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番外編 『新世界へようこそ 3』
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「ルーク、お前先行ってるか?」
カインはノアにスマホの件についてメッセージを送りながら顔も上げずに言った。
知らないおじさんがスマホに出た事を告げようとしてすっかり忘れていたのだ。
とはいえ、スマホはノアの魔力にしか反応しないはずだ。それなのにおかしな事もあるものである。
カインの言葉に既にうんざりしていた様子のルークが顔を輝かせた。
「いいの?」
「いいよ。何なら俺も先に行こうかな」
「駄目ダヨ! 二人共、ちゃんと選んで!」
ソファに倒れ込むようにしてボソボソとそんな事を言うカインとルークにフィルマメントは眉を釣り上げた。
「今回はフィルが主役じゃないんだぞ? あくまでも各国の王が主役なんだからな?」
「分かってる! でももしかしたらちょこっと映ったりするかもでしょ!? その時にしょうもない格好してたら、カインが笑われちゃう!」
「いや、別に俺は笑われても構わないっていうか、俺たちのメインはバーベキューなのにそんな着飾っていいの? 汚すよ?」
呆れたようにカインが言うと、それを聞いてフィルマメントはハッとした顔をした。
「そうだった! すっかり忘れてた! じゃあもう乗馬服でいいカ」
「……途端にグレードダウンじゃん」
きらびやかなドレスから一転して乗馬服に着替えだしたフィルマメントを見て思わずルークが呟くと、カインが慌ててルークの口を塞いで首を振る。
「ルーク、こういう時は余計な事は言わなくていいんだよ。ルイス見てみな? いっつも余計な事言って皆に叱られてるだろ?」
「うん」
カインの言うとおりだ。ルイスは王なのにいつも皆に叱られている。それは偏に余計な事を口走るからである。チームキャロラインにボコボコにされているルイスを思い出してルークが青ざめると、カインは無言で頷いてフィルマメントに近寄った。
「俺のフィルはどんな格好してても可愛いだろ? それにああいうドレスは俺が主役の時に着てくれ」
「カイン……うん! そうだネ! それじゃあ私達も行こ!」
「ああ。ルーク、おいで」
そう言ってカインはフィルマメントにバレないようにルークにウィンクをして見せると、ルークはそんなカインを見て苦笑いを浮かべた。
妖精であるフィルマメントは本当にいつだって自由だ。泣きたい時に泣くし笑いたい時に笑って怒りたい時に怒る。
けれどその分凄く素直で一途である。
カインはいつだったか言っていた。これぐらい愛が重い方が自分には向いているのだ、と。それはカインもどちらかというとそのタイプだからなのだろうが、すこぶる仲の良い両親を見ていると、たまにルークは居た堪れなくなってしまう。
ルークはカインとフィルマメントに手を繋がれて、最初は子供っぽくて嫌だとも思ったが、すぐにその考えは改めた。これは幸せだ。やっと手に入れた幸せなのだ。
リアンとライラはこの日も朝から大忙しであちこちの地域を走り回っていた。
今日は夕方から全世界同時バーベキューで終戦を祝うなどという、実に馬鹿げた一大イベントがあるのだ。
言い出しっぺはアリスかと思いきや、ルイスとキャロラインだと言うのだからもう目もあてられない。
「ディノ! ここが丁度200メートルだよ!」
「ああ、ありがとう、リー君」
ディノは背中に乗せたリアンの声を聞いて地面に降り立った。そこに地下の水晶の部屋から切り出した十分にエネルギーを蓄えた水晶を設置すると、ガチガチに結界を張って誰にも動かせないよう水晶をその場に固定する。
そこへライラがスキピオに乗ってやってきて、アランの量産した機械と食材が出てきた時用のお皿、そして使い方を書いた看板を設置していく。
「ふぅ! これでここは終わりよね?」
「多分ね。はい、ライラ。ママベア印のお腹に優しいカルピス」
「ありがとう! これ美味しいのよね。もう少しで発売なんでしょ?」
「うん。やっと原液の量産が出来たって時に戦争だからね。本当、嫌になるよ」
そう言ってリアンはカルピスをグイッっと一気に飲み干した。
美味しい。疲れた体にじんわりと染み渡るさっぱりとした甘さと適度な酸味が堪らない。最初はまたアリスがおかしな物を飲んでいると思ったが、これは売れる。
会議でも満場一致で商品化した新しい飲み物である。出来れば今日提供したかったが、流石にそれは厳しかった。
