ただバラを消すことが出来るのはディノしか居ない。けど、今の状態でディノを復活させるのは少し厳しいね。何せディノはエネルギーの塊なんだから」
「そうだな。ヴァニタスがこの星からエネルギーを運ばない限り、それは難しいだろうな。AMINASが大分減らしてくれたとはいえ、我とオズとディノが一緒くたに力を発揮するのは流石にマズイな。おまけに今アメリアがしようとしているのは、さらなるエネルギーの還元だ。これはもうお手上げだぞ」
「それに関してはルードさん達が作戦を立ててくれた。今、あの穴から流れ込んできてるのはアメリア兵だけじゃないんだ」
「どういう事だ?」
「こっち側の兵士も居るんだってさ。仲違いさせてアメリアがしようとしてる事を皆の目の前で見せるつもりらしいよ」

 もう何が何だかよく分からなくなってきたリアンが言うと、妖精王は腕を組んで考え込む。

「ふむ……では、どこかにレプリカに移動する場所を作るか」
「寝返った兵士をあっちに送り返すの?」

 アリスが首を傾げると、妖精王は無言で頷いた。

「目的はこの地上からエネルギーを減らす事だ。今の状態で事を起こすと、本当に星が消し飛んでしまう。しかし、それをどうやって周知させるか、レプリカに戻る線引はどうしたら――」

 妖精王が言い終わらないうちに、アリスが意気揚々と拳を振り上げて叫んだ。

「分かった! それじゃあレプリカと繋ぐ場所をあちこちに作って結界張って、改心した人にしか見えなくしたらいいよ!」
「なるほど。賢い。よし、それでいこう。目眩ましの魔法であればさほどのエネルギーも使わないからな」
「ほらね! 僕のアリスはたまに物凄く賢いんだよ!」

 アリスの功績に思わずノアがドヤ顔をすると、そんなノアにキリとリアンが白い目を向けてくる。

「あんたさ、自分で言っちゃってんじゃん。たまに、って」
「普段、というよりも大半の時はゴリ、お嬢様はおバカだと思っているという良い証拠ですね」
「うるさいうるさい! 誰が何と言おうと僕のアリスが世界一可愛いんだよ!」
「あーあ、とうとう言い逃れ出来なくなっちゃったじゃん。ていうか、変態はどうしてアリスが絡むと、途端にそんな馬鹿っぽくなるの?」
「リー君、それは違うっす。アリスが絡んだ時だけ、ノアは何も考えなくて済むんすよ」
「モブさんの言う通りです。普段ややこしい事をぐちゃぐちゃ考えている人間にとって、ゴリ、お嬢様のようなアンポンタンのやる事は理解が出来ないのです。ですからノア様はこんがらがってドロドロになった脳内をリフレッシュする為にゴリ、お嬢様を溺愛しているのだと思います」
「ねぇ! なんで私の事呼ぼうとする度にゴリってつくの!? ねぇ、なんで!?」
「キリ? それはあれかな? もしかして僕のこともついでに馬鹿にしてるのかな?」

 キリの言葉にアリスとノアは二人してキリににじり寄った。そんな二人にキリは相変わらず淡々という。

「とんでもありません。俺は二人に心から感謝しています。こんなにもどちらかの方向に振り切ってしまっている人間は滅多に居ないので、大体の事が許せるとても心の広い人間に成長できた事を」
「……一つも感謝されてる感じしない」
「右に同じ」

 結局いつものようにキリの一人勝ちでバセット兄妹の喧嘩は収まった。そんないつも通りの三人のおかげで、ほんの少しだけ場が和む。

「とりあえず我は一旦あそこに戻るぞ。この話をオズにもしてこよう。それからノア、お前の息子たちは何やら機転を利かして動いたようだぞ」
「そうだった。それも聞こうと思ってたんだけど、どうしてあの子達は僕らの言いつけを破ってあそこに居るの?」
「賢者の石だ」
「賢者の石? それがどうしたの」

