初恋と花蜜マゼンダ

麻田

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ep.5-3

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「聖は、自覚持ってるんだよな?」

 よくわからずに、首をかしげると、彼のこめかみがつり上がるように、ぴくり、と反応した。

「今日も変な男に絡まれたよな?」

 そう言われて、ぱちぱち、と瞬きを繰り返した。
 彼が教室にやってくるまでにルーズリーフを拾ってくれた二人を思い出す。確かに、妙に距離が近くて困った。視線がいやらしいものが混じっていて、嫌悪したのだ。

「あ、あれは…ルーズリーフを落としちゃって、それで…」
「それで?」

 圧がこもった冷たい声に肩をすくめる。瞼をあげると、感情の読めない真っ暗な瞳が僕を見つめていた。

「俺がいなければ、聖、あのあと、どうなってたかわかるか?」

 手を握りしめて、僕は目の前にいる恋人の威圧に震えながら、首を横に振った。それを見てから、彼は口角をあげたまま、眉を吊り上げた。それから、手を下の方へ伸ばし、チノパン越しに僕の後ろを指で押し込んだ。

「わっ、っ」

 急なことに声が出て、急いで指で覆う。彼は顔を寄せて、僕の耳元で低く囁く。

「ここに、指つっこまれて、ぐちょぐちょにされて」
「ぁっ、やっ」

 太腿裏に指が食い込んで持ち上げられる。そして、押し込まれた場所に、彼の硬いスラックスの中央が押し当てられて、揺さぶられた。昨夜も行われた行為の振動そのもので、急に顔に熱が集まる。きゅう、とナカが無意識にしぼられた。

「知らないヤツの精子をナカに出されるんだ」

 そんなわけない、と首を横に振る。顔を起した彼の瞳は薄暗く、奥には強い炎が見える。

「聖は自分のことに鈍感すぎる」

 今からわからせてやるからな、と口角を上げた彼の瞳は一切笑っていないし、僕は背筋が震えた。









「ぅ、や、さ、くう、やぁっ」

 昨夜も睦ぎ合ったベットの上で僕は、一糸まとわぬ姿でいた。しかし、視界は暗い。彼によって、目元を柔らかいタオルでまかれているからだった。
 彼の指が、後孔からずる、と抜けると、先ほど達したばかりの前から何かが溢れたようだった。けれど、視界で確認できないため、何かはわからない。くぱ、くぱ、と後ろが物足りなさで開閉しているのがわかって、羞恥に全身が染まる。内腿を擦り合わせるが、ぬ、と現れた彼の手のひらによって割り開かれてしまう。

「や、はず、かし…やだぁ…」

 彼は何も言わない。どんな表情をしているかもわからない。僕は顔を隠すように両手を顔前で広げた。
 その手を捕まれて、ぐい、と思い切り引っ張られる。その勢いのまま、腕は突っ張って身体が起き上がる。そして彼の手が導く通りにすると、手のひらには湿った温かなものがあって、でこぼこしている。跨るようにすると、おそらく彼の身体の上にいるのだということが想像された。

「ほら、聖、想像して」
「ゃ、んん…っ」

 ふ、と熱い吐息が耳朶をかすめて、かすれた色香強い彼の声が鼓膜をゆすぶる。ぞわ、と背筋に鳥肌が立って、身を縮こまらせてしまう。

「聖が、どんな姿をしていて、どんな顔をしているか…」
「ぅ、ぁ…あ、む、りぃ…」

 無理じゃない、と彼は耳元で、くす、と笑って、くちゅりと耳を舐める。直接、脳を舐められているかのような聴覚からの情報に、僕の身体は過敏に反応し身体が跳ねる。その時、臀部の割れ目に、ぴと、と熱い何かが触れた。

「想像しながら、これ、挿れて」
「あ、こ、れぇ…ん…」

 きし、とベッドが鳴る。彼が腰をゆすったようで、にゅにゅ、と双丘の狭間を滑った熱棒がなぞった。僕のよく知っている、僕を狂わせる彼自身だとわかると、さらに熱が高まった。ちゅ、と唇をしっとりと吸われると、久しぶりのキスが嬉しくて、腕を伸ばして、彼を捕まえる。首に腕を回して、唇を食んで、控え目に舌を差し入れた。温かで甘い口内がそこにはあって、その中にある舌を舐めて、出てきたそれを必死に吸い付いた。ざり、と表面を唇で味わると、ひくひく、と後ろが求めているのがわかってしまう。視覚がない分、敏感に身体の器官を感じてしまう。それにまた、前を濡らしてしまう。
 おそらく彼の腹筋に手を置いて、腰を浮かす。それから、先端を狭間に当てて、腰を下ろす。しかし、ぬるん、と滑った先端が狭間を撫でるだけで、挿入はされない。彼の頭の部分が何度も入口を撫で、その度に、内腿が痙攣するのかのように震え、腰が重くなっていく。

