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番外編 『新世界へようこそ 4』

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「なぁ、これは明らかに人間の仕業ではないよな?」

 エリスとアーロは今しがた目の前で起こった現象を見てその場に佇んで首を傾げていた。

「違うな。見ろ、この結界の難解さを。妖精王のものとも質が違う気がするが、一体誰だ?」

 突然辺りが光ったと思ったら、次の瞬間目の前に現れた水晶の塊。というか、食材受け取り場所を覗き込んでアーロが言うと、エリスが肩を竦めて首を振った。

「いや、悪いんだけど俺にはそんな結界の本質とか分かるほど魔力ないからな?」
「そうなのか? まぁいい。とにかく妖精王ではない。という事はディノかオズか?」

 細部まで突然現れた水晶を点検していたアーロが立ち上がって服の裾を叩きながら言うと、そこへ頭上から呆れたような声が聞こえてきた。

「言っとくけど、俺じゃないよ」
「オズ!」
「オズか。そっちはもう終わったのか? 流石だな」
「いや、ここで起こった事が俺が居た所でも起こったんだ。なぁ? リゼ」
「うん。突然ピカって光ったと思ったら、次設置するはずだった場所にもう水晶が置いてあったの。あとね、看板も変わってた!」

 そう言ってリーゼロッテが水晶の隣に設置されている看板を指差すと、アーロとエリスがその看板を覗き込んで「あ!」と声をあげた。

「食べ残しや余った食材を戻す方法が追記されてんぞ!」
「本当だな。なるほど、食品ロスも防げるのか。優秀だな」

 腕を組んでアーロが言うと、隣のエリスも感心したような顔をして頷いている。

「問題はそこじゃない。誰がこれをやったのかって事だ。当然お前らじゃないよな?」
「んな訳ねーだろ。アーロでもないぞ」
「だとしたら、後はディノか。けどそれにしちゃ魔力が強大すぎるんだが……」

 オズワルドは言いながら水晶に触れてみたが、もう何の痕跡もない。これほどに綺麗に痕跡を消すなど、果たしてディノに出来るだろうか? 妖精王でもオズワルドでも難しいというのに。

 となると、考えられるのは一人しか居ない。オズワルドはリーゼロッテを抱きかかえて空に舞い上がると、まだ不思議そうに水晶を見つめているエリスとアーロに言った。

「正体が分かった。お前らも多分そこに辿り着くだろうが、これだけ痕跡を消してるんだ。気付いても黙っておいてやってくれ。それじゃあな。俺たちは先に戻るよ」
「え!? ちょ、分かったのかよ! せめて教えて行けよ!」

 突然そんな事を言って空に浮かび上がったオズワルドにエリスは叫んだが、オズワルドはエリスの言葉など無視してそのまま消えてしまった。

「なるほど。エリス、分かったぞ」
「いや、冗談だろ?」
「冗談などではない。今のオズの言い方からしてこれをやったのは間違いなくソラだ」
「はあ!? 一体何の冗談だ」
「だから冗談などではない。オズにも一見して分からない程の痕跡の消し方、そして世界中に一斉に水晶をばら撒けるほどの魔力、おまけに気付いても黙っておいてやってくれというオズの配慮。あのオズが配慮しなければならない人物だとすれば、ディノではない。残りは……ソラしか居ない」
「で、でも何だってソラがこんな事に手を貸すんだ?」
「ソラがアリス特殊部隊の会員だからだろう」
「え? ……それだけの理由?」

 突然のアリスの名前に思わずエリスがキョトンとしてしまうと、アーロは神妙な顔をして頷いた。

「それ以外にソラが我々に手を貸す理由などないだろう?」
「いや、まぁそうなんだけど、え? 本気で言ってる? あのカードそんな威力あんのかよ?」
「あるぞ。今回の戦争でそれがよく分かっただろう? あのカードを持っている者達は最初にレプリカから戻り、いち早く復興に取り掛かった。それどころか、レプリカに移動した際も最前線で動いた者たちだ。実に有能な者たちばかりだが、いくら有能でもまとまりがなければ意味がない。それらをまとめるのがあのカードだ」
「……怖いカードだな」
「ああ。だから俺は言ったんだ。ソラがあのカードを受け取った事の方が怖い、と。まぁバセット領の奴らはそんな事までは考えていないのだろうが」

 アリスは基本的には仲間が増えたと喜んだだけだし、ノアはソラでさえ利用できそうであれば利用しようなどと思っているだろう。そしてキリに至っては面倒事さえ起こらなければ何でも良いとすら思っていそうだ。

「この様子だと他の場所も既に設置済みだろう。エリス、バセット領に戻って確認しにいくぞ」
「あ、ああ」

 エリスは思う。切り替えが早すぎるアーロと、ここには居ないがいつだってとんちんかんなエリザベスの手綱は、やはりユアンしか握れないのだな、と。この三人が今は仲良く一緒に暮らしていると思うとおかしくてならないが、そのうちのストッパー役が記憶をすっかり失っているのが痛い。

「はぁ……ユアンの記憶戻らねぇかな」

 そろそろアーロのお供に疲れてきたエリスが言うと、アーロはクルリと振り返って仮面越しにエリスをじっと見てくる。

「な、なんだよ?」
「俺はユアンの記憶は戻らない方がいい」
「なんでだよ。ああ、辛い事も思い出すからか? お前への感情とか思い出しちまったら確かに可哀相だよな」

 せっかくアーロへの思いを封印する事が出来たというのに、それをわざわざほじくり返すのも可哀想だと思ったエリスだが、どうやらアーロの心配はそこではないらしい。

「それは別にどうでもいいな。そこではなくて、ユアンが記憶を思い出したら、もう俺たちの事をパパ、ママ、と呼んでくれないだろう? ほっぺにキスも出来なくなるじゃないか」
「……そこぉ!? そっちのがどうでもいいだろ!?」

 思わずリアンのように突っ込んでしまったエリスを無視して、アーロはスタスタと相変わらずマイペースに歩き出した。その後をエリスは追う。

 もう本当に、切実にユアンに記憶を取り戻してほしいと願うエリスだった。



 バセット領ではどこの村や街よりも早くバーベキューの準備を終えていた。当然だ。ここはしょっちゅう何か事ある毎にバーベキューでお祝いするような場所で、住民たちはそれぞれのバーベキューグリルとマイ網、そしてトングを持っている。それを広場に持ち寄ったり景色の良い場所に設置したりして楽しむのだ。

 そしてそういう日はここぞとばかりに農家や菓子屋などが自分たちの自慢のお菓子や食材を持って広場に屋台を作る。

 けれど、それは今回は封印された。いや、厳密には封印された訳ではない。菓子屋などはこぞって参加しているし、加工品などは相変わらず屋台に所狭しと並べられている。

「本当に、ほんっとうに良いの? 野菜とかお肉とか切らなくても」

 バセット領では朝からずっとこの質問がひっきりなしに飛び交っていた。その度にノアは笑顔で言うのだ。

「厳密には自分ちの野菜やお肉は切らなくていいよ、だよ。詳しくは広場に出来た不思議な水晶の解説読んできてね」

 この台詞をもう何度言ったか分からない。半月ほど前から始まった水晶設置計画だが、バセット領にようやく水晶が設置されたのは今日の事だった。何故なら田舎だから。

 あの水晶を全世界に設置しようと決まった時、一番に設置が決まったのは孤児院、貧民街だった。その次は人が多い場所だ。つまり王都から始まり、徐々に田舎に設置が始まったのだが、そのせいで既にあの水晶の使い方を把握している地域とそうでない地域の差が出てしまったのだ。それはまぁ分かっていたことだから仕方がない。実際隣町にあの水晶が設置されたと聞いて、バセット領の人たちの中にはわざわざ隣町に行ってあの水晶を体験してきた人たちも居た。

