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第675話
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アリスは珍しく色んな事を考えながらアメリアの兵士たちと戦っていた。
それはユアンの事だったり絵美里の事だったりしたのだが、そのせいで剣に迷いが出てしまう。
「っ!」
目の前に迫った剣をどうにか避けたアリスが体制を整えようとした所で、目の前の敵がドサリと倒れた。
驚いて振り返ると、そこにはノアが真剣な顔をしてアリスを見下ろしている。
「兄さま……」
「アリス、下がってて。今の君では戦力にならないよ」
「!」
ノアの言う通りだ。今のアリスでははっきり言って使い物にならない。分かっているけれど、それでもどんなに追いやろうとしても浮かんでくるのはユアンの困ったように笑った顔だ。
アリスはノアに言われた通り戦場から退いた。皆が見渡せる場所に葉っぱで出来たカモフラージュ衣装をつけて座っていると、突然後ろから声をかけられる。
「アリス、ここは危ないから一緒に妖精王の結界の中まで行きましょう?」
「……キャロライン様……うん、そうする」
いつの間にやってきたのか、キャロラインはアリスの背中を支えるようにしてゆっくりと歩き出した。
やがて結界の中までやってくると、そこには敵の兵士たちでごった返していた。思わずそんな光景にアリスは目を丸くしてしまう。
「こ、これは一体……?」
「気づいた人たちよ。アメリアが自分達に一体何をしようとしているのか、それに気づいた人たちが、ここだけではなくて他の結界の中にも沢山いるわ」
そう言ってキャロラインは一歩踏み出すと声を張り上げた。
「大丈夫よ、ちゃんと全員あちらに戻れるわ! だからそんな風に喧嘩をしないでちょうだい!」
「聖女の言う通りだ。頼むから大人しく待っていてくれ!」
キャロラインの声に仲間の兵士が叫ぶと、今までアメリアの側に居た兵士たちはようやく大人しくなった。
「お、俺たち後から裏切り者だって言われたりしないか!?」
「それは分からん。これからのお前たち次第だな」
「そんな……俺たち、騙されてただけなのに!」
「そうだ! 俺たちは騙されていたんだ!」
一人の兵士が叫ぶと、それはさざ波のように大きくなっていったが、そんな時、それまで黙って黙々と兵士の返還作業をしていたセイが口を開いた。
「甘えるな。騙されたといくら叫んでも、お前たちが侵した罪は消えない。お前たちはたとえ一時とは言え甘言に惑わされ、この星を潰そうとした罪人だ。ただ考えを改めただけなのに、それを騙されたなどと誰かのせいにするなど言語道断だ。自分の罪は自分で償え。お前たちがこの先どう生きるかは、いつだっておまえたち次第だ」
それを聞いてキャロラインは苦笑いを浮かべる。
「相変わらずハッキリしてるわね、彼は」
「……うん」
「ねぇアリス、私、今みたいなあなたも好きよ」
「え?」
「いつものあなたはセイさんよりもハッキリしてて元気だけれど、前の戦争の時のようにノアが居なくなってふにゃふにゃになってしまったあなたも、とても好きなの」
「……どうしてですか?」
「だってね、こんな事を言ったら叱られそうだけど、それでやっとあなたもやっぱり人間なのねって実感出来るんだもの。家族に何かがあってもいつも通りで居られるなんて、そんなのは本当に人間では無いと思うわ」
「でも、それは何か優劣をつけてるみたいだし……」
「優劣なんて当然でしょう? あなたが本当に大地から生まれてきたのだとしたらそれでも構わないけれど、あなたはエリザベスさんとユアンから生まれてきたのだもの。私達と何も変わらない、ちょっと尋常じゃない力の持ち主なだけ。違うの?」
「……そう……です」
「もしかしたらいつか言ったかもしれないけれど、顔も知らない人と、少しでも繋がりが出来てしまった人ではやはり思い入れが違うわ。だって、繋がりが出来るということは、思い出も出来てしまったという事だもの。その思い出がある限り、私達は完全に平等でなんていられない。それが出来るのは妖精王のようなもっともっと上の存在の人たちだけなの。アリス、聞いて。もしもまだ人間で居たいのなら、あなたはそのままでいてちょうだい。あなたの心は今とても不安定だけれど、それこそが人間である証なのだと、私は思っているわ。あなたは周りの人に人外扱いをされすぎて、知らない間に自分の事をそうあるべきだって思い込んでいるのかもしれないけれど、あなたはアリス・バセットというこの星に住む一人の女性に過ぎないって事を忘れないでね」
キャロラインがアの肩を掴んで言うと、それまでどうにか堪えていたアリスの目から大粒の涙が溢れだした。
「キャロライン様ぁ! パパ、パパどうなっちゃったのかなぁ!? 私、もっと本当はパパと話したかった! 真面目な話とか苦手だからふざけてしか話せなくて、でも本当はもっと一杯お話したかったんだ!」
