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来月には落とすから
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「理加子ぉぉぉっ。絶っっ対杉山先輩が来ると思ってた。まさか烏丸くんを選ぶなんて」
正門を出て、(リカコにいいつけられて)少し後ろを歩くカイリに聞こえない程度の音量で由美が訴える。
「別に、烏丸くんを選んだとかじゃないのよ。勝手について来てるだけ。
杉山先輩だって私が倒れたって聞いて、ちょっと心配してくれただけ」
そんなリカコに、由美は完全に疑いの目を向ける。
「ウソ。それだけならわざわざ場所代える必要無いもん。杉山先輩、頭いいし有望株だよ?」
有望株って。
リカコから苦笑いが漏れた。
杉山にはそこそこの人望があるのはわかっている。
でも
なんと言うか、キャパどうこう以前に、どうにも受け入れ難い何かが、杉山を遠ざける。
相性。かな?
「それより、なんで烏丸くんと杉山先輩の2択なのよ? まだまだ安売りしないわよ」
ふいっ。と首を振るリカコの髪が柔らかく弧を描いた。
「うゎっ。贅沢者ぉっ」
いつもの様に雑談をしながら駅までの道を歩いていく。
見慣れた顔ぶれに、見慣れた道。駅より1つ手前の角で由美と手を振って別れると、リカコはその場に少し留まった。
「女の子は華やかだなぁ」
ゆっくりと追いついて来たカイリが並ぶタイミングで再び歩き出すと、下から冷めた目で見上げる。
「台詞がおじさん」
視線を正面に戻してリカコは言葉を続けた。
「保健室まではカイリが運んでくれたんだってね。ありがとう。
それから、忠告してくれていたのに活かせなくて……ゴメン」
「麗しいレディーが倒れてるのに、放ってはおけないだろ?」
チラッと見上げる先のカイリは、いつものにこやかな顔。
「由美ちゃんにも心配かけたんだから、気をつけてくれよ」
「うん」
思い出して、ピッと人差し指を立てる。
「あ。もう1つ」
「なんで私が奥階段にいるって、わかったの?」
「んー」
カイリの顔が無表情を装う。
「この前さ、たまたまカエと奥階段で話をしたんだ。で、あそこは内緒話にはちょうどいいんだなって、知ってたからさ」
カエちゃんと内緒話?
2人が踊り場に立つ光景が浮かびはするが。
この2人の悪巧みは大した事無さそうね
###
「今日さ、体育の時にリカコさんが倒れたの。知ってる?」
深雪の部活が終わるのを待つ教室で、リカコさん宛てのLINEを送信してから顔を上げる。
「ああ、なんか騒ぎになってたね。5時間目の終わりでしょ? リカコだったんだ」
校庭から聞こえる運動部らしき掛け声。対照的に静かな教室で、机にべろーんと伸びるあたしにジュニアが応えてくれる。
「んー。その後会えてないの。今日は寮にも来ないだろうし」
「なんでリカコさんってわかったんだ?」
イチも心配そう。
「あたし6時間目が体育でね。リカコさんが運ばれていくの、見ちゃったんだ」
「肩にでも担がれてた?」
ちょっと楽しそうなジュニアを睨み付ける。
「ジュニアっ! カイリが体育合同だったみたいで、運んでくれてた」
「肩」
「お姫様っ……抱っこ」
にまーっと悪い顔のジュニアに、ついイチを見る。
「あたし、言っちゃ聞けない事言ったかな?」
「みたいだな」
###
「ただいま」
玄関を開けて、革靴がある事に気付いて声をかける。
「おう、お帰り」
薄暗いアパートのリビングからタバコのにおいと共に、返事が返ってきた。
兄の前を素通りし、自室にカバンを投げ込むと
「例の娘どうなった?」
かかる声に振り返る。
「今日仕掛けたんだけどさ、彼氏がいたんだよ。事前に調べた感じ、フリーだったんだけどな」
悔しそうな口調に、兄が笑う。
「あめーな。諦めんの?」
「いやマジ、悔しいんだけど」
兄の座る2人掛けのダイニングテーブル。その向かいの椅子を引くと、彼はドカッと腰を下ろした。
「ここで諦めたらさ、兄貴の考えてたプラン、全部無駄になるだろう?」
チラリと壁にかかるカレンダーに視線を移す。
「今日は19日か。1ヶ月くれよ」
傍らの箱からタバコをくすねる。
「来月中には落とすって言っといて」
正門を出て、(リカコにいいつけられて)少し後ろを歩くカイリに聞こえない程度の音量で由美が訴える。
「別に、烏丸くんを選んだとかじゃないのよ。勝手について来てるだけ。
杉山先輩だって私が倒れたって聞いて、ちょっと心配してくれただけ」
そんなリカコに、由美は完全に疑いの目を向ける。
「ウソ。それだけならわざわざ場所代える必要無いもん。杉山先輩、頭いいし有望株だよ?」
有望株って。
リカコから苦笑いが漏れた。
杉山にはそこそこの人望があるのはわかっている。
でも
なんと言うか、キャパどうこう以前に、どうにも受け入れ難い何かが、杉山を遠ざける。
相性。かな?
