限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第七章 神無月(十月)

142.十月三日 昼休み しつこい勧誘

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 体育祭での活躍以来、クラスでは明らかに八早月の見方が変わっていた。今まではどちらかと言えば生意気でおかしな女子、そして理事長の親類と言う、近寄りがたく仲良くなりたいと思えない存在として扱われていた。だが、ただ世間知らずで真面目すぎるお堅い性格なだけだと思われつつあった。

 とは言っても社交的な美晴と夢路のお蔭で、入学してからこの半年余りで女子の間ではすでに誤解も解けてはいたので、今回は男子に関してと言うことになる。特に学校外でボーイズリーグと言う野球チームに入っている男子にとっては尊敬の対象と言ってもいいほどの変貌ぶりだ。

「なあ櫛田、今度うちのチームの練習に参加してみないか?
 見学だけでもいいし、グラウンドでバッティングもできるぞ?」
「そうそう、あのバッティングなら未経験者でも将来有望だよ。
 そう言えば体力測定のボール投げも女子トップだったらしいな」
「櫛田さんはなにかスポーツをやっていたとか今でもやってたりするのか?
 筋肉の付き方が並みの女子とは違うって感じですごいよね」

 昼休みになり、男子に囲まれた八早月の席へやって来た美晴は怒り心頭と言った様子で文句を言い始めた。

「ちょっと男子? 女子に向かって筋肉凄いとか失礼じゃないの。
 それにそんな風にジロジロ観察してるなんてキモイわよ?
 八早月ちゃんを褒めたくなるのはわかるけど、言い方ってもんがあるじゃないの」

「いや、僕は別に変な目で見てたわけじゃ無くて……
 スポーツマンらしく引き締まってると言いたいわけで……」

「ほうら、やっぱりヤラシイ目で見てるんじゃないの!
 ちょっと夢もなんとか言ってやりなさいよ!」

「北条君って普段から女子のことそういう風に観察してるんだね。
 体育の時にすごい視線を感じるのってやっぱり…… 不潔!」

「ちょ、違うって、俺はそんな! おい、横田も何とか言ってくれよ。
 お前だって体つきがどうのとか言ってたじゃないか」

「バカっ、俺に振るなよ、同罪にされるだろうが。
 なにかスポーツやってそうな体つきだなって言っただけで褒め言葉だろ?
 そ、そうだ、陸上やってる板山ならその言い方でわかるよな?」

「さあ? 少なくともアタシは体型のこととか言われたらいい気分しないよ。
 そんなの女子なら当たり前だけど、それがわからないからモテないんでしょ。
 まあ八早月ちゃんが怒り出す前に謝った方がいいんじゃないかなぁ」

 美晴に脅された男子たちは、意外にも素直に謝り去って行った。どうやらモテないと言われたのが相当堪えたらしい。とは言っても当の八早月はなにも気にしていないどころか、なんで謝っているのかすらわからずまるで部外者のようだった。

 その後、給食の時間は平和に過ぎて行き掃除の時間となったのだが、ここでもまた八早月は男子に捕まってしまう。しかも今度は上級生である二年生がわざわざやって来たのだが、それを綾乃が連れてきたことが八早月たちにとっては意外だった。

「八早月ちゃんゴメンネ、体育祭の練習とかで話してたの見られてたみたいでさ。
 別に変な意味じゃなくて紹介してって言われて断れなかったのよ」

「変な意味がどんな意味なのかはわからないけど私は構わないわ。
 それよりも、綾乃さんがクラスの方と仲良くできていることが嬉しいのよ。
 まさか無理やり協力させられているわけではないわよね?」

「うん、さすがにそれはないない。
 普段そんなに話すわけではないけど、この新庄君は同じ班なのよね。
 ちょっと軽薄な雰囲気だけど悪い人じゃないから話を聞いてあげてくれる?」

「綾乃ちゃんてば辛辣ぅ、俺ってそんなに軽い感じかね?
 これでも硬派な武人のつもりなんだけど?」

「武人と言うことは剣術なのかしら?
 残念だけど私は道場へ通ったりはしませんよ?
 家が遠いから学校が終わったらすぐに帰らないといけないの」

「まあそう言わずに手合わせだけでもお願い出来たらなと思ってさ。
 聞いた話だけど普段から剣術の稽古してるんだろ?
 高校に上がれば剣道部があるし、一緒に全国目指そうぜ!」

「高校に入ってからと言うなら三年生に従兄がいてかなり強いわよ?
 体育祭のスポーツチャンバラで優勝したから知っているかしら。
 でも私と同じで家が遠いから部活とか道場通いは難しいでしょうね」

「よしわかった、それじゃ櫛田さん、その三年生を紹介してくれないか。
 俺も女の子に勝負しろと言うのは気が引けるからさ。
 先輩にお願いしてみるから頼むよ」

 それを聞いた綾乃が八早月の方が強いと言いたそうにしているのを目配せで制止した八早月は、無事に矛先をそらすことが出来たと安堵しながら三年生の教室へと向かった。

 そしてなぜかちゃっかり夢路も一緒についていくのだった。
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