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第23話 ベアトリスの大活躍!

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(なっ、ななな、なんて格好してんのよ、私は!)
 
 我ながら、びっくりするほど扇情的な姿だった。
 
 ただでさえ薄い夜着なのに、濡れたまま着たことで布地が張り付き、ところどころ肌の色が透けて見えている。

 男性の、しかも恋人や婚約者ではない相手に見せるには、あまりにもはしたない姿。
 
 思わず胸を隠して「破廉恥だわ!」と叫びそうになり、ベアトリスはハッと口を噤んだ。

 
 ──『貴女に興味ありませんので』

 
 以前、ユーリスにそう言われたのを思い出したから……。

 あの時は二度も「興味ありません」と言われて、私ってそんなに魅力がないの?と、傷ついたのを覚えている。

(ここで前回と同じ反応をしたら、それこそ自意識過剰よね?)

 ベアトリスはすっと顔を上げ、つんと取り澄ます。

 貴方のことなんて男として見ていないから、恥ずかしくもなんともないわよ~という雰囲気を取り繕い、平然を装って言った。

「ご忠告ありがとう。以後、気をつけるわ。じゃあ、あとはよろしくね」

 プツンと通話を切ると同時に──。

「ああっ、もうほんとに私のバカ! なんて恥ずかしい格好してるのよ、この大馬鹿者~~~ッ!!」

 ベアトリスは化粧台に突っ伏して、真っ赤な顔で叫ぶのだった。


 * * * 


 一方のユーリスは、先ほどまでベアトリスの姿が映し出されていた鏡を静かに閉じ、深く溜息をついていた。

「まったく、なんて格好をしてるんだ……警戒心がなさ過ぎる」

 ぽたり、ぽたりと雫がしたたる濡れた艶やかな金髪。湯上がりでほんのり桃色に上気した頬と華奢な身体、豊かな…………。

 そこまで考えて、ユーリスは慌てて首を横に振った。
 
(なにを考えているんだ、俺は! 相手は、あの高飛車で毒舌なベアトリスだぞ。あ、いや、もう高飛車で毒舌ではなくなったのか……)

 『気をつけて』と自分を心配するベアトリスの顔が脳裏に浮かぶ。

 人の本質は変わらないと思っていたが、正直、彼女の努力と改心、変化には目を見張るものがあった。

(最近はすごく素直で愛らしい……)

「あぁ、クソ! これから任務だっていうのに、余計なこと考えるんじゃねぇよ」

 ユーリスは、普段はめったに口にしない素の口調で自分自身を叱りつけると、ベアトリスに依頼された任務を達成すべく部屋を出た。


 
 数時間後──。
 ベアトリスの元に、ユーリスから成功の知らせが入った。
 

 捕まえた毒虫事件の犯人はその後、王妃の御前に引っ立てられ、今この瞬間もブルブルと全身を震わせている。

 セレーナに扮したベアトリスは、口元にゆるやかな笑みを浮かべ、悠々と王妃に告げた。

「お約束どおり、実行犯を捕まえて参りました……それでは、事件の全容をお話いたします」

 王妃を含めたその場の人々の視線が、犯人である侍女マリアに注がれる。
 
 ベアトリスは順を追って説明を始めた。

「彼女は……王宮侍女のマリア。わたしのリボンを盗んだ容疑で、騎士ユーリスが逮捕しました……」

「わたくしは窃盗犯ではなく、暗殺事件の犯人を捕まえろと命じたのよ」

「はい、王妃様。ですが、この侍女はただの窃盗犯ではございません……。わたしのベッドに毒虫を放った……犯人です」

 そうよね?と彼女に問えば、マリアは恐怖で顔を引きつらせ、震えながら言った。

「た、たしかに、セレーナ様のリボンを盗みました。ですが! 毒虫なんて知りません!!」

「嘘をついてはダメよ……。事件当日、あの毒虫を見たのは、わたしと駆除した騎士のふたりだけ。なのに貴女はリボンを盗んだ日、わたしに『あんな気色悪いアカムカデ』と言いました……。犯人ではないのなら、なぜ知っていたの……?」

「そ、それは……だ、誰かに話を聞いたのかも」

「それは変ね……。騎士が神殿と王宮で聞き取り調査をしましたが、あの事件に使用された毒虫が、猛毒アカムカデだと知っている者は……ひとりもいませんでした」

 そうベアトリスが追求すると、マリアは顔面蒼白になりながらも気丈に言い返してきた。

「私は『アカムカデ』なんて言った覚え、まったくありません! セレーナ様の聞き間違いです!!」

(へぇ。まだ罪を認めないのね)

 果敢に言い返してくるマリアの根性には感心するが、そろそろこの押し問答にも飽きてきた。

 終止符を打つべく、ベアトリスは控えめに、だがはっきりと告げた。

「貴女の発言は聖魔法で録音していました……それでも、認めないというのなら──」

 録音と聞いた瞬間、マリアはとうとう観念し、両手で顔を覆って泣き出した。

「わ、たしが……やりました……もうしわけ……ございません……!」

 号泣するマリアに対し、ベアトリスは今までとは打って変わって優しく問いかける。
 ──飴と鞭作戦、開始よ!

「マリア、お願い……すべてを話して……?」

「わっ、わたしは、脅されてやったんです!……決して、自分の意思でセレーナ様のお命を狙ったのではありません!」

 涙を流しながら、マリアは犯行までの経緯を語り始めた。

「はじめは、ほんの出来心で盗みを働いたんです。やめなきゃと思いつつ、王宮には綺麗な物がたくさんあるので、気付くと手が出ていて……」

 そんな手癖の悪いマリアの元に、ある日突然、差出人不明の手紙が届いた──。

「書かれていたのは『悪事をバラされたくなければ、命令に従え』という脅し文句でした。私は捕まるのが怖くて……自分の罪を隠すために、指示に従いました」

 事件当日、手紙に書かれていた路地裏に行くと、そこに置かれていたのは毒虫入りの小箱だった。

「私は指示通りそれを持ってセレーナ様のお部屋に行きました。鍵が掛かっていなかったので、急いで中に入って……ベッドに虫をいて逃げました……」
 
 その日はちょうど定例会で神殿内は慌ただしく、王宮侍女のマリアが出入りしても何ら怪しまれなかったという。

 事件後、騎士団は神殿関係者を徹底的に調査したが、出入りした王宮侍女全員を捜査することは難しく、犯人マリアまではたどり着けなかった。

 マリアがすべて話し終えた直後、これまで沈黙を貫いていた王妃がおもむろに口を開いた。

「お前が毒虫事件の実行犯なのは分かりました。では、その後の暗殺未遂事件もすべてお前の仕業かしら?」

 マリアは首を大きく横に振り「いいえ! 違います!」と必死に無罪を訴える。

 どうやら、毒虫事件以降の騒動には一切関わっていないらしい。

 王妃は「ふぅん」と言った後、これ以上見たくもないといった様子で顔を背けた。
 控えていた騎士たちがすぐさまマリアを拘束し、部屋から引きずり出す。

「犯人逮捕、ご苦労様でしたね、セレーナ。しかし、あの宮廷侍女はあくまで実行犯。黒幕が他にいるとわたくしは思いますが、貴女の見解は?」

「わたしも……そう思います。部屋の鍵があらかじめ開いていたことから……真犯人は、わたしに近しい人間か神殿や王宮の関係者、もしくは……」

 あらゆる部屋の合鍵を自由に使用でき、なおかつ珍しい毒虫を海外から秘密裏に取り寄せられる財力と人脈のある権力者。

 
(そう、王妃様、貴女のような──)

 
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