127 / 376
第六章 長月(九月)
123.九月十二日 昼 デザート
しおりを挟む
「ほらよ…… おい櫛田、今日の放課後勝負しろ、今度は勝つ」
「無駄だからやめた方がいいわ。このままだと卒業までデザート抜きになるわよ?
せめて少しくらい鍛錬を行ってから挑むべきではないかしら」
約束通り郡上大勢がデザートのヨーグルトを夢路へ渡しながらぼそっと呟く。八早月としては賭け事をしたようで気が引けるのだが、決めたのは夢路と郡上なので無関係と言うことで自分を納得させていた。
「ちくしょう、そうやって見下しやがって…… いつか勝つ」
自分の席へ去って行く郡上を見ながら、夢路が悪そうな笑い方をしている。どうやら大分気分がいいらしい。
「先生が戻ってこなければもっと巻きあげられたのに惜しかったなぁ。
それより八早月ちゃんも怒られなくて良かったよ」
「でも郡上君はちょっとかわいそうだったわ。
あんな大勢の前で恥ずかしい思いしたのに先生に怒られてしまって。
しかも女子人気まで落ちてしまったようだしね」
「いいのよ、自業自得なんだから。
でも根性だけはあるね、ちょっと見直しちゃった。
あれで強ければカッコいいかなって思えるんだけど、口だけだからねぇ」
「夢きっびしー、まあ生意気になるだけのことはあるよね。
体大きくて上級生みたいだもん、たまに怖くなるくらいだよ。
陸上部でも二年生よりは早いと思う、来年は学園代表選手入りかもしれないね」
「これで剣術に目覚めて陸上辞めるとか言いださないといいわね。
あんまり筋がいいとは言えないんだもの。
きっと何時間やっても私どころか直臣からでも一本取れないでしょうね。」
「いやいや、四宮先輩も普通に強いでしょ。
八早月ちゃんちで打ち合いしてるの見たとき何してるか良く見えなかったしさ。
代表で出てきたら郡上君じゃ絶対に勝てないよね」
八早月はそれもそうかと思いつつも、現状程度で満足してもらっても困ると考えていた。だがよくよく考えると、別に巫が剣術に長けている必要はないと言えばない。
さすがにここまで来ると自分には武の才があると認識できている八早月はそんなことを考慮せず、今まで周囲にも高いものを求めがちだった。しかし八岐大蛇に諭されたこともありここ数日で考えが変わってきている。
大体、必要以上に己を鍛え続けている八早月は変わり者と言えるし、世の中ではそれを趣味と言うのではないだろうかと気づき始めている。趣味と割り切るのなら美晴のように陸上も楽しそうだし、夢路のように恋に焦がれるのも悪くない。楓のように大学を目指すというのも見聞を広げると言う意味では良い選択肢だろう。
いっそのこと鍛冶を本格的に学んでみるか。だがそうする場合には父に師事することになりかねず、それだけはどうしても受け入れられない。どうしてもの時には初崎家へでも丁稚に行くとかやりようはあるだろうが、自身が鍛冶を学ぶのは最後の手段だ。
だが今はそんな遠い未来の話をしている場合ではない。
「もう諦めてスポチャンにも出ちゃいなよ。
個人別で優勝は間違いなしだしクラスへも貢献できるし言うことないじゃない?」
「そうだよ、陸上部はリレー出ちゃだめなんてアタシみたいなこともないしね。
八早月ちゃんの相手になりそうなのなんて四宮先輩くらいでしょ。
もしかしたら町の剣道場へ通ってる子がいるかもだけど多分相手じゃないよ」
「期待してくれるのはうれしいけれど、やる前から決まっている勝負に興味ないの。
かと言って本気でやりあえる相手がいたら、それはそれで困ってしまうわ。
同世代でそんな子がいたら、私は自分の気持ちを抑えられるかわからない」
「ええっ!? それって自分より強い相手がいたら好きになっちゃうってやつ?
こんなに強い私を負かすなんてステキ! とか、あるあるだよね!」
「いいえ、悔しくて勝てるまで挑み続けたくなると言う意味よ。
そう言った点では郡上君とは考え方が似ているかもしれないわね……」
自分で言っておいて落胆している八早月の肩を美晴がポンポンと叩く。夢路は自分が思っていた展開と違ったため、別の意味で落胆していた。
「無駄だからやめた方がいいわ。このままだと卒業までデザート抜きになるわよ?
