限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第六章 長月(九月)

138.九月三十日 午後 続・体育祭

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 障害物競走が終わってクラス所定の位置へと戻った八早月は、案の定美晴と夢路に絶賛され照れくさい想いをしていた。しかも今回は他の女子も一緒になって健闘を讃えてくれている。これは少々浮いた存在である八早月にとっては初めての体験とも言えた。

「八早月ちゃんてば本気だしちゃダメだって言ったのにー
 山木君は最後泣きそうな顔でゴールしてたよ?
 保護者の人たちも驚いてたっぽいしね」

「まあ山木君はあんな卑怯な手を使ってまで勝とうとしたんだもん。
 八早月ちゃんがムキになっても仕方ないよ」

「わざとではないと思いたいわね。
 危うく大勢の前で醜態を晒すところだったわ。
 おかげで砂だらけでシャワーを浴びたい気分よ」

「とりあえずお昼の前に更衣室へ行こうよ。
 お弁当は持って来たの? それともママたちと食べるの?
 アタシと夢はお弁当持って来たからここで食べるつもりなんだけどさ」

「私は後でお母さまのところへ取りに行くことにしているの。
 それから席へ戻ってくるわね、その前に一回脱いで体拭きたいわ」

「私たちも付き合うよ、綾乃ちゃんのクラスにも行きたいしね。
 って先に来ちゃったね、おーい、綾乃ちゃーん」

 こうして敵味方関係なく仲良しが入り混じっての昼食休憩の時間がやって来た。友達同士で食べる生徒もいるし、家族と弁当を囲む子たちもいる。校庭の目立つところに掲げられている各クラスの点数がもっぱら食事中の話題であることは言うまでもない。

「それにしても全然差がついてないね。
 さすがに三年生が一位二位だけどそれでもそんなに離れてないじゃない?」

「だってまだ点数が入ったのって玉入れとエビカニと障害物だけだよ?
 全部一位でもまだ六十点だからね。
 ウチのクラスは玉入れで負けたのがが響いてるね…… ホントゴメン……」

「団体競技なのだから別に夢路さんのせいではないでしょう?
 午後のバドミントンで巻き返せばいいのよ。
 美晴さんが大玉転がしで頑張ってくれるし、まだ一位の可能性はあるわ」

「そうよ、私も玉入れでは全然だったからリレー頑張らないと!
 せめて抜かれないようにはしたいなぁ」

 負けず嫌いの八早月と美晴は息巻いているが、のんびり屋の夢路と綾乃は手を抜くことはないが適度に頑張ると言った雰囲気だ。やや遠目から郡上が何か言いたそうにしていたが、上級生も一緒だったので口を出しづらいらしく、黙々と弁当を頬張っていた。

 午後は全員参加の南中ソーランから始まって大いに盛り上がった後、地域の未就学児親子が再び集められてのデカパン競争なるコミカルな競技が会場の笑いを誘う。徒競走を挟んでからの大玉転がしでは三年生に割って入る二位となって一気に点数を稼ぐと、戻ってきた美晴は鼻高々で自分たちを褒め称えるのだった。

 続くバドミントンでは夢路がなかなかの健闘を見せ、参加者二十四人中七位と言う好結果を見せた。これはひとえに愛ゆえの嫉妬だったのかもしれない。夢路はバドミントン参加者の中にいた三年生の女子が直臣に馴れ馴れしくしていたのを見て燃え上がったのだ。

「よっし! 真ん中より上に入れたからポイント取れたよ!
 次は八早月ちゃんの番だね、きっと優勝だと思うけど応援してるから!」

「夢路さんとてもカッコよかったわ。
 私も負けていられないから頑張るわね」

「夢が珍しくカッコよかったからね。
 こりゃ明日は雨が降るかもしれないよ?
 八早月ちゃんが一番になるのは想像しやすいけど、なんたって夢だからなぁ」

「珍しいことで悪かったわねーっだ。
 ここからはポイント種目が続くからまだ三年生を抜けるんじゃない?
 ああ、でもスポチャンで一位は取れないから届かないかもしれないかぁ」

 もちろんこの夢路の発言を黙って聞いている郡上ではなく、またいつものように言い合いを始めている。八早月は苦笑しながらその光景を眺めつつ、ティーバッティングの集合場所へと向かうのだった。

 本来なら昨日の最終練習が校庭の予定だったが、前日の雨の影響で中止になっていた。そのため校庭で行うティーバッティングは今日が初めてで、誰がどれくらい飛ばせるのかは未知数である。

 慣例的に最終者へ向かって上級生や野球経験者が並ぶのだが、最終的には体育館の練習を見ながら体育委員が決めることになっている。八早月の順番は最後から四番目で、ボーイズリーグで野球をやっている生徒三名に次ぐ順なので相当の高評価である。

 観客が校庭外周のネット裏へと退避し、生徒待機場所の前にもネットが置かれると準備完了だ。紐のついたボールが腰の高さほどの棒の上に置かれると次々に打ち出され、引き戻され、また打たれと繰り返されていく。

 こんな単純な種目でも、順位が明確に出ることもあってか九遠学園の体育祭ではスポチャンに次ぐ人気競技なのである。一人二回ずつ打っていって半分が終わったところでトップは四十三メートル、これは二年生の野球経験者が出した記録でなかなかの高記録だと周囲がざわめいていた。

 だが続いて登場した体格のいい三年生や、元少年野球球児が少しずつ記録を伸ばしていく。八早月の前まで回ってきたときには五十二メートルとなっていて、間もなくトラックを超えてしまいそうなくらいだ。

「おい一年生、グラウンドで打つのが初めてだからって力みすぎるんじゃないぞ?
 体育館ではいいスイングしてるんだから同じように打てばそこそこ飛ばせるさ。
 本当は先に見本見せてやりたいが順番だから仕方ないけどな」

「おいおい、女子にそんな言い方するなよ。
 俺たちはボーイズ組だぞ? そこそこなんて言ったら期待させちまうだろうが。
 まあいいとこ四十メートルってとこだろ、チビだし」

 この言葉にカチンときた八早月だが相手にしないようにと振り返り、順番待ちの円に入り素振りを始めた。飛雄に教えてもらうまでもなく、バットを振るのに力を入れ過ぎると却って振り速度が下がってしまう。それは剣を振るのと同じことなのだ。

 前の生徒が二打目を終えたが記録は伸びず、いよいよ八早月の番がやって来た。必要かどうかはわからないが、つい癖で一礼してから所定の位置へと向かう。離れたところでは応援団の美晴が力いっぱい手を振っているのが見えた。

 それを見た八早月は、やる気を見せるためにガッツポーズで応えるのだった。
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