「できな、できな、ぃ…さく…さくぅ…」

 早く、この熱くてたくましいものをナカにうずめてほしい。そこから生まれる快楽を、身体は嫌というほど知っているから。
 それを求めて、身体には放出できない熱が永遠とくすぶっていて、勝手に涙がこぼれ、目元のタオルを重くする。苦しくて早く解放してほしくて、彼の身体をなぞる。そして、オウトツのたくましい身体を指先から感じれば感じるほど、後ろがほしくなって腰が揺れてしまう。くぼみのある首を撫でて、ようやく頬を捕まえる。そこに顔を寄せて、高い鼻梁が鼻をかすめると手探りで唇を押し当てる。口の端に吸い付いて、ようやく柔らかくしっとりとした彼の唇に合わさると夢中で吸い付いた。

「ったく、甘え上手にばっかりなって…」
「さく、んあっ」

 彼が深く溜め息をつくと、その空気が肌を撫でてそれだけで心地が良い。それから、大きな手のひらが、わっしりと臀部を掴んで広げた。そして、後孔に熱が、ぴたり、と合わせられた。

「今、俺がどうしてるか当てて」

 む、と彼のフェロモンが強くなった。耳朶を淡く噛まれるとびくんびくん、と身体が簡単に反応してしまう。ほら、と熱く囁かれてしまうと、恥ずかしいのに口が開く。

「おし、りを…つかんで、る…」
「それから?」

 くちゅ、と先端が入口に吸い付くように宛がわれると、力が入らなくて彼にもたれかかってしまう。ぴたり、と湿った肌と肌を合わせるだけで、脳内がくらりと傾いでしまう。そこにある熱と、湿度と硬さに、昨夜も散々、僕を乱した彼の肉棒を思い出してしまう。ナカがきゅう、と挿入された時のように絞られるが、何もそこにはいなくて、探し求めるように腰をくねらせてしまう。

「腰、揺れてる」
「ゃ、あ…」

 耳元で彼が、くす、と微笑んだ。くすぐったいのに、それすらも身体は快感として拾ってしまう。

「さくの、さ、くのが、あた、てる…」
「俺の、何?」

 彼が意地悪く、耳を舌でくすぐりながら先を促す。まだ挿入してもらえないもどかしさに、さらに息がつまっていく。

「はや、く、いれて、ぇ…っ」

 目の前にいる彼に抱き着いて、耳朶をしゃぶった。赤子のような拙いものなのに、彼は、息をつまらせて、彼の中心はさらに角度をあげたようだった。

「さくの、さく、ちっ、ちん、で…ナカ、かきまぜて…っ」

 羞恥に崩れ落ちてしまいそうになる。涙が止まらなくて、自分が自分でないようだった。それでも、僕は、彼が欲しくてたまらないのだ。
 彼が耳元で笑うと、いいよ、と優しく囁いて、僕の腰を落とすよう力を加えた。待ち望んだ彼の熱棒が身体を割り開く感覚に、全身が悦に浸り、びりびりと強い電流が身体の先から先まで駆け巡り、仰け反って涎を垂らしてしまう。

「ああ、あ…あぅ…あ…っ」

 びくん、びくん、と挿入しただけなのに、達した時のような強い快楽が支配していく。

「っ…、想像しろ、今、何が聖のナカにあって、聖がどんな顔をしているのか」

 彼が僕の顎に軽く犬歯をたてて、零した涎を舐めた。その言葉通りに、いつもの彼の滾りがゆっくりと自分の重みでナカに入り込んでいくのを感じて、腹の奥がきゅう、と共鳴する。それから自分の顔、と言われて、涎をだらしなく垂らした浅ましい自分が想像されて、見られたくなくて顔を横に振る。

「ぃ、や…、や…っ、みな、で…っ」

 すると、彼が僕の後頭部を手で包んで引き寄せた。

「すごく、いやらしい顔してる」

 鼓膜に吹きかけるようにかすれたバリトンが体内に流れ込んできて、それだけでまた身体が大きく跳ねてしまう。彼にしがみつきながら、大きな快楽にさらわれてしまわないように保つのが精いっぱいだった。けれど、身体は勝手にどんどん悦を膨らませていく。ナカがむずむずとしてたまらなくて、どうにかしてしまいたい。

「聖、わかるか?」
「ん、んぅ…な、に…?」

 長い指先が肩甲骨から優しく下へと撫で降りていく。背骨を一つひとつ辿って、柔い臀部をなぞって腰に手を当てた。

「腰、動いてる」




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