「それより、なんで烏丸くんと杉山先輩の2択なのよ? まだまだ安売りしないわよ」
ふいっ。と首を振るリカコの髪が柔らかく弧を描いた。
「うゎっ。贅沢者ぉっ」
いつもの様に雑談をしながら駅までの道を歩いていく。
見慣れた顔ぶれに、見慣れた道。駅より1つ手前の角で由美と手を振って別れると、リカコはその場に少し留まった。
「女の子は華やかだなぁ」
ゆっくりと追いついて来たカイリが並ぶタイミングで再び歩き出すと、下から冷めた目で見上げる。
「台詞がおじさん」
視線を正面に戻してリカコは言葉を続けた。
「保健室まではカイリが運んでくれたんだってね。ありがとう。
それから、忠告してくれていたのに活かせなくて……ゴメン」
「麗しいレディーが倒れてるのに、放ってはおけないだろ?」
チラッと見上げる先のカイリは、いつものにこやかな顔。
「由美ちゃんにも心配かけたんだから、気をつけてくれよ」
「うん」
思い出して、ピッと人差し指を立てる。
「あ。もう1つ」
「なんで私が奥階段にいるって、わかったの?」
「んー」
カイリの顔が無表情を装う。
「この前さ、たまたまカエと奥階段で話をしたんだ。で、あそこは内緒話にはちょうどいいんだなって、知ってたからさ」
カエちゃんと内緒話?
2人が踊り場に立つ光景が浮かびはするが。
この2人の悪巧みは大した事無さそうね
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「今日さ、体育の時にリカコさんが倒れたの。知ってる?」
深雪の部活が終わるのを待つ教室で、リカコさん宛てのLINEを送信してから顔を上げる。
「ああ、なんか騒ぎになってたね。5時間目の終わりでしょ? リカコだったんだ」
校庭から聞こえる運動部らしき掛け声。対照的に静かな教室で、机にべろーんと伸びるあたしにジュニアが応えてくれる。
「んー。その後会えてないの。今日は寮にも来ないだろうし」
「なんでリカコさんってわかったんだ?」
イチも心配そう。
「あたし6時間目が体育でね。リカコさんが運ばれていくの、見ちゃったんだ」
「肩にでも担がれてた?」
ちょっと楽しそうなジュニアを睨み付ける。
「ジュニアっ! カイリが体育合同だったみたいで、運んでくれてた」
「肩」
「お姫様っ……抱っこ」
にまーっと悪い顔のジュニアに、ついイチを見る。
「あたし、言っちゃ聞けない事言ったかな?」
「みたいだな」
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「ただいま」
玄関を開けて、革靴がある事に気付いて声をかける。
「おう、お帰り」
薄暗いアパートのリビングからタバコのにおいと共に、返事が返ってきた。
兄の前を素通りし、自室にカバンを投げ込むと
「例の娘どうなった?」
かかる声に振り返る。
「今日仕掛けたんだけどさ、彼氏がいたんだよ。事前に調べた感じ、フリーだったんだけどな」
悔しそうな口調に、兄が笑う。
「あめーな。諦めんの?」
「いやマジ、悔しいんだけど」
兄の座る2人掛けのダイニングテーブル。その向かいの椅子を引くと、彼はドカッと腰を下ろした。
「ここで諦めたらさ、兄貴の考えてたプラン、全部無駄になるだろう?」
チラリと壁にかかるカレンダーに視線を移す。
「今日は19日か。1ヶ月くれよ」
傍らの箱からタバコをくすねる。
「来月中には落とすって言っといて」
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