「それは何だ? カルピスと言うのか?」
足元で何かを飲んでいる二人を見てディノが問いかけると、リアンとライラは揃ってカバンから新しいカルピスを取り出してディノにくれた。
「乳酸菌飲料って言うんだって。お腹とかに良いらしいよ」
ディノはリアンからカルピスを受け取って一口飲むと、目を大きく見開く。
「う、美味い!」
「でしょ? ここに炭酸入れると美味しかったよ。それよりも! これいつ終わるの!?」
リアンはそう言って今しがた移動してきた道を振り返った。そこには点々と水晶の塊が置いてある。これを全世界に設置して回るなどという無茶を言い出したのはノアで、半ば無理やり駆り出されたいつものメンバーである。
「もう少しよ、リー君。オズ達が今こっちのお手伝いに来てくれるそうだから」
「ほんと? 良かった。もう途方もなさすぎてどうしようかと思ったよ」
かれこれ半月ほどずっと仲間たちを総動員して水晶の設置をしているが、未だに終わりが見えない。世界はやはり広かったようだ。
「あ、電話だ。このクソ忙しい時に誰……アリスか」
そこへアリスから連絡が入った。リアンがげんなりしながらスマホを操作すると、続いていつもの元気な声が聞こえてきた。
『やぁやぁ! 今頃元気にカルピスでも飲んでいるかね!? 君たち!』
「なんで知ってんの。怖いんだけど」
『ははは! 心友達の事は何でもお見通しですぞ!』
「……気持ち悪いんだけど。で、なに?」
『ああ、うん。あのね、タイムリミットが近いからそろそろこっちに来てって言おうと思って!』
「いやいや、戻ろうにもまだ水晶の設置終わって無いんだけど!?」
思わずリアンが怒鳴ると、スマホ越しにアリスの笑い声が聞こえてきた。
『大丈夫! アリス秘密部隊会員番号5023番さんが一斉に設置してくれる事になったから!』
「は? 誰、そ――」
アリスが一体何を言ってるのか意味が分からなくて思わずリアンが首を傾げたと同時に、突然世界が光った。
それはほんの一瞬の事だったけれど、突然の光にリアン達が目をつぶって次に目を開けた時には、まだ水晶が設置されていなかった道にも既に水晶が設置されている。
それに気付いたリアンとライラ、そしてディノはギョッとして顔を見合わせた。
「ちょっと! 会員番号5023番って誰!?」
「ま、まさかとは思うが……あの方……か?」
「流石アリスね! たとえソラであっても簡単にこんな事をお願いしてしまうなんて! 普通の人間には決して出来ないわ!」
『はっはっは! いやいや、これは拙者の功績ではないのですぞ! ソラ自ら申し出てくれたのです! 拙者、自らの人脈がたまに恐ろしくなりますぞ!』
「恐ろしいのはこっちだよ! あんた馬鹿なの!? こんなしょうもない事にソラの力使わせるなんて、普通名乗り出ても丁重にお断りするでしょ!?」
『え? なんで? ソラもどっかで参加するって言ってたよ?』
「……は?」
『そりゃそうだよ! 手伝わせるだけ手伝わさせてサヨナラなんてしないよ! ちゃんとお誘いしたんだもん! そしたら来るって言ってたもん!』
「もん! じゃないんだよ、このバカチン! どこに来るの!? ちゃんとお迎えする準備出来てんの!? それ各国の王とか妖精王は知ってんの!?」
『んーん。誰にも内緒って言われたから言ってないよ! リー君たちも今の話は誰にも秘密だゾ! そんな訳だから皆、そろそろ戻ってきてね~。ばっはは~い!』
「あ、こらちょっと! ……切れた」
リアンは応答しなくなったスマホを見下ろすと、次いでライラとディノを見て笑顔を浮かべた。
「誰にも内緒だってさ!」
「聞こえていたわ。アリスのやる事は相変わらず凄いわ……流石大地の化身ね」
「……私はアリスが恐ろしい……」
「はは、そんな大げさに考えなくて良いよ、二人共。聞かなかった事にしとこ! ……って、出来る訳ないんだよ、そんな事! ライラ、ディノ、スキピオ! 今すぐ戻って何か適当な嘘つくよ!」
こんな力を見せつけられたら誰がどう見てもソラの仕業だとすぐに分かるに決まっている。たとえソラが秘密だと言ってもリアン達が黙っていたとしても、バレるのは時間の問題である。
それでもアリスに内緒だぞと言われたからには、誰にもバレないようにしてやるのがリアン達の仕事だ。まぁそれは到底無理だろうが何もしないよりはマシである。
慌てて帰る準備をしだしたリアンに倣ってライラとディノとスキピオは頷いて帰り支度を始めた。