キャロラインの言葉に、とうとうアリスは堰を切ったように泣き出してしまった。そんなアリスをキャロラインが強く抱きしめてくれる。
「そうね。私ももっと話したかったわ。ユアンに何かあったようだって言う曖昧な情報しか入ってこないから、余計に不安になるのよね?」
「ぶん……助かったのは分かるけど、命があればそれで良いって訳じゃないんだよ! ちゃんと歩けるのか、話せるのか、どこか怪我してないか、そういうのも大事なのに! 誰も教えてくれない! 私、私……」
そればかりが気がかりで何にも集中が出来ない。アリスの声が聞こえたのか、それまでまた黙々と作業をしていたセイが近寄ってきた。
「嫁、そういう時は我慢しなくていい。誰かに連絡して、無理やり聞きだすべき。はい、これ。アーロにかけた」
そう言ってセイはアリスに自分のスマホを渡した。アリスはそれを見てコクリと頷いて受け取る。
『どうした? 何かあったか?』
「アーロ……パパ、どうなったの……?」
『アリス? ああ、そうか。連絡が遅くなった。ユアンは俺を庇ってアメリアの錫杖の餌食になったんだ。体が半分消えてもう駄目かと思っていたら、オズがそれを止めてくれた。ユアンは今、5歳ほどの子どもの姿になって子どもたちと一緒に地下にいる。それ以外の怪我は無い。安心しろ』
「そっか……そうだったんだ……ありがとう、アーロ!」
『ああ。遅くなって悪かったな、アリス。ユアンは、お前のパパは俺たちが引き取るよ。ユアン・スチュアートではなく、ユアン・バレンシアとして育てる』
アーロはあえてユアンの記憶が残らないかも知れない事はアリスには伝えなかった。今それを伝えれば、きっとアリスは動けなくなる事が分かっていたからだ。
アリスはアーロの言葉を聞いて素直に喜んだ。
「うん! きっとパパ喜ぶ! ありがとう!」
アリスはアーロの言葉を聞いて顔を輝かせた。ユアンはスチュアート家を潰すために奔走し、自身もスチュアート家である事を酷く嫌がっていたのをアリスは知っている。だからアーロの提案はユアンにとっても最善に違いない。
アリスはスマホを切ってセイに渡すと、もう一度キャロラインに抱きついた。
「セイ兄ちゃんありがとう! キャロライン様も本当にありがとう! アリス! 出陣しますぞ!」
いつもの調子で二人に敬礼したアリスを見て、キャロラインは笑顔で、セイは頷いて送り出してくれる。
アリスはそのまま結界から飛び出し、狂喜乱舞しながら向かってくる兵士たちをなぎ倒していった。
それはユアンの事だったり絵美里の事だったりしたのだが、そのせいで剣に迷いが出てしまう。
「っ!」
目の前に迫った剣をどうにか避けたアリスが体制を整えようとした所で、目の前の敵がドサリと倒れた。
驚いて振り返ると、そこにはノアが真剣な顔をしてアリスを見下ろしている。
「兄さま……」
「アリス、下がってて。今の君では戦力にならないよ」
「!」
ノアの言う通りだ。今のアリスでははっきり言って使い物にならない。分かっているけれど、それでもどんなに追いやろうとしても浮かんでくるのはユアンの困ったように笑った顔だ。
アリスはノアに言われた通り戦場から退いた。皆が見渡せる場所に葉っぱで出来たカモフラージュ衣装をつけて座っていると、突然後ろから声をかけられる。
「アリス、ここは危ないから一緒に妖精王の結界の中まで行きましょう?」
「……キャロライン様……うん、そうする」
いつの間にやってきたのか、キャロラインはアリスの背中を支えるようにしてゆっくりと歩き出した。
やがて結界の中までやってくると、そこには敵の兵士たちでごった返していた。思わずそんな光景にアリスは目を丸くしてしまう。
「こ、これは一体……?」
「気づいた人たちよ。アメリアが自分達に一体何をしようとしているのか、それに気づいた人たちが、ここだけではなくて他の結界の中にも沢山いるわ」
そう言ってキャロラインは一歩踏み出すと声を張り上げた。
「大丈夫よ、ちゃんと全員あちらに戻れるわ! だからそんな風に喧嘩をしないでちょうだい!」
「聖女の言う通りだ。頼むから大人しく待っていてくれ!」
キャロラインの声に仲間の兵士が叫ぶと、今までアメリアの側に居た兵士たちはようやく大人しくなった。
「お、俺たち後から裏切り者だって言われたりしないか!?」
「それは分からん。これからのお前たち次第だな」
「そんな……俺たち、騙されてただけなのに!」
「そうだ! 俺たちは騙されていたんだ!」
一人の兵士が叫ぶと、それはさざ波のように大きくなっていったが、そんな時、それまで黙って黙々と兵士の返還作業をしていたセイが口を開いた。
「甘えるな。騙されたといくら叫んでも、お前たちが侵した罪は消えない。お前たちはたとえ一時とは言え甘言に惑わされ、この星を潰そうとした罪人だ。ただ考えを改めただけなのに、それを騙されたなどと誰かのせいにするなど言語道断だ。自分の罪は自分で償え。お前たちがこの先どう生きるかは、いつだっておまえたち次第だ」