せめて少しくらい鍛錬を行ってから挑むべきではないかしら」
約束通り郡上大勢がデザートのヨーグルトを夢路へ渡しながらぼそっと呟く。八早月としては賭け事をしたようで気が引けるのだが、決めたのは夢路と郡上なので無関係と言うことで自分を納得させていた。
「ちくしょう、そうやって見下しやがって…… いつか勝つ」
自分の席へ去って行く郡上を見ながら、夢路が悪そうな笑い方をしている。どうやら大分気分がいいらしい。
「先生が戻ってこなければもっと巻きあげられたのに惜しかったなぁ。
それより八早月ちゃんも怒られなくて良かったよ」
「でも郡上君はちょっとかわいそうだったわ。
あんな大勢の前で恥ずかしい思いしたのに先生に怒られてしまって。
しかも女子人気まで落ちてしまったようだしね」
「いいのよ、自業自得なんだから。
でも根性だけはあるね、ちょっと見直しちゃった。
あれで強ければカッコいいかなって思えるんだけど、口だけだからねぇ」
「夢きっびしー、まあ生意気になるだけのことはあるよね。
体大きくて上級生みたいだもん、たまに怖くなるくらいだよ。
陸上部でも二年生よりは早いと思う、来年は学園代表選手入りかもしれないね」
「これで剣術に目覚めて陸上辞めるとか言いださないといいわね。
あんまり筋がいいとは言えないんだもの。
きっと何時間やっても私どころか直臣からでも一本取れないでしょうね。」
「いやいや、四宮先輩も普通に強いでしょ。
八早月ちゃんちで打ち合いしてるの見たとき何してるか良く見えなかったしさ。
代表で出てきたら郡上君じゃ絶対に勝てないよね」
八早月はそれもそうかと思いつつも、現状程度で満足してもらっても困ると考えていた。だがよくよく考えると、別に巫が剣術に長けている必要はないと言えばない。
さすがにここまで来ると自分には武の才があると認識できている八早月はそんなことを考慮せず、今まで周囲にも高いものを求めがちだった。しかし八岐大蛇に諭されたこともありここ数日で考えが変わってきている。
大体、必要以上に己を鍛え続けている八早月は変わり者と言えるし、世の中ではそれを趣味と言うのではないだろうかと気づき始めている。趣味と割り切るのなら美晴のように陸上も楽しそうだし、夢路のように恋に焦がれるのも悪くない。楓のように大学を目指すというのも見聞を広げると言う意味では良い選択肢だろう。
いっそのこと鍛冶を本格的に学んでみるか。だがそうする場合には父に師事することになりかねず、それだけはどうしても受け入れられない。どうしてもの時には初崎家へでも丁稚に行くとかやりようはあるだろうが、自身が鍛冶を学ぶのは最後の手段だ。
だが今はそんな遠い未来の話をしている場合ではない。
「もう諦めてスポチャンにも出ちゃいなよ。
個人別で優勝は間違いなしだしクラスへも貢献できるし言うことないじゃない?」
「そうだよ、陸上部はリレー出ちゃだめなんてアタシみたいなこともないしね。
八早月ちゃんの相手になりそうなのなんて四宮先輩くらいでしょ。
もしかしたら町の剣道場へ通ってる子がいるかもだけど多分相手じゃないよ」
「期待してくれるのはうれしいけれど、やる前から決まっている勝負に興味ないの。
かと言って本気でやりあえる相手がいたら、それはそれで困ってしまうわ。
同世代でそんな子がいたら、私は自分の気持ちを抑えられるかわからない」
「ええっ!? それって自分より強い相手がいたら好きになっちゃうってやつ?
こんなに強い私を負かすなんてステキ! とか、あるあるだよね!」
「いいえ、悔しくて勝てるまで挑み続けたくなると言う意味よ。
そう言った点では郡上君とは考え方が似ているかもしれないわね……」
自分で言っておいて落胆している八早月の肩を美晴がポンポンと叩く。夢路は自分が思っていた展開と違ったため、別の意味で落胆していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。
亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った―――
高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。
従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。
彼女は言った。
「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」
亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。
赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。
「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」
彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる