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第三章 水無月(六月)
44.六月六日 夜 厄落とし
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本日は五日市中の誕生日なのだが、四十になるため厄落としをすることになっている。
厄年が何歳時なのかは地方によってさまざまだが、ここ八畑村の八岐神社では四と八のつく歳に厄落としを行う習わしである。一般的に神事は数え年で行うため一年のうち決まった日や時期に行うことも多い。
しかし八岐神社には七五三や節分もなく暇な時期が多いせいか、誕生に関する祝い事は誕生日に行うことが通例だ。今回も中の厄落としのため、八家当主が八岐神社へと集まった。
「それでは特に準備もないので手短に済ませましょうか。
中さん、覚悟は、いいえ、準備はよろしいですか?」
「筆頭? 今覚悟と言いましたね? まあ出来ておりますが……
厄落としと言っても慶事ですからバサッとやってください!」
「では私から順にやっていきましょうか。
途中で耐えられなくなったらちゃんと教えてくださいね。
先月の太一郎のように我慢しすぎて倒れても困りますから」
「仮にも当主を拝命している身、まだまだ若いもんには負けませぬ。
さあ、どうぞ!」
木刀を構えた八早月がゆっくりと中の肩へと触れる。すると中は相当痛いのだと思わせるほど顔を歪めた。次は初崎宿が同じように木刀を反対の肩へと当てていくと、中は同じように苦しそうな表情である。
順番に双宗聡明の木槍、三神耕太郎の木刀、四宮臣人の木鉾、六田櫻の木槌、ドロシー七草の木剣が次々に中の体へと触れるように斬り下され突かれていった。
「では最後の太刀、参ります」
木刀を大きく振りかぶった八早月が頭上へゆっくりと振りおろし寸止めすると、中は白目をむいてその場へと崩れ落ちた。
「これは一体誰が考えたのでしょうねぇ。
本当に必要なのかいつも疑問に思います。
一般の民同様に木刀を当てるだけで宜しいのでは?」
初崎宿がもっともらしく語っているが、それもそのはず、一般の人々に行う場合は八家の八当主が木刀や木槍を用いて厄を払う所作をするだけである。しかし当主を初めとする八岐贄が受ける場合には呼士による斬撃が加えられている。
こうして、哀れな五日市中は、八度の斬撃を一方的に加えられたことで気絶するに至ったのである。その姿を見れば宿でなくとも同情すると言うものだ。
「そうですね、きっと意味はなく最初は度胸試しのようなものだったのでしょう。
もし本当に効果があると信じて受け継がれているなら一般の人も同じはず。
ですが文献等が無ければ勝手に取りやめるわけにもいきませんからねぇ。
とりあえず年内は続けることにして、それまでに考えていくと言うのはいかがですか?」
「今年はまだ誰かいましたかな?
ええと、直臣は去年十四だったし、もう誰もいないかもしれませんね」
そこへ恐る恐る手を挙げたのはドロシーだった。
「セッシャ十二月で二十八になりモウス。
いや、覚悟はあるでゴザルが痛いのは間違いなくでアリマシて……」
「まあそう警戒しなくても、きっと四年前よりも成長しておりますよ。
それにちゃんと効果はあるからこうして全員無病息災なのでしょう」
「それじゃまあ続けると言うことですな。
鍛錬の一つと考えれば納得はできますしね。
さてと中殿を救護室へ運ぶとしますか」
何が起こっているのか理解しているのは八家当主以外には宮司の八畑由布鉄のみであり、事情がいまいちわかっていない巫女たちは、なぜ倒れているのかわからないままに移送を手伝っている。
今回の厄落としはこうして無事に終わり、当然のように夜更かしとなった八早月は家に帰りつくとあっという間に眠りについた。
厄年が何歳時なのかは地方によってさまざまだが、ここ八畑村の八岐神社では四と八のつく歳に厄落としを行う習わしである。一般的に神事は数え年で行うため一年のうち決まった日や時期に行うことも多い。
しかし八岐神社には七五三や節分もなく暇な時期が多いせいか、誕生に関する祝い事は誕生日に行うことが通例だ。今回も中の厄落としのため、八家当主が八岐神社へと集まった。
「それでは特に準備もないので手短に済ませましょうか。
中さん、覚悟は、いいえ、準備はよろしいですか?」
「筆頭? 今覚悟と言いましたね? まあ出来ておりますが……
厄落としと言っても慶事ですからバサッとやってください!」
「では私から順にやっていきましょうか。
途中で耐えられなくなったらちゃんと教えてくださいね。
先月の太一郎のように我慢しすぎて倒れても困りますから」
「仮にも当主を拝命している身、まだまだ若いもんには負けませぬ。
さあ、どうぞ!」
木刀を構えた八早月がゆっくりと中の肩へと触れる。すると中は相当痛いのだと思わせるほど顔を歪めた。次は初崎宿が同じように木刀を反対の肩へと当てていくと、中は同じように苦しそうな表情である。
順番に双宗聡明の木槍、三神耕太郎の木刀、四宮臣人の木鉾、六田櫻の木槌、ドロシー七草の木剣が次々に中の体へと触れるように斬り下され突かれていった。
「では最後の太刀、参ります」
木刀を大きく振りかぶった八早月が頭上へゆっくりと振りおろし寸止めすると、中は白目をむいてその場へと崩れ落ちた。
「これは一体誰が考えたのでしょうねぇ。
本当に必要なのかいつも疑問に思います。
一般の民同様に木刀を当てるだけで宜しいのでは?」
初崎宿がもっともらしく語っているが、それもそのはず、一般の人々に行う場合は八家の八当主が木刀や木槍を用いて厄を払う所作をするだけである。しかし当主を初めとする八岐贄が受ける場合には呼士による斬撃が加えられている。
こうして、哀れな五日市中は、八度の斬撃を一方的に加えられたことで気絶するに至ったのである。その姿を見れば宿でなくとも同情すると言うものだ。
「そうですね、きっと意味はなく最初は度胸試しのようなものだったのでしょう。
もし本当に効果があると信じて受け継がれているなら一般の人も同じはず。
ですが文献等が無ければ勝手に取りやめるわけにもいきませんからねぇ。
とりあえず年内は続けることにして、それまでに考えていくと言うのはいかがですか?」
「今年はまだ誰かいましたかな?
ええと、直臣は去年十四だったし、もう誰もいないかもしれませんね」
そこへ恐る恐る手を挙げたのはドロシーだった。
「セッシャ十二月で二十八になりモウス。
いや、覚悟はあるでゴザルが痛いのは間違いなくでアリマシて……」
「まあそう警戒しなくても、きっと四年前よりも成長しておりますよ。
それにちゃんと効果はあるからこうして全員無病息災なのでしょう」
「それじゃまあ続けると言うことですな。
鍛錬の一つと考えれば納得はできますしね。
さてと中殿を救護室へ運ぶとしますか」
何が起こっているのか理解しているのは八家当主以外には宮司の八畑由布鉄のみであり、事情がいまいちわかっていない巫女たちは、なぜ倒れているのかわからないままに移送を手伝っている。
今回の厄落としはこうして無事に終わり、当然のように夜更かしとなった八早月は家に帰りつくとあっという間に眠りについた。
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