 ノアが言うと、それを聞いて妖精王は何かを確信したかのように頷いた。

「やはりそなたの失敗はそこだったのかもしれんな」
「どういう意味?」
「うむ。我々が皆出払った後、子どもたちはある事に気づいたのだ。それは、ノアの失敗だ」
「……僕の失敗?」
「ああ。そなたはあの時点でアンソニーに手紙を送った。けれど、それがおかしいという事にどうやらノエルが気づいたようだ。そなたであれば、確実に成功した時点から手紙を送るはずだ、とな」

 妖精王の言葉にノアが珍しく黙り込んだ。隣ではアリスとキリが頷いている。

「賢いじゃん、ノエル。それで?」

 リアンの言葉に妖精王は頷いて続きを話しだした。

「つまり、ノアの手紙があの地点からしか届かなかったという事は、どこかで作戦が失敗して書けなくなるような未来に繋がるのではないか、と思った子どもたちの元に、ローズから賢者の石にまつわる伝言がレインボー隊を介して届いたらしい。それを見て彼らは賢者の石を持ってあの場に移ったんだそうだ」
「なるほど。確かに僕は賢者の石の事なんて全然気にもしてなかったよ」

 あらゆる作戦を考えたつもりだったが、どうやら重大な抜けがあったようだ。ノアは真剣な顔をして顔を上げると、妖精王はさらに言う。

「子どもたちが賢者の石を運ぶ途中、アメリア兵がディノの宝石の部屋にも侵入したそうだ。つまり、彼らは賢者の石を探しているという事になる」
「待って。ディノの宝石の部屋にはディノの許可無しに入れないんじゃないの?」
「錫杖だ。あの錫杖がディノの宝石の部屋の結界を解除したんだ。ディノ自身はもう初代の縁から開放されているが、あの場所自体は古代妖精が創った場所だ。古代妖精は未だに初代の管轄にあるからな。そこにかかった結界など、簡単に破られる」
「それじゃあ何であんたはそれをしなかったのさ?」
「個人が創った物だから手出しが出来なかったのだ。そういう制約を全て無視すればオズのように何でも出来たが……出来たとしても、我はしなかっただろうな」

 個人の物を今までは妖精王の制約があるからと言ってしてこなかったが、全ての制約が解けた今でもそれをしようとはもう思わない。

「だろうね。あんたは妖精王の中でも変わり者だって言われてたもんね。それで、よりによってどうしてあの場所な訳?」
「あそこと核だけが唯一我らに手出しが出来ん場所だからだな。だが核は知っての通り外とも繋がっている。現に外から次元を流せ込めたのが良い例だ。だが、シャルが無理やり創ったあの場所だけは外界のどことも繋がっていない、完全に独立した場所なのだ。観測者もそれが分かっていたからこそ、あの場所でディノの復活をさせようとしたのだろうな」
「なるほど……それじゃあ子どもたちがあそこに賢者の石を持ち込んだのは大正解って事なんすね」
「そういう事になるな」
「それが僕の失敗、か。ありがとう、妖精王。全部終わったらアンソニー王に手紙を書くよ。それにあっちが必死になって賢者の石を探してるっていうのも分かった。アリス、僕は一旦あそこに行ってくる。カインと話を詰めないと。その間、地上の兵士は任せてもいいかな?」
「もちろん! 舌出してないのが味方だよね!」
「うん、そう。キリ、リー君、オリバー、アリスの事お願い。それから影たちをこっちに寄越すよ」
「分かった。何かあったら連絡する」
「うん、お願い。それじゃ妖精王、戻ろう」
「ああ。ではな」

 そう言って妖精王はノアの服を掴んで消えた。その途端、アリスははりきって屈伸を始める。

「はぁ、それではお嬢様、そろそろゴーしましょうか」
「うん!」

 アリスはいつものように元気に返事すると、大きく息を吸って剣を引き抜いた。
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