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待ち合わせ
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あれから数日の間ナギサからの連絡は無かった。我ながらバカなメッセージを送ってしまったものだと反省はしているけれど、かといって今更取り消すことが出来るわけもない。
私はこの先いったいどうすればいいのだろうか。ナギサへの想いが恋なのか、それともただ単に大人の男性への憧れなのか、そんなことさえ自分でわからない。良くある話のように、恋は眼を曇らせるということなのかもしれない。
しかし、今は自分の事よりナギサへ送ってしまった酷いメッセージをどうにかしないといけない。やっぱり謝罪するしかないだろうが、いったいどんな文面にすればいいのだろう。スマホの画面をぼーっと眺めながら、打っては消し消しては打つと繰り返していても結局いい言葉は浮かばない。
こうなったら出たとこ勝負、行き当たりばったりでいくしかない。直接話して思いをぶつけてみよう。会ってくれるのなら、だけど……
『この間はごめんなさい。
直接お話がしたいので、この間の改札のところでお会いできませんか?
明日の十七時にお待ちしています』
私は一方的な約束を投げつけてスマホを裏返した。軽はずみな言動もそうだし、このメッセージもだし、私は何て子供なのだろう。でももし、これでナギサが来てくれなかったら完全に諦めよう。
◇◇◇
翌日は朝から授業内容がまるで入ってこなかった。ついさっき、お昼に食べたお弁当の中身でさえすでに忘れている。十五時過ぎて約束の時間が迫っていることを意識し始めているのか、とにかくのどが渇いて仕方ない。
こんな精神状態でナギサにあった時大丈夫なのだろうか。また変なことを言ってしまわないか心配だけど、それでも会って自分の気持ちと決着をつけたい。いくら自分本位だと思われたとしても。
長くあっという間に一日が過ぎ、終礼とともに私は教室を飛び出した。ハル達に声をかけられたのは気付いていたけど、今はそれどころじゃないのだ。とにかく早くあの改札へ向かわなければ!
そんなとき、スマホにメッセージが入った。
『あさみ、先日入ったカフェにしよう。
待っているよ』
メッセージはナギサからだった。私は合って盛られることにホッとしつつ、同時に、きちんと謝罪と会話ができるかを心配してしまう。今からどういう風に話すか考えておかなければ、またおかしなことを言ってしまうに違いない。
あれこれ考えながら電車を降りてあのカフェへ向かう。一歩歩くごとに心拍数が一つずつ上がっていくような気持ちだ。そうこうしているうちに、あのカフェの目と鼻の先まで来てしまった私は、そっと店内を覗いてみる。
すると、外からは見えにくい一番奥の席にナギサが座っているのが見えた。もうここまで来たら覚悟を決めるしかない。店内に入ると店員さんが席を案内してくれようとしたが、私は丁寧に断ってから奥へ進んでいった。
「こんにちは、ナギサ。
急に呼び出したりなんかしてごめんなさい」
「やあ、あさみ、ちょうど僕も話がしたいと思っていたんだ。
間が空いて気まずくなってしまうのもなんだから、誘ってもらえて助かったよ。
今日はご馳走するから、飲み物やケーキなんでも好きな物をどうぞ」
今日はごちそうすると言われたけど、この間もごちそうしてもらって、私は一度も払ったことは無いなと思ったが、行為を無碍にするのは良くないし、そもそもこのカフェは小遣いの少ない中学生にとってはいい値段すぎるので、遠慮するなんてもったいない。
「じゃあ図々しいついででごちそうになります。
お忙しいとこ、急にお呼び立ててしまってホントすいません」
「本当に暇だったから気にしないで。
まずはケーキでも食べてゆっくりしよう」
私は目の前にやってきたバスクチーズケーキの、甘く香ばしい香りを堪能してから少しずつ味わった。一緒に頼んだロイヤルミルクティーは、ちょっと甘すぎる組み合わせだったけど、子供にこの贅沢感を味わうことは難しく、非日常的な気分が心を躍らせてくれる。
向かい側ではナギサが優しい笑いを向けてくれていて、こんな幸せなことがあっていいのか、ずっと続いてくれたらいいのにと心の中で願う。
「はあ、とっても贅沢でとってもおいしかったです。
ありがとう! ナギサ」
「いえいえ、どういたしまして。
あさみが満足してくれたなら僕も嬉しいよ」
二人が揃ってカップへ口をつけ、一瞬の沈黙が訪れる。その瞬間になにか張りつめた空気を感じた。
「あさみ、それではこの間の質問に回答したいと思う。
これから離すことは僕個人の、しかも十数年前のことだ。
だから君自身や、現代の価値観とはだいぶ異なっていることかもしれない。
理解できないとしても、軽蔑されたとしても、僕は君に知ってもらいたいと考えている」
「こないだの質問って……
子供のこと……」
「そう、子供のこと、そして恋のことだね。
もしショックを受けて途中で聴きたくなくなったら、遠慮なく遮って構わないよ」
「はい、わかりました。
でも最後まで聞きたい。
私、ナギサのことが知りたいの!」
「わかった、それでは聞いてもらうとしよう。
懺悔か、戯言か、ともかく僕の過去についての話を」
思っていたよりも深刻な無いようなのか、ナギサの顔からはいつもの笑みが消えていた。そして私はまず謝ろうと考えていたのに、それがまったく出来ていないことを思い出していた。
私はこの先いったいどうすればいいのだろうか。ナギサへの想いが恋なのか、それともただ単に大人の男性への憧れなのか、そんなことさえ自分でわからない。良くある話のように、恋は眼を曇らせるということなのかもしれない。
しかし、今は自分の事よりナギサへ送ってしまった酷いメッセージをどうにかしないといけない。やっぱり謝罪するしかないだろうが、いったいどんな文面にすればいいのだろう。スマホの画面をぼーっと眺めながら、打っては消し消しては打つと繰り返していても結局いい言葉は浮かばない。
こうなったら出たとこ勝負、行き当たりばったりでいくしかない。直接話して思いをぶつけてみよう。会ってくれるのなら、だけど……
『この間はごめんなさい。
直接お話がしたいので、この間の改札のところでお会いできませんか?
明日の十七時にお待ちしています』
私は一方的な約束を投げつけてスマホを裏返した。軽はずみな言動もそうだし、このメッセージもだし、私は何て子供なのだろう。でももし、これでナギサが来てくれなかったら完全に諦めよう。
◇◇◇
翌日は朝から授業内容がまるで入ってこなかった。ついさっき、お昼に食べたお弁当の中身でさえすでに忘れている。十五時過ぎて約束の時間が迫っていることを意識し始めているのか、とにかくのどが渇いて仕方ない。
こんな精神状態でナギサにあった時大丈夫なのだろうか。また変なことを言ってしまわないか心配だけど、それでも会って自分の気持ちと決着をつけたい。いくら自分本位だと思われたとしても。
長くあっという間に一日が過ぎ、終礼とともに私は教室を飛び出した。ハル達に声をかけられたのは気付いていたけど、今はそれどころじゃないのだ。とにかく早くあの改札へ向かわなければ!
そんなとき、スマホにメッセージが入った。
『あさみ、先日入ったカフェにしよう。
待っているよ』
メッセージはナギサからだった。私は合って盛られることにホッとしつつ、同時に、きちんと謝罪と会話ができるかを心配してしまう。今からどういう風に話すか考えておかなければ、またおかしなことを言ってしまうに違いない。
あれこれ考えながら電車を降りてあのカフェへ向かう。一歩歩くごとに心拍数が一つずつ上がっていくような気持ちだ。そうこうしているうちに、あのカフェの目と鼻の先まで来てしまった私は、そっと店内を覗いてみる。
すると、外からは見えにくい一番奥の席にナギサが座っているのが見えた。もうここまで来たら覚悟を決めるしかない。店内に入ると店員さんが席を案内してくれようとしたが、私は丁寧に断ってから奥へ進んでいった。
「こんにちは、ナギサ。
急に呼び出したりなんかしてごめんなさい」
「やあ、あさみ、ちょうど僕も話がしたいと思っていたんだ。
間が空いて気まずくなってしまうのもなんだから、誘ってもらえて助かったよ。
今日はご馳走するから、飲み物やケーキなんでも好きな物をどうぞ」
今日はごちそうすると言われたけど、この間もごちそうしてもらって、私は一度も払ったことは無いなと思ったが、行為を無碍にするのは良くないし、そもそもこのカフェは小遣いの少ない中学生にとってはいい値段すぎるので、遠慮するなんてもったいない。
「じゃあ図々しいついででごちそうになります。
お忙しいとこ、急にお呼び立ててしまってホントすいません」
「本当に暇だったから気にしないで。
まずはケーキでも食べてゆっくりしよう」
私は目の前にやってきたバスクチーズケーキの、甘く香ばしい香りを堪能してから少しずつ味わった。一緒に頼んだロイヤルミルクティーは、ちょっと甘すぎる組み合わせだったけど、子供にこの贅沢感を味わうことは難しく、非日常的な気分が心を躍らせてくれる。
向かい側ではナギサが優しい笑いを向けてくれていて、こんな幸せなことがあっていいのか、ずっと続いてくれたらいいのにと心の中で願う。
「はあ、とっても贅沢でとってもおいしかったです。
ありがとう! ナギサ」
「いえいえ、どういたしまして。
あさみが満足してくれたなら僕も嬉しいよ」
二人が揃ってカップへ口をつけ、一瞬の沈黙が訪れる。その瞬間になにか張りつめた空気を感じた。
「あさみ、それではこの間の質問に回答したいと思う。
これから離すことは僕個人の、しかも十数年前のことだ。
だから君自身や、現代の価値観とはだいぶ異なっていることかもしれない。
理解できないとしても、軽蔑されたとしても、僕は君に知ってもらいたいと考えている」
「こないだの質問って……
子供のこと……」
「そう、子供のこと、そして恋のことだね。
もしショックを受けて途中で聴きたくなくなったら、遠慮なく遮って構わないよ」
「はい、わかりました。
でも最後まで聞きたい。
私、ナギサのことが知りたいの!」
「わかった、それでは聞いてもらうとしよう。
懺悔か、戯言か、ともかく僕の過去についての話を」
思っていたよりも深刻な無いようなのか、ナギサの顔からはいつもの笑みが消えていた。そして私はまず謝ろうと考えていたのに、それがまったく出来ていないことを思い出していた。
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