限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第四章 文月(七月)

63.七月六日 昼休み さらし者

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 周囲から祝福の声が降り注ぐこと自体は、八早月やよいにとって悪くない体験だった。しかし素直に喜べはしないと言うのも正直なところである。

「スゴイよ! 学年一位だなんてスゴイスゴイ!
 そりゃ全教科ってのは無理だろうけど、直前まで頑張った甲斐はあったね!
 アタシは一番良くて数学の二十二位だもん、デキが違うって感じ?」

「夢路さんなんて全教科で上位だもの、よほどすごいわよ。
 しかも一桁ばかりでしょ? 普段から頭がいいとは思っていたけれどね」

「でも一位を取ったのは八早月ちゃんだけだもん、すごいなぁ。
 やっぱり国語は得意なんだね」

「国語と言うか古文漢文は得意かもしれないわね。
 古文書のたぐいとかは普段から読む機会が多いんだもの。
 旧家の当主として学んできたことが初めて役だった気がしたわ」

 本当はあやかし討伐関連で大いに役立って入るのだが、勉強に活かされたのが初めてなのは本当である。しかし問題はそこではない、そんなことではないのだ。

「でもそんなことで喜んではいられないわ……
 まったくもって恥、末代まで続く汚点を残してしまったんだもの……」

「まあいいじゃないの、英語ひとつくらい苦手だって困らないわよ。
 確かに下から数えた方が早いのは泣けるけどね……」

 廊下に貼りだされた順位表は上位二十名までなのだが、各生徒へ配られた結果には当然すべての結果が記載されており、仲の良い子たちは当たり前のように見せ合ってキャーキャーと騒いでいた。

 国語で学年一位を取った八早月はその他もまあまあ悪くはないが、数学は二十四位で中の下、技術家庭と音楽は三十位前後で下の中と言ったところだ。そして大問題なのが当然のように英語なのだが、こちらはなんと三十八位と最下位グループ、しかも欠席が一人いたらしいので実質ビリから二番目である。

 小学校と言うか分校でも英語はちんぷんかんぷんだったが、教えている方も適当だったので深く考えたこともなかった。もちろんドロシー以外に外国人を見たこともなかったし、外部との接触は新聞のみと言う閉じた世界だったので外国語の必要性について考えたこともなかった。

 それがまさか今ここで響いてくるとは。八早月にとって勉強は絶対にできなければいけないものでもないし、学年トップを目指すとかそういうものでもない。しかしいくらなんでもビリかその前かを争う程度では当主としての威厳に関わる。

「私決めた! 夏休みの間に英語がんばってせめて平均点を目指すわ!
 明日にでもドリーへ相談しましょ」

「えー、高校の先生に習うとかズルくなーい?
 アタシと一緒に地獄へ堕ちようよ…… ね?」

 そう言って美晴は自分の結果票を見せながら英語の部分を指さした。そこに輝いていたのはなんと三十九位と打刻された順位だったのだ。ちなみに夢路の英語順位は十六位である。

「って言うかさぁ、美晴が八点、八早月ちゃんも十二点ってどういうこと!?
 単語問題が数個出来ただけってことじゃないの。
 誰かに教わるレベルにすら達してないわよ?
 まずは単語帳を持ち歩いて暗記するところから始めなさい!」

「「はい、夢路先生……」」

 こうして憂鬱な雨の一日は過ぎて行った。
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