皆が何故いざと言う時にリアンを頼るのか、少しだけ理解する事が出来たディノだった。
カインはノアにスマホの件についてメッセージを送りながら顔も上げずに言った。
知らないおじさんがスマホに出た事を告げようとしてすっかり忘れていたのだ。
とはいえ、スマホはノアの魔力にしか反応しないはずだ。それなのにおかしな事もあるものである。
カインの言葉に既にうんざりしていた様子のルークが顔を輝かせた。
「いいの?」
「いいよ。何なら俺も先に行こうかな」
「駄目ダヨ! 二人共、ちゃんと選んで!」
ソファに倒れ込むようにしてボソボソとそんな事を言うカインとルークにフィルマメントは眉を釣り上げた。
「今回はフィルが主役じゃないんだぞ? あくまでも各国の王が主役なんだからな?」
「分かってる! でももしかしたらちょこっと映ったりするかもでしょ!? その時にしょうもない格好してたら、カインが笑われちゃう!」
「いや、別に俺は笑われても構わないっていうか、俺たちのメインはバーベキューなのにそんな着飾っていいの? 汚すよ?」
呆れたようにカインが言うと、それを聞いてフィルマメントはハッとした顔をした。
「そうだった! すっかり忘れてた! じゃあもう乗馬服でいいカ」
「……途端にグレードダウンじゃん」
きらびやかなドレスから一転して乗馬服に着替えだしたフィルマメントを見て思わずルークが呟くと、カインが慌ててルークの口を塞いで首を振る。
「ルーク、こういう時は余計な事は言わなくていいんだよ。ルイス見てみな? いっつも余計な事言って皆に叱られてるだろ?」
「うん」
カインの言うとおりだ。ルイスは王なのにいつも皆に叱られている。それは偏に余計な事を口走るからである。チームキャロラインにボコボコにされているルイスを思い出してルークが青ざめると、カインは無言で頷いてフィルマメントに近寄った。
「俺のフィルはどんな格好してても可愛いだろ? それにああいうドレスは俺が主役の時に着てくれ」
「カイン……うん! そうだネ! それじゃあ私達も行こ!」
「ああ。ルーク、おいで」
そう言ってカインはフィルマメントにバレないようにルークにウィンクをして見せると、ルークはそんなカインを見て苦笑いを浮かべた。
妖精であるフィルマメントは本当にいつだって自由だ。泣きたい時に泣くし笑いたい時に笑って怒りたい時に怒る。
けれどその分凄く素直で一途である。
カインはいつだったか言っていた。これぐらい愛が重い方が自分には向いているのだ、と。それはカインもどちらかというとそのタイプだからなのだろうが、すこぶる仲の良い両親を見ていると、たまにルークは居た堪れなくなってしまう。
ルークはカインとフィルマメントに手を繋がれて、最初は子供っぽくて嫌だとも思ったが、すぐにその考えは改めた。これは幸せだ。やっと手に入れた幸せなのだ。
リアンとライラはこの日も朝から大忙しであちこちの地域を走り回っていた。
今日は夕方から全世界同時バーベキューで終戦を祝うなどという、実に馬鹿げた一大イベントがあるのだ。
言い出しっぺはアリスかと思いきや、ルイスとキャロラインだと言うのだからもう目もあてられない。
「ディノ! ここが丁度200メートルだよ!」
「ああ、ありがとう、リー君」
ディノは背中に乗せたリアンの声を聞いて地面に降り立った。そこに地下の水晶の部屋から切り出した十分にエネルギーを蓄えた水晶を設置すると、ガチガチに結界を張って誰にも動かせないよう水晶をその場に固定する。
そこへライラがスキピオに乗ってやってきて、アランの量産した機械と食材が出てきた時用のお皿、そして使い方を書いた看板を設置していく。
「ふぅ! これでここは終わりよね?」
「多分ね。はい、ライラ。ママベア印のお腹に優しいカルピス」
「ありがとう! これ美味しいのよね。もう少しで発売なんでしょ?」
「うん。やっと原液の量産が出来たって時に戦争だからね。本当、嫌になるよ」
そう言ってリアンはカルピスをグイッっと一気に飲み干した。
美味しい。疲れた体にじんわりと染み渡るさっぱりとした甘さと適度な酸味が堪らない。最初はまたアリスがおかしな物を飲んでいると思ったが、これは売れる。
会議でも満場一致で商品化した新しい飲み物である。出来れば今日提供したかったが、流石にそれは厳しかった。
「それは何だ? カルピスと言うのか?」
足元で何かを飲んでいる二人を見てディノが問いかけると、リアンとライラは揃ってカバンから新しいカルピスを取り出してディノにくれた。
「乳酸菌飲料って言うんだって。お腹とかに良いらしいよ」
ディノはリアンからカルピスを受け取って一口飲むと、目を大きく見開く。
「う、美味い!」
「でしょ? ここに炭酸入れると美味しかったよ。それよりも! これいつ終わるの!?」
リアンはそう言って今しがた移動してきた道を振り返った。そこには点々と水晶の塊が置いてある。これを全世界に設置して回るなどという無茶を言い出したのはノアで、半ば無理やり駆り出されたいつものメンバーである。
「もう少しよ、リー君。オズ達が今こっちのお手伝いに来てくれるそうだから」
「ほんと? 良かった。もう途方もなさすぎてどうしようかと思ったよ」
かれこれ半月ほどずっと仲間たちを総動員して水晶の設置をしているが、未だに終わりが見えない。世界はやはり広かったようだ。
「あ、電話だ。このクソ忙しい時に誰……アリスか」
そこへアリスから連絡が入った。リアンがげんなりしながらスマホを操作すると、続いていつもの元気な声が聞こえてきた。
『やぁやぁ! 今頃元気にカルピスでも飲んでいるかね!? 君たち!』
「なんで知ってんの。怖いんだけど」
『ははは! 心友達の事は何でもお見通しですぞ!』
「……気持ち悪いんだけど。で、なに?」
『ああ、うん。あのね、タイムリミットが近いからそろそろこっちに来てって言おうと思って!』
「いやいや、戻ろうにもまだ水晶の設置終わって無いんだけど!?」
思わずリアンが怒鳴ると、スマホ越しにアリスの笑い声が聞こえてきた。
『大丈夫! アリス秘密部隊会員番号5023番さんが一斉に設置してくれる事になったから!』
「は? 誰、そ――」
アリスが一体何を言ってるのか意味が分からなくて思わずリアンが首を傾げたと同時に、突然世界が光った。
それはほんの一瞬の事だったけれど、突然の光にリアン達が目をつぶって次に目を開けた時には、まだ水晶が設置されていなかった道にも既に水晶が設置されている。
それに気付いたリアンとライラ、そしてディノはギョッとして顔を見合わせた。
「ちょっと! 会員番号5023番って誰!?」
「ま、まさかとは思うが……あの方……か?」
「流石アリスね! たとえソラであっても簡単にこんな事をお願いしてしまうなんて! 普通の人間には決して出来ないわ!」
『はっはっは! いやいや、これは拙者の功績ではないのですぞ! ソラ自ら申し出てくれたのです! 拙者、自らの人脈がたまに恐ろしくなりますぞ!』
「恐ろしいのはこっちだよ! あんた馬鹿なの!? こんなしょうもない事にソラの力使わせるなんて、普通名乗り出ても丁重にお断りするでしょ!?」
『え? なんで? ソラもどっかで参加するって言ってたよ?』
「……は?」
『そりゃそうだよ! 手伝わせるだけ手伝わさせてサヨナラなんてしないよ! ちゃんとお誘いしたんだもん! そしたら来るって言ってたもん!』
「もん! じゃないんだよ、このバカチン! どこに来るの!? ちゃんとお迎えする準備出来てんの!? それ各国の王とか妖精王は知ってんの!?」
『んーん。誰にも内緒って言われたから言ってないよ! リー君たちも今の話は誰にも秘密だゾ! そんな訳だから皆、そろそろ戻ってきてね~。ばっはは~い!』
「あ、こらちょっと! ……切れた」
リアンは応答しなくなったスマホを見下ろすと、次いでライラとディノを見て笑顔を浮かべた。
「誰にも内緒だってさ!」
「聞こえていたわ。アリスのやる事は相変わらず凄いわ……流石大地の化身ね」
「……私はアリスが恐ろしい……」
「はは、そんな大げさに考えなくて良いよ、二人共。聞かなかった事にしとこ! ……って、出来る訳ないんだよ、そんな事! ライラ、ディノ、スキピオ! 今すぐ戻って何か適当な嘘つくよ!」
こんな力を見せつけられたら誰がどう見てもソラの仕業だとすぐに分かるに決まっている。たとえソラが秘密だと言ってもリアン達が黙っていたとしても、バレるのは時間の問題である。
それでもアリスに内緒だぞと言われたからには、誰にもバレないようにしてやるのがリアン達の仕事だ。まぁそれは到底無理だろうが何もしないよりはマシである。
慌てて帰る準備をしだしたリアンに倣ってライラとディノとスキピオは頷いて帰り支度を始めた。
皆が何故いざと言う時にリアンを頼るのか、少しだけ理解する事が出来たディノだった。
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