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第674話

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「何か加護をつけてやりたいな……何がいいだろうか」
「幸せになるやつがいい! 絶対に、それがいいよ!」

 アミナスが拳を握りしめて言うと、妖精王はそれを聞いて頷いた。

「そうだな。それがいい」

 そう言って妖精王はユアンに加護をつけた。次こそ、とびきり幸せな人生を送ることが出来るように、と願いながら。

「さて、ユアンはこのままレプリカへ送ろう。エリザベスの所でいいのだな?」

 妖精王はアミナス達が書いた手紙を眠るユアンの胸元に差し込んで転移魔法をかけた。それと同時にユアンの体が光り、その場から消える。

「それで、我にお願いとは?」
「うん、それなんだけどね――」

 ノエルはさっき相談した事を妖精王に伝えると、妖精王はそれを聞いて首を傾げた。

「なるほど。それを我にして欲しいということか」
「そうなんだ。出来るかな?」
「可能だろうが、それは結構魔力を消費しそうだな。しかも出来たとしてもせいぜい一体だぞ」

 古代妖精と呼ばれる自然の具現化した妖精たちから姿を完全に奪うのはそう容易い事ではない。

「一体……」

 妖精王の一言にその場に居た全員が黙り込んだ。やはり無理か。

 一体しか姿を奪えないのであれば、残りの古代生物をどうする事も出来なくなってしまう。

「そっか……クロちゃんの魔法だって万能じゃないもんね。父さまも言ってたもん。誰かがかけた魔法を無効化するのは難しいって。それならいっそ、かけ直した方が早いって」
「お嬢様が肉を焼こうとして火加減を誤って森を全焼させそうになった時ですね。あの時は旦那様の魔法をぶつけて何とか消し止めましたが、二度と森で火を使おうなどと考えないでくださいね」
「分かってるよぅ! あれからちゃんと火熾せ~る君持ち歩いてるもん!」
「ん? お主達、今何と言った?」
「え? 火熾せ~る君持って歩いてるよ!」
「そこではない! アミナスの魔法を、ノアの魔法で打ち消したのか?」
「ううん、違うよ。父さまの魔法を私の魔法の上にかけ直したの。それでちっちゃい火にしてくれたんだ! それで水かけて消したんだよ!」
「それだ! 消すことは出来んが、小さくする事なら出来るかもしれぬ!」
「どういう事? 妖精王」

 魔法をかけ直すとは一体どういう意味だ? レックスが首を傾げると、それに応えてくれたのはディノだ。

「それはいい案かもしれない。いいか、魔力というのは劣化するのだ。そして力の弱い者の魔力は、力の強い魔力には打ち勝つことが出来ない。アミナスはまだノアよりも魔力が少ない。だからノアはアミナスの魔法の上から自分の魔法をかけたのだ。そうすれば魔力が弱い方の魔法は打ち消される」
「でも、妖精王と初代妖精王の魔力は大体均等じゃないの?」

 同じ妖精王なら多少の魔力の差はあれど、均衡してしまうのではないだろうか? リーゼロッテの言葉にディノはゆっくりと首を振った。

「いいや。先程も言ったように、魔力は劣化する。だから妖精王が星を常に維持しなければならないのだ。古代妖精は初代が使った魔法で出来ているが、その上から新しい魔法を今の妖精王がかけてやれば、あるいは……いけるかもしれない」

 ディノの言葉に子どもたちは目を輝かせた。

「ねぇねぇ! もしかしたらそれだとレックスが賢者の石に繋がらなくてもいいんじゃない!?」
「その通りだ」

 アミナスの声にディノは嬉しそうに頷く。そして思った。ローズが予言したというあのイラストは、もしかしたら賢者の石をここに運び込む為だけに描かれたのではないだろうか、と。

 であれば、レックスを賢者の石に触れさせるのは間違いだったという事になる。

「危ない所だったな」
「ディノ?」

 小さな声で呟いたディノの言葉をしっかりと聞き取ったリーゼロッテが問いかけると、ディノは今感じた事を素直に皆に話した。

 今までは何か問題が起こったら一人で対処しようとしていたが、仲間が居るとこういう時にとても心強いという事を、ディノはようやく理解し始めている。

「言われてみれば、あの絵に描かれていたのは賢者の石だけだった……レックスの事なんて少しも描かれて無かったよ!」
「本当だ! あの時ちょうどタイミングが良かったから僕たちは勝手にそう思い込んじゃったんだね」
「危ない所でしたね。もしかしたらここでレックスが何らかの失敗をしてディノの魔力が戻らなかったら――」
「それ以上は言わないでください、カイ。ただでさえ背中に冷たい物が流れているのです」
「一歩どこかで間違えたら、全てが台無しになる」

 ポツリとレックスが言うと、仲間たちは真剣な顔をして頷いた。

「何だかよく分からんが、何か失敗しそうだったという事か?」

 状況が分からない妖精王が首を傾げていると、ノエルが一から丁寧に説明してくれる。

「そ、それは危なかったな! しかし一つ分かった事もある。この賢者の石は、あちらにとって最後のカードだと言うことだ」
「そうだな。ローズのお告げでわざわざここへ賢者の石を運ばせたという事は、間違いなくこの石がアメリアには必要なのだろう。しかしいつまで経っても見つからない事でもしかしたら自暴自棄になる可能性がある」
「それは避けたいな。よし、とりあえず我はこの話を地上に持ち帰る。我はもうそなた達の事を止めはせぬ。そなた達も既に立派な英雄だ」

 妖精王はそれだけ言って、皆の前から姿を消した。

「クロちゃんに認められた!」

 最後に残した妖精王の言葉を聞いてアミナスが喜ぶと、仲間たちも一瞬だけ嬉しそうな顔をしてすぐに表情を引き締める。

「もっとよく考えましょう。我々に今出来る事を」
「その為にはやはり地上の状況をすぐに入手したいですね」
「そう言えば……これ、使えない?」

 リーゼロッテはそう言ってポケットからある物を取り出した。それは、ライラがずっとかけていた眼鏡だ。

「これ! リゼ、これどうしたの!?」
「ライラが核に運ばれて来た時にカイン宰相が拾ったみたい。後で返さないとなーって言いながら机の上に置いてったの」
「これだよ!」

 ノエルはリーゼロッテから眼鏡を受け取ってすぐさまそれをアランに送り付けた。

「ちょ、ノエル様!? あれは一体何なんです!?」
「ごめん。でもあれはライラがかけてた眼鏡型のカメラなんだ! 作ったのはアラン様だから、アラン様に渡したらきっと直してかけてくれると思って」
「だからと言って、そんな勝手に――あ」

 舌の根も乾かぬうちに勝手な事をしたノエルに詰め寄ろうとしたその時、机に置いてあったモニターが起動した。

『アラン君、いつからそんな眼鏡かけてたっけ?』

 画面に映し出されたのはニコラだ。アランを見ているのか、画面一杯にニコラが映し出されている。

『たった今です。これはカメラなんですよ。妖精王の物も壊されてしまったようだったので、ちょうど良かった。これでまた情報がレプリカにも地下にも送れます。子どもたちに後でお礼を言わなければいけません』
『へぇ、面白いね。後で触らせて』
『もちろん』
「やった! 成功したよ!」 

 ノエルが喜んで手を叩くのを横目に、レオとカイは白い目をノエルに向ける。

「普段はそんなには思いませんが、やはりノエル様にもしっかりと奥様の血が流れていますね」
「全くです。レックス、ヤバいのはお嬢様だけではありません。ノエル様もまたあの二人の息子なのだと言うことを肝に銘じておいてください」
「分かった」

 大なり小なり、アリスの子はアリスだ。双子達はどうやらそう言いたかったようだ。

 それから子どもたちは動き出した。アランから送られてくる情報を元に、どのタイミングでディノを復活させるかを考え始めたのだった。
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