それを聞いてキャロラインは苦笑いを浮かべる。
「相変わらずハッキリしてるわね、彼は」
「……うん」
「ねぇアリス、私、今みたいなあなたも好きよ」
「え?」
「いつものあなたはセイさんよりもハッキリしてて元気だけれど、前の戦争の時のようにノアが居なくなってふにゃふにゃになってしまったあなたも、とても好きなの」
「……どうしてですか?」
「だってね、こんな事を言ったら叱られそうだけど、それでやっとあなたもやっぱり人間なのねって実感出来るんだもの。家族に何かがあってもいつも通りで居られるなんて、そんなのは本当に人間では無いと思うわ」
「でも、それは何か優劣をつけてるみたいだし……」
「優劣なんて当然でしょう? あなたが本当に大地から生まれてきたのだとしたらそれでも構わないけれど、あなたはエリザベスさんとユアンから生まれてきたのだもの。私達と何も変わらない、ちょっと尋常じゃない力の持ち主なだけ。違うの?」
「……そう……です」
「もしかしたらいつか言ったかもしれないけれど、顔も知らない人と、少しでも繋がりが出来てしまった人ではやはり思い入れが違うわ。だって、繋がりが出来るということは、思い出も出来てしまったという事だもの。その思い出がある限り、私達は完全に平等でなんていられない。それが出来るのは妖精王のようなもっともっと上の存在の人たちだけなの。アリス、聞いて。もしもまだ人間で居たいのなら、あなたはそのままでいてちょうだい。あなたの心は今とても不安定だけれど、それこそが人間である証なのだと、私は思っているわ。あなたは周りの人に人外扱いをされすぎて、知らない間に自分の事をそうあるべきだって思い込んでいるのかもしれないけれど、あなたはアリス・バセットというこの星に住む一人の女性に過ぎないって事を忘れないでね」
キャロラインがアの肩を掴んで言うと、それまでどうにか堪えていたアリスの目から大粒の涙が溢れだした。
「キャロライン様ぁ! パパ、パパどうなっちゃったのかなぁ!? 私、もっと本当はパパと話したかった! 真面目な話とか苦手だからふざけてしか話せなくて、でも本当はもっと一杯お話したかったんだ!」
キャロラインの言葉に、とうとうアリスは堰を切ったように泣き出してしまった。そんなアリスをキャロラインが強く抱きしめてくれる。
「そうね。私ももっと話したかったわ。ユアンに何かあったようだって言う曖昧な情報しか入ってこないから、余計に不安になるのよね?」
「ぶん……助かったのは分かるけど、命があればそれで良いって訳じゃないんだよ! ちゃんと歩けるのか、話せるのか、どこか怪我してないか、そういうのも大事なのに! 誰も教えてくれない! 私、私……」
そればかりが気がかりで何にも集中が出来ない。アリスの声が聞こえたのか、それまでまた黙々と作業をしていたセイが近寄ってきた。
「嫁、そういう時は我慢しなくていい。誰かに連絡して、無理やり聞きだすべき。はい、これ。アーロにかけた」
そう言ってセイはアリスに自分のスマホを渡した。アリスはそれを見てコクリと頷いて受け取る。
『どうした? 何かあったか?』
「アーロ……パパ、どうなったの……?」
『アリス? ああ、そうか。連絡が遅くなった。ユアンは俺を庇ってアメリアの錫杖の餌食になったんだ。体が半分消えてもう駄目かと思っていたら、オズがそれを止めてくれた。ユアンは今、5歳ほどの子どもの姿になって子どもたちと一緒に地下にいる。それ以外の怪我は無い。安心しろ』
「そっか……そうだったんだ……ありがとう、アーロ!」
『ああ。遅くなって悪かったな、アリス。ユアンは、お前のパパは俺たちが引き取るよ。ユアン・スチュアートではなく、ユアン・バレンシアとして育てる』
アーロはあえてユアンの記憶が残らないかも知れない事はアリスには伝えなかった。今それを伝えれば、きっとアリスは動けなくなる事が分かっていたからだ。
アリスはアーロの言葉を聞いて素直に喜んだ。
「うん! きっとパパ喜ぶ! ありがとう!」
アリスはアーロの言葉を聞いて顔を輝かせた。ユアンはスチュアート家を潰すために奔走し、自身もスチュアート家である事を酷く嫌がっていたのをアリスは知っている。だからアーロの提案はユアンにとっても最善に違いない。
アリスはスマホを切ってセイに渡すと、もう一度キャロラインに抱きついた。
「セイ兄ちゃんありがとう! キャロライン様も本当にありがとう! アリス! 出陣しますぞ!」
いつもの調子で二人に敬礼したアリスを見て、キャロラインは笑顔で、セイは頷いて送り出してくれる。
アリスはそのまま結界から飛び出し、狂喜乱舞しながら向かってくる兵士たちをなぎ倒していった。
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