 ノアとキリがようやく設置された水晶を見に広場に行くと、そこには既に人だかりが出来ていた。

「ここにな、皿を置くんだ。それで、何が欲しいかをこのパネルに書くだろ? そしたら……ほら! ほらな!?」
「すげぇ! だ、大根だ……どこからどう見ても大根だぞ!」
「齧ってみろよ! 見た目だけ大根でも味がきゅうりとかだったら笑えないぞ!」
「えー……大根だ! 味も大根だぞ! ただやっぱちょっと薄い気がするな?」
「味がか? そういやお嬢も言ってたな。栄養満点で作る野菜とかとはちょっと味違うかもって。そんなに違うか?」
「いや、そこまでではないけど、うちの大根の方が美味いな! これだけは言える!」
「それが言いたかっただけんじゃやねぇの? ほら、ユアンも何か書いてみろよ!」
「何でもいいの? それじゃあ林檎!」

 すっかり領地の人たちと馴染んでいるユアンは、嬉しそうにパネルに林檎と書いて水晶の前でワクワクした様子で待っている。

「皆、楽しそうだねぇ」

 キャッキャ言いながら広場の水晶に集まる人達を一歩離れた場所から見ていたノアが言うと、隣でキリが首を傾げている。

「わからないのが、どうして大根などという味の薄い野菜で試すのでしょう? せめてトマトなどであれば味の違いもはっきりと分かるというのに」
「大根でも流石に分かるでしょ。相当な味音痴じゃなければ。ところでうちの怪獣たちはどこへ消えたのかな?」
「お嬢様は秘密の通信機を使ってソラと連絡を取っていました。その後、ローストビーフ作りに専念しています」
「なるほど。アミナスはそれを手伝ってるのか」

 ノアはそう言って新しくなったスマホを開いてカインからのメッセージを読んで目を丸くした。それから急いで地球に置いてきたスマホの番号を押してみると、不思議な事が起こった。

『誰だ! また間違い電話か!? いや、それよりもこれは一体どこに通じてるんだ!? 俺はどこの誰と電話してんだ!?』
「槇さん!?」

 突然の電話越しの怒鳴り声にノアは思わずスマホを耳から離して凝視した。すると、向こうからも息を飲むのが聞こえてくる。

『は? 乃亜……か?』
「うん。えー……電話繋がるんじゃん。早く言ってよ、妖精王」

 ノアはブチブチとそんな事を言いながら、まだ言葉も無く固まっているであろう槇に問いかけた。

 きっとこれも妖精王の計らいなのだろう。なんだかんだと色々サービスしてくれたようだ。

「大丈夫? 槇さん」
『あん? 大丈夫かどうかって聞かれたら大丈夫じゃないな』
「はは、まさかこんな風にスマホが繋がるとは思って無かったから今生の別れみたいな挨拶したけど、これからはこれで連絡取れそうで安心したよ」
『ああ、それはそうなんだが、一体何がどうなってるのかさっぱり分からん』
「んー……説明すると長くなるから、まぁそのうちおいおいね! あ、ちょっと待ってて! アリスが呼んでる」

 そう言ってノアはスマホをキリに渡して駆け出した。いくら槇と電話をしていても、ノアの最優先事項はいつだってアリスである。

 一方突然スマホを渡されたキリはと言えば。

「申し訳ありません。ノア様はゴリラの元へ行ってしまいました。あなたが槇さん、でしょうか?」
『あ、ああ……その声! お前、キリか!?』
「ええ。声で俺が分かるという事は、槇さんもノア様が作ったゲームをされたのですか」
『そうだ。そうか、乃亜に貰ったスマホにお前が一緒に写ってるのも多かったから一緒に居るんだろうとは思っていたが、ノアはお前の主人になるのか?』
「はい。俺はバセット領の執事ですから。そして今バセット領の当主はノア様です。
いつかあなたにお礼を言わなければと思っていたので丁度良いです。転生前はノア様がそちらに多大なるご迷惑をおかけしました。ノア様が真っ当ではありませんが完全に悪魔に魂を売り渡さなかったのはあなたのおかげです。ありがとうございます。もしもノア様が完全に悪魔に魂を売り渡していたら、きっと今頃こちらは阿鼻叫喚の世界になっていた事でしょう。そういう意味でもお礼を言わせてください」
『いやいや、礼には及ばんよ。それよりもな、乃亜は独身のおっさんに赤ん坊を預けるという悪魔のような所業をして帰ったんだが』
「絵美里ですか?」
『知ってるのか?』
「ええ。ですが、それは悪魔の所業ではありません。むしろノア様の慈悲です。大事に育ててやってください。絵美里の人生は独身のおじさんにかかっています」
『……なぁ、お前本当にキリだよな?』
「ええ。そうですが何か? ちっ! もう焼き終わったか、あのゴリラ! ノア様、俺はこれで失礼します」

 槇にお礼を告げている最中だと言うのに、広場からアリスの奇声が聞こえてきた。キリはいつの間にか戻ってきていたノアにスマホを返すと、ノアと入れ違いにアリス目指して駆け出す。

「あ、うん。アリスよろしく」
『……』
「いやーごめんごめん。ちょっとアリスがテンション上がって暴走しちゃって! それで何だっけ? あ、絵美里元気?」
『なぁお前、こっちでは相当猫かぶってただろ?』
「え? なんで?」
『いや、何となく。それよりも絵美里だよ! お前! 結婚もまだしてないおっさんにあんな赤子預けるってどういう事だよ!?』
「駄目だった? 結婚は出来ないけど子どもは好きだと思ってたんだけど」
『好きだよ。好きだけど、それとこれとは違うだろ!? おかげで俺は今、実家ぐらしに舞い戻ったんだぞ!』

 そう、槇は今実家ぐらしをしている。理由は一つしか無い。半ば無理やり置いていかれた絵美里の世話を、一人では到底出来ないからだ。

「いいじゃない、実家ぐらし。ご飯とか楽でしょ?」
『そこは確かに楽だな。母ちゃんの飯は美味いよ。そうじゃねぇ! どうしてくれんだ! 絵美里はすっかりうちの家に馴染んじまって、今やアイドル状態なんだぞ!』

 姉は子どもが出来ない事が原因で二年前に離婚して実家に戻ってからというもの、もう再婚する気配がない。そして槇は槇で全く浮ついた話も無かったので、両親は共に孫をすっかり諦めていた。そこへ突然やってきた絵美里である。

「ははは! 流石槇さんちだね。そっか、絵美里もこれでようやく幸せになれるのかな」

 もしもどうしても槇が育てられなければ、どこかの施設に預けるなりすれば良いと思っていたノアだったが、槇がそんな無責任な事をするはずがないという事も分かっていた。そんな事を分かった上で槇に預けたのは、心の何処かでやっぱり絵美里にも一度ぐらいは幸せというものを知ってほしかったのだ。

 ノアにしても絵美里にしても、地球での暮らしは散々だった。ノアはこちらの世界に来たことでいち早く幸せを手に入れてしまったが、絵美里はこちらに来てからもずっと苦しんでした。それは偏にノアが居たからだ。ノアが居ない世界であれば、絵美里はきっともう少し楽しい人生を送れていたに違いない。

『ったく。あ、で、名前なんだけどな、そのままつけるのもどうかなって話になって、絵美里の美里だけ取って、ミサトになったんだ。名前変えたぐらいでどうこうなるかどうかは分からんしまぁちょっとした験担ぎなんだけどな』
「いいじゃない、美里ちゃん。全然イメージ違うし」
『そうか? まぁ考えたの親父と姉ちゃんなんだけどな。あ、散歩から帰ってきたみたいだ』
「散歩?」
『ああ。親父とお袋は美里が来てから毎日散歩に出かけてんだ。抱っこ紐やらベビーカーやら、家の中赤ん坊のグッズで溢れかえってんぞ。姉ちゃんはもう美里の本当の母親みたいになってるよ。姉ちゃんずっと子ども欲しくて出来なかったから余計に可愛いみたいだ』
「そっか。うん、やっぱ槇さんに預けて良かった。こんな事言ったら槇さん怒るかもだけど」
『別に怒りはしないが、まぁ驚いたわな。焦ったし最初はどうしてやろうかと思ったが、絵美里が持ってたって言う写真見て思ったんだ。今度はこんな写真沢山撮ってやろうって。はは、まぁ戻って来いって毎晩泣いてたの俺だしな! 嫁さんには縁が無かったが、子どもには縁があったんだろう』
「あなたは本当に良い人だね、槇さん。色々安心したよ。それにこれが繋がる事も分かって良かった。何かあったらまた連絡するね。体壊さないように気をつけて」
『ああ。手紙よりもこっちのが俺もありがたいよ。それじゃあ美里風呂に入れてくるわ。お前も元気でな。また写真送ってくれ。またな!』
「うん。それじゃあ、また」

 ノアはスマホを切って笑みを浮かべた。そこへちょうどキリにこってりと叱られたアリスがやって来て後ろからノアを覗き込んでくる。

「どうしたの? 兄さま。珍しく嬉しそうな顔!」
「うん? スマホがね、槇さんと繋がったんだ。それから絵美里のその後も聞けたんだよ」

 ノアが言うと、アリスは目を輝かせてノアに飛びついてくる。

「どうだった? ちゃんと幸せになりそうだった?」
「うん。とびきり幸せになりそうだった。名前も美里に改名したってさ」
「可愛いじゃん! 美里ちゃんか! そっか! 良かったね、兄さま!」
「そうだね。あの時絵美里が赤ん坊に戻ってて本当に良かったよ。アメリアもいつかまた転生してこられるといいね」
「大丈夫だよ! きっとアメリアも次は幸せになる! 魂もキラッキラに磨かれてさ、とびっきりの幸せ掴むと思うな!」

 絵美里もアメリアも、何かを一つかけちがえただけなのだ。それは親であったり環境であったり色々だろうが、それを次の人生に持ち越すような事はきっとソラはしないだろう。アリスは、そう信じている。

「アリスが言うならそうかもね。何よりもあの二人との縁はもうソラが断ち切ってくれたし!」
「……すっごく嬉しそうな顔だね、兄さま」
「そりゃね! 記憶が無くても多分、分かるんだよ。あ、この人ヤバいって」

 そう言って微笑んだノアを見てアリスが白い目を向けてくるが、何も災難なのはノアだけではない。相性の悪い者同志が側に居るのはどちらにとっても不幸な事だ。それならばいっそ、初めから出会わなければ良い。

「でも私と兄さまは離れないもんね! ずっとずーっと! 永遠に! ね? 兄さま」
「もちろん。僕はアリスがどこに居ても追いかける習性があるみたいだしね。これからもよろしくね、アリス」
「うん! こちらこそよろしく、ノア!」

 そう言ってアリスはノアに抱きついて頬にキスをすると、ノアは嬉しそうに笑ってくれた。

「ついでに我々もこれからもよろしくお願いしますと言うべきでしょうか? キスもすべきですか?」

 いつまで経っても広場にやってこない二人を探しに来てみれば、こんな所でいつまでもイチャついているノアとアリスを見つけてキリが淡々と言うと、やっぱり同じようにアリスを探していたリアンが腕組をして言った。

「相当嫌なんだけど。この世は地獄なのかな?」
「リー君! もうソラに宣言されちゃったんだからいい加減諦めるっすよ。それよりも二人共、そろそろ宣言始まるらしいんで、広場に集まってほしいんすけど」
「そうだった! キャロライン様が新しい衣装着るって言ってたんだった!」
「あ、ちょ! アリス!」

 アリスはノアから飛び降りて呼び止めるノアも無視して一目散に広場に向かう。そんなアリスの後ろ姿に手を伸ばしたノアの手は、完全に行き場を失ってしまった。

「あんたさ、絵美里とかアメリアと縁切るよりもお姫様と切った方が良かったんじゃないの?」
「全くもってその通りですね」
「二人ともそのへんにしてやってほしいんすよ。またノアが恨み言つぶやき始める前に」
「……」

 アリスはノアよりもキャロライン。分かっていた事だが、そう設定したのは自分だが、それでも釈然としない。

 ノアは皆を無視してノロノロと広場に向かって歩き出した。

 広場に設置された壇上では、各国の王とその家族が晴れやかな顔をして集まってきていた。
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