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第673話

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 それからすぐにアーロは地上に戻って行ってしまった。ノエル達も手紙を書き終え、今は皆で眠るユアンを真ん中に置いて、その周りで作戦会議をしていた。

「お祖父ちゃんがこうなったって事は、アメリアは本気で父さま達を殺す気だよね」
「そうでしょうね。これはもうゆっくりしていられません。旦那様は我々にここで大人しくしているようにと言っていましたが、どう考えてもこちらの分が悪いです」
「ねぇねぇ、ヴァニタスはもう一杯エネルギー運んだんだよね? だったらそろそろディノ復活させちゃ駄目なのかなぁ?」
「僕も同じこと考えてた。ディノ、どう思う?」

 レックスの言葉にディノは腕を組んで考え込んだ。これはディノが最適な答えを導き出す時の癖だ。

「その前に古代妖精をどうにかしなければならない。古代妖精と錫杖、そして二人の妖精王の力がぶつかったら、そこに私が戻る隙がない」
「そっか、そうだよね。それじゃあやっぱり僕たちは待ってるしか出来ないのかな」

 ノエルがそう言って視線を伏せたその時。

「お前ら順番間違えんなよ。何でもちゃんと順序通りにやりゃ、上手くいくように出来てんだ」
「お、おじいちゃん!」
「お祖父ちゃん!? 起きたの!?」

 突然の声に驚いてユアンを見下ろすと、ちょうどユアンがゆっくりと目を開けた所だった。

「はぁ、今度は随分縮んだな。うおっ!」
「お祖父ちゃん!」
「おじいじゃん(おじいちゃん)!!」
「ちょ、く、苦しい! お前ら加減しろ!」

 孫二人に飛びつかれたユアンは思い切り咽たが、二人はユアンがいくら言っても離れない。そんな二人を仕方なく抱きしめてそのままユアンは言う。

「いいか、まずはあの古代妖精を何とかしろ。話はそれからだ」
「古代妖精? 消しちゃうの?」

 ノエルとアミナスに飛びつかれて倒れたままのユアンにリーゼロッテが言うと、ユアンは首を振る。

「古代妖精は自然そのものだ。あれこそ星がある限りは決して消える事はない。あいつらは無理やり初代に姿を与えられただけだ。まずはその姿を奪え」
「それ、僕たちも考えたんだ。だからここにあれを持ち込んだ」

 そう言ってレックスが指さした先には大きな賢者の石が置いてある。それを見てユアンは頷いて言う。

「いいか、まずは古代妖精。そして次にバラだ。最後に錫杖。順番を間違えるなよ」
「うん、分かった」
「ん。それじゃあ俺は悪いがもう少し寝る。もしかしたら……次はお前らの事、覚えてないかもしれない。完全に忘れる前に会えて良かったよ。アリスとアーロ、それからエリザベスによろしく伝えておいてくれ。それじゃあな」

 ユアンはそれだけ言って、また意識を失った。そんなユアンを見てノエルとアミナスはポカンと口を開いてディノを見ると、ディノも視線を伏せている。

「どういう事!? ねぇディノ! おじいちゃん、次に起きたら私達の事覚えてないの!?」
「その可能性は高い。完全に体が再構築されたら……もしかしたら記憶も全て失っているかもしれない」

 オズワルドはよくやった。妖精王の錫杖からユアンを守る事がどれほど大変な事か、ディノには分かる。体と魂を繋ぎ止めただけでも相当な魔力を要したはずだ。それを一瞬で構築したオズワルドの力は途方もないが、記憶だけは話が別である。

 記憶は体に残らない。魂に刻み込まれるものだからだ。それが新しい体に入った時、それは転生した時と同じようにリセットされてしまう可能性がある。

「ユアンはお前たちの事が心配だったのだろうな。本来なら、この状態になってあんな風に目を覚ます事など無い。けれど彼は目覚め、助言をして眠りについた。そなた達の祖父はアリスとやはりよく似ていて、その精神力は計り知れない」
「……いつか、思い出してくれるかな?」

 涙を浮かべてノエルが言うと、ディノは少し躊躇って頷く。

「そう、願っている」

 ディノは嘘が苦手だけれど、その可能性は限りなく低くてもほんの少しでも良いから可能性が欠片でもあるのなら、それに賭けたかった。

 そんなディノの心が正しく伝わったのか、ノエルとアミナスがようやく頷く。

「……うん。皆、お祖父ちゃんの言う通り、まずは古代妖精をどうにかする方法を探そう!」
「そうですね。嘆いていても始まりません」
「お祖父様が教えてくれた事に今まで間違いはありませんでした。俺たちはそれに従うべきです」
「私、私にも何か出来る?」

 リーゼロッテはそう言って身を乗り出した。皆がこの星の為に頑張っている。

 そんな仲間たちを見てリーゼロッテの心もまた騒ぎ出した。

 今までは星の姫は守られるばかりで、自分から動き出す事など無かったが、今回は違う。心が動けと叫んでいる。

 オズワルドと見て回った地上は美しく、醜く、残酷で、思いやりに溢れていて、思っていたよりもずっと壮大だった。

 全ての感情が入り混じって出来上がった世界を初めて自分の目で見たリーゼロッテは、以前よりも強くこの星が愛しいと感じた。この星に生きる全ての生物を守りたいと強く思った。

「姫はここに居てもいいのだぞ?」
「嫌だ! 私も仲間だもん!」
「! そうだったな。すまない。それでは姫の力もお貸しいただこう」

 ディノは何だか強くなった星の姫を見て驚きに目を見張りつつも、頷いた。

「ちょっとまとめよう。賢者の石には古代妖精を無効化する方法が記録されてるの?」
「ああ、そのはずだ。というよりも、初代が古代妖精に姿を持たせた時の魔法が記録されていると思う。それに逆さ魔法をかけるのだ。それが出来るのは、オズワルドか妖精王だろう」
「分かった。オズは攻撃に特化してるから今はこっちには戻せないよね」
「そうですね。ですから呼び戻すのは妖精王の方でしょう。ちょっと待っていてください」

 レオはそう言ってスマホを取り出して妖精王にメッセージを送ると、妖精王は思いもよらぬ速さで戻ってきた。

「何事だ!? ユアンがどうにかしたと聞いたが!?」

 ちょうど妖精王はスマホで全員の状況を確認していた所だった。そこへ来たレオからのメッセージに居ても経ってもいられなくて戻ってきたのだ。

「あ、えっと……お祖父ちゃん、アーロを守って子どもに戻っちゃったんだ……さっき一回目を覚ましたんだけど、もしかしたら次に目覚めたら僕たちの事覚えてないかもって……」

 どうやらまだ仲間たちの間でユアンの正しい情報は行き渡っていないようだ。ノエルはユアンの身に起こった事を簡潔に妖精王に伝えると、妖精王は泣きそうな顔をして眠るユアンの頬を撫でた。

「そうか……そうか……」 

 ユアンの頬を撫でると、ユアンの中の体中の細胞が今も激しく構築をしているのが伝